獄門少女

夢河蕾舟

獄門新聞

 二〇二五年一月四日。

 みぞれまじりの雨が降る午後八時、神奈川の地方都市・紫吹市しぶきしの上空から突然紙切れが舞ってきた。

 最初はくだらない悪戯だろうといっこだにしなかった往来だが、誰かが一枚、別の誰かが一枚手に取ると、人々はそれを皮切りに延々と舞い落ちてくる紙切れを掴み、その内容を読み始めた。


獄門新聞ごくもんしんぶん」と銘打たれた奇妙なものである。

 この日本には全国紙から地方紙まで実に多くの新聞があるが、こんな物騒な名前の新聞なぞ、ついぞ聞いたことがない。

 いったいなんなのだろうと往来の人々は訝る。悪戯にしては手が混んでいるし、そもそも、どこからこれをばら撒いているのだろうか?


 新聞には第一九九五号とあり、それもまた不思議で不気味な雰囲気を一躍買っていた。


「コノ紫吹市ニテ、近日中ニ遊戯ヲ行フ。勝チ上ガッタ者ニハ、金十億円ヲ与フ」


 大半がくだらないと鼻で笑うが、中には、追い詰められている者も少なからずいた。

 先のコロナ失業で思うような収入を再獲得できぬ者、一攫千金を企む者、あるいは──本当に、単なる刺激を求める者。


「参加希望ノ者、来タル七月五日ニ“獄門少女”ニ逢イ、契約スベシ」


 くだんの新聞は治安の観点から警察によってすぐさま回収騒ぎが起き、それはむしろ、国家公務として当然の振る舞いなのだが……。

 けれどもそのせいでオカルトスレッドをはじめ、ネットの掲示板やSNSでは、「これは国が仕込んだデスゲームだ」と湧き立ち、紫吹市の怪事は、いっときの間大きなトレンドとなっていた──。

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