海外からの選挙介入はあったのか? SNSに痕跡、他国の事例と酷似

聞き手・小村田義之

 7月の参院選で、SNSを通じて海外から選挙介入があったのではないかとの懸念が広まりました。今のところ真相は不明ですが、X(旧ツイッター)は選挙中に複数のアカウントを凍結しています。何が起き、どこまで疑いがあるのでしょうか。情報戦に詳しい中曽根平和研究所の大澤淳さんに聞きました。

     ◇

 ――7月の参院選で、偽情報などを意図的に拡散し、人びとの意識に働きかける影響工作が海外からあったと思いますか。

Xが凍結したアカウント、情報機関の関与は?

 「Xが凍結したのは米シンクタンク『アトランティック・カウンシル』の分析グループが『親ロシア派の影響工作に利用されている』と指摘したアカウントです。欧州連合(EU)が接続を禁止しているロシアの政府系メディア『スプートニク』の発信との関連性が高いこともわかっています。これらが今回、特定の政党の投稿や政権批判をSNS上で拡散し、増幅させていたデータがあります。現時点で技術的に関係を特定はできませんが、欧米で確認された影響工作の例と酷似しています。断定はできませんが、他国の情報機関の関与が強く疑われると私は考えています」

 ――欧米で確認された選挙への影響工作の事例はどのようなものがありますか。

「この1年に限ってみても、2024年11月のルーマニアの大統領選挙と25年2月のドイツの総選挙で影響工作が確認されています。ルーマニアでは、SNSの動画による選挙運動が工作で増幅され、無名の候補が予備選でトップになりました。ドイツでは、今回の日本と同じようなボットアカウントによる排外主義的な政党を推す投稿の増幅が観測されています」

 ――どうやって投稿を拡散させるのですか。

 「『ボット』と呼ばれる自動投稿プログラムが使われます。特定のインフルエンサーの発信をボットが自動的にリポスト(再投稿)して拡散するのです。ボットをチューニング(調整)し、たとえば極右的な主張に『いいね』を押すよう指示を出すこともできます」

 「実際、私の調べでは、特定の政党に言及したトレンドが、参院選の公示日に約13倍に跳ね上がっています。これは通常の動きではありえず、機械的な工作があったと言えます」

 ――本当に人びとの関心が高まってそうなった可能性はないですか。

 「トレンドが急激すぎます。凍結されたインフルエンサーの投稿を調べたところ、複数のボットが1分間に約10件も再投稿しています。こうしてトレンドの上位に押し上げ、多くの人が投稿を見るようになり、さらに人びとが拡散することで増幅していきます」

 ――なぜ公示日から伸ばす必要があるのでしょう。その前からボットを調整して拡散すれば良いのでは。

 「データをみると、影響工作が稼働したのは選挙期間に入ってからと思われます。公示日前にスタートしてつぶされてしまったら、意味がないからでしょう。投開票日の後は、急にトレンドが下がっています。途中で気づいて止めようとしても後戻りできないような短期間で、影響を与えようとしたように見えます」

 ――だとしても、なぜそれが海外からの影響工作と言えるのでしょうか。

 「欧米諸国でロシアの情報機関による選挙介入の事例が報告されています。SNSや動画共有サービスの閲覧数が収益につながる『アテンション・エコノミー』を利用する手法です。ふだんから外国勢力寄りの発信をするインフルエンサーの投稿を後押ししてフォロワーを増やし、選挙などの機会にそのネットワークを活用してボットで大量拡散する。24年7月に米司法省はこのような工作に使われていたXのアカウント968個を停止させる法的措置をとっています」

 ――海外情報機関が、特定の政党と何らかの結びつきがあるということですか。

 「そこまではわかりませんが、物理的な関係を築く必要はありません。政党やインフルエンサーの意図はどうあれ、狙いに沿うような投稿が拡散され、インフルエンサーの収入は増え、怒りをあおり、極端な主張を訴える政党が勢力を伸ばせば工作は成功なのです」

 ――日本の選挙で影響工作を仕掛けるとすれば、狙いは何なのでしょうか。

 「政治や社会を混乱させ、民主主義を弱体化させるのが目的ではないでしょうか。そのために排外的な主張を後押しし、社会や言論空間を分断させようとしていると思います」

 ――この主張自体が陰謀論のようにも見えます。

 「そういう批判もあると思います。でもそれは何を根拠に言っているのでしょう。私の見方は各国の専門家の共通認識となっている知見をもとにしています。今回も多くのデータを検証し、他国の事例を参照しながら、一定の根拠をもって発言しています」

 ――選挙期間中でも真偽不明の情報があふれ、判断が難しくなっていますね。

 「経済的な余裕がなくなると、社会の分断や政治的な混乱が起きやすくなります。それでも、できるかぎり多様な見方が共存し、多くの人が冷静に判断できる情報空間を保つ努力をすべきです。せめて選挙期間中だけでも静穏な状態に保つようにして、投票行動への不当な介入を防ぎたいものです。そのために何ができるのか、言論の自由との兼ね合いもあって非常に難しい問題ですが、丁寧に議論を進めることが必要です」

 ――海外からの影響工作で今後注意すべき点は。

 「生成AI(人工知能)の深化によって影響工作は容易になりました。日本の情報空間は言語の壁で守られていましたが、今は日本語が分からなくても、生成AIを使って自然な日本語の文章が作れます。文字だけでなく、動画や音声も本物と区別がつかない質の偽物が作れるようになりました。さらに、『マイクロターゲティング』と言いますが、工作対象の趣味・嗜好(しこう)・閲覧傾向をもとに、個々人にカスタマイズした偽情報を送り込む影響工作も可能になっています。影響工作は安全保障問題として考えることが必要になっています」

大澤淳さん

 おおさわ・じゅん 1971年生まれ。米ブルッキングス研究所の客員研究員などを経て現職。サイバー安全保障や情報戦といった新領域の安全保障に精通する。共著に「SNS時代の戦略兵器 陰謀論」など。

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この記事を書いた人
小村田義之
政治部|外交防衛担当キャップ
専門・関心分野
政治、外交安保、メディア、インタビュー
  • commentatorHeader
    津田正太郎
    (慶応義塾大学教授・メディアコム研究所)
    2025年8月21日14時0分 投稿
    【視点】

    外国からの世論工作は今に始まったことではありません。第一次、第二次世界大戦のころから、他国の世論を自国に有利な方向へと動かすためにさまざまな宣伝活動や工作が行われていました。ターゲットとなる国のなかで自国に友好的な勢力に接近し、さまざまな情報を提供し、自分たちの代弁をしてもらうといった手法も用いられていました。自分たちが直接訴えるよりも、その国の人に代弁してもらったほうが説得力が増すと考えられたからです。 私の研究対象で言えば、真珠湾攻撃を経て第二次世界大戦に参戦する以前の米国はまさにそういった世論工作の主戦場で、とりわけ英国は自国への支援を引き出すための活動に大きなエネルギーを注いでいました(ただし、英国のそうした活動は見透かされていた部分もあり、それに対する反発も強かったのですが)。 この記事にもあるように、現代の世論工作の特徴は、ソーシャルメディアの発達によってより緻密に、大規模に行えるようになった点にあると言えるでしょう。また、ターゲットとなる国の世論を特定の方向に向けて説得する必要は必ずしもなく、場合によっては互いに対立している勢力の双方に肩入れすることによって分断を促進し、不信感の蔓延と政治の混乱を引き起こせれば成功だという指摘も行われています。 ここで悩ましいのは、民主主義国家における健全な世論形成との関係です。政治的対立において、敵視する勢力や個人を(事実であるか否かとは無関係に)「外国政府の手先」だとして攻撃するのは常套手段になっています。 外国からの世論工作の可能性は確かにある一方で、嫌いな集団を何の根拠もなく外国政府の手先だと決めつけ、攻撃するやり方が蔓延すると、それはそれで分断をもたらしかねません。ある人の主張が外国政府の利益とたまたま部分的に一致していたとしても、その人が外国政府の手先だということや、自国の利益を害する主張をしていることを意味するわけではありません。このあたりのバランスを考えていくことが現代の民主主義にとっての一つの課題ではないかと考えています。

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    武田緑
    (学校DE&Iコンサルタント)
    2025年8月21日14時0分 投稿
    【視点】

    7月の参院選でのSNSの状況に強い危機感と恐怖を感じていました。選挙戦終盤にロシアの工作があるという情報が一定広がりましたが、選挙結果はあの通りでした。陰謀論や排外主義が高まることは民主主義の危機でもあると同時に、その背景に外国の工作があるのだとしたら国防上も大問題です。早急に国会での議論を深め、法整備を進めたり、専門の対策チームをつくるなど、次の選挙に間に合うように具体的な動きを進めるべきだと思います。

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