田んぼによくいるオバケエビ(ホウネンエビ)が古代の海っぽい異世界に転生して進化し続けた結果ヤベェことになる話   作:大豆島そうめん

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強くてニューゲームとは、即ち侵略的外来種の持ち込み

 細かい事を省くとタイトルの通りだ。

 辺りには、地面にくっつかず立てられた箒のような形でクラゲのように漂うウミユリみたいな何かが周囲で最も発達した生き物で、後はミミズのような環形動物や小さなナマコ、クラゲみたいな水面付近で漂うものしかいない。

 そのどれもが私より小さいか、私の数倍程度の大きさしかない。

 

 最も発展した生物が逆さに漂うウミユリ…正確にはウミシダのようだ。

 いや、更に正確に言うのならそれも違う。

 最も発展したという言葉が正しくない。

 私を除いて(・・・・・)最も発展した生物がウミシダなのだろう。

 この世界に突如発生した私は、明確に進化の具合が群を抜いていた。

 どの生物も地面に溜まったものや海面に浮かぶものを濾し取るような生態であり、凡そ捕食の為の活動など見られない。

 そんな中で、私だけが明確に他の生き物を喰らう生態を可能としていた。

 プロ野球選手が、野球のルールすら知らない子供達と野球をするようなものだ。

 いや、軍隊を放棄した国を侵略するという方がより正確かもしれない。

 硬い殻も持たず、反撃する顎も持たず、逃げるという判断さえ発想にない。

 そんな弱者達を一方的に喰らう。

 弱者には喰われる以外の選択肢は無い。

 外来生物であり、害来生物だ。

 やはり、それは正当な競争からは程遠い。

 

 この世界で誰も食う為に殺す意識()を持たない中、私だけがその“悪”を持っている。

 そして、悪の概念を持たない善良な世界は、私に為す術はない。

 悪に立ち向かう為に悪を知るまで、或いはそれを超える悪になるまで、私は善良な世界を喰い続ける。

 

 

 

 私から逃げる事なく喰われ続ける、弱く哀れ(善良)な生命達。

 もっと楽に捕食出来れば良い。

 もっと気楽に他者の生命を取り寄せて奪い自らのものにしたい。

 もっと大きく、もっと多くなる為に。

 可能な限り早く。他の生命よりも早く。

 可能な限り、可能である限り、そして可能になる限り。

 生物としての本能がそう告げる。

 

 それは悪か?

 防衛も闘争も放棄した、いや放棄も何も最初から持たぬ無防備な存在を襲い、奪い、殺し、己の利益にする事は悪か?

 それは弱者にとっての悪であり、強者にとっての摂理だ。

 

 

 私は泳いでクラゲらしきものに近寄ると、脚で挟むようにしてその身体を食した。

 時間をかけてゆっくりとクラゲを食べた。

 私の大きさは大したものではないし、それ程生存にエネルギーを使うものでもない。

 クラゲは抵抗らしい抵抗もなく、毒も硬質な部位も無かった。

 私はゆっくりと、命を食らった。

 私は前の日もそうしたし、その次の日もそうする。

 

 一日にも関わらず、とても長い日々だった。

 日が消えるまで、とてもとても長い時に感じた。

 

 私は水底にタマゴを産んだ。

 元々妊娠していたのか、それとも無性生殖なのかは記憶には無いが、恐らくは後者だ。

 私以外に私に似た生き物はいない。

 少なくとも、人間であれば何十年にも似た時間に感じるであろう一週間が過ぎても、私以外の生き物は私に襲われる為に生きているような生き物だけだ。

 ウミシダやミミズの様な生き物は、何かの拍子に土と間違われて口に挟まれたり、引っ掛かってしまっては困るものの、それでも襲えなくはない。

 だが、最も襲いやすいのはクラゲだった。

 私はクラゲを主食に、そしてその他の生物は副食にして過ごす事にした。

 何かの事故が起こらない限り、私を襲うものも、私に抵抗するものも、私から逃げるものさえもいなかった。

 私は安全を確保しながら優越を謳った。

 

 

 

 しかし私も更に数週間が経つと次第に動きが鈍くなって来た。

 私はウミシダに引っ掛かったまま、その命を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は選ぶ事となった。

 選んだ内容は、『大きく』『長く』

 私が目を覚ますと、そこには私の同類が多く存在していた。

 これは、以前の私が産んだ卵が孵ったものだ。

 その中から、私が最も望む適性を持つものに私は生まれ直した。

 

 大きさは個体の中で一番大きく、脚は以前より身体に比して長くなっていた。

 クラゲに引っ掛けて脚で包むように襲うのにはより有利であり、以前はいなかった同類から身を守り、同類を襲うのには有利であった。

 

 同類というのは、種族として私と同じ種類という意味でもあり、この世界で捕食という概念を知る生物という意味でもある。

 

 私は積極的に同類を襲おうとはしなかったが、私以外の同類がそうであった訳ではない。

 私は自分の子供にして兄弟である存在と生命のやり取りをする事もあった。

 

 

 私は理解しつつあった。

 同じ種族というのは、子孫を残せる程度に遺伝子が近しいだけの存在であると。

 

 

 生き残った私達はそれぞれ水底に卵を産み付けた。

 その卵を襲う同類もいたが、やはりというかクラゲを襲う方が多くなった。

 同族食いは身体を構築する為に必要な栄養素を全て賄えるという利点はあったが、それでもクラゲを襲う方が多かったのだ。

 理由は単純に、砂底に卵を隠せば探すのは困難であるという事が大きかった。

 

 

 そうやって生きていき、やがて寿命が来た。

 

 

 

 

 

 

 

 意識が沈み、沈み、沈んで底に落ちると、新たに意識が発生する。

 同時に選ぶ。

 『()の鋭さ』

 

 生まれ直した私は、以前よりも少し硬く鋭い顎を持っていた。

 ほんの少し、本当にほんの少しだった。

 周りには以前よりも更にホウネンエビが増えていた。

 

 海水で生きられる時点でホウネンエビかどうかも疑わしいが、他に例えられる生き物が分からない。

 

 大きく手足が長い以前の私から生まれた兄弟達は、更にその前の私から生まれた従兄弟達よりも優位に生存している。

 長い手足はクラゲを捕まえたりウミシダに掴まるのに適していた。

 そして私は、そんな兄弟達よりも更に顎が強い分だけ優位であった。

 

 

 私は食し、私は成長し、卵を産み、そして寿命を迎えた。

 私はまた『大きく』あることを選択し、以前生まれた時よりは僅かに大きくなった己を手にした。

 

 『大きく』『脚を長く』『顎を鋭く』そして『大きく』

 

 

 私はそういった選択を繰り返した。

 

 

 最初はクラゲを捕まえやすいように、より長い脚を願っていたり、脚の数を更に増やす事にしていたが、テコの原理で力が弱くなると同類との争いで不利になることから、当初のホウネンエビの脚の長さと数まで戻した。

 代わりに硬さと鋭さを脚に求めた。

 

 何時の日からか、何時の月からか、何時の年からか、何度目かの生まれ直しからかは数えていない。

 海は大きく変わっていた。

 

 

 海の生き物達は、『生命を奪われる』事を理解して、逃げる事、抵抗する事、そして反撃する事を覚えていった。

 いや、覚えていったのではなく、そうインプットされて生まれた存在以外は我らに滅ぼされたのだ。

 

 恐らくはこの世界の海にはホウネンエビから派生した存在が蔓延っている。

 この時代の支配者として存在しているだろう。

 水面で、岩底で、深い海で、かつての私というルーツを持つ生物が君臨している。

 更にいうなれば、私から派生した中にも食うものと食われるものとに分かれていた。

 

 今の私は、アノマロカリスに似たような立ち位置なのだろう。

 収斂進化とでもいうのだろうか。

 アノマロカリスがまだこの世界で確認出来ない上に、私の下位互換になる以上は、収斂進化という言葉も正確ではないのかもしれない。

 私は遥か先の進化を先取りした上で、この世界でニューゲームとなり、更にこの世界の中で進化を続けて来た。

 

 

 様々なジャンクDNAから無駄を排した進化をしやすい存在として生存している。

 ジャンクDNAを持たず無計画な放物線を描くように多種多様な進化では、私達には勝てない。

 いや、私には勝てない。

 

 

 私は自分が常に勝ち続ける為に、自分から生まれた存在と競争していく中である真理を確立した。

 究極的には同じ種族など存在しないと。

 子孫を有性生殖で残せる程度に近い個体は存在して、それを便宜上は同種族と呼ぶとしても、究極的な意味では全ての生物が己という固有の種族でしかない、と。

 

 私は私という種族であり、私に同じ種族など存在しない。

 私の種族の中における優劣などない。

 私という私だけの固有種が存在して、同様に私に近いだけのその個体という固有種が様々に存在する。

 そもそも全てが別の種族であるのだと理解した。

 

 

 私から逃げるミミズを優に超える速度で泳いだ私は、脚を突き刺すようにして挟み、顎を押し付けた。

 生命の、味がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *現代の見識*

 

 紀元前五億年前、この時代に突如現れた『アルテマリア』により古代の海は一変した。

 試行錯誤で生命が作られていくような古代の環境において、当時としては生命として比類なき完成度の高さで存在していたアルテマリア類は、これ以降もまるで進むべき進化を分かっているかの如く頂点捕食者の座に君臨し続けていた。

 後から生まれてきたアノマロカリス類よりも、発展した構造を持っていた事からも、その設計の優秀さが伺える。

 捕食者としての地位が確立された為か、複眼から現在の殆どのアルテマリアが持つ双眼へと数千年かけて変化している事も面白い。

 双眼とは脊椎動物の持つ眼とは違い、頭足類と昆虫の眼球に近い構造であり、見た目は繋がった二つの眼が二対存在して、計四個の眼があるように見えるが、内部的には片側だけで前後それぞれに低い波長と高い波長を感知する眼があり、実際には合計八個のミラーレスカメラ眼が存在して、それによって神経系も発達している。

 この双眼の面白い点は、脊椎動物と違って脳を介さない神経系が存在する事である。

 その完成度の高さ故に、他の生物群に比して大きく変化する事が無かったのは、設計図の優秀さによるものだろう。

 

 この頃地上では菌類のみが生命として存在しており、この事から菌大地時代と呼ばれている。

 菌の楽園は、濃蓋時代や緑菌樹期まで続き、菌から養分を奪うザットミアを始めとする突如現れた高度な植物群『菌床植物』により、濃蓋時代〜緑菌樹期では一般的であった光合成する菌類は一気に減少して、光合成をしない菌床植物が流行した。緑菌による硫酸雲やアンモニアの分解が終わる時期であった事から、菌床植物が無ければ緑菌が今も大地を覆っていたかについては議論の余地が残る。

 他にもヒドロ・メデューサ種の祖先となる光合成可能なヒドロ虫類等が淡水を謳歌しており、空気の浄化は殆ど完成していたと言って良い。

 

 海の世界では、今も現存する薄殻類や多翅類の先祖であるアルテマリアはそれまでに存在していた濾過(デトリタス)食の生物を一方的に餌として、この世界に最初に捕食という概念を持ち込んだ。

 その後もアルテマリアは繁栄し、一億年は独り勝ち状態でその種を繁栄させた。

 この時代に生物が硬さを求めて進化していった原因としては、このアルテマリアから逃れるという事が大きい。

 カタクラゲ類はこのアルテマリアの顎から逃れる為に競うように硬さを増していった。

 結果としてこの外殻が保水の役目を果たして上陸していく事になった為に、もしアルテマリアがいなければクラゲは今でも水中にしか存在していなかった可能性がある。

 ウミガタナ類もまた、アルテマリアに多大な影響を受けた生物であり、薄く鋭く硬い刃を何本も伸ばすウミガタナ類は、元はウミシダの一種がアルテマリアから逃れる為に進化した可能性が高い。

 それ程に、アルテマリアの存在は他の生物に影響を齎した。

 

 中でも当時の最大種となるアルテマリア・ギガースは少なくとも成長すれば全長2mにもなり、他の全ての生物を捕食対象にしていた。

 顎以外は薄い外殻を持つ為に風化が激しく、当所化石から復元図を想像していた際には、脚が復元に耐えるほど残っていなかった事から薄殻類とは別の何かだと思われていたが、ロリィロールイ博士によって初期の薄殻類と判断された。

 面白いことに、初期の薄殻類は甲殻類の一種であるエビにとても良く似ている。

 尚、アルテマリア・ギガースは現在の海にも存在しているとの噂もあるが、明確な証明が出来る記録はない。

 

 

 このアルテマリアの独裁については、魚類や推翅類が発展するに連れて競争力を失い失権していき、これまた突如現れた棒魚類によって完全にその時代を終えた。

 棒魚類は現代のギンポに酷似しており、当時軟骨魚類が発生したばかりであった事を考えると、明らかに進化の完成度が高く、この時代に発生したというのは地層のズレなどによる誤りであるという声も少なくない。

 その時代においては余りにも完成度が高い存在をパーフェクトパラドックス(PP)と呼ぶが、アルテマリアや棒魚類等はその典型である。

 頭部のみに骨を形成していき顎を確立した板皮類とは逆に、初期の棒魚類は何故か既に持っていた骨を手放していき、全身を筋肉で構築する方向に進化していった。

 筋肉のみで身体を構築して丸呑みするその在り方は(ヒル)を想起させる事から、リーチフィッシュとも呼ばれる。

 棒魚類は更に進化を続けて、骨の代わりに芯となる強固な筋肉を持った上でその周りを可動性の筋肉で覆った筋軸類となり、現在のシーサーペントと呼ばれる人類の脅威の多くは、巨大海洋爬虫類ではなくこの種である。

 

 

 所々に、現在の生物に近しい完成度の生物の化石が発見されているが、近しい条件が揃えば元の生物から同じ進化が生み出されるという可能性を示しているという意見を支持する学者は少なからず存在する。

 

 アイスマスク大学准教授シャロン・ロック女史著:『菌大地時代における海の生き物』から引用

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