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【コラム】日本の政治、石破氏辞めなくてもすでに空洞化-リーディー

TOKYO, JAPAN - OCTOBER 09: Japan's Prime Minister Shigeru Ishiba checks his watch while attending a plenary session at the lower house of parliament on October 09, 2024 in Tokyo, Japan.  (Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images)

TOKYO, JAPAN - OCTOBER 09: Japan's Prime Minister Shigeru Ishiba checks his watch while attending a plenary session at the lower house of parliament on October 09, 2024 in Tokyo, Japan.  (Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images)

Photographer: Tomohiro Ohsumi/Getty Images AsiaPac

首相官邸に関する「回転ドア(revolving door)」の比喩は、長年にわたり英語圏の日本政治報道で繰り返されてきた表現だ。

  この言い回しが定着したのは1990年代に日本の頻繁な政権交代に米国がいら立ちを募らせていた時期で、当時の日本はバブル経済崩壊後の危機が続いていた。

  回転ドアという言葉は、世界有数の経済大国である日本のリーダーを軽んじるような、不快で植民地主義的な上から目線が含まれており、どうせすぐいなくなる人物なのだから、名前を覚える必要もないといった含みを感じさせる。

  とはいえ、今の状況下においては、この比喩が的を射ている。石破茂首相は先月の参院選敗北以降、回転ドアの中で足止めされたかのように、ぐるぐると回り続けている。石破氏が首相の座にとどまり続けるのか、官邸の外に放り出されるのか見通しは立たない。

  昨年9月の自民党総裁選で、石破氏が予想外の勝利を収めた時、同氏は首相として短命政権の典型的なパターンをなぞるように見えた。

  つまり、期待が失望に急速に転じ、早期退陣という流れだ。昨年の衆院選で敗北し、少数与党となった政権は、今年6月の東京都議会選でも惨敗。衆参両院で与党が過半数割れとなったことで、石破氏の退陣は避けられないように思われた。

  その3日後、事態はいつもの展開をたどるかに見えた。政治的立場の異なる複数メディアが匿名の関係者からの情報を基に石破氏が辞意を固めたと報じた。

  ここ数年の首相辞任劇は、いずれもこうした経緯で幕を閉じてきた。発行部数世界一を誇る読売新聞は号外を刷り、通勤客に配布。「石破首相辞任へ」と大見出しが躍った。

  だが、石破氏は歴代首相ら自民党幹部との会談後、こうした報道を明確に否定。数日経っても辞意表明はなく、あの号外は今や「コレクターズアイテム」となり、フリマアプリで3枚セットが5000円で取引された。

  石破氏が心変わりしたのか、それとも政敵がリークで辞任を迫ろうとしたのかは不明だ。ただし、これらの報道はいまだに撤回も訂正もされていない。

バイデン氏を連想

  そして今、さらに奇妙な展開が起きている。今月に入り複数の世論調査が、国民が石破氏の続投を望んでいることを示した。選挙で負け続けているにもかかわらず、内閣支持率が上昇した。

  石破氏は自民党内で「いじめられている」というイメージを逆手に取り、首相官邸前では「石破辞めるな」と訴える異例の抗議デモまで見られた。

  こうした調査結果の背景として、電話調査を中心に実施される世論調査で若年層の声が反映されにくいという手法上の問題も指摘されている。NHKはこの偏りを認めており、高齢層ほど電話に出やすく、石破氏を支持する傾向があるとされている。

  石破氏は、選挙での敗北は自らの首相就任以前に起きた自民党の「裏金」問題に原因があると周囲に語っているという。

  しかし、権力に固執するリーダーを過去に批判していた自らの発言が再び注目を浴び、立場を不利にしている。例えば2011年に石破氏は当時の菅直人首相に対して「内閣はあなたの私物ではありません」「あなたの自己満足のために内閣があるわけではありません」と非難していた。

  財政の行方や米中対立の激化、そして未決着の米関税問題による企業への影響など、さまざまな不確実性が高まる中で、日本にとってこの権力の空白は極めて深刻だ。

  筆者は普段、日本と米国の政治を比較することを良しとしない。日米の違いは大きく、7月の参院選で躍進した参政党とトランプ米大統領支持者から成る「MAGA(Make America Great Again=米国を再び偉大に)」派、あるいは故・安倍晋三元首相とトランプ氏の比較は、表面的過ぎてしばしば誤解を招く。

  しかし昨夏のジョー・バイデン氏を思い出さずにはいられない。現職の米大統領にもかかわらず、再選を目指せば民主党が政権を失うのは明らかだという状況下でも、バイデン氏は選挙戦から降りなかった。

  民主党内からも大統領選の出馬辞退を求める声が上がっていたが、そうした主張を公然と展開する者はほとんどいなかった。最終的にバイデン氏は出馬を断念したが、時機を失した。多様な支持層を抱える同党には今もなお深い傷が残っている。

  日本でも今、同じことが起きていると思わずにはいられない。石破氏が考えを変えない限り、自民党は次の一手を探らざるを得ない。党内では現在、27年に予定されている総裁選を前倒しするいわば「リコール選挙」の実施について議論が行われている。

  臨時総裁選の党則条項が実施された前例はなく、決定時期も不透明だ。石破氏が総裁選に出馬し、党から再び信任を得ようとする可能性もある。それまで回転ドアは回り続けることになる。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Japan’s Leader Is Stuck in the Revolving Door: Gearoid Reidy (原題)

    This column reflects the personal views of the author and does not necessarily reflect the opinion of the editorial board or Bloomberg LP and its owners.

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