スキマバイトだらけの老人ホーム…どうしてこうなった? 元職員たちの証言で浮かび上がってきた業界の闇

2025年8月20日 06時00分
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〈スキマバイトの隙間〉ある老人ホームで①全5回
東京・小金井市の老人ホームはある時期、必要人員をスキマバイトで満たさざるを得ない日々が続いていた。
元職員は語る。「4分の1がスキマバイトだった」と。
どんな施設で、なぜそうなったのか。取材を進めると、業界が抱える課題が次々と明らかになっていった。(中村真暁)

スキマバイトの隙間

   ◇

◆必要な人員の4分の1が「カイテク」さん

「スキマバイトをこんなにバリバリ働かせているところは無いのではないかな」
介護職員として働く男性Aさんは、昨年12月に東京都小金井市内で取材に応じ、こう語った。
Aさんが働いていたのは、小金井市にある特別養護老人ホームだ。
この老人ホームでは2023年冬ごろから、「カイテク」という介護職専門のスキマバイトアプリで求人を募集し始めた。多いときは1日に必要な人員25、26人のうち、カイテクを通じて働きに来た人が6人分ほどを占めたという。
Aさんは語る。「午前や午後、夕方、夜勤も。いろいろな枠でカイテクが入ってます」

◆職員の負担は穴埋めできても、介護の質は…

カイテクのアルバイトは全員、日雇いだ。当然ながら、利用者の名前や介護度を把握しているわけではない。どんなに熟練した優秀な人でも、従来の職員が担ってきた個別ケアはできないという。

カイテクに掲載された施設夜勤者の求人画面

Aさんはこう振り返った。「利用者さんがわからないので、コミュニケーションはうまくできません。例えば、利用者さんから何かを頼まれても、カイテクの人は職員に聞くしかない。入浴や排せつ、食事といった介護の穴埋めならできますが、それ以上はできないんです。カイテク依存が高まると、利用者さんの生活の質を向上させるケアが難しくなります」
そのため、バイトには常に職員が付く必要がある。その人の能力にもばらつきがあるため、力量が乏しい人が来れば、職員の負担になる。
Aさんは「その都度、仕事を教えなければならない。気を使う相手が1人、増えるような感じです。精神的な負担は大きい」。
それでも、カイテク導入は現場で働く職員たちの要望だった。「カイテクが入ったおかげで、過酷な労働が減りました。介護の質の向上にはつながっていない。でも、施設職員の最低基準を守るには有効でした」

◆人員不足がもたらす悪循環が止まらない

この老人ホームは社会福祉法人が1980年代半ば、系列の病院に隣接して開設した。

小金井市介護福祉課がある市役所第2庁舎

定員は入所が106人、ショートステイが8人。長年にわたり、地域の福祉を支えてきた。
老人ホームに以前勤めていた介護福祉士のBさんは、当時をこう振り返る。「利用者さんにはお待ち下さい、が口癖でした」
働き手が圧倒的に足りなかった。利用者に転倒リスクがあればすぐ対応したが、簡単なお願いごとは優先順位が低く、後回しになった。
「対応してくれないというクレームもありました。私たちも人間。余裕がなくて、ちょっと待ってと乱暴な言い方になったこともあります。こういう経験は、他の職員にもあったのではないかな。ストレスがたまり、虐待にもつながりかねませんでした」
Bさんに限らず、職員や元職員の取材では、具体的な虐待事案を説明する人もいた。

◆市役所が開示した資料は真っ黒に塗りつぶされ

取材班は、老人ホームで過去10年間に発生した虐待に関する資料を開示するよう、小金井市に請求した。
そして開示された資料を見て、ため息をついた。「法人の評価や信用を低下させる」として、真っ黒に塗られた12枚の用紙が公開されたからだ。

小金井市に情報公開請求した高齢者虐待の資料。開示された資料12枚はすべて黒塗りだった

Bさんは続ける。「夕方夜勤に入り、そのまま20時間働き続けたことや、夜勤が連続6日間続いたこともあります。夜勤時の仮眠時間も以前は3時間あったのに、最後のころは2時間に減りました。求人を出しても、人が来ないんです。人が少ない中で、回すしかなかった。常に寝不足で疲労がたまっていました」
2023年4~7月には、職員の退職が続いた。状況はどんどん悪化していった。

◆サービス残業しないと白い目、ベテラン職員からの圧力

Bさんが特につらかったのはサービス残業だった。
「1日1時間以上はサービス残業をしていました。残業自体は認められていたけど、経営的な問題からしないようにと求められたし、しないで帰ると白い目で見られました」
サービス残業については、別の元職員の女性Cさんからも、こんな声が聞かれた。「4時間残業しても、1、2時間しか申請できない。長く働いている職員からは、『そんなことでは残業はつけないから』と圧力のようなものも受けていた」
元職員の男性Dさんもこう指摘する。「立場の強い職員が残業をチェックする上司に、『この人はしゃべってたよ』『仕事してなかった』とチクるんです。そうすると残業申請が通らない。上司も自分の主観で判断するから、申請しても却下へとひっくり返されました」
 ◇
東京新聞では「スキマバイト」での困り事や経験談、ご意見を募集しています。
メールはogawa.s@chunichi.co.jp、郵便は〒100-8505(住所不要)東京新聞デジタル編集部「スキマバイト取材班」へ。

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    みんなのコメント2件

  • ユーザー
    まんくん 8月20日11時16分

    ある自治体で、指導監査をしているものです。
    記事にある状況は例外的なものではなく、一般化しており
    いつ事故や事件が起きてもおかしくはない状況にあり、危惧しているところです。
    しかし法的に規制はできず、また一方ではスキマバイト職員なしでは現場が回らない
    あるいは人員基準を満たせないという現状・実態があります。

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  • ユーザー
    Kero 8月20日6時48分

    「長く働いている職員からは」、いつもこういう人が弱い人の邪魔をしているようです。
    他では働けないこういうベテランを排除すれば、少しは風通しが改善するのではないでしょうか?

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