農業後継育成に痛手 拓殖道短大、26年度末閉校へ
【深川】2026年度末で閉校見通しの拓殖大北海道短期大学(深川市、山黒良寛学長)は、直近では卒業生のうち20人前後が毎年就農し、道内で高校や大学を卒業して農家を継ぐ人の1割以上を占めていた。「令和の米騒動」などを通して食料安全保障の重要性が高まる中、担い手不足が深刻な北海道農業にとって、農業者育成の一翼を担ってきた貴重な学びやの消滅は大きな痛手だ。 「学校を通じて全道に農業の仲間ができた。その人脈は今も生きている」。1988年に卒業したJA北海道中央会の樽井功会長は同短大の存在の大きさを強調する。 東日本唯一の農業系短期大学で、農業系学科の卒業生は今春までの累計で9750人に上る。同学科を出て働く卒業生のうち就農した人の割合を示す「就農率」は、66年の開校以来、毎年50%前後を維持する。2024年度の就農率は64%(就農者14人)、23年度50%(同20人)、22年度53%(同19人)。高校・大学を卒業して家業を継ぐ「新規学卒就農者」は道内で年間約130人で、同短大の卒業生が1割以上を占める。 同短大が把握しているだけでも、道内の農協組合長となった卒業生は9人。道内自治体の首長や国会議員、道議会議員、道内市町村議会議員は計32人で「農村のリーダー育成の役割も担っていた」(樽井会長)。 農業の実践教育を掲げる同短大を支えるのは、周辺の農家が「農地としては一等地」と口をそろえる肥沃(ひよく)な約4ヘクタールの実験・実習農場だ。コメどころの深川市内で、稲作を実践しながら学べるほか、サツマイモや落花生など温暖化とともに栽培適地が北上してきた農作物の栽培技術の向上にも貢献してきた。 教授陣の顔ぶれも個性的で、古代米と言われる黒米の新品種を開発した石村桜さんや、「野菜博士」として親しまれ、テレビなどで北海道農業のあるべき姿を発信していた故相馬暁(さとる)さんら「名物教授」が在籍していた。 同短大が学生募集の停止を決めたのは入学者の減少がある。定員に対する入学者数の割合を示す「定員充足率」は22年度に42%、23年度37%、24年度59%、25年度は46%で、定員削減やカリキュラムの再編などの対応を重ねてきたが「低空飛行」が続いていた。 70年に卒業した空知管内沼田町の農家で、同短大同窓会の石田隆広会長(75)は「少子化もあるが、農業経営が厳しく、農家を継がせたいという人も少ない。農業人口の減少が、学生減につながっている」と話す。 同短大への支援を続けてきた深川市のショックも大きい。市は短大が市内で移転した際、移設費用として計9億円以上を寄付。学生確保のため、授業料免除の費用として今でも年間4千万円を拠出している。 市まち未来推進課は「できれば閉校後も教育関連の法人に引き継いでもらい、校舎や農場を活用してほしい」とするが、少子化による学生減で全国でも私立短大が相次いで学生募集を停止する中、教育機関の地方への進出や移転は極めて難しいのが現状だ。 短大を運営する学校法人拓殖大学(東京)は「(短大の)跡地の活用については現在、検討中であり、具体的な話ができる状況にありません」(広報室)としている。
◇拓殖大北海道短期大学
1966年、深川市納内地区に農業経済科の1科で開校。80年に保育科を増設し、92年に現在の市メム地区の新校舎に移転した。2014年から現在の農学ビジネス学科と保育学科の2学科体制。保育学科は25年度に入学者の募集を停止。農学ビジネス学科は26年度以降の学生募集を停止し、25年度入学者が卒業する26年度末で閉校する見通し。卒業生は1万3千人を超える。25年5月1日現在の学生数は101人。