海の見える草原で、ひとり押し花のしおりを作っていた少女サン。そこに同じ女子校にかよっていたマユがあらわれ、ふたりは仲良く森を抜けていく。
たどりついたのは、同世代の少女たちが人力で土木作業をおこなっている風景。サンとマユも遅れて作業に参加するが、遠くの空に何かが見えた。
見張り台につたえると、襲来する敵機を発見。少女たちはあわてて偽装工作をおこない、やりすごそうとする……
ひめゆり学徒隊をモデルにした今日マチ子の漫画『cocoon』を1時間枠のTVSPとしてアニメ化。NHKBSで3月30日に初放映され、NHK総合で8月25日23時45分に地上波初放送が予定。
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アニメーション制作は『なつぞら』にも協力したササユリで、たちあげた舘野仁美はプロデューサーだけでなく動画監督も担当。生え抜きの若手アニメーター伊奈透光が監督でコンテや作監、脚本*1を兼任した。
もともと舘野がスタジオジブリで動画検査などの要職について現在も後進も指導しており*2、原画にも山下明彦や大塚伸治といったジブリ常連の凄腕アニメーターが参加。当然のように映像面ではジブリ作品を想起させる。
しかしジブリフォロワーにとどまらないていねいな仕事ぶりで、作画アニメとして純粋に見ごたえがあった。見やすく違和感のないレイアウトで、細やかな芝居も多いし、群衆もひとりひとり手描きで個性をもって動かす。時間経過の演出に工夫がある。ダイナミックなアクションも知恵をつかって映像の力にたよりきっていない。
デフォルメされたキャラクターデザインだが、映像スタイルの変化で、映像以上の生々しさを感じさせる。当初は『となりのトトロ』や『崖の上のポニョ』くらいゆるいファンタジーなアニメーションで、状況が逼迫するにつれて『千と千尋の神隠し』や『ハウルの動く城』くらいのアクションアニメになり、そこからさらに『もののけ姫』くらい痛々しい情景をつきつけていく。
大量の流血を別の物に置きかえるコンセプトも、TVで放送できるくらいに刺激をさけつつ、非人道的なことが起きていることを視覚化してみせた。
物語では、できるだけ固有名詞をつかわず、敵の姿もほとんど見せない。何も知らなければ沖縄戦のアニメとは気づかないかもしれないし、序盤*3は無国籍な百合アニメのようにも見えるだろう*4。
NHKも『あちこちのすずさん』というアニメで史実の証言を再現したように、『この世界の片隅に』のような戦時下なりに楽しく日常をすごそうとする姿がうつしだされる。
しかしこれが最前線の学徒隊を描いている以上、軍関係者に嫁いだ女性のような余裕は最初からない。少女たちは当初から労働にかりだされ、学ぶことも悩むことも困難にされていく。無差別に命をうばわれ、守るはずの大人に捨てられ、傷つけられていく。自らを捨てるよう誘導までされる。どこまでもサンという少女の視点で描かれるため、度を超えた危害は意識を閉ざすようにして描かれない。それでも何が起きたのか視聴者にはつたわる。
戦争を描きながら一定の答えを出さない作品は逃げだという批判がある。妥当だと思える作品もたしかにある。しかしこの作品は、答えを出そうと悩みつづける意義がたしかにあることまで描けていたと思う。
真面目な作品だからこそ気にかかる部分があることも無視はできなかったが、それでも見る価値はあるアニメだと思えた。おそらく今の日本は実写でこのような映像作品をつくる技術や余裕がない。