最強と最凶に育てられた白兎は英雄の道を行く


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作:れもねぃど
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第二十話 それぞれの思惑



待たせたなぁ!!!(待ってる方がいるかわからんけど!)
リアルが忙しくてなかなか更新できてませんでした!!!
約2ヶ月ぶりの投稿ですが、楽しんで頂ければ幸いです。




 

「オッタル。あの子、また強くなったわ」

「重畳、ですか」

「ええ」

 

迷宮の真上に築かれた摩天楼施設(バベル)

その最上階、最高級のスイートルームを彷彿とさせる広い室内で銀髪の女神はワイングラス手に取りながら、選りすぐりの従者と一つの話題に興じていた。

 

「あれは『成長』なんて生易しいものでは無いの。───『飛躍』。そう飛躍よ。只でさえ輝いていたあの子が『魔法』というきっかけを手に入れてより一層光輝き始めた・・・・・本当、見ているだけで胸が高鳴るわ」

 

広い部屋でグラスをくゆらせ、月の光を反射する水面を眺める。

意中の相手のことを考えているのか、まるで恋煩う町娘のように頬を上気させると、静かにグラスに口を付けた。

 

「器の発展・・・・・それが目覚ましいと?」

「そうね、そいうことになるわ」

 

部屋の隅で顔色を変えず、直立不動の姿勢をとる従者───オッタルと短い受け答えをする。

彼が静かに主神を見守る中、ふとフレイヤの胸中に疑問がわいた。

 

「でも・・・・・なぜあの子はそこまで強くなろうとするのかしら?あの子の輝きが増すのは喜ぶべき事なのだけれど・・・・・少しばかりハラハラさせられてしまうわ」

 

フレイヤはベルの『怪物祭』での活躍を知っている。そしてその際に負った怪我のことも。

その事をフレイヤに話してくれた彼女の友人(・・)もベルの事を心配していたし、フレイヤも自分を助けた後にそんな大立回りしていた事に驚愕した。───因みにフレイヤにとってベルの生き死にはさほど重要ではない。彼が死んだところでその魂を追いかければいいのだから。しかし───

 

「どうせなら・・・・・生きていて欲しいもの。()のためにも」

「・・・・・・」

「───話がずれてしまったわね。それでオッタルは何故かわかる?」

 

フレイヤは先程から沈黙していた従者に意見を求める。

巌のような獣人はしばし口を引き結び、主人の問いに答えた。

 

「恐らく・・・・・『頂点』を見ているのかと」

「頂点・・・・・?」

「はい。フレイヤ様からお話をしてくださった、その者の無謀ともいえる行動は頂点───『目指すもの』がある故の焦りによるものかもしれません」

 

フレイヤはその細く美しい指を自分の顎に添える。

彼女にはオッタルが言った『目指すもの』に心当たりがあった。

フレイヤが直接ベルに聞いた訳ではなく、友人経由で聞いた話ではあるが───彼は『英雄』になることを目的としているらしい。

『なりたい』ではなく『なる』

その言葉には確かな決意が感じられた。

 

「なるほど・・・・・失念していたわ。子供達の寿命は神々(私達)に比べれば一瞬と言っていいほどに短い。そんな中で『英雄』なんてものになろうとすれば焦りもするということね」

「英雄、ですか。───ならばフレイヤ様のご慧眼はただしかったようです」

「あら?何故かしら」

「もしもあの者に本当に英雄になる覚悟があるのなら・・・・・今の実力で良しとするはずがございません。必ず自らの器を昇華させるために『冒険』に挑むはずです」

 

オッタルは言いきった。

幾度となく死地を超え、都市最強(Lv.6)へと至った生粋の武人はフレイヤですら見出だせなかった少年の可能性すら見出したのだ。

 

「なるほど。つまり、手出しは無用ということね」

「左様かと。無論、フレイヤ様が望まれるなら介入致しますが─────」

「いえ、いいわ。そんな無粋な真似はしたくないし。・・・・・それにしても─────」

 

フレイヤはそこで一旦、言葉を切った後、少し拗ねたように呟いた。

 

「私より貴方のほうがあの子の事をわかってあげているみたい。なんだか嫉妬してしまうわ」

 

 


 

「件の冒険者を監視しろ、ですか?」

「ああ、手は出さなくていい。むしろ出すな」

 

場所は変わって闇派閥の居城(クノッソス)

地下故に魔石灯しか主だった光源がない薄暗い廊下にて一柱の邪神とその眷属は密談していた。

 

「それはやはり彼の冒険者が今後の計画に何らかの影響を───」

「ん?いや、別にそういう訳じゃないぞ?」

「・・・・・ではなぜ?」

「単なる興味本位!」

「・・・・・」

 

殴りたい、この笑顔。

屈託のない笑顔を浮かべる邪神───エレボスを見て、その眷属───ヴィトーは思わず拳を握りしめる。

それぐらい許されるのではないのだろうか?

こちとら7年間わがまま放題の主神(あるじ)に付き合ってきたのだ。

聞いた話によればかつて最強と名をはせた派閥───【ゼウス・ファミリア】の主神は【ヘラ・ファミリア】の眷属の魔法を受けても送還されなかったと聞く。

だったら、いいんじゃないか?

この主神の顔に渾身、とまではいかないがほどほどの右ストレートを叩き込んでもいいんじゃないだろうか?

 

「どうしたヴィトー?まるでクソ上司の顔面に拳を叩き込むのを我慢している部下のような顔をして」

「いやに具体的ですね」

 

そんなヴィトーの心境を見透かしたのか、機先を制するように言葉を発したエレボスを恨みがましい瞳で見た後、ヴィトーは大きく溜め息をつく。

 

「そんなに落ち込むなよ。・・・・・これはお前のためでもあるんだぜ?」

「?私のため、ですか?一体どういう───」

「今は教えない」

 

ポツリと呟くようなエレボスの台詞にヴィトーが眉をひそめる。

だが、エレボスはすぐにいつものような飄々とした様子でヴィトーの疑問を遮る。

ヴィトーはあきらめたように再び溜め息をつく。

これ以上追及しても無駄だろう。こうなった主神(あるじ)から神意を聞くことは不可能に近い、と。

 

「わかりました。しかし彼はかなり察しがいい。監視に気づかれる可能性がありますが?」

「その点は問題ない・・・・・このバスラム謹製の試作魔道具(マジックアイテム)があればな!通称、【万能者(ペルセウス)】のパク───」

「それ本人の前で言わないで下さいね。面倒なことになるので」

 

そう言ってローブ型の魔道具を得意げにヴィトーへ見せつける。

この魔道具は被った者の姿を不可視化するもので、ローブ型なので多少かさばってしまうものの、人を監視するといった事に使う分には大変便利な代物である。

・・・・・のだがそれより前に同じくような効果を持つ魔道具(ハデスヘッド)を【万能者】が製作していたため、邪神達がこぞってバスラムを弄りまくったのだ。

やれパクリだの、やれ『著作権はどうなってんだ、著作権は!』だの、挙げ句のはてには『勝訴』や『敗訴』と書かれた紙を持って大騒ぎした。

そのせいでバスラムはブチギレた。

「あんな小娘といっしょにするなぁぁぁぁ!!!いいだろう、我が『不正』の真骨頂をみせてやる!!!」と試作段階にあった兵器を起動させたのだ。

そっから先は地獄だった。

兵器が大暴れしたせいで人造迷宮(クノッソス)に傷がつき、バルカがブチギレ。

騒ぎに巻きこまれる形で闇取引の商品が脱走し、ディックスがブチギレ。

エレボスは脱走したワームウェールに食われかけた。

まさに大惨事。それは死神であるタナトスをして「これ俺達7年間牙研いで来たけど自滅すんじゃね?」と言わしめた。

因みにこの騒動で自らの主神を助け、脱走したモンスターや大暴れした兵器を鎮めるのに奔走したヴィトーは器が昇華(レベルアップ)し、第一級冒険者相当(Lv.5)の力を得たのだ。この騒動のMVPは間違いなくヴィトーと言っていい。そしてヴィトーはキレていい。

 

「わかってるって。んじゃ、よろしく〜」

「はぁ・・・・・では行って参ります。くれぐれも私のいないときに面倒事を起こさないで下さいね」

 

適当な感じで手をふるエレボスに念を押すように言うと、ヴィトーは薄暗い通路の奥へと消えていった。

 

「・・・・・」

 

ヴィトーが通路の奥へと消えた後、エレボスはしばらくのあいだ手を振り続けていたが、不意に手を下ろす。

だからといって何をするわけでもない。ただ、その金色の瞳でヴィトーが消えていった方向を見つめる。

 

「願わくば───お前が『夢』を思い出さんことを」

 

そしてその見えなくなった背中に語りかけるようにエレボスが呟く。

その時、彼の瞳は(おや)眷属()に向けるような、優しいものであった。

 


 

「ちょっと、休憩にしよっか」

「・・・・・はい。お気遣いありがとうございます」

 

市壁の上で僕は仰向けに倒れていた。

理由はもちろん、アイズさんとの手合わせにて無様に転がされているからだ。

日に日に厳しさが増している手合わせだが、なんとかついていけているようで何度か一撃を加えられそうなところまではいく。

だが、やはりそこは第一級冒険者、もとい都市二人目のLv .6。

そう簡単にいかず転がされる日々である。

ボロボロになり、青空を見上げる僕にアイズさんが手を伸ばす。

 

「体は、大丈夫?」

「大丈夫です」

 

そんなやり取りをしつつ、僕はアイズさんの手をとって体を起こす。

そしてそのまま楽な姿勢で座り込むとアイズさんもそれに倣う形で僕の隣に座った。

いつもであれば早朝のみの手合わせになるのだが、今日はリリが急用で不在のため、一日かけての手合わせになっている。

この小休止は長く続けるためのアイズさんから配慮だろう。

 

「君は、すごいね」

「はい?」

 

しばし無言で休憩をとっていた僕達であったが、隣に座っていた。アイズさんが急に話しかけてきた。

 

「冒険者なりたてなのに、びっくりするくらい上達してる」

「え、でも僕、アイズさんに手も足もでてないんですけど・・・・・そ、それにこんなにボロボロに・・・・・」

「それは多分、私が力加減を間違えているだけだよ」

「えっ!?」

「ごめんね、君がLv.1とは思えないほど強いからつい・・・・・」

「い、いえっそんな、謝らないでください!」

 

表情に大きな変化は無いものの、悲しげな雰囲気で肩を落とすアイズさんを慌てて励ます。

だが、こうしていると・・・・・不思議だ。彼女に対して最初に抱いていた彼女の人物像に違和感を感じる。

勿論、冒険者としての評価は変わらない。だが、こうして近くで交流していると彼女は───ちょっと変わったところのある普通の女の子のように感じてしまうのだ。

 

「聞いても、いい?」

「えっ?」

 

全然別のことを考えていた僕は、アイズさんの呟きに意識を眼前に戻す。

目を向けると、先程まで落ち込んでいたのが嘘だったかのように真剣な表情をした彼女が此方を見つめていた。

 

「どうして君は、そんなに強いの?」

「はい?」

「どうして、そんなに早く、強くなっていけるの?」

「強く・・・・・ですか?」

 

問われた内容に、思わず問いを返す。

強い、という言葉は自分にとても不釣り合いなものに聞こえてしまうのだ。

咄嗟にこれまで───オラリオに来る前の僕について考えてみる。

 

───ザルド叔父さんと剣を打ち合えば、剣ごと数十M(メドル)吹き飛ばされた。

 

───アルフィアお義母さんと戦えば、得物のナイフは掠りもせず、魔法(ゴスペル)よりも早い拳骨(ゴスペル・パンチ)によって意識を刈り取られた。

 

うん、全くもって良いとこなしだ。

そんな特訓の日々(地獄)を思いだし、少しばかり遠い目をしてしまったけれど、此方を見据えるアイズさんを見て再度真剣に考えてみる。僕が強くなろうとしてる理由は───

 

「・・・・・何がなんでも、たどり着きたい場所があるからです」

「たどり着きたい、場所?」

「はい、子供の頃に約束したんです。大切な人と───『英雄』になるって」

 

その答えに、アイズさんは目を見開いた。

黙って僕のことを見つめた後、おもむろに頭上を仰いだ。

 

「そっか・・・・・」

 

膝を浅く抱えた姿勢で、彼女は空を見上げた。

 

「・・・・・わかるよ」

 

ポツリと呟かれた言葉に、僕は「え?」と呟きを漏らした。

 

「私も・・・・・」

 

その先の言葉は、急に吹いた風によってかき消された。

その風に思わず僕は目を瞑る。

しばらくして目を開けると、アイズさんはさっきと同じ姿勢で空を見上げていた。

・・・・・個人的には先の言葉が気になったが、今までで見たことのない彼女の目を見て言葉が続かず、しばらくの間、無言の時間が続いた。

 

「ねぇ、ベル」

「!は、はいっ」

 

そんななんとなく気まずい空気の中、先程まで空を見上げていたアイズさんが話しかけてくる。

 

「・・・・・膝枕、しよっか?」

「は?」

 

あまりにも唐突な提案に僕は目を点にした。

 


 

(ど、どうしよう・・・・・・・)

 

アイズは彼女をポカンと見つめているベルを見て焦っていた。

 

(こ、こう言えば男の人は、みんな喜ぶはずじゃ・・・・・)

 

アイズは悩んでいた。

毎度毎度力加減を間違え、ベルをボロボロにしてしまうことを。

かといって手を抜きすぎればアイズの為にもベルの為にもならない。

そんな悩めるアイズが思ついた苦肉の策が──この膝枕であった。

 

(リ、リヴェリアに騙された!?)

 

「お前の膝枕で喜ばない男はいないだろう」と言っていたリヴェリアの言葉を信じ、ささやかなご褒美としての行動だった。

だが、その結果がアイズの目の前で呆然としているベルである。

故にアイズはとても困惑していた。

だが、困惑している場合じゃない!

なんとかして誤魔化さなければ!

 

「あっ、なるほど!」

「!?」

 

(ミニ)アイズ達が机を突き合わせ会議をする中、ベルが突如声を上げ、手を打った。

そして合点がいったような顔でアイズを見る。

 

「休息の訓練ですね!」

「・・・・・え?」

「ダンジョン内でも休息が取れるように、どこでも寝れるようにする訓練なんですよね!」

「う、うん、そうだよ」

「やっぱり!!流石は第一級冒険ですね!!そんなことまで考えているなんて!」

 

ベルが目を輝かせ、アイズを見つめる。

そんな事全く考えていなかったアイズはベルからの尊敬の眼差しに罪悪感を募らせる。

だが、もう訂正はできない。(ミニ)アイズ達が『『『『それだぁぁぁぁぁ!!』』』』とベルの出した結論に飛びついてしまった以上、もうこの嘘を貫き通すしかないのだ。

 

「じゃ、じゃあ訓練、しよっか・・・・・」

「は、はい。・・・・・ちょっと恥ずかしいですね」

「うん、私も少し、恥ずかしい・・・・・」

 

顔を赤くしながらも、訓練と割り切ったのかおずおずとアイズの膝上に頭を乗せ、横になるベル。

アイズもベルの頭を乗せることに少々の羞恥を感じた。

そんな時間がしばらく続いた後───

 

「Zzzzzz」

「寝ちゃった・・・・・」

 

余程疲れていたのかあるいは膝枕(こういう事)に慣れていたのかそんなに時間をかけずにベルは眠りについた。

年相応の寝顔を晒すベルを、アイズは再度眺める。

 

「・・・・・頑張って、るんだね」

 

防具についているモンスターとの戦闘でついたであろう掠り傷やひっかき傷の跡を見て、アイズは察する。

ひたむきに、あんな決意までして努力をしている純粋な少年の思いに触れて、アイズは心の底に吹きだった黒い炎が浄化されていくような気がした。

自分では気づかないうちに、アイズの唇が綻ぶ。

純白な白兎に、癒されていく。

 

「なれるといいね───『英雄』に」

 

そして、と何かを言い掛けてアイズは口を閉じる。

自分の願いをこの少年に押し付けるのは筋違いだと感じて。

再び胸に湧き出した黒い炎を沈めるかのようにアイズはベルの髪や頬を撫でる。幸い、それでベルが起きる様子はなく静かな寝息立てていた。

 

「んっ・・・・・」

 

アイズが小さく欠伸をする。

時刻は昼頃。雲が浮かぶ青い空から温かい光が注がれている。

正に昼寝日和といったところだろう。

 

「私も・・・・・」

 

そう言うとアイズはベルを膝枕した状態で近くの壁に体をあずけ、瞼を閉じる。

小さな吐息が聞こえてきたのは、その後すぐのことだった。

 

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