「シェアシネマ」と呼ばれるこの取り組みは、都内のNPO法人「チャリティーサンタ」がことしから本格的に始めたもので、児童扶養手当を受給するなど経済的に厳しい家庭が対象となっています。
取り組みに賛同した人からの寄付をもとに映画の鑑賞券を購入し、希望者に無償で提供するしくみで、この夏は全国から応募があった親子1万487人分のうち、4074人分の鑑賞券が提供されたということです。
このうち福島県内の小学生2年生と4年生の兄弟は、シングルマザーの40代の母親と一緒にアニメ「鬼滅の刃」の映画を鑑賞するため、映画館を訪れました。
上映前に映画館からはドリンクとポップコーンも提供されました。
“夏休みらしい体験を” 無償で映画を楽しんでもらう取り組み
家庭の経済状況によって子どもの学校外での体験の機会に差が生じる「体験格差」が課題となる中、夏休みの親子に無償で映画鑑賞を楽しんでもらう取り組みが行われています。
兄弟はこれまで映画館で映画を一度も見たことがなく、行きたくても我慢していたということです。
大きなスクリーンで見る初めての映画を、興奮した様子で楽しんでいました。
映画を見終えた兄弟は「最初はどきどきしたけれどすごくおもしろかった」とか、「画面が大きくて、音もふだんと違い、すごかった。きょうのうれしさは100点。また来たいです」と話していました。
母親は「ことしの夏休みもほとんどどこにも連れて行ってあげられなくて、こうした機会がなければことしも映画を見に行くことはなかったです。夏休みにいい思い出ができてよかったです。私自身も、一人では子育てできないということを実感していて、子どもたちにもいろんな人にお世話になりながら、一つ一つ家族の思い出を増やしてもらったということを忘れないでいてほしいです」と話していました。
母親「子どもの夢 かなえられてよかった」
母親は現在、小学生の子ども2人のほか、高校3年生の長女を育てています。
運送業界で正社員として働いていますが、大学受験を控えた長女の教育費に加え、最近の物価高で家計はますます厳しくなり、貯金はほとんどないといいます。
子どもたちの食品や衣類、学用品などは、支援団体から支給されるものを活用しています。
2年ほど前から小学2年生の末っ子に映画に連れていってほしいと言われるようになりましたが、金銭的に難しく我慢させる状況が続いていました。
母親は「いまも炎天下の中、朝から夜まで働いて結構無理をしていますが、長女の受験費用がかさみ、いくら稼いでも足りないなと感じます。小学生の子どもたちから野球やピアノをやりたいと言われることもありますが、検討すらできません。生活に余裕はなくこの夏もほとんど何も体験させてあげられていません」と話しています。
そうした中、NPO法人からこの取り組みを紹介され、子どもの希望をかなえたいと応募を決めたということです。
母親は「映画に行きたいと言っていた子どもの夢をかなえることができて本当によかったです」と話していました。
NPO法人 取り組みのきっかけは切実な声
このNPO法人が取り組みを始めたきっかけは、“子どもに夏休みらしい体験をさせてあげたい”という保護者からの切実な声が多く届いたことでした。
この法人がことし6月から7月にかけて、経済的な困難を抱える子育て世帯、3871世帯を対象に行った調査で、子どもが行きたい屋内施設を複数回答で尋ねたところ、映画館が73%と最も多かったということです。
今回、映画の鑑賞券を申し込んだ保護者に応募の理由を尋ねたところ、「過去、どこにも連れて行ってあげられなかったので、来春、独り立ちする娘にかけがえのない思い出をつくってあげたい」とか、「子どもと映画を見る金額を考えると食費何日分だろうと思い、なかなか行けませんが、映画を見たいとずっと言っている子どものために、初めての体験をさせてあげたい」といった声が寄せられたということです。
NPO法人「チャリティーサンタ」の清輔夏輝 代表理事は「映画に行きたいという子どもがたくさんいて、それを叶えたい保護者もいることがわかったので、今回の取り組みを始めました。映画館で親子一緒に映画を鑑賞する、その夏の体験が子どもたちを支える大切な思い出になることを願っています」と話していました。
家庭の経済状況が「体験格差」につながる
家庭の経済状況によって子どもの学校外での体験の機会に差が生じてしまう「体験格差」について、公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン」は2022年、小学生の子どもがいる保護者2000人余りを対象にインターネットでアンケート調査を行いました。
調査結果によりますと、子どもが1年間、旅行やキャンプ、海水浴、芸術鑑賞など学校外の体験活動を「何もしていない」と答えた保護者の割合は
▽年収300万円未満の世帯で29.9%
▽300万円から600万円未満の世帯で20.2%
▽600万円以上の世帯で11.3%
でした。
年収が低い世帯ほど体験機会がない割合が高く、300万円未満の家庭は600万円以上の家庭の2.6倍余りになっています。
学校外の体験活動にかける年間当たりの支出については
▽年収300万円未満の世帯の平均が3万8363円
▽300万円から600万円未満の世帯が6万178円
▽600万円以上では10万6674円
でした。
家庭の経済状況が子どもたちの「体験格差」につながっていることがうかがえます。