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悠々---<the world>

イラスト画集の掲載

続 二

2007年07月10日 | キノの旅

 男たちの神妙なお礼に対して、キノは、「できれば、あそこのあれにも」

 そう言いながら指を刺した。

 そこには木の枝に、キノが解体したウサギの毛皮、下半身分と上半身分がかけてあった。

光を失ってどす黒くなったつぶらな目が、四人を見ていた。

 すると男たちは、誰からともなく皿とカップを雪の上に置くと、両手の拳を顔の前で合わせて目を閉じた。

 キノ、そしてその後ろに止まっているエルメスが見ている前で、彼らはゆっくりと、神への感謝の辞を述べた。

 「神様、ありがとうございます。私たちのほかに、血の流れる生き物を作ってくださって・・・・。そして神様。生きていくために殺した、私たちをどうかお許しください・・・・」

 男たちの祈りはしばらく続き、キノは携帯食料をまずそうに口に入れながら、それを眺めていた。

 その後男たちは、たっぷりと時間をかけて、肉をすべてたいらげた。

 日が暮れ始めて、それまでも明るくなかった空がいっそう暗くなる。景色はグレイ一色に変わり、静かに濃くなっていく。

 キノは小さな自分ひとり用のテントを、男たちのテントの、トラックを挟んだ反対側に張った。

 この日最期にと、男たちにお茶を出した。彼らは再び感謝して、自分たちのテントに戻った。

 キノは、エルメスのエンジンとタンクにカバーをかけて、自分のテントにもぐりこだ。

 

次の日の朝。

 キノは、まだほとんどあたりが暗いうちに起きた。空はあいかわらず雲に被われ、粉雪が少し舞っていた。

 キノは雪の上で体を動かし、「カノン」で何度か抜き打ちの練習をした。

 一人で携帯食料の朝食をとった後、エルメスをたたいて起こし、エンジンをかけた。袋を縛り付ける。

 爆音で目覚めた男たちに、カップを持ってくるように伝えた。カップに雪を入れエンジンやエキゾースト・パイプにくっつけると、雪はすぐに解けた。

  「お湯を作るためのエンジンじゃないんだけどねえ」

 エルメスがぼやいて、キノはなだめるように言った。

 「いろいろ役に立つってことさ」

 この日。

 キノは、再びエルメスと狩に出て、立て続けに二頭のウサギをしとめた。一頭は大きかった。

 戻ってきて同じように解体して、最初の一頭を昼過ぎに、同じように煮た。

 男達はテントから出てくると、再び感謝の辞をささげながら食べた。そして、また手とに戻って休む。

 キノは適当に木の枝を切り落として、まきの足しにするためにつるしておいた

 もう一頭分の肉は、夕方近くに調理した。

 男達はすべて平らげた。焚き火の脇には、きれいにしゃぶられた骨の山ができた。

 食べながら男達は、もしキノが自分たちの国に立ち寄ることがあれば、滞在中に体重が倍になるほど、何でも好きなものをおごると、笑顔で約束した。

 

 彼らの体力は急速に戻りつつあり、普通に歩いてふらつくことはなくなった。

  夜になると雪は完全にやんで、雲には少しずつ切れ間が現れてきた。ポツリポツリ、空に星が見える。

 キノはテントの中で寝袋に入っていた。その前に止まっているエルメスが話しかける。

「キノ。おきてる?」「ああ」

「こんな寄り道してて、いいの?」

エルメスの問いに、キノは正直に答えた。

「よくないよ。いくら暖かくなってきたとはいえ、早くこの森を越えてしまいたい。」「なら」

「報酬があるからね。指輪をもらえる」キノはいつもと変わらぬ口調で答えた。

「そんなもののどこがいいのさ」

 エルメスがそういうと、しばらくテントの中でごそごそ音がした。そしてキノの左手だけがすっと出てきた。その中指に、指輪がはめてあった。「どう?」

  キノが手を、裏表返しながら聞く。「似合わない」

エルメスはすぐに返事をした。手はゆっくり引っ込んで、声が返ってくる

「・・・・ぼくもそう思う。クラッチ握るのに邪魔かな。でも、売れば価値がある。それに、人助けは悪いことじゃないよ」

「さいで」エルメスは短く言った。

 

次の日。つまりキノが男たちと会ってから三日目の朝。

 キノが目を覚ますと、空は薄く青み係、どこまでも住んでいた。雲はない。

 体を動かすキノの後ろで、オレンジ色の光の塊が上っていた。影が長く、雪の上に伸びる。やがて、男たちが目を覚ました。足取りはしっかりとして、彼らは自分たちでお湯を沸かした。

 「だいぶよくなりましたね」

 キノが言って、男達は頷いて見せた。

 「ああ。ありがとよ」

 キノは朝食にと、自分の携帯食料を分けた。四人でもそもそと食べる。

食事後、お茶を飲みながら、男達は楽しそうに故郷の話をした。

 「男たちが家に帰ったら、国の連中さぞかし驚くだろうな。こんなところで遭難してたとは思ってもいないだろうし、撃ち殺されてると思われてるかもな」

「墓も、もうできてるだろ」

「いいですね。自分の墓参りか」

 三十台の男がキノにあんたの国はどこ大と聞いたが、キノは首を横に振って答えた。

「そうか・・・・。すまなかったな」

 男はそういって、会話を打ち切った。

 大分日が昇り、気温もゆっくりとだが上昇する。

 男達はキノに、トラックを動かせるようにしたいと話しかけた。手分けして雪を彫り、トラックの前後にスロープを作れば、何とか埋もれている状態から脱出できるかもしれない。トラックさえ動けば、後は最寄の国までいける。

 三十代ほどの男がキノに言った

「まず車から荷物を降ろしたい。よかったら手伝ってほしい」

 キノと男達は、トラックの後ろに回った。

 

 二台には錠前が三つもかかっている。三十台の男が、他の二人から鍵をそれぞれ渡され、扉を開けて中に入った。中で我ちゃん、と音がする。四十代の男が、少しはなれたところからキノに話しかけた。

 「キノサン。あのモトラド、大丈夫か?」キノが、意味がわからずに振り返る。

同時に、三十代男が荷台からすっと体を出した。

両手に長いパースエイダーを見た瞬間、右手がホルスターに伸びたが、すぐ鈍く野をやめた。何気ない顔を、自分を狙うパースエイダーに向ける。

 「いい判断だ。そのまま抜いていたら、俺は間違いなく撃ってたよ」

 男がパースエイダーをすきなく構えながら、荷台から降りてキノに言う。

 「それはどうも」

 キノは特に驚くでもなく、普通に言い返した。別の男二人は、厳しい顔をしながらキノから数歩下がった。

三十代男が言う。

 「本というと撃ちたくないんだ。俺たちは、大切な商品を傷ひとつなく届けることにプライドを持っているからね」

 「商品、ですか?」

 キノが聞いて、四十代男が答えた。

 「ああ、俺たちは、人材派遣業ってやつをやってる。人が商品なんだよ」

 「すると、キノの後ろ、離れたところにとまっているエルメスが、いつもと代わらぬ口調で言った。

 「何だ。おっちゃんたち、人攫いか。奴隷商人とも言う」

 パースエイダーを構える男は苦笑しながら、

 「そうはっきり言うなよ・・・・・・、でもまあそのとおりだ。そこで、元気になった以上、生きていくために仕事をしなくてはならない。だから キノさん。俺たちはあんたを、買ってくれる人のところに連れて行く。抵抗しないでくれな」

エルメスが言う。

 「そっちはそうでも、こっちは困るんですけど」

 すると、四十代の男が言った。

 「安心してくれ、エルメス君、君の相棒はなかなかの美景だ。磨けば光るし、若いからきっと高く売れる。俺たちは、いつも宝石やきれいな服で商品を飾る。だから、セットで卸してやってもいい。ぶっ壊すようなことは,しないよ」

 

 「どうにも、はなしがわかりやすくていいですね」

 キノは体を動かさないまま、淡々と言った。

 三十代男が、キノの目を静かに見据えながら、そして狙いをつけたまま言う。

 「悪く思わないでくれ。助けてくれたことには、心から感謝する。うまかったよ・・・・・・。とてもうまかった。でもな、例えるなら、俺たちは狼なんだ。狼には狼の生き方があるんだ。生きるために仕方なく、な」

 「なるほど」

 キノはゆっくりと、両手を挙げた。

 「よし。腹のリヴォルバーを、ホルスターごと外すんだ。左手で、ゆっくりとだ」

 キノはゆっくりと、左手で「カノン」のホルスターをベルトから外した。

 「投げろ」

 キノが放って、男たちとの間に落ちる。どすっ、と音がして、半分雪に刺さった。

  二十代の男がそれを拾いに行こうとして、隣の四十代の男がそれを制した。

そして言う。

 「防寒着を脱げ。ゆっくりとだ。片手ずつ、前に抜け」

 キノが言われたとおりに防寒着を武具。下には黒いジャケットを着ていて、腰を太いベルトで眺めている。ベルトにはいくつかポーチがついていた。

 「後ろを向け。ゆっくりでいい」

 キノが後ろを向く、ベルトには、ウサギをしとめたパースエイダーが、軽く挟み込む形のホルスターにおさまっていた。キノはこれを「森の人」と呼ぶ

 「やっぱりな、そのパースエイダーも、右手でゆっくりと抜くんだ。そして投げろ。ゆっくりだ」

 

 「よくわかりましたね」

 キノがエルメスを見ながら言う。右手で「森の人」のバレルを握り、ホルスターから外して投げる。

 「手を上げてこっちにむけ。ゆっくりだ」

 キノが両手を挙げて、ゆっくりと男たちに向く。

 二人がキノに近づこうとして、今度はパースエイダーで狙う三十代男が、それを制した。

 「待て、ナイフを持っていたな、どこだ?」

 キノは、どこか悲しげな表情をして、ぶっきらぼうに言った。

 「あちこちに」

 「全部捨てろ」

 キノはゆっくりと、右手をジャケットのすそポケットに入れた。料理に使った折りたたみ式のナイフを取り出して、そのまま放り投げた、

 キノはゆっくりと、右手をベルトのポーチに伸ばした。そこからナイフのグリップを引き出すと、折りたたみ式の刃は、ぱちんっ、と自動的に起きてロックされた。それを放った。

 キノはゆっくりと、右手をジャケットの左すそに入れた。そこから、刃のナイフを武器取った。それを放る。今度は左手を右手のすそに入れて、同じナイフをもう一本、放った。

 「・・・・・・・」

 

 男たちが黙ってみている前で、キノはゆっくりと、オーバー・パンツを脱ぎ始めた。脇のファスナーを下ろし、片足ずつとる。下に履いていたブーツとパンツが見えた。

 キノはゆっくりと、しゃがむように腰を落として、右手でブーツのすね部分に縛り付けられたシースから細身のナイフを抜いた。それを放った。同じようにして、左手でも、左足のナイフを抜いてはなった。

 

 落ちたナイフが別のにあたって、カチンと音がした。

「お前・・・・・、ナイフ屋か?」

 二十代の男が、思わずつぶやいていた。

 キノはゆっくりと、右手でベルト右腰の後ろから、シースに入ったナイフを抜いた。両刃の刃渡りが十五センチほど。グリップが太い円筒形をしたナイフだった。

 キノはそれを右手で握り、左手で添えるように刃を持っていた。

 キノがパースエイダーを構える男の目を見ながら、ゆっくりといった。

 「これで最期です」

 「捨てろ」

そういった三十代男の額に、赤い点がひとつついた。それは光だった。

 パパパン!と乾いた破裂音が三つ続いた。ナイフのグリップ、刃との境目には小さな点が四つあり、そのうち三つから弾丸が飛び出す。

 男の額の、赤い点が当たっていた箇所から血が噴出した。

 

四十代の男は、破裂音と同時に自分に向けて突っ込んでくるキノを見て、とっさに左手を振った。キノはその下をくぐり、左手で相手の左手を後ろからおさえる。ナイフを男の左背中の真ん中辺りに、体全体をぶつけながら深々と突き刺した。

 刺された男が、ガッ!と短く声を出すと同時に、額に小さな穴を三つ開けた男が、崩れるように倒れた。

 キノはそのまま、ナイフと男をつき押して、二十歳代の男にぶつけた。

 やせた男が倒れるのと、キノが雪の中から、「カノン」を抜くのが同時だった。

 キノはハンマーをすぐに起こし、死体の下敷きになって、仰向けに倒れている男の前に立った。

 「ひやっ!」

 男が悲鳴を上げた。キノは顔を真っ赤に染めて隣に倒れている男を、チラッと見た。

そして「カノン」を最後の一人に向ける。

「たすけ____」

轟音、白煙と同時にキノの右手が跳ね上がり、男の刃がいくつか、ポップコーンみたいにはじけた。

 男の頭は一瞬、電気ショックを受けたようにはねて、すぐに収まった。口の中に血がたまり、一回だけ、肺から押し出された空気が、ゴポッ、と泡を作った。

 あふれた血は、首のしたの雪を、少しずつ融かしていった。

 キノは、三人分の死体の前に立っていた。その力は、うっすらと湯気が立っている。

 「危なかったね」

 エルメスが、後ろからキノに言った。

 「けがは?」

 「ないよ」

 キノは短く言って、すぐに、

「怖かったよ。終わってしまうかと思った」

 そう付け足した。

 それからしばらく、キノは「カノン」を右手に持ったままたっていた。

 すんだ青空と輝く銀世界の間で、キノの奥歯がカチカチカチカチカチなっていた。

 

「もうだいじょうぶ?」エルメスが聞いた。「もう大丈夫だ」

 キノが頷きながら言った。死体からは、もう湯気は出ていなかった。

 キノは、トラックの荷台の前に立った。

 注意深く「カノン」を構えながら、ゆっくりと扉を開けた。

 「なるほど」

 キノはつぶやいて、しばらく二台の中を見ていた。そして、扉を両方開いた。荷台に光が差し込む。

 それほど広くないに大の中に、真っ白な骨がたくさん転がっていた。

 人の骨だった。細い肋骨、細かい指の骨、へらのような、割られたちょうこつ。折られて、中の隋をすすられた大たい骨。

 使い切った固形燃料の容器が、いくつか転がっていた。荷台を一部剥ぎ取った鉄板も。その上に、こげた背骨が数個載っていた。

 



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