whkr’s diary

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モキュメンタリーではない恐ろしさ : 東京国立近代美術館「コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ」

東京国立近代美術館の企画展「コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ」に行ってきた。

満州建国前後から戦中の記録と宣伝、そして終戦後の振り返りまで、第二次世界大戦に関して主に絵画が担った役割を展示でたどっている。

初めは「満朝旅の栞」のような観光案内や、満州国における五族協和のアピールなど一見明るい話題が続くが、戦況が悪化するにつれて写真週報の紙質も悪くなり、戦死者も神格化されていき、ついには「お父さんお母さん、ぼくも空へやってください」と子供を特攻に誘うような特集まで組まれていく。なんだか最近流行りの、進むにつれて怖くなる展覧会風ホラーみたいだが、こちらはフィクションではないのである。

その中でメディアのプロパガンダを担った双璧として挙げられている一つが朝日新聞社で、もう一つが『キング』、『講談社の絵本』、戦後の『少年マガジン』を刊行した講談社なのだが、どうも世間では後者の責任を問う声が小さい気がする。今でもノンポリっぽい空気をまとってるし、そのあたりの議論ってないのだろうか。少し検索してみたら、のらりくらりと責任回避している様が見えてなんだかなあって感じだった。
また、藤田嗣治の作品も戦争画狂のやべー奴みたいなエピソード込みで展示されてるが、こちらもWikipediaを見てみると戦中以外はほとんどフランスにいて、国際的にはそちらでの評価の方が高いみたいで不思議な存在だ。

思ってたより戦後の章が充実していて、原爆被害の記憶を残すために被災者から募った絵画は、巧緻ではないがどれも心に迫る重い作品だ。また、ベトナム反戦運動からの繋がりで反安保運動の機関誌まで置かれていて、結構踏み込んだ展示だなあと思った。

雑なまとめとしては、戦中の記録は国家の意向で上から作られたもので、戦後の振り返りは、主に民間の記憶をもとに下から組み上げようとする試みだと言えようか。

ニセ教養おじさんとしてインパクトが強かったのが、家庭に防毒マスクを推奨する広告に描かれていた空襲を擬人化した怪物。指先から爆弾を滴らせ毒ガスを噴出する姿は、モンスターデザインとして秀逸だった。