【売野雅勇 我が道23】初めて買った邦楽のレコード 完璧な歌詞「時間よ止まれ」

[ 2025年8月24日 07:00 ]

斬新なコード進行で「時間よ止まれ」を制作した当時の矢沢永吉

 1978年発売の矢沢永吉「時間よ止まれ」は僕が初めて買った邦楽のレコード。2017年に他界した作詞家の山川啓介さんが書いた、♪罪なやつさ ah PACIFIC――の歌い出しに驚き、繰り返し聴いた思い出の歌です。尊敬する山川さんの歌詞を読むと今も新鮮な驚きがあります。

 「汗をかいたグラス」と歌った後に続く「光る肌の香り」で光っているのは“汗”。五感の全てを動員した肉感的でさえあるパーフェクトな歌詞は作詞家になった今でも興奮します。

 僕がこの曲と出合ったのは20代半ば、コピーライターをしていた時代でした。超クールなドラムを叩いているのは高橋幸宏さん。数種類の音色を駆使し独創的な鍵盤を響かせるのは坂本龍一さん。YMOを結成する直前の2人が演奏していることに気がついたのはこの世界に入った後でした。

 幸宏さんとは70年代後半に僕が編集者をしていたファッション誌「LA VIE」の創刊号に寄稿していただいた時からのお付き合い。当時、産声を上げる前のYMOについて「加工貿易型音楽がコンセプト」と構想を話してくれました。都内であったYMOのお披露目ライブに声をかけてくれるなど機会があるたびに誘っていただいたけど、羞恥心が先だって心を全開にすることができませんでした。僕の意気地のなさが理由で深く交わり合うことはありませんでしたが、中森明菜「少女A」がヒットした時は、トークショーのゲストとして僕を呼んでくれたり自分のことのように祝福してくれて涙ぐみそうになりました。

 その後、一緒に作品を作ることになる幸宏さんにある時、矢沢さんについて尋ねたことがありました。普段は物静かな幸宏さんが「あんな凄いミュージシャンは他にはいない。一緒にやるプレーヤーが持っている能力を300%くらい引き出してしまう。凄いエネルギーだよ」と興奮した口調で答えてくれたのでビックリしました。

 都内のスタジオで行われたレコーディングで、矢沢さんは幸宏さんに「ここのドラムはこういう感じで叩いて」、坂本さんには「シンセはこういうニュアンスで弾いて」と口伝えで頭の中で鳴っているメロディーを伝えていたそうです。

 いわゆる楽譜に書かずに音楽を作り上げてゆくヘッドアレンジですね。坂本さんが「こんな感じ?」と鍵盤を叩けば「最高だね!」と。そんな光景が目に浮かびます。こういうコミュニケーションの往復でお酒が発酵していくように楽曲が豊潤なものになっていったのでしょうね。

 既に一流のスタジオミュージシャンだった坂本さんたちでさえ気づいていないような、一番キラキラした才能を引き出し、黄金のフレーズを生み出した。作用し合うその関係性を想像すると胸が熱くなります。いとおしい人との幸せな時をしびれる歌声で表現したバラードは令和のいま聴いても時代を感じさせない。カッコいい曲です。

 ◇売野 雅勇(うりの・まさお)1951年(昭26)2月22日生まれ、栃木県足利市出身の74歳。企業のコピーライターなどを経て、81年作詞家に。中森明菜「少女A」、チェッカーズ「涙のリクエスト」、郷ひろみ「2億4千万の瞳」などのヒット曲を生み出した。これまでに1500曲以上の歌詞を制作。2026年に活動45年の節目を迎える。

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