白日終点   作:てんぞー

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理想

「漸くロドス・アイランドに来れたなテレジア」

 

「えぇ、私もここに来るのをずっと心待ちにしていました―――これで私も漸く、本格的にバベルとして、ロドスとして活動を開始できます」

 

 ロドス・アイランドに到着してやった事はまずはテレジアとケルシーの面会だ。これでバベルにとって最も重要な人物がここには揃った。悪いが傭兵諸君は一般オペレーターにバベルで休憩させて貰うとして、俺達運営に直接かかわっているエリートオペレーターは会議室に集まっていた。普段は全員揃う事もないこの会議の様子も、今日ばかりはその様子が違っている。

 

 ケルシーとドクター、テレジアと俺Grimは当然として、Ace、Scout、Logos、Outcast、Misery、Whitesmith、Raidian、Mantra、Mechanist、唯一エリートオペレーターではないアスカロンさえも―――運営に関連する人間とエリートオペレーターのほとんど全員が揃っていた。ここまで全員が揃う事は相当珍しい。バベルで開かれる会議は大体自分の作業のが大事とか参加面倒とかそういう理由で参加してこない奴が大半で、5人も揃えばよい方というのが日常な所だ。その中でこれだけ揃った事は、それだけテレジアの存在が重要視されているという事でもある。なんとなくテレジアの人気が誇らしかった。

 

「本当によく揃ったもんだ」

 

「ま、流石に今日ぐらいはね?」

 

「そうねぇ、しょうがないでしょ」

 

「Raidianでさえ前に出てきてるんだし」

 

「今日ばかりは無線越しじゃないほうがいいと思ってねぇ」

 

 流石の引きこもり達も今日ばかりは生で会議に参加すべきだと判断したところは褒めたいが……さて、これでバベルは大々的に活動を開始することが出来る様になった。その目的を考えるに、何から始めれば良いのか? と悩むところもあるが。だから座っている椅子に深く腰掛けながらで、と声を零す。

 

「これからバベルはどうするんだ?」

 

「この大地を救うための活動を開始する」

 

 それに答えたのはケルシーだが、それにアスカロンが言葉を続ける。

 

「とはいえやれる事とやるべき事は多い。何から手を付けるんだ?」

 

「私達が」

 

 アスカロンの言葉に、テレジアが答える。

 

「私達が鉱石病を癒すというのであれば、それは全ての感染者と向き合う事になるんだと思っています。私達が鉱石病と戦う上で感染者の存在は無視の出来ない事になるでしょう。ですから私達は鉱石病根絶の為、全ての感染者を救う事から考えなくてはなりません」

 

 テレジアの主張に、俺が言葉を挟み込む。

 

「本気か? 全ての感染者を救うなんて夢の様な話だぞ? このテラに一体どれだけの感染者がいると思ってるんだ? どれだけ救われず、迫害されている連中がいると思ってるんだ? それをバベルで全て救えると思ってるのか?」

 

「します。できます」

 

 断言された。真っすぐと、目を見る様に、迷いなくテレジアは続ける。

 

「これはそもそも避けて通れない問題です。この大陸に巣食う病は感染者という形になって呪いの楔を打ち込んでいるんです。その呪いを解かない限り、私達の活動は意味を成しません―――そのために必要な力と人材はここにあります。ここから全てを広げます。そしてその為に、感染者に対処する専門の組織をバベルから生み出します」

 

「それがロドスか……」

 

「感染者対策と鉱石病対策で分けるのが賢いか」

 

 テレジアに軽くチェックを入れるがちゃんと答えられている。やっぱ突発的な衝動じゃなくて考えて行動に出ているという事なのだろう。はあ、とため息をつきながら頬杖を尽きながら脱力して目の前の円卓によりかかる。それを見ていた横に座っているケルシーが横目に声をかけてくる。

 

「不満そうだなGrim」

 

「不満というよりは心配だな。やるなら徹底的にやるだろうし自分の事を顧みないだろうしな、こいつ」

 

「その為のお前だろう」

 

 ケルシーの言葉に視線を向ければ、ケルシーは此方に視線を向けさえもせずに正面、テレジアの主張へと耳を傾けていた。あぁ、そうか……ケルシーの中でもテレジアの扱いに関しては俺にぶん投げるという方向性で決着がついているのか―――いや、まあ、おそらく俺が一番テレジアの場所に近くて理解できていて、それでいてコントロール出来るからぶん投げる以外の選択肢がないんだろうが。まあ……俺としちゃ別に構わないんだが。

 

「まず最初にやるべき事は他の組織と提携し、それぞれの国とのつながりを作る事だと思っています。えーと、Grim?」

 

「ん? 提携と連携? まあ、表の顔をロドスとして―――ロドスを設立して、鉱石病の遅延手段や治療手段が出来た場合、それを流通に乗せるルートや情報を共有するルートが必要だからな。そもそもこの世界そのものの教育水準が低い。それを矯正する意味でも各国の有力者とコネクションを繋いで情報共有するルートは欲しい」

 

 つまり、最終的に開発した薬を配るルートとコネクションが欲しいなあ! ……という話だ。これがなきゃ薬を開発した所で配る事も出来ないし意味がない。

 

「商業関連は俺よりも詳しい奴がいるだろそっちに回せ」

 

「こっちにぶん投げないでお前も話に加わってくれよ。お前あっちこっちに話が通じるから使いやすいんだからよ」

 

「本業暗殺者なんですぅー、研究とかは分野じゃないんですぅー」

 

「勿体ない……今から学者に転向しろよ」

 

 日本式義務教育の恩恵だからプロフェッショナルではないけどそれぞれのジャンルに首を突っ込んで話を合わせられるってのはこのバベルだと物凄く強い。だって基本的に変人揃いでプロフェッショナルとエリートの塊だから、自分のジャンルでしか話が通らなくて他のジャンルには首を突っ込めないって連中ばかりなのだから。そんな中でそれぞれのジャンルに軽く首を突っ込めて話を合わせられる奴がいたとしたらそらもう便利な奴として使いたいわ。

 

 俺はもっと子供とかを保護して、それに対して教育を施す所から始めて次世代に向けて動いた方が良いと思うんだがな。いきなり感染者救済を成し遂げる事は不可能だろうし、どうせ後30年もすれば確実にテレシスも鉱石病で死んでるだろう。その時までに次世代で高度教育を施せた継承者の育成に成功していれば今のカズデル内戦もどうにかできていて一気に状況を動かせると思うんだが。

 

 まあ、だけど真面目に考えるとこの世代交代プランは難しいだろう。このバベルに所属している人間の大半が替えの効かない分野の天才であり、この規模で人と才能が集まる事の方がレアだ。いっそ、一種の特異点とさえも言えるだろうとは思う。感染者でこの場にいる大半が構成されている現状、時間を賭ければ才能というリソースが失われてしまうだろう。そう考えるとタイムリミットを迎える前に何とかしなくてはならないだろう。

 

 まあ、それと平行して次の世代の育成かなぁ……なんて個人的には思ってたりする。それとなくケルシーにお互い、技術と知識の継承を目指した弟子とかの育成を提案してみよう。

 

 ま、とりあえず、まず最初にやるべき事は。

 

「内戦への対応か……現状テレシス派とテレジア派で分かれているカズデルの状況をどうにかしなくてはならないな」

 

 ドクターが当座の目標を見据える様に腕を組んで確認する。カズデルの内戦に関しては納得のゆく話だ。

 

「我々が感染者と相対する上で戦乱を求めるテレシスとの応対は常に求められる事でしょう。その上でカズデルは非常に重要な位置を占めるでしょう。カズデルの内戦をまずは終結させ、その上でテラ全土の対応の為に各国へ……という形になるでしょう」

 

「となると当座は様子見か? 殿下が抜けた事でカズデルの政変と状況がどうなるかを見なくちゃならないし。恐らくはテレジア殿下が逃げたと思われる行動で摂政テレシスが完全に政権を掌握すると思うが」

 

「そうすればカズデルの状況は落ち着くでしょう」

 

 こうなると数日から数週間単位でカズデルを監視する方向だろう。となると、その間こっちはこっちで相手の暗躍に対して何をするか、という話になってくる。一旦ここでカズデルとテレジアの話を切り、バベルとしての今後ではなく現在の話をもう少し続ける。

 

「あー、ならこっちから1つ」

 

 Scoutがそう言って声を出す。それに視線が集中する。

 

「最近テレシスの周りが少々慌ただしい。どうやらカズデルから離れた地にある感染者の集団に用事があるみたいだ」

 

「カズデルから離れた? サルカズではなく感染者?」

 

「あぁ、現状何を目的としているのかは解らないが、それとなく干渉しようとしているのが見える。一応足跡は追えるからそれをどうするべきか、という話だ」

 

 テレシスがカズデルの外にも手を出している―――そう言われて思いつく事は特にない。でもテレシス自体割と力の信奉者というか、騒乱と争いを通してサルカズという種の力を信仰しているような部分がある様に感じる。まず間違いなくテレシスがかかわってくる以上、余計な事をする……というか何らかの争いを生む事を目的として干渉しているというのは理解できる。だがそれ以上の情報が足りないというのが事実だ。良く考えればあのテレシスという男の事を俺達は良く解っていない。

 

「これまでは偵察部隊は俺と、Outcastと、Grimで3部隊用意できる。カズデルの監視に2部隊をローテーションを組んで配置すれば1部隊遠征の為に動かす事も出来る……どうだ?」

 

「私は特に問題無し」

 

「俺も文句なし。判断はドクターに任せるわ」

 

 手をひらひらと振る。それに合わせてドクターが頷く。

 

「なら一番経験の多いScoutに担当して貰おう。その間OutcastとGrimは偵察部隊を編成しておいてくれ。暫くはカズデルに干渉せず監視するのにとどめて状況がどう変化するのかを見て行く」

 

「ヤー」

 

「了解」

 

 まあ、元々偵察部隊を任せるという話はあった。現状エリートで偵察行動が行えるのはScoutとOutcastと俺ぐらいだから当然といっちゃ当然なのだが。出来るならもうちょっと人材の幅をバベルには広げて欲しいが……まあ、ロドス体制に移行しない限りは難しいかもしれないなぁ、なんて事は感じる。

 

「ま、今回はこのぐらいか? それではとりあえずは解散だ」

 

「お疲れ様ー」

 

「何か食堂に食いに行くかー」

 

「お、付き合うぞ。最近ヴィクトリア産の良い茶葉が見つかってな」

 

「ほほぉ、ちょっとスコーンでも焼いて試すか」

 

 話が終わって解散となると全員自分の作業かサボりへと戻って行く。その中で、ケルシーが此方に手招きしているのが見える為、椅子から立ち上がって背筋を軽く伸ばすとケルシーの方へと近づく。

 

「テレジアの事は頼んだぞGrim」

 

「昔からの付き合いだ、任せろ。面倒を見るのも初めてじゃないし任せてくれ」

 

「そうか、なら頼んだぞ。他だと持て余すのが事実だからな」

 

 ケルシーの言葉に頷く。彼女の言い分は理解する。テレジアはこのバベルでも珍しく等しく誰からも尊敬され、敬われる存在だ。カズデルに居た時にサルカズ達から向けられる程のものではないが、それでもバベルでも姫として扱われるのはやや息が詰まる話だろう。その中唯一彼女とニュートラルに接触しているのが自分だ。ケルシーも比較的フランクに接しているし、ドクターもそうだが根本ではバベルの重鎮として接している所がある。そんな中でテレジアとしてのみ見ていられるのは俺しかいないし、適任だろう。

 

 という事でケルシーに軽く手を振って別れると、待っていましたと言わんばかりにテレジアが寄ってきた。

 

「Grim! 今からでも良いから貴女の名前を考えませんか? 識別するためのオペレーター名だけじゃなく人としてあるべき名前を持つ事はきっと、心を温かく照らしてくれる筈なんです。だから名前を、考えません?」

 

「特に困ってもないし、それにそう言うのはゆっくりと時間がある時に考えたいしさ。ほら、カズデルから出てきたばかりなんだから少し休もうぜ」

 

「何時もそう言ってはぐらかす……。本当に暇なときに名前を考えて貰いますからね? では行きましょ、私Grimがどういう部屋で生活してるのか気になるんです。前はスラム暮らしでしたから今はちゃんと生活できているかどうか、気になるんです」

 

「俺は割と清潔好きだよ」

 

 苦笑しながら手を握って引っ張ってくるテレジアに促されるように歩き出す。先に歩いてもどこへ行けばよいのか解らないのだろうに、意外と勢いの強いテレジアの様子に笑い声を零しながらこっちだと手を引いてロドス内部を案内する。一応は案内板の類もロドス内部にあるのだが、それでも似たような通路が何個も存在しているのが事実だ。

 

「もうちょっとこう、通路のデザインを変えたりなんか飾れたりすればいいんだけど」

 

「かなり広いから歩く距離も多いですよね」

 

「そこは、まあ、エレベーターとかあるしそれを使おうってしか。いや、でも横距離も結構あるんだよな。端から端まで歩くのに数分じゃ足りないってのも中々凄い事だよな」

 

「ここら辺はもう根本的な設計みたいなものですからどうにかできない感じはあるんですよね……?」

 

「まあ、今から動く床を入れようとしたら床を全部引っぺがす必要あるからな……」

 

 部屋を広げたりするだけなら壁を取っ払って整えるだけで良いし、部屋を追加するなら使われてない空間を利用するだけで良いだろう。だけど床とかエレベーター追加とかはかなり大掛かりな改装を施す必要がある。ぶっちゃけ、クロージャが涙目でゲロ吐きそうだなぁ、と思う。ついでに付き合わされるMechanistも血反吐吐きながら倒れそうだ。現状、ロドスの修復と改善に関しては2人がトップとして活躍しているので負担は全部そっち方面に行く。だからあまり無茶な要求は出来ない。

 

 まあ、プロは揃ってるのだ。だが純粋に人が足りない。手足として働いてくれる人の数が圧倒的に不足している。力はあるのにテレシス相手に押しきれていないのはそれが最大の理由だったりするのだ。

 

「ここだよここ、俺の部屋」

 

 部屋の入り口に特にロックはかけていない。このロドス内部でそれが必要な事もないし、うちの部屋に訪ねてくるような奴も現状はいない。何かあれば通信による呼び出しもあるから別に誰かが来ることを警戒する必要はないのだ。なので指さしながら殺風景な通路にある扉を示すと、小走りで前に出たテレジアが楽しみにするように扉の前に立ち、扉横のパネルをタップして扉を開ける。

 

「お、お邪魔します」

 

「緊張しなくて良いだろ、別に」

 

 苦笑しながらテレジアの背中を押しながら部屋に入る事を促す。放置してれば一生このまま足踏みしてそうだからだ。

 

 俺の部屋はクロージャに給料をはたいて作らせたシエスタ風の家具や壁紙を採用していて、この殺風景なロドス内部でもちょっとした南国というかリゾート気分を味わえるようにしてある。まあ、部屋から出てしまえば現実に戻されてしまうんだが、それでも今はどこにも行けない事を考えると多少は慰めになってくれるそんな部屋だ。

 

「あ、お帰り……って、えっ」

 

「あっ」

 

 だがそんな俺の部屋には既に先客がいた。銀髪に赤い角のサルカズ―――今はWという名前を得た彼女の姿だった。傭兵としての装備を外した上で僅かに濡れている髪の事を考えると先ほど俺が会議中だった間に人の部屋で勝手にシャワーを浴びていたのだろう。服も動きやすい黒地のハーフスリーブシャツにカーゴパンツという格好で完全に警戒態勢を解いているのが見えた。彼女としては普通に、今までスラムで暮らしていた時と同じ感覚で部屋に入り浸るつもりだったのだろう。

 

 だがそこにサルカズのお姫様がドレス姿でやって来た。テレジアの登場とWのオフ姿に両者は動きを停止していた。そういやこの二人がまともな状況で対面するのは初めてだなぁ、と思い出す。話題には出すが実際の面識は初めてだし軽く自己紹介でもさせるか。

 

「W?」

 

「え、あ、うん。シャワー借りたわよ」

 

「事後承諾だが」

 

「別に良いじゃない、今更な話だし」

 

「まあ、そうなんだけどさぁ」

 

 傭兵達には傭兵達で部屋を用意されていた筈なんだがおかしいなぁ、と首を傾げる。このロドス・アイランドだって数百人が生活できるように設計されているから少人数の傭兵達が入り込んでも全員に個室がいきわたるレベルで余裕がある筈だ。だというのにWが態々俺の所に来る意味なんて……まあ、寂しかったのか? どっちにしろ、共同生活は慣れている相手だし何の問題もないだろう。

 

「あ、成程。彼女がGrimが時折話題に出していたWですね」

 

 テレジアも最初はちょっと驚いた様子だったが、復帰すると笑みを浮かべて部屋に入りつつベッドの上に転がるWの姿を見て、近寄った。その詰め寄りっぷりにWは滅茶苦茶面食らっているように見える。

 

「え、あ、はい殿下」

 

「殿下なんて他人行儀な……私もGrimの友です。姉妹であれば私にとってはWも友人の様なものです。そんな遠慮なさらずにテレジア、とでも」

 

「さ、流石にそれはどうかと思うわ」

 

「そんな遠慮なさらずに。Grimからの話を聞いていてまるで子猫みたいだと評価されていた貴女を一度は会ってみたいと思っていました」

 

「”姉さん”……?」

 

 視線を逸らして下手な口笛を吹いて誤魔化そうとしてみるが、それをWが許す事もなく此方をジト目で見つめてくる。それから逃れる様に片手をあげて、

 

「じゃ、俺ちょっと偵察部隊編成の話をしなくちゃならんから!」

 

「あ、待ちなさいよGrim!」

 

 待たないぜ。

 

 軽く後ろ手を振ってから自室から逃げ出す様に飛び出し、部屋にテレジアとWを置いて去る。テレジアはWにも興味津々という様子だしこのまま放置していても大丈夫だろう。問題はあの様子だとテレジアはバベルの自室を利用せずにそのまま俺の部屋に居つきそうだなぁ、という所ぐらいだろうか。まあ、別にベッドをシェアリングして眠るのもWとやってきたことだしこの際それでも俺は構わないが、見つかったらケルシーになんて言われそうかちょっと解らないな。

 

 ともあれ、口に出した以上は実行せねばならないだろう。Wとテレジアから逃げる様に人事部の方へと移動する。

 

 

 

 

 そこからScoutとOutcastを交えて誰を編成するか、振り分けをどうするかという話に発展する。バベルはまだオープンな組織ではない。一般的にその存在が認知されるのはロドスという形で活動を開始してからだろう。それまではバベル側からオペレーターをスカウトする形でしか増やす事は出来ない。その事を考えると偵察部隊を編制すると言っても、その人数も大幅に制限されてしまう。つまるところ、ScoutやOutcastと人材の取り合いになってしまうのだ。結局この話も遅くまで続く事になり、その上で偵察部隊は完成する。

 

 話し合いが終わる頃には既に外は暗くなっており、食事する時間も少し過ぎている。皆で食べそびれてしまった。そんな事を考えながら食堂へと向かえば、そこにはドクターが孤独に食事をとっている姿がある。珍しくフードを下ろして顔を晒してる姿を見て、珍しいものが見れたと思いながらキッチンの冷蔵庫から適当に余り物を拝借し、その前に座る。

 

「よ、ドクター。今晩は1人か」

 

「アーミヤはもう寝る時間だからな」

 

「どんだけ頑張っていても少女である事に変わりはない、か。少女を連れまわしてお仕事ってのも大変だなドクター」

 

「お前がこれからテレジアを連れまわして仕事する事を考えるとそっちの方が大変そうだが」

 

「言った、言いやがったなこいつ」

 

「一番心を許しているのがGrim、お前だ。テレジアのメンタルケアと生活周りはお前以外には無理だろう」

 

「まあ、そうは思うけどさあ……」

 

 今夜の晩飯はシチュー。大人数相手に量を作るならこれほど楽なもんもない。これを作るにあたってライス派とパン派で分かれるところだが幸い、レム・ビリトンではヴィクトリアやカジミエーシュからパンが、炎国からは米が入ってくるからどっちにも不足する事はない。無論、前世が日本人である俺は断然パンよりもライス派だ。料理のクオリティはその日の担当によって変わるのだが、確か今日はLogosが担当だったか。

 

 アイツ、直ぐに何にでもアーツを使って実験しようとするから怖いんだよなぁ。まあ、今日のシチューは味が悪くないし暴発とかしなかったっぽいが。

 

「ドクター」

 

「ん?」

 

「カズデルの内戦、収まると思うか」

 

「無理だろうな」

 

 ドクターも正面でシチューを食べ進めつつ直ぐに返答を返した。その答えに感じたのはやはりか、という気持ちだった。ドクターは此方に視線を向ける事もなく食べながら話を続ける。

 

「テレジアの威光は、風格が強すぎる。アレはそれこそ歩いているだけで狂信者を生み出すだけのものを持ち得ている。戦場の報告は聞いていた。歩くだけでサルカズが平伏すほどの存在だ―――彼女がカズデルを離れようとすれば、逆に彼女を戻そうとする為だけにテレシス相手に戦いを挑むサルカズが増えるだろう」

 

「やっぱそうなるか……」

 

 スプーンを口に咥えながら唸る。テレジアがカズデルを離れる事で指揮が一本化され、テレシスが政権を掌握するだろう。そうすればカズデルでの内戦が終結する。テレジアを追いかけるサルカズがいなくなり、テレシスも無理にテレジアを追う必要がなくなる。そうなればバベルとしては色々と動きやすいだろう。だがテレジアを掲げて戦い続けるサルカズがいる限りバベルが戦場に引っ張り出されるだろう。無視すればそれはバベルの理念を曲げる事でもあるのだ。カズデルでの内戦が続く限り、バベルは次の問題への対処を行う事が出来ない。

 

「いっそ、斬首作戦に入ってテレシスの首を取りに行くのはどうだ」

 

「無論、それもアリと言えばアリだろう。だがテレシスは実際の所()()()()()()()()()()()()()()()からな。奴がカズデル外部で感染者を巻き込んで何かをしている、その情報が正しいならバベルにも斬首作戦を取るだけの大義が生まれる。だが現状、この内戦はテレシスとテレジアの政争だ。それ以上の意味はない」

 

 テレジアが求めているかどうかはまた別の話だ、と言外にドクターが告げてくる。解ってはいたが、サルカズという種は本当にどうしようもない。大半は盲目的に熱狂と狂奔に従う獣の様な連中だ。寧ろWやヘドリーの様に自分で自分の道を決める奴が少ない。だからこそテレジアはテレシスと対立してでも立つ必要があると思ったんだろう。

 

「……はあ、ままならないなぁ」

 

「頑張れ、Grim。それに気づいて一番心を傷つけるのはテレジアだ。彼女の心を癒せるのは幼い頃から対等に付き合い続けたお前だけだ」

 

「ドクターが人を励ますとは珍しい」

 

 勝利だけを求める機械へと変貌しつつあるドクターが、そうやって口に誰かを心配するような言葉を出すのは珍しく、それをケルシーや保管連中が聞けばもう少しドクターの評価も変わってくるんじゃないかと思った。だがドクターは頭を横に振る。

 

「求められるのは勝利だけだ。それだけがバベルを進める」

 

 食べ終わり、空になった食器をキッチンのシンクへと沈めるとドクターは去って行った。フードを被り直して去って行く背中姿を眺め、溜息を吐く。

 

「ドクターも、内戦の被害者か……」

 

 シチューを一人で黙々と食べ進めながら思う―――気に入らない、と。

 

 何もかもがあの政王テレシスの思惑通りに進んでいるような、奴が願ったような混沌と破壊の世の中が生み出されつつあるような、そんな気がしてならない。誰も彼もが力と暴力に酔っているようにさえ感じる。俺も俺で、この数年で人を殺すのが上手になってしまった。今ではどうすれば人間が効率的に死ぬのか、それを突き詰めているぐらいだ。

 

 カズデルの内戦は終わらせなくてはならない。

 

 だが果たして、それが望んだ形になるのかどうか、それが不明だ。

 

「ままならねぇなぁ」

 

 こんな事ばかり考えていた所でしょうがない。そう結論し、さっさと食べ終わって食器を片付けたらそろそろテレジアも自室に戻ってるだろうと思って自分の部屋に戻る事にする。

 

 夜になったバベルは昼間よりも静かで、そして人の気配がない。それこそホラーゲームの舞台にでもなりそうなぐらい静かで、少しだけの寂しさを感じてしまう。聞こえてくる音は遠くで誰かがアイランドの修復か改善作業を行っていてその音が反響しているものか、或いは廊下いっぱいに反響する自分の足音だ。その音に少しだけ寂しさを刺激されて歩く足が少しだけ早くなり、思ってたよりも早く自室前にまで戻ってきてしまう。

 

「Wの事だしどうせ人のベッドで眠ってるだろうな……」

 

 予想できる部屋の様子に苦笑しながら部屋の扉を開けてみれば、ベッドの上にWとテレジアの姿が転がっているのが見えた。自分に用意された部屋に戻らず人のベッドを占領するとは何事かと思ったが、テレジアの手の中にあるオブシディアンフェスティバルのパンフレットを見て頭を掻き、溜息を吐いた。

 

「終わったら、シエスタ行きたいよな……」

 

 その為にもこの内戦を、何とか終わらせないとならない。それこそのこの両手を血の匂いが落ちない程に真っ赤に染める事となっても。この純粋で大事な想いを、絶対に守らなくてはならないのだ。

 

「ふぁーあ……まあ、今夜はもう寝るか……」

 

 扉を閉めたら今日ばかりはちゃんと扉のロックをかけて、服を脱いで下着姿になったらそのままベッドにダイブする。

 

 そのまま3人一緒に、仲良くぐちゃぐちゃに並んで眠る。




Grim
 サルカズ♀。白髪青グラデの長髪という以外特にビジュアル設定はないけど中の人の好み的に巨乳。角の形とかあまり考えてないから皆好きなイメージを脳内に浮かべるのだ。広い範囲で色んな事に対する知識があるので色んな所からヘルプの声がかかるのである意味人気者。そういう意味では教育の大切さをこの時代において体現している珍しい人物。

Logos
 エリートオペレーター、基本的にロドス内部に引っ込んでてアーツや神秘、宗教関連のエリート。チェルノボーグ事変の時も引きこもってたので志望する事はなく残ってる。だがそれ以外に関する情報は不明。

アスカロン
 エリートでもないのに重役会議に顔を出してるオペレーター。それ以外情報がないので何もなんだこいつ。

Misery
 悲惨、悲痛、悲しみを意味する名前、おそらくエリートオペレーター。名前だけが存在し何をしているのか何を担当しているのかさえ不明。

Mantra
 名前だけが判明している恐らくエリートオペレーター。名前がマントラだから多分インド人。


 チェルノボーグ撤退戦でAceを含む複数のエリートが死亡してるけど、それ込みでも実は結構な数の名前のみ判明しているエリートだったり特殊なオペレーターがいたりするバベル/ロドス。本気で資料集が欲しくなってくる……。
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