対策の必要性は明らかなのに前進が見られないのがもどかしい。プラスチックによる環境汚染対策がまた先送りされた。
プラスチック汚染を防ぐ国際条約作りのためスイスで開かれた政府間交渉委員会は、条文案の合意に至らなかった。昨年の韓国での交渉でも調整がつかずに先送りされており、改めて各国の立場の違い、合意の難しさが浮き彫りになった。
しかし、プラ汚染の問題は深刻化する一方だ。対策が急務で、効果を上げるには地球規模でのアプローチ、国際協調が欠かせない。各国が危機感を共有し、諦めることなく合意を探ってもらいたい。
プラごみ対策を巡っては、2022年の国連環境総会で国際条約の策定が決まり、24年末までの合意を目指して交渉が重ねられてきた。しかし、同年に韓国で開かれた5回目の会合でも合意に至らず、今回のスイスの会合が「延長戦」に位置付けられていた。
交渉ではこれまで同様、生産規制が焦点となり、環境問題に熱心な欧州連合(EU)や漂着ごみに悩む島国が「生産量と消費量の国際的な削減目標」を求めた。一方、原料となる石油の産出国などは「廃棄物対策に限るべきだ」と反対し、溝が埋まらなかった。
交渉そのものは継続される方針であり、条約作りがこれで打ち切られるわけではない。ただ、以前は生産量規制に前向きだった米国が、自国経済を優先するトランプ政権になって規制反対に転じ、合意のハードルは以前よりむしろ高くなっていると言ってよい。次回開催の時期や場所も決まっておらず、その点からも見通しの厳しさがうかがえる。
一方、手をこまねいていては状況は悪化するだけだ。
経済協力開発機構(OECD)によると、プラスチックの19年の廃棄量は約3億5千万トンで、00年からの20年間で倍増した。何も対策を講じなければ、廃棄量は60年には約10億トンと3倍になる見通しだ。
このうちの相当量が川や海に流出し、環境を汚染し続けているとされる。流出量が50年までに魚の総重量(約10億トン)を上回るとする試算もある。小さなプラを魚やウミガメなどが食べて死んでしまう例が増えたほか、波や紫外線の作用で微細になったマイクロプラスチックが人間の脳や血管からも発見されており、健康への影響が懸念されている。
言うまでもなく、速やかな対策が求められる状況だ。リサイクルや再利用の推進など廃棄物対策だけでは効果が限られ、生産・消費規制に踏み込む必要がある。
政府間交渉で日本は中立的な立場を取りながら調整役を果たしたとする。原油輸入国との関係維持に腐心する面があるのだろうが、1人当たりのプラスチック容器包装廃棄物の排出量は世界2位で、本来は対策をリードするべき立場だろう。
交渉の早期再開のための機運醸成、各国の理解促進へ、役割を果たす必要がある。