気にしないでいただいて大丈夫です!
ぼくはSNSを全て本音や本心で書いているわけではありません。
何となくの雰囲気で書いて、後で理由を考えることなんかたくさんあります。
そして今、理由を考えながら書いていきます。
いきなりですが、権利って野生にありますか? ないですよね。
人間による発明です。
そして野生にない、天然に存在しない概念的な資源なので、頑張ればいくらでもカネを生むことができます。
今回は日本のロックにおける一時代を作った人が、周囲の人の影響もあると推測されますが、
迂闊にも自分の著作物(楽曲)をパロディにしたと思われるアニメ映像のことを知り、
不得手な権利関係の話をSNSに投稿してしまいました。
単なるそのへんのバンドマンであれば「「晩節を汚したな」程度の評価で終わるのでしょうが、
権利権益の話というのはそこで終わりません。
ピュアで繊細だったからと、その後に有耶無耶になるかというとそうではなく、
発言を撤回や削除をして終えようと思っても終わるものではないのです。
今回は、オタクの大好きな「パロディ、オマージュ、インスパイア、パクリ、リスペクトの分類と著作権侵害」の話ではないからです。
ぶっちゃけ仁義とカネの話なんで。
そしてカネの話は、当然ながら一人のアーティストが言葉を発したり納めたりすることで完結するものではありません。
アーティストが「パロディ? 俺のところに話が来てないけど?」的な内容を言い、
それが不見識による法律上正当な主張でなくても、パロディをやった企業が謝罪文を掲載してしまう。
その前例ができてしまった。
謝罪文の掲載ってとんでもなく重いことなので、
これを回避しようと思ったら、あらかじめコストをかけなければならなくなった。
時を前後して公開されていた、別の往年のロックバンドとハンバーガーのコラボレーション映像。
これは「筋を通す」ということをきちんとやったと見做せる、素敵な広告でした。
わたしのツイートへも、この好例があるのだから将来的にジャパニーズロックを心配するなど杞憂である、主語がデカい、という旨のリプがつきました。
これは、冒頭の事例とまったく逆に見えて、
「事前に話が無かったとゴネるアーティスト」「事前に筋を通した好感の高い広告映像」は同じ事象の裏表です。
「あれだけのコストをかけなければ、パロディ元、そのファン、そして興味の無い大多数の人を納得させることができない」例となりました。
パロディ曲は雰囲気だけ合わせた全然別の曲であって、
「法律上問題のない引用」どころか、それ以前にほんとうに別の曲なんですが、
(音感の無い人には申し訳ないが、誰かに楽譜を書いてもらってオタマジャクシの並びが違うことを目で確認したりもできます)
それであっても私人間契約でのコスト、言うなれば「お気持ち鎮め料」がかかることを覚悟しなきゃいけなくなった、という次第です。
「アニメなんかにパロディをやられなくても問題ない。それよりアーティストに一声かけるのが常識」と考える人もいると思うんですが、
「法律上問題の無い使用について、必ずしも権利を独占保持しない人物のお気持ちを逆撫でしないように一声かけろ」という主張になるんですよ、それ。
あの、なんか、気の良いバンドの兄ちゃんたちがOKと言ってるんだからOKになるだろうって、そんな話に落ち着くわけないじゃないですか。
カネの話なんで。
この前例のおかげで、おそらく「一声かける先」はアーティストだけじゃなくなります。
(もちろん、権利のハンドリングを誰にも委託せず、一元管理しているアーティストさんもいますが、少数かと思います)
利害関係者って、いろんなところから湧いてくるんスよね。
レコード会社、レーベルや芸能事務所、演奏していた全バンドメンバー、場合によってはパロディ元の曲が使われたドラマや映画やゲームがあればその制作会社等、全方位に、安全には安全を重ねて一声も二声もかけることになります。
「おれはいいけど、天国のアイツが何て言うかな」って言われたらどうしますか?
代理人を名乗る変な業界ゴロも出てくると思います。
芸能界ですよ? 音楽業界ですよ?
…と、「そんな大げさな」って言うかと思うんですが、現に今回の騒動だって、
本人がリアタイでアニメを見ながらSNSで実況しているさ中での感想じゃなく、人づてじゃないですか。
そしてさらに、「みんなどう思う?」的にまた大衆へ判断を委ねてしまっている。
挙げ句、弁護士だの何だのと担いだのか担がれたのか次から次へと首が突っ込まれる。
そして、これは雰囲気だけ似た曲を用いたアニメ内パロディの話で済まなくて、
パロディ、オマージュ、インスパイア、パクリ、リスペクト…理由や動機は別として、
似たフレーズを使って元の曲を想起させる本歌取りみたいなことはめちゃくちゃどこにでも存在するわけです。
この騒動で、瞬間的に全部の表現物に地雷が仕掛けられたと言えます。
「俺のところに話が来てないけど?」といつ誰が言い出すか(言い出すように焚きつけられるか)わかったもんじゃない。
で、じゃあなんで衰退するかというと、話題の人物のみ避けよう、とはならず、
ビジネスというのは再現性の賜物ですから、同じ構造を持ったものを避けよう、
すなわち日本のロックバンドをまるっと避けよう、となるのが道理です。
となると、「うちのロックバンドは面倒くさくありません」とアーティストやレコード会社側がコストをかけるようになります。
ピンとこないかもしれませんが、これまで楽曲の利用や貸し出しなど正しく権利の許諾をしていたところが、しなくて済んでいたはずのパロディ向け利用法向けにまでわざわざ許諾プロセスを用意するのはコストとなります。
逆方向の「野放しにします宣言」はできませんからね。
そしてその努力とは裏腹に、
「面倒くさいとことは関わらないでおこう」と元々楽曲を利用したかった側がコストをゼロに近づけていくので、
この非対称性が起こります。
非対称性を抱えたビジネスは、一気に衰退します。
いや、音楽ビジネスって権利商売だけじゃないじゃん、ライブや配信で売れてれば問題ないじゃん。
まあ、問題ないんじゃないですかね。
(その話をしているのではない、というのに気づかない人に送る言葉が無い)
で、次に「俺のところに話が来てないけど?」と言い出すジャンルや業界はどこですかね? という話になります。
いや、もうあるんですよ、そこここに。
イラストレーターや漫画家が構図や設定の似たアニメに対して遺憾の意を表明する、漫画家やアニメ監督がコスプレイヤーに対してチクリとやる、小説家が映画制作会社にして換骨奪胎だと騒ぐ、何らかの例を大なり小なり皆さん聞いたことあるでしょう。
反AIイラストレーターなんてそうじゃないですか。画風を盗まれたってバカみたいに言い張ってる。
"お気持ち"を表現するだけで、無からカネが生めるんだったら、やりますよ。
で、そういう心根のありようが、私たちを確実に蝕んでいる。
ロックミュージシャンなんてのは、今こそロックンロール魂(=反骨心)を発揮して、そういう連中をブン殴っていかないといけないわけで、
それを「俺のところに話が来てないけど?」なんて言う側に回っちゃ、おしめぇよ、という話でもあります。