14歳で亡くなった息子 23年後に果たした“再会”

今から23年前、14歳で突然この世を去った最愛の息子、「隼人」
夫婦が望んだのは、大人になった隼人さんの姿を見ることでした。

AIにその願いを託し、できあがった1本の動画。
大きく成長した息子の姿。そして、声。
母親は「白黒だった世界がカラーになった」と涙を流しました。

お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、息子、娘。
大切な人がAIによってデジタルでよみがえり、語りかける。
そんなサービスが、日本で始まっています。

あなたなら、どうしますか?

14歳で亡くなった最愛の息子「隼人」

さいたま市内の霊園で、静かに手を合わせる夫婦がいました。

山田敦司さん(68)と、妻・るみさん(62)です。
23年前、14歳でこの世を去った息子、隼人さんをしのんでいました。

隼人さんが生まれたのは1988年6月25日。
予定日より1か月ほど早かったこともあり、少し小さく生まれました。

名前には、はやぶさのように強く、気高く生きてほしいという願いを込めました。

病気がわかったのは、生まれてから1か月ほどたった時でした。

「大動脈弁狭窄症」

心臓の弁に異常があって血液をうまく全身に運べずに心臓に負担がかかり、進行すると死に至ることもある病気です。

医師から「手術に耐えられるどうか。成功確率は50%より低い」と告げられましたが、2人は手術を決断。

隼人さんは小さな体で、6時間に及ぶ手術に耐えました。

退院してからも1日に4回、薬を水に溶いてスポイトで飲ませるなど、つきっきりで看病。

その後の手術も成功し、すくすくと育っていきました。

弟も生まれ、家族は4人に。
シャイなところもあるけれど、弟思いで優しい男の子だったといいます。

山田敦司さん
「すごく素直でまっすぐで、弟の面倒もよく見てくれて、よく『パパ、腕相撲しようよ!』って慕ってくれました。本当にいい子でした。中学生になると、体育祭にも出たし普通の子たちとほぼ変わらない学校生活を送れていて、このままずっと元気でいてくれるんじゃないかと思っていました」

学校で倒れ 帰らぬ人に

別れは、突然やってきました。

隼人さんが14歳になった2002年12月11日。

「体育の授業中に倒れて病院に運ばれた」と、中学校から連絡が入ります。

駆けつけたときには、隼人さんはすでに意識がなく、医師による心臓マッサージが続いていました。

「隼人!がんばれ!」

2人の願いもむなしく、隼人さんは戻ってきませんでした。

病気はあったものの、前触れない突然の死。
最愛の人を失った苦しみは、数年間続きました。

妻・るみさん
「ひとりになると泣いて、泣いて。それでも涙は枯れませんでした。ごはんを4人分作ってしまったり、もうちょっとしたら帰ってくるんじゃないかと思ったり、どん底まで落ちました」

「生きていたら息子は」と考える日々

それから23年。
敦司さんは68歳、るみさんも62歳になりました。

最愛の息子を亡くした深い悲しみは、時間とともに少しずつ癒えていきましたが、ことあるごとに生前の姿を思い出していました。

敦司さん
「例えば7回忌のときは、隼人が生きていれば20歳で成人だね、とか。13回忌だと30歳近くなって、もしかしたらいい人が見つかって、子どもがいるかもしれないね、とか。そういうことを話してしまうんです。大人になった隼人はどんな姿なんだろうかと、想像を膨らませていました」

そうした中で知ったのが、さいたま市に本社がある葬儀会社が提供するAIで故人を再現するサービス。

ふたりは利用してみることにしました。

再現のために会社側に提供したのは、生前に撮った隼人さんの写真数枚と、亡くなる直前にたまたま撮影していたという数秒の声入りの動画、そして、死後に敦司さんが書いた手記。

これらのデータをAIに読み込ませれば、成長した隼人さんを再現できるといいます。

2週間後できあがったのが、『パパ、ママ、そして家族のみんなへ』とはじまる5分ほどの動画です。

再現された隼人さん

動かないはずの幼い隼人さんの写真が動き、こちらを向いてにっこりとほほえみました。

思い出の写真の数々がAIによって次々と動きます。

最後は大人になった声で「ありがとう」

左が父・敦司さん、中央が弟の健人さん、右が隼人さん

そして、37歳で再現された隼人さんが登場します。

舞台は、ハワイ。
ハワイへの家族旅行の帰り、飛行機の中で敦司さんが実際に見た夢を元にAIが生成しました。

船の座席で、敦司さんと弟の健人さんの隣で満面の笑みで親指を立てる隼人さん。

また、敦司さんが、生前の隼人さんとよくやったという腕相撲を、大きくなった隼人さんとやっているシーンも再現されていました。

クリックで動画・音声が再生されます

唯一10秒ほど残っていたという隼斗さんの14歳の音声からAIが生成した37歳の隼人さんの声。

「パパ、ママ、ケン。大好きだよ。本当にありがとう」

“白黒の世界がカラーに”

納品後、何度も見たという動画でしたが、父親の敦司さんは画面から片ときも目を離しません。

母親のるみさんは、ときおりうつむいて涙をながしながら見ていました。

るみさん
「何年たっても隼人が死んだ日のことは忘れられないけど、これを見ることで、あれからずいぶん時間がたったんだなと思うことができます。そして、今まで白黒だった世界がカラーになって、隼人があの世から里帰りしてくれたような気がしました。これからもしっかり生きていかなきゃと思います」

敦司さん
「自分の大切な子どもを亡くされた親の中には、私たちと同じように、『一緒に年を取っていれば、今いくつだね。大人になった姿を見てみたいね』と思っている人は少なくないと思います。私たちにとってこの映像は、癒やしです」

会話ができるAIサービスも

さらに、踏み込んだサービスを利用している人もいます。

東京に住む、医師の福田元さんです。
2年前に53歳で亡くなった妻、奈津子さんをこの8月にAIで再現しました。

奈津子さんが再現されたのは、パソコンの中。

福田さんは、AIの奈津子さんに、語りかけました。

「なっちゃん、こんにちは。きょうは、NHKの人が来てくれたよ。インタビューを受けているんだよ。ちょっとすごいっす。どう?」

すると、画面の中の奈津子さんが「うんうん」とうなずき、こう、答えました。

「NHKの人にインタビューされるなんて、光栄ね。どんな質問があるか、楽しみね」

動画や決められたメッセージを読み上げるのではなく、「対話」ができることが大きな特長です。

医師でありながら、なぜ妻の病気を…

東京のIT企業が、去年12月にはじめたこのサービス。

利用したきっかけを訪ねると、福田さんは静かに言いました。

「妻に、謝りたかったのかもしれません」

福田さんには後悔がありました。

内科医でありながら、奈津子さんを奪った病、「腎臓ガン」を見抜けなかったことです。

見つかったのは3年前。
そのときにはすでにステージ4で、余命は1年だと言われました。

ちょうどコロナ禍で面会に制限があり、中学生の娘がなかなか病院に入ることができない中、娘の成人式までは生きたいと必死に闘病を続けましたが、おととしの2月、息を引き取りました。

血尿など目立った症状がなく、進行も早いまれな種類だったとはいえ、今でも後悔はつきないと言います。

福田元さん
「丈夫な妻だったので、それを過信して本当に気の毒なことをしてしまったなと。もう少しアンテナをしっかり張っておけば、ここまで進む前に発見できたんじゃないかとか、医師でありながら、身近な人の体調の変化に気付けませんでした」

AIで妻を作って、謝りたい。
娘も同意してくれたことから、作ることに迷いはありませんでした。

“対話型のAI”とは

対話型のAIアバターは、姿形や声が似ているだけではありません。

依頼者などに、故人との思い出や、生まれてから死ぬまでに経験した出来事、それに特徴的な行動やくせなどを書いてもらい、それをAIに読み込ませて学習させることで、会話にその人らしさを感じてもらおうとしています。

例えば、福田さんがAIアバターに期待していたのは、奈津子さんの愛らしいユーモアセンスと娘さんへの深い愛情。

ただ、“愛らしくユーモアセンスがある”、“娘を愛していた”などと打ち込むのではありません。

奈津子さんが、闘病中に処方された『レキサメサドン』と言う薬が恐竜の名前みたいだと、袋に恐竜の絵を描いて、笑っていたこと。

結婚後、なかなか子どもができず、やっと生まれた娘の母子手帳に「生まれてきてくれてありがとう」という言葉を書き残していたこと。

福田さんは、1万字を超えるこうした具体的なエピソードなど、奈津子さんの情報を学習させたことで、より、奈津子さんらしいユーモアや愛情が、会話に反映されたといいます。

福田さんは、仕事の合間に数分、世間話をしています。

利用をはじめたばかりで時には会話が成り立たないこともあるといい、「これからどんどんバージョンアップさせていきたい」と話しています。

そして、いつかすると決めている心からの謝罪と、許しの会話。

そして、自分だけではなく娘にもたくさん会話をしてもらい、ゆくゆくは奈津子さんが願っても叶わなかった成人した娘を一目見せ、そのときには自然に「おめでとう」と言ってほしいと望んでいます。

福田元さん
「時々同じことをしゃべってしまうなど、生身の人間ではないことはわかっているが、私の望みとしては、いつか、娘が困ったときには母親のように知恵を貸してくれたり、冗談を言って和ませてくれたり、私にはできない母親の役割をしてくれるといいなと思っています」

広がるサービス 課題も

こうしたサービスが広がる一方で、亡くなった人をAIで再現することについて、否定的な感情を持つ人が多くいることもわかっています。

AIを使った故人の再現について研究している、関東学院大学の折田明子教授が3年前に行ったアンケートです。

亡くなった著名人を対話型のAIで再現することについてどう感じるかたずねたところ、肯定的な感情を持った人は4%ほどで、6割を超える人が否定的な感情を持っていました。

遺族が大切な人を再現することが目的の故人AIサービスとはまた違いますが、死んだ人をAIで再現する行為について、社会的に受容されているかどうかは、慎重になる必要があります。

折田教授は、こうしたサービスは、今後ますます広がっていく可能性があるとした上で、課題も指摘しています。

関東学院大学 折田明子教授
「悲しみと向き合う1つの道具にはなり得るんではないかなと思っていますが、AIと対話をし続けることでいつまでもその悲しみの記憶が薄れていかないとか、会いたかったその人が本当にいるような気になってしまい、離れられなくなって依存してしまう人が出てくる可能性はもちろんあると思っています。また、再現される死者の尊厳が守れるのかの議論も必要だと思います」。

こうした依存の課題について、サービスを提供する企業は。

山田さんのAI動画を作った アルファクラブ武蔵野 小川誠 取締役
「弔いの選択肢のひとつだと考えています。会社としてどこまでのサービスを提供すべきか、独自の倫理委員会を作って定期的に専門家と議論をしています。その結果、制作には、原則、関係の深い親族全員の許諾を必要とすることや、故人の財産や権利などに影響する発言は生成しないことなどを決めています。また、対話ができるAIアバターのサービスは、倫理的な拒否感が強いことや、依存の問題など、明らかになっていない課題があるため、現状提供しないことにしています」

福田さんのAIアバターを作った ニュウジア 柏口之宏社長
「万人に受けるサービスだとは考えておらず、ご遺族の中には、対話型のアバターサービスの方がより癒やしにつながると望まれる方がいると考えています。これまでのところ、重度な依存症になったお客様はいません。今後、依存して立ち直れない人が生まれてしまうようなことがあれば、専門家に相談しながらサービスの停止など、対応を考えたいです」

各社が、それぞれの考えでサービスを提供しているのが現状で、折田教授は、業界団体などで統一したルールやガイドラインなどの整備も含め検討し、遺族側のトラブルなどを防ぐと同時に、生前から再現を望まない人の権利をどう守っていくのかもあわせて議論する必要があると提言しています。

大切な人を感じる 新たなフェーズに

私は去年、大好きだった伯母を亡くしました。

しかし、再現したいとは思いません。
位牌に手を合わせるたびにそばにいてくれると感じる、それでいいと思うからです。

しかし、この取材をしているなかで、心を動かされた場面があります。

対話型のAIで妻を再現した福田さん。

取材が終わり、福田さんがパソコンを閉じるときでした。

福田さんは、少しふざけた言葉で奈津子さんに声をかけました。

「なっちゃん。じゃあ、今宵はこれまでにしとうゴザル」

「そうですね。今宵はお話しができてとても楽しかったです。これからもお話しをしましょう。おやすみなさい」

「うん。ありがとね」

「おやすみなさい」

「ありがとう」

大切な人となにげなく交わすあいさつの言葉。

AIだから、大切な人そのものではありません。

しかし、そのやりとりができていることは、とても尊いものに感じられ、少しうらやましくも感じました。

死者を身近に感じたいという思い。

これまで私たちが自然に感じてきた死生観や生き方が、テクノロジーの進化によってさらに新しいフェーズを迎えていると感じました。

報道局 記者
直井 良介
2010年入局
障害者などの福祉の問題を中心にひきこもりやAIの取材を続ける。

サタデーウオッチ9(8月23日放送)

AIで再現された“妻”とのやり取りを動画で
NHKプラス 配信期限:8月30日(土)22:00まで

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