米国のトランプ大統領とロシアのプーチン大統領が日本時間16日、米アラスカ州の米軍基地で直接会談に臨んだ。最大の焦点である、ウクライナ停戦に向けた合意には至らなかった。強硬姿勢を崩さぬプーチン氏と、和平合意を呼び掛けるトランプ氏。ウクライナ侵攻の行方は。
今のロシア優勢の戦況を考えれば、ロシアから停戦する動機はない。ここで米国にウクライナの割譲を認めさせれば、将来にウクライナを全面的にロシアへ帰属させる第一歩になると考えているのだろう。何しろトランプ大統領には3期目はないが、プーチン大統領はまだ続けられるからだ。
プーチン大統領は、アラスカの米軍基地という完全アウェーに飛び込んでいった。歓迎に頭上に米爆撃機が飛来し、米戦闘機が並ぶ中、堂々と米大統領専用車に乗り込んだ。この立場を逆にしてみると、トランプ大統領にはできそうもないだろう。そう思わせるだけでもプーチン大統領の勝ちだ。
記者会見でも、ウクライナの中立化、非軍事化という従来のロシアの主張を繰り返し、一歩も譲らなかったが、米に制裁をさせなかった。
一方、トランプ大統領はウクライナと欧州連合(EU)に対し、東部2州をロシアに渡せば和平の可能性があることを示唆した。プーチン大統領の話と合わすと、この話は危うい。というのは、ウクライナを北大西洋条約機構(NATO)に加盟させるのでもなく、米、EU軍を駐留させるのでもなく、丸裸のまま、領土をロシアに差し出すものである。
ロシアにとっては、2014年にクリミアの併合と同じで、今回の東部2州、さらにその次には東南部2州と、着々とウクライナをロシア配下に置く算段といえる。ウクライナの中立化、非軍事化という状況の下では、ロシアはいくらでも難癖をつけて、ウクライナを侵攻できる。
こうしたトランプ大統領とプーチン大統領の立場の違いは、直接会談後の記者会見にも表れていた。トランプ大統領はいつもの冗長さがなく早々に記者会見を切り上げ、ワシントンに戻ってしまった。
トランプ大統領は今後、ウクライナの領土の割譲と中立化・非軍事化というプーチン大統領の意向をウクライナとEUに伝達する役割になってしまった。ウクライナからみれば、クリミア半島は放棄で、さらに領土を奪われる。加えて、将来の安全保証となるNATOへの加盟もないという踏んだり蹴ったりの提案だ。
(たかはし・よういち=嘉悦大教授)