「やれやれ、困ったものだ」
呟きながら
バトルの時以外はこのアローラでこれは着られない。
後で社員に通気性を良くして涼しく着れるようにして貰おうと決める。それはそれとして、横に視線を向ければ、褐色に肌が焼けた、オーキド・ユキナリに非常に似ている姿の老体がいるのが見える。日焼けしたオーキド博士―――に見えるが、違う。なんでもオーキド・ユキナリ博士のいとこで、ナリヤ・オーキド校長というらしい。
つまりここ、メレメレ島にあるポケモンスクールの校長になる。今回、こうやって態々ポケモンスクールで講習を開くのはせっかく高名なトレーナーが何人か来ているのだから、その一人に講習会でも開いてほしいというナリヤの嘆願をポケモン協会が受け、俺にその要請を送ったという事にある。
ロハで。
当然キレた。
通知が来たその日にヤベルタル、ツクヨミ、カグツチ、ワダツミを連れてポケモン協会総本部に殴りこんできた。人をただの社畜だと思いあがっていた新しい議員を一週間ほど時間感覚の狂ったやぶれたせかいに叩き込んで説得を完了させ、ちゃんと協会側からギャラが発生する様に話を通して今に至る。そもそも俺の放つ言葉、知識は一流トレーナーにとっては金に出来ないほどの価値があるものなのだから、ロハで喋らせようとするのはただの屑である。
毎年、俺にポケモンを育成させる為だけに数千万、場合によっては億単位を積み上げようとする人間が存在する。育成家としてトップクラス、年間育成数が設定されている為プレミアが上がっている上に、同じレベルのグリーンは商売用にポケモンの育成を行わない。だから必然的に数年先まで予約が入っていたりする。
それをロハで披露させようとしやがった。エリートだとかなんだとか知らないが、このオニキスを舐める奴は誰一人として許しはしない。それだけの簡単な話ではある―――まぁ、ちゃんとやぶれたせかいから引き上げてやったのだが。
ともあれ、
「やれやれ、バカンスのつもりだったんだがな」
「いや、これは実に済まない事ですが―――」
「いや、オーキド校長を責めている訳じゃないんだ。それに協会の方にも今度仕事ぶち込むようだったら《はんぶっしつのおうぎ》と《はかいのおうぎ》を叩きこんでやるって実演してやったからな。少なくともまたホウエン並みのカオスにならない限りは連絡してこないだろう」
全く、と呟きながら片手で帽子を押さえる。確かに協会に対して協力的なスタンスを見せているが、何時から犬で尻尾を振っていると勘違いしたのだろうか、あの頭でっかち共は。意趣返しに不利なレギュレーションを制定するようならもっかい《おうぎ》をぶち込んでやる、と呟きながら息を吐き、
「すまない、醜態を見せた」
「いやいや、チャンピオンも人の子という事ですな。さ、今からユキナリの話で盛り上がるのも良さそうですが……それよりもきっと、ポケモンの話をしている方が楽しいでしょう」
「違いない……それでは講堂をしばし借りるぞ」
やれやれ、と呟きながら帽子を片手で抑えながら歩く。冷房が効いているこの講堂内なら暑さを気にせずにいられるし、まぁ、悪くない。そう考えながら横の小部屋を出て、講堂奥のステージへと上がって行く。
最初に感じていたのはざわめきだった。人の気配。楽しむような声、音、動き。それが広い講堂内を埋め尽くしていた。講堂内に社員の気配を感じる……この雑多な人ごみの中で明確に気配を主張するとは大した奴だ、査定を考えてやる。くだらない事を考えつつ、壇上へと向かって上がって行く。
一歩一歩、最初は人の声に足音が消えて行く。だが階段を一歩登って行くごとに注意をする必要などない。勝手に言葉は閉ざされて行く。黙って、見つめ、そして集中して視線を向けられる。足音が広い講堂内、他の音に遮られる事もなく響いて行く。
ステージの上、そこに設置された台の後ろに立つ頃には全ての音が喪失していた。それを確認し、全体を見渡した―――ちらほらと知っている顔がある。偵察に来たか? いや、ただ単純に勉強しに来たのだろう。だからさて、と声を零す。
「
身じろぎを感じる。
「俺が
そこで一回言葉を区切り、
「……代わりに趣味で半年に一度、タマムシの大学で講習会を開いている。今回の話を聞いてそれでもまだ俺の罵倒に耐えられるって頭のおかしい奴は来い、話の相手をしてやるが―――さて」
言葉を区切る。そして講堂内を見る。何人か呼吸を止めている奴がいるけど大丈夫? 死なない? まぁ、その時は頑張ってアルセウスにでも祈ってくれ。そう思いながらさて、と再び言葉を置いて、言葉を続ける。
「ポケットモンスター」
この言葉は―――魔法だ。任天堂が生み出した、何て事を口にする事は絶対に出来ないけど。それをこの世界の人間は絶対に理解できないけど。こうやってこの世界の人間として、任天堂がこの偉大なる世界を生んだ事に対して心の底から敬意と感謝を送っている。
「テレビのクソ共は俺にインタビューするたびにポケットモンスターはなんですか、と聞いてくる。改めて思う、クソみてぇな質問だな、と。そもそも貴様、それを一言で説明する気か? 出来るとでも思っているのか? そこにいて、一緒に育って、戦って、殺し合って、愛し合って―――そしてそこに常にある我らの隣人。それをどうやって説明すれば良い。言葉になんざ出来る訳がない」
だけど、そう、
「俺達には
ボールベルトからモンスターボールを抜き、それを片手で開けた。ボール内の閃光と共に横に黒尾が出現した。一瞬で視界が彼女に奪われ、講堂内全体が魅了される様に視線を奪われた。
「そう、俺達はポケモントレーナーだ。百の言葉で飾るよりこいつで一回ぶつかる方が万倍伝わる。故に俺達トレーナーにとってバトルとは一つのコミュニケーションツールだ。バトル脳なんて馬鹿にする連中もいるだろう。だけどそういう犬には勝手に吠えさせろ。俺達はジャンキーだ。麻薬中毒者の様にもっと、もっと良質のバトルを求めるそういう亡者だ。薬をキメてるのと何ら変わりはない……ただしこっちは合法だけどな?」
それと共に小さな笑い声を浮かべるが―――それは社員やら知り合い、一流と呼べる範囲のトレーナーばかりであり、それ以外の連中に関しては笑うどころか顔を青くしている。ん? どうしたのだろうか?
「突き抜けている一握りにとっては笑い話ですが、そうではない層には」
そう言えばディレクターに前、お前がテレビに出ると賛否両論で大変だって言われてた気がする。まぁ、ここら辺の主義主張は切り上げるかと決めて、さて、と言葉を置く事にする。
「愛人からNGが入ったから話題を変えよう、おそらくは一番注目し、気になっているPWCアローラの話だ。まぁ、俺もあまり手札の話はしたくはないから基本的な事から、少し裏を知っている人間として面白い話を幾つか、な?」
「あ、ちょ、オニキスさんそれは―――うっ」
協会側スタッフが止めに入ろうとするのを立ち上がる前に社員が当身で気絶させたのが見えた。やはりうちの社員は有能だなぁ……と、手際のよい社員の姿を見送りつつそうだな、と言葉を置く。
「PWCアローラの事情を説明しよう。ポケモン協会は表向きにはこれがアローラの発展を目指すための交流であり、外界へと繋げる為にアローラで開催すると言っているが……これは実は間違いではない」
だがそれだけでもない、と言葉を置く。
「アローラが閉鎖的な社会を構築している事は
それはなぜかと言えば、
「究極的にアローラの環境は居座ってZワザを放つ事に特化している。これは威力が大きく、命中さえすれば一撃で大抵のポケモンを落とす事は出来るだろう。だけどその代わりにアローラは全体的に鈍足アタッカーで環境が固まってきている。耐えつつ殴る、というスタイルは本土でも良く見かけるものだが、ここまで突き抜けて環境全体が重いのも珍しいだろう。まぁ、威力200の奥義級が技能拡張されて放たれてくると思うと確かに脅威ではあるが―――それだけだ」
そう、アローラの環境はそれだけ、という言葉で終わってしまう。
「アローラは基本的にZワザでイニシアチブを取得し、そこから押し切って圧殺するというスタイルがメインになっている。逆に言えばそこさえどうにかしてしまえば良い、と言う環境でもあるのが難点だ。根本的にトレーナーと戦う事を想定していない事をベースに環境が構築されているせいか、トレーナーに対する対策や認識が甘い部分がある。一流のトレーナーともなれば干渉遮断によるダメージの拒否、或いは継戦を目的としたコストパフォーマンスの良いダメージ半減でも受け用のポケモンに積ませてそれでしのぐ事が出来るだろう」
少なくとも、大技一撃でバトルが崩壊するようなことは
「なら何故アローラでPWCを開こうとしたのか? これは金の話が一部絡む。元々観光リゾート地としての価値が高かったアローラは年々、人口の増加によって人と自然のバランスが崩れつつある。だからそれを一気に整える、と言う意味でもポケモン協会は口を出してきた。この際、大きなイベントで人を流入させる事で明確にポケモンと人の生活域を分けようという試みだ」
無論、これはアローラの方針とは真っ向からぶつかる所でもある。
「
それは簡単に、
「信じられるか否か、という事だ。島民が、そしてこの地方の準伝が変化等に。刺激に対して。これ以降の島の変化に対して本当に耐えられるのか? 悪い方向へと変化しないと信じられるか否か、と言う事だ」
まぁ、これがポケモン協会の話ではある。
「だがこれは
そう、事情なんざ知った事ではない。
「俺達トレーナーの目的は戦う事であり、そして俺こそがポケモンマスターに相応しい、と言う事を認めさせる事だけだ―――自分以外の有象無象すべてに。そしてそれだけで良い。それ以外の事情はクソだ。忘れろ。気にするな。そんな事実があったと知って吐き捨てろ、関係ないと。俺たちの本分は戦う事であり、それ以外はどうでもいいことだ。理解した上で吐き捨てて突き抜けろ、それが
そこで再びさて、と言葉を置いた。いい感じに講堂内も温まってきたところだ、真面目な話に入る。
「アローラの現状のレギュレーションはメイン6にサブ2のトータル8の編成になっている。メインとサブの違いは分かっているな? メインは全試合に出場でき、サブは連続で出場する事が出来ない。その為サブはバトルの回数がメインと比べて少ない。これが原因でレベルが遅れがちになるのだが―――」
講堂内でメモっている学生やトレーナーの姿を見て、メモをする時間を与えながら話を続ける。
「予選と序盤戦が終わったところで
故に、と言葉を置く。
「このPWCでは育成の重要性が非常に高い。個人的な予選の足切りラインは最低で130、平均で140から150レベルだと俺は見ている。俺の様に育成に特化したトレーナーであればこのラインは難しくはないラインだ。だが異能型等のトレーナーにとっては難しいだろう。だから専業ブリーダーを雇い、レベリングをする事を非常に勧める。またそれとは別に、手札を晒しても良い相手と交流試合を通す事でなるべくレベルを上げておく事もお勧めする」
それとはまた別に、
「今回のアローラPWCではサブ枠のレベルも最終的な結果に大きく響く事が予想される。メインだけではなくサブの方にも気を使い、メインと遜色のないレベルを維持するのであれば
まぁ、そんな間抜けが参戦しているとは思いたくない。
「ただここで俺は育成が一番重要な要素である、なんて寝言は言わない。指示能力がなければ普通にポケモンを強く育てても裏をかかれて敗北する。統率能力がなければポケモンに言う事を聞かせられなく、高個体値のポケモンを使役する事が出来ない。異能がなければ一方的な能力ハメで敗北する事だってある」
重要なのはどの素質を持っている、と言う事ではない。
「重要なのは
才能も素質も、その全てを自分はどうにかしてきた。天は恵まないのだから、自分からどうにかするしかない。闘争本能だけで体を引きずり、挫折しながらも前に進んできた。
「一度の挫折で膝を折るのならそこで死ね。ここから先は一度や二度ではなく、百を超える挫折を味わっても体を前に引きずって進んできたバトルの亡者が集って来ている場所だ。そしてポケモントレーナーの頂点とはそういう生き物だ。そして俺もそうだ―――だから笑顔で、なぁなぁで済ませるバトルなんざ俺には伝える事は出来ない。俺が貴様らに教えられるのは辛く、厳しく、血反吐を吐きながら涙を流して、それでも掴む勝利の栄光の話だけだ―――興味のない奴は去れ、それでも残るというのなら話を続けてやる」
どうだ? と言葉を放った中、誰も講堂から出て行く気配がない。ならばよろしい、と笑みを浮かべる。意外とここにきているアローラの連中は中々骨があるのかもしれない。だとしたら将来、立派なトレーナーに育ってくれる。その期待を込めて自分のペース、気力を抑える事もせず、
午後まで講習は続いた。その間に帰る者、眠る者は一切いなかった。
終わった後に晴れやかな気持ちになりつつも、仕事だった事を思い出すとやはり協会への怒りが沸き上がってくる。今度また報復してやる事を誓いつつまたアローラでの一日が終わった。
と言う訳でアローラとポケモン協会、そしてPWCに関するお話とお外向けのオニキス。身内に対してはお茶目だったり態度が軽くなるけど、外向けは完全に悪役というかボスというか、そういう方向性で固まってる。
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