火葬場運営の東京博善、「区民葬」から離脱で2万7千円「値上げ」 区議「看過できず」

東京博善が運営する桐ヶ谷斎場=21日午前、東京都品川区(松井英幸撮影)
東京博善が運営する桐ヶ谷斎場=21日午前、東京都品川区(松井英幸撮影)

東京23区の全9カ所の火葬場のうち6カ所を運営する東京博善が、低料金で葬儀を行える「区民葬儀」(区民葬)の枠組みから今年度で離脱すると宣言したことが波紋を呼んでいる。来年度から6カ所の火葬料は区民葬と比べると、2万7400円割高となる。東京博善を巡っては、中国資本が入った企業の子会社となって以降、火葬料の値上げが相次いでいることが都議会などで問題視されており、今回の「実質値上げ」も論争を呼びそうだ。

区民葬の統一料金は5万9600円

区民葬は、区の代表や葬祭業協同組合などで構成する「特別区区民葬儀運営協議会」の指定を受けた葬儀業者が、協議会で取り決めた統一料金で行うものだ。「祭壇」「霊柩車運送」「火葬」などの料金が統一され、火葬は5万9600円(大人)。区発行の「区民葬儀券」で利用でき、東京23区の区長でつくる特別区長会によると、令和6年度の発行は1万1170件に上る。区民葬は、もともとは低所得者に配慮して始められた経緯があるが、亡くなった人や葬儀を行う親族が23区在住の場合、所得に関係なく利用できる。

東京博善の新料金は8万7千円に

区長会によると、昨年12月、東京博善から区民葬事業の運営見直しの提案があった。数回の協議を経たが、東京博善は今年8月1日、区民葬の取り扱いを、来年3月末で終了すると発表した。

離脱の理由に関し、東京博善は「制度設立時の低所得者の負担軽減という本来の趣旨と異なる」などと説明。区民葬を行えるのは、協議会から指定を受けた葬儀業者に限られ、利用者が限定されるとも訴える。そして「当社が負担していた費用に相当する額を利用者に還元した方が適正だ」などとして、来年4月から火葬料金を改定し、還元額(3千円)を引いた8万7千円(大人)で火葬を行うとする。ただ火葬料は、区民葬の場合(大人5万9600円)と比べると、2万7400円も一気に高くなる計算だ。

9月都議会の論点に

«この脱退は大きな挑戦であり、看過できない»。品川区の小芝新区議(自民党)が東京博善の発表を受けX(旧ツイッター)にこう書き込むなど都議や区議が相次いで問題視。国民民主党の山口花都議は「価格の根拠開示の義務化」を議会で提言すると表明した。

東京博善は令和2年に中国資本が入る企業の完全子会社となった。火葬料は5万9千円だったが、3年以降、値上げが相次ぎ、現在は9万円となっている。都議会では、こうした現状を問題視し、都の対応を求める意見も出ており、9月開会の都議会でも、区民葬を巡る動きや火葬のあり方の議論が行われる見通しだ。都内の葬祭会社代表で火葬に関する著書がある佐藤信顕氏は「価格規制や価格の透明性確保のための条例の制定が必要だ」と指摘した。(原川貴郎)

会員限定記事

会員サービス詳細