『AceをB2へ、OutcastをB3へ。GrimはD7で待機、ScoutはF9で狙撃用意』
『了解』
『了解』
『配置オーケイ』
「ヤー」
『1分以内に終わらせる』
ドクターから淡々とした指示が飛んでくる。既に彼の脳内では戦闘終了までの絵が完成しているのだろう、指示に迷いというものを感じない。だからオペレーターに運の要素なんてものは求められず、やる事は淡々としている。ドクターの指示通りに従い、AceとOutcastが正面に出る。カズデル東部戦線、スラム外周はまだ廃墟の多い地区だ。故に傭兵サルカズ達の視線はAceとOutcastを捉え、廃墟を迂回し配置されるScoutを認知できず、廃墟の上に陣取る俺の姿を察知できない。
『Scout、20秒後に前に出ている術師を撃て。GrimはScoutの狙撃と同時に奥の術師を処理。処理後は前衛と挟み込む様に処理』
「ヤー」
地上では廃墟の合間をサルカズの戦士たちが走り抜けて行く。前に出るAceが片手に盾を、もう片手に小槌を握り接近する。下を流れるサルカズ達の数は合計で30を超えている。サルカズ術師の数も合計で5体、簡単に処理できる数ではないだろう―――これが普通であれば。残念ながらここにいるオペレーターは総じてまともな連中ではない。
Aceとサルカズ戦士が衝突し、Aceが攻撃を受け止めるが身じろぎすらせずに攻撃を完全停止させる。その上でバッシュをサルカズ戦士に叩きつけ、Aceを超える巨体を持ち上げながら前へと踏み込んで後続のサルカズ戦士へと向かって踏み込みながら、4体のサルカズ戦士の姿をそれで押し返す。その隙間にOutcastが射撃を正確に急所にのみ叩き込んで行き、Aceの横を抜けようとするサルカズを即死させる。死体によって壁を作る事で廃墟の合間の通路を制限し、Aceを倒さない限り押し通れない様にする。
その突破口を開くのが術師の役割だ。サルカズ特有の高いアーツ能力で戦士たちが突破できない所を突破する。だがその流れは基本の流れでもあり、ドクターからすれば欠伸が出る程解りやすい選択でもある。故に事前に指示された通りにScoutが狙撃の準備に入る。俺もそれに合わせ廃墟の柵を蹴る様に飛び越え、浮遊感の中ワイヤーを投擲して廃墟の窓や剥き出しの鉄パイプにひっかける。
空中の浮遊感を停滞へと変化させ、勢いをつけて空中で方向転換しながら廃墟の壁に到達、蹴る様に跳躍して加速する。回転しながらワイヤーを回収し、サルカズ達の頭上を越える様に飛び越える―――ワイヤーを飛び越えるアクションと共に振るい、引っかけながら開いている手でショットガンを引き抜く。
そうやってサルカズ術師たちの背面に到達しながら殺す準備を完了させる。
「奇襲―――」
言葉が終わる前に一番前に居たサルカズ術師の頭がScoutの狙撃によって消し飛ぶ。それに合わせてショットガンの引き金を引いて真正面で背中を見せている術師の背中をゼロ距離射撃で大穴を開けて消し飛ばす。一瞬で肉塊になったサルカズ達の姿に術師が即座に横へと回避の動きに入る。殺された時点で反応し、逃げる為、距離を作る為の反応をしていた。それは熟練の戦士である事の証明でもあり、サルカズの傭兵が常に控えている軍刀を抜く動作はアーツを捨てて此方の対処の為に接近戦に持ち込もうとする証明でもある。
だが彼らが何かを果たす前に、その体がバラバラになる。
「―――!?」
頭上を越えるのと同時に配置されたワイヤーに自分から勢いよく飛び込んだのだ、当然人体を切断できる鋭利なワイヤーに飛び込めば体が切れて死ぬ。自分の死因を理解する事もなく、油断なく視線を此方へと向けたまま術師達のバラバラ死体が出来上がる。それに構う事もなくワイヤーを正面、接近を拒む様に片手で振るって展開しつつライフルを取り出す。
Aceがサルカズ戦士たちを抑えている間に、OutcastとScoutと合わせ、三方向から制圧射撃を行う。AceもAceで処理できる数を超えそうになれば抑え込んだ相手の頭を小槌でカチ割って処理する事で新たに抱えられる敵を増やすという形で戦列を処理している。戦闘方法と戦術を最適化する事でサルカズの傭兵団がこれで丸1個全滅した。それによってテレシス側が雇える傭兵がまた減る。
「Grimクリア」
『Aceクリア』
『Scoutクリア』
『Outcastクリア』
『確認した。AceとScoutはそのまま中央へテレジア殿下のエスコートへ、OutcastはAceとScoutが確保した道のクリアリングと監視を、Grimは出口付近のカバーだ。PRTSとのリンクを切らずにリアルタイムでの情報を常に回せ』
「ヤー」
短くドクターの言葉に答えながら耳に装着したインカムから手を放し、すれ違う様にカズデルへと進んで行くAceとOutcastへ軽く手を上げてハイタッチを決める。Scoutの姿は見えないが恐らく廃墟に紛れて移動しているだろう。なら俺も役割を果たす為に行動を開始するべきだ。ライフルの残弾を確認し、再装填しながら背負いなおし、グローブからワイヤーを伸ばして廃墟にひっかけ、跳躍しながら壁を蹴り引っ張り上げて高く上る。一気に廃墟の上にまで移動した所で出口を確保する為に来た道を戻る様に移動する。
―――バベルに来てから更に数か月経過した。
更にオペレーターたちと交流を重ね、戦闘を行い、血を浴びて啜り、命を奪いながら更に強くなった。そして積み重ねてきたこの小さな作戦の数々はここで漸く、テレジアの移送という形で叶う形になった。これまではカズデルから出ることが出来ず、王宮からすら出る事の出来なかったテレジアは漸く外の世界、その広さを自分の肌で味わうことが出来る様になる。その為にも最高最善の状態をキープし、ドクターの指示のもと出撃する運びとなった。
全体の戦略としては実にシンプルだ。散発的にカズデル全体で戦闘を長期間にわたって繰り返す事でカズデル全体の警戒度を上げる。その上でルートを確定できない様に広い範囲で暴れ、散発的に襲撃の波を作り、最終的にその波を外して一気に電撃作戦によるルート確保と脱出を行うというものだ。簡単に言えばペースを切り替えて崩すという戦略であり、シンプルながら少数精鋭でやるとなると相当難しい話でもある。実際、バベルが出せる戦闘用オペレーターというのは多くない。
戦闘に特化したオペレーターはAce、Outcast、Misery、そして自分であるGrimだけだ。他のScoutやWhitesmith、Mechanist等のオペレーターは基本的に技術者か学者と兼任している―――それでもその実力が並のオペレーターを軽く凌駕しているという事実は、バベルが保有する人材の層がどれだけ極悪なのかを証明している。
そんな中、俺達の仕事は戦闘に置いて目撃者を出さない事―――つまり完全殲滅以外の選択肢がなかった。だから出撃し、敵と戦うたびに必ず全てを殺してから即座に撤退し、ゲリラ的に戦闘を行いながら摂政テレシスの戦力を削る。
それを繰り返してきて数か月、漸くこのテレジア救出作戦へと状況は移行した。
今、AceとScoutがテレジアをエスコートする為に王宮へと向かっている。Outcastは王宮周辺地域のルートの安全確保。俺は出口付近の安全確保。中部からスラムは隠れる場所が多いから、そこまで心配しなくても簡単に抜けられるようになっている。後はカズデルから離れた場所で待機しているヘリに乗り込んで全員レム・ビリトンまで帰還する。
それが今回のプランだ。問題となるのはどこまでテレシスがこっちの動きを読んでいて、どこまでテレジアの防備を固めているか、という話になる。此方が動かせる人員はバベルのオペレーターにサルカズ傭兵だ。その傭兵の数も多くはない。現状、技術力とオペレーターの質でテレシスには勝っているが、数では負けているのが事実だった。故にイニシアチブを奪えるとこでは確実に奪えるように動かなければ、確実に追い詰められるだろう。
そういう意味でもドクターの的確な指示は助かる。
思う所はあるものの、従ってさえいれば勝てるというのは実際悪くはないものだった。
だがそれは今回に限っては、ちょっと外れているのかもしれない。
「あー、Raidian。聞こえるかRaidian」
廃墟の上で足を止める。カズデルの外へと通じる廃墟の密集地、比較的に姿を隠しやすいエリア、廃墟の屋上の上からライフルを片手に、スコープを覗き込みながら出口付近を確認する。開いている片手でインカムを叩いてエリートオペレーターRaidian、通信に特化した特殊なアーツを駆使する彼女に通信を入れる様に合図を送る。
『はい、此方Raidianよ。どうしたのGrimちゃん?』
「ドクターと皆に通信を。動きがバレてるかも」
『ヤー。繋いだわ』
流石Raidian、通信を繋げるのが早い。彼女がいるおかげでどんな環境、どんな状況でも即座に通信を自由につなげることが出来る。これがあるおかげでバベルは他の戦闘部隊とは比べ物にならない素早い展開と連携が行える。
「5……15……23? 固めてきてるな……」
スコープを覗き込みながら数を数えるが、そこそこ名のある傭兵部隊が出口付近を固めようとしているのが見える。明らかに此方が抜けた後で埋めてきてる。つまり此方の動きが読まれているという事の証でもある。
『Grim、報告を』
「出口を傭兵部隊が固めてる」
『数と質』
「40を超えた。明らかに俺達が通った後を狙ってきてる形で。練度も悪くない。俺1人でこの数は流石に死ぬ」
『……』
いや、廃墟ビルを崩して倒壊させればそれを叩きつけて半分ぐらい削れるだろうし、その後に生まれた煙に紛れば全員殺せるか? まあ、リスクもあるしあんまりやりたくはない。俺の強みの大半は敵に認知できなくなるという点にある。これを捨てて普通に戦うとなると物凄い面倒な話になってくる。最低限誘導できる先として一緒に戦う味方が欲しい。そう言う意味じゃ重装オペレーターのAceとは戦術的に物凄い相性良いんだよなぁ。
『此方Outcast、こっちも王宮外にサルカズが増えつつあるわ』
『見つかる様なヘマはしてないぞ』
Scoutの言葉は信じられる。ScoutもAceもこの手のアクションに関してはプロフェッショナルだ。疑う事なく見つからずに、或いは見つかっても確実に始末してテレジアまで辿り着けるだろう。となると答えは1つしかない。
『漏れてる?』
『傭兵のどれかが裏切ったな』
バベルの人間にバベルを裏切るメリットなんてない。テレシスについた所で待っているのは闘争の日々と地獄だ。サルカズ以外の種族にそんなもんは到底受け入れられないだろう。となるとバベル外、この作戦の協力を頼んでいる傭兵のどれかが裏切ったのだろう……具体的な行動内容は伏せているが、陽動とルート確保のために別所での戦闘は頼んでいる。その中で情報を集めた奴が此方のルートを割り出したのもあり得るかもしれない。
『把握した。Raidian、今襲われている傭兵部隊をピックアップしろ。それが白だ』
『少し待ってて……オーケイ、音を拾ったわ。南部は全滅、西部も全滅ね。北部担当のヘドリー傭兵隊長の部隊が現在奮戦中、少しずつ追い詰められつつあるわ』
『北部か……Grim、出口確保の為にヘドリー傭兵部隊の支援へ。Outcastはゲストを連れ出し次第合流、エスコートチームで即座に北部へと突破して脱出しろ。誰がやったかは知らないが確実に対価を支払わせる』
「ヤー」
ライフルを背負いなおしながらワイヤーを飛ばして廃墟にひっかけ、勢いよく飛び降りながらスイングによって跳躍よりも早く、長く、加速するように建造物の合間を滑り飛んで―――跳躍する。そのまま廃墟の壁を足場に着地、壁を上がる事もなく、重力に従って落ちる事もなく、そのまま壁をもう一度蹴って別の廃墟の壁へと移動しながら走って跳躍、屋上の上へと昇って高度を稼ぎながらまたワイヤーアクションによる移動に入る。カズデルは広いが、地形を無視すれば移動なんてものは直ぐに終わってしまう。
前世の人間だった頃よりもサルカズの体は遥かに頑丈で、体力もある。男だった頃よりも女となった今の方が動けるというのだから世の中不思議だ。
ヘドリー傭兵部隊を目視すれば既に戦闘の詰めに入っているのが見えた。残されている傭兵達は僅かであり、別の傭兵達が囲む様に徐々に包囲を狭めて行くのが解る。ヘドリーと呼ばれるサルカズ傭兵の特徴はRaidianから既に教えられている。ポイント付近まで接近するのと同時にヘドリーの姿を探し、発見する。
「囲まれてるか」
廃墟の上から見下ろす様に確認する。既に追い詰められているようでヘドリー側は残り10人、相手側は囲んで包囲を狭めながら30人ほど見える。数は多いが、向こう側の傭兵部隊の数を念頭に入れると処理できない数ではないな、と判断する。
「此方Grim、ヘドリーを発見。これより支援行動に入る」
『了解』
両手を振るってワイヤーを伸ばしつつ眼下の光景に視線を向け―――見つける。
「お、お……?」
銀髪、傭兵姿のサルカズ女の姿を。前見た時よりも多少汚れているようにも見えるが、それでもあの角と髪は見間違えない。アレは間違いなく”銀髪”、いや、今はWの姿だ。久しぶりに見るその姿にまだカズデルを出て行ってなかったのかよ、と心の中で笑いながらも一瞬でテンションが上がるのを感じる。
一気に飛び降りる。ワイヤーを引っ掻けてスイングしながら、囲みに対して背後から水平にローリングするように一気に壁を蹴って加速する。瞬間的に残像だけを残して、捻りながらワイヤーを包囲網の一角にひっかけ、
そのまま抜けるのと同時に引き絞る。
残されたヘドリー隊の前に着地するのと同時に複数の首が一気に撥ね跳んで血が舞う。包囲網を破壊して空いた一角を埋めるように、直ぐに傭兵達が動く。反応が早い。良く訓練されている辺り良いサルカズ戦士なのだろう。だが視界外からの即死奇襲で包囲網が簡単に吹っ飛ぶのは物凄くプレッシャーが強い。
具体的な話、
「バベル、エリートオペレーターGrimだ。これより支援行動に入るぜ。ここを殲滅するぞヘドリー隊長」
「……! ありがたい、一気に押し返すぞ!」
ヘドリーが返答するのを聞く前に既に突入したのとは別の方角へと向かって一気に踏み込んだ。即座に横へと向かってハチェットを投擲して顔面を潰しつつ、それによって誘導された視線で一気に視界の認知外へと体を逃がす。そこから一気に接近しながら二挺のハンドガンを取り出し、ゼロ距離から首筋に銃口を当てて引き金を引く。これで3一気に殺した。殺したら殺したで即座に死体を壁に体を隠しながら一気に横へと流れる様に、自分が戦った場所から去る様に移動し、視界に映らない瞬間に近くの廃墟の壁を台に跳躍する。
三角跳びの要領でサルカズ達の頭上に跳躍して辿り着く頃には既に視界から消えているだろう―――そういう技術だし、体術だし、そう言う風に常に動き続けている。常に存在の意識をズレさせる事で正面に立っていたとしても
即座に離脱から即座に奇襲というループに入る。
「ばぁ」
「がっ」
「ごっ」
着地と同時にワイヤーを首にひっかけて引いて首を落とす。即座に死体を蹴り飛ばして他のサルカズへと叩きつけながら、蹴り飛ばしたサルカズを足場に跳躍し、廃墟の壁へと更に跳躍して移動する。そのまま体重を下に落とさず体を上へと引っかける様に壁を歩き、壁を足場に壁を歩く。
「―――総員、耐える事だけを考えろ! 攻撃は捨てて抑え込め! 攻撃はバベルの死神がやってくれる……!」
ヘドリーの判断が早い。ここまでくればどういう風に動けば良いのか理解したのだろう。生き残った少数のサルカズ傭兵達が軍刀を手に、陣を組ながら他のサルカズ傭兵達を相手に耐える戦い方を始める。それを見て即座に面倒な事になったと判断する傭兵達の動きに迷いが生まれ、
「じゃあな」
迷ったやつの背面に着地、ショットガンで心臓を吹っ飛ばす。逆の手でハンドガンを抜いて横の頭を打ち抜き、足元にいるサルカズの頭からハチェットを回収する。これでキルスコアがいくつだったか? まあ、考えるのは止めよう。どうせドクターと組んでいる限り目に見える敵は全滅させるまで終わらないんだろうし。
と、アーツが味方に当たる事を無視して薙ぎ払う様に放たれた。それを手身近なサルカズの姿を盾にして耐え、終わった瞬間に横から飛び出し、距離のあるサルカズ術師の頭をライフルで狙撃して吹っ飛ばす。その姿を見てついに傭兵が折れた。
「か、勝てない! 何だこいつは!? 何なんだこいつは!?」
戦意が折れた傭兵がヘドリーへの攻撃を止めて僅かに後退する。それを見ていた傭兵が舌打ちをする。
「チ……このまま戦っても押しきれないか撤退す―――」
「お前は逃げられないが」
撤退の判断を下そうとした傭兵の頭にハンドガンを向けて引き金を引く。射殺されたサルカズの死体がゆっくりと地面へと向かって倒れて行き―――動かなくなった。その景色を見ていたサルカズ達が完全に動きを停止させ、武器を落とした。
「解った、ここまでだ。降参する、だから命だけは助けて欲しい」
そう言って武器を下ろしたサルカズは静かに両手を頭の後ろへと回した。他のサルカズ達を見渡せば、敵対していた傭兵共はどうやら同じ様に降伏する事を選んだようだった。まあ、流石に全滅しそうになればこんなものか。ヘドリーへと視線を向ければ、ヘドリーが頷きを返した。
「ありがとうございます、Grim。この連中は……?」
「流石に無抵抗の奴を殺すのも寝覚めが悪いだろ。縛って転がしとけばいいよ。憎いってなら好きにすれば良い」
「いえ……生き死には傭兵の常ですから」
はーん、このヘドリーって傭兵、バベルからの依頼を受けられるだけあって滅茶苦茶まともな精神性してるんだな。傭兵連中ってもうちょっと擦れてるんだろうなあ、なんて思っていたからちょっとだけ驚いたわ。そう思っていると笑い声と共に後ろから衝撃を喰らって前につんのめった。
「あははは、”姉さん”そんなに強かったの? もっと早く教えてくれれば誘ったのに」
「俺はお前がまだカズデルから出てなかった事に驚きだよ”銀髪”」
何とか倒れるのを堪えながら振り返るとそこには傭兵としての衣装に身を包んだWの姿があった。今はもう使われない名前でお互いを呼び合い、旧知である事を確かめ合いながら笑い声を零して指を絡める様に手を合わせた。お互い、戦争に踏み込んで糧を得る身だ。まさかこうやって再び出会えるとは思いもしなかった。
「今はGrimだっけ」
「バベルのオペレーターでね。そっちが通り名になってる。Wって名前にはまだ飽きてないか?」
「漸く慣れてきたって所かしら? 名前のない身軽さも悪くはなかったわ。でも名前がある重みという奴も悪くはないわね。結局のところ、どっちでも良いけど便利な方が使いやすいって感じもするわ」
へぇ、とWの言葉に声を零す。どうやら先ほどまではピンチだったが、それ以外では存外楽しくやれているらしい。猫の様に気まぐれな癖にすり寄る時は一気にすり寄ってくるから、他に迷惑している奴がいなければいいんだけどなぁ、なんて考えていればRaidianから通信が入る。
『聞こえてるかしらGrim? エスコート対象がそっちへ着きそうよ』
「あぁ、悪いRaidian。こっちは制圧終わったよ」
『了解、脱出は問題なさそうね―――最初から何の問題もなかったかもしれないけど』
「ん? それはどういう意味だ?」
『直ぐ解るわよー』
そう言ってRaidianとの通信が切れた。サルカズ傭兵達が順調に拘束されて行く中で、首を傾げる。まあ、Ace達が順調ならそれはそれでいいんだ。問題はテレジアをバベルへと連れ帰ってから、テレシスを打倒する為に何をするべきか、という所なのだから。ま、それはそれだ。無事に合流できるならそれで良し。視線をWへと戻し、微笑む。
「それでお前、今まで何をしてたんだよ」
「私? 傭兵としてそこら辺をうろうろとよ」
WもWで傭兵としてそれなりに楽しくしていたそうで、その姿を見て安心した。このアマも傭兵としてやっていくのだろうか? 出来るならWにもバベルに参加して一緒に働いて貰えた方が個人的には安心できるんだが―――まあ、それを口に出すのは違うよなぁ、とは思う。だからお互いに近況を報告し合い、笑い合いながらこの付近を確保する。ここにいる傭兵団は始末したが、他にもやってくるかもしれないという懸念は常にある。
だが不思議とカズデルはこの時、静かだった。新たに敵が出現する事はなく、そして戦闘行動がまるで端から停止していく様な静けさだった。若干の不気味さを感じながらも視線は真っすぐ、静けさの主であるカズデル中央へと向けられた。Wとの談笑も少しずつ、静けさが全体を支配するにつれて少なくなって行き、最終的にはその場にいる誰もが来るべき人物へと視線を向けた。
そして静けさの中、まるでピクニックに出かける様な軽やかな足取りで彼女はやって来た。
威厳を示すよりは動きやすさを優先した重ね着のドレスを何時も通り、彼女は自分の好みで選んで来ていた。腹部から露出する原石は心臓を目指す様に体表を張って胸へと向かい、しかしそれを苦に思う事もなく背筋を伸ばして綺麗に歩いていた。その片手にはサルカズの戦士であればだれもが握る軍刀が握られていた―――今まで見てきたどれよりも美しく、芸術品とさえ評価できるであろう完成された一品、しかし実用の為に生み出されたそれは血に濡れる事もなく、使用される事もなくただ彼女の手の中に納まっていた。それはつまり、彼女が一度も刃を振るう必要がなかったという事だ。
特徴的な白に混じったグラデーションの色彩をした髪を風に揺らしながらAce達に護衛されるも、Ace達も新しく傷らしい傷を負っているようには見えない。それはまるでここに来るまで戦闘行動を行っていない様にさえ感じられるが―――その疑問は、即座に氷解する。
「おぉ、殿下……!」
「テレジア殿下……」
傭兵達が恐れ、敬う様に彼女に―――テレジアに頭を下げた。カズデル最後の王族、その姿を前に傭兵達は王族の血が持つ畏怖を感じ取っていた。或いは戦士だからこそはっきりと、存在の違いと格の違いを理解していたのかもしれない。誰も彼女の歩みを邪魔しようとは思わなかった。まるで外出するのが当然の様に、彼女の邪魔をしないのが当然の様に。
敵対するサルカズ達ですらテレジアの姿に言葉を失い、静かに敬意を表するように頭を下げた。そこに彼女を止めようとする意志も、害する意思もない。サルカズの王女を誰も止めることが出来ない。それだけは確かだった。
誰にも邪魔される事無く脱出ポイントまでエスコートされてきたテレジアは此方に気づくと、花を咲かせるような笑みを浮かべて小走りで近づいて来る。血で汚れてないか、髪型は大丈夫か軽くだけチェックしてから走り寄ってきたテレジアを迎えた。
「”あなた”! あ、いえ、Grimでしたね」
「呼びやすいようで良いよ、テレジア。それよりもAceやScoutがむさ苦しくなかった?」
「むさ苦しいおっさんで悪かったな」
「Aceと違ってこっちはちゃんと髭剃ってるからAceほどじゃないぞ」
「おい」
オペレーターのやり取りにテレジアは口元を隠す様に小さく笑うと、視線を横へ、傭兵隊長のヘドリーへと向けた。
「ここまでの戦闘、お疲れ様、そしてありがとうございましたヘドリー。失ったものは多いでしょう。その為にも一度バベルへお越しください。失った命を戻す事は出来ませんが装備や物資であれば報酬とは別に補充出来ましょう」
「ッ、殿下は私等の名前を……!」
ちゃんと、覚えている。テレジアは絶対に聞いて見た人の名前を忘れない。だから普通に覚えていた名前を口にしただけだ。だがそれでさえ自分が覚えられていると理解した傭兵―――命の価値が1枚のコインに劣りさえする彼らからすれば、感涙できる事だ。他の傭兵達も初めて見るテレジアの姿に、どこか感動しているように感じる。
彼女のこんな姿を見ていると、改めて王族なんだなぁ……というのを実感させられる。
「本当にサルカズの王族なの?」
「テレジア? そうだよ。唯一にして最後で……」
「最後で?」
「俺の幼馴染」
「そう言われると途端に王族の価値が安くなるわね」
「お、言ったな? 言ったな?」
Wの軽口に答えつつインカムに触れてRaidianとの通信を繋げる。どうやらバベルの方でも受け入れ態勢が整っているらしい。バベルから飛ばすヘリにはここにいる全員を余裕で受け入れるだけのスペースがあるし、問題はないだろう。
問題があるとすればそれはカズデルの方だ。
カズデルの方へと視線を向け、捕まっている傭兵達に視線を向け、もう一度カズデルを見る。
このサルカズの故郷は全ての感染者を受け入れるだろう。そして王族がここから消える今、その支配権は完全にテレシスが掌握するだろう。だが目の前の傭兵達、そして彼らの姿を見ているとどうしてもいやな予感を拭えなかった。それこそ、俺達が行っている事が平和に通じるのではなくさらなる激戦を生み出す事になりそうな……そんな気がする。
もう既にこの魔都は数多くの化け物を生み出している。
俺やドクター、一部のエリートオペレーターもこの都での戦いを通じてもっともっと殺す事に特化したような力を磨いている。だがそれですらまだ混沌の始まりですらない。どことなくそんな気配に身を震わせ、
視線をカズデルから外した。
今は一刻も早く、ここから去りたかった。
あれほど住みやすかったカズデルのスラムも今では、どことなく遠い異邦の地に感じられた。
ヘドリー傭兵部隊
原作だとここでほぼ壊滅してる。Wが所属している傭兵団であり隊長のヘドリーは一度テレジアと顔を合わせた事があるらしい。
イネス
ヘドリー傭兵部隊におけるネームド二人目。良くWと睨み合っているけどWはこの人の事がそこまで嫌いではなかった。
W
この時期はまだ傭兵衣装。テレジアに対する評価と視線も疑わしいもであり、後から発生するWのテレジアに対する態度の変化を見ると中々面白いものがある。プロフにはカズデル出身とか書かれているのにヴィクトリアのWと呼ばれたり今うちよくわからない人。超推してる。顔が良い。顔も良い。服も良い。6凸予定。1周年に向けてガチャ貯金してる。
感想での指摘があったので原作との矛盾点に関してこれまでの話をざっと加筆&修正。ちょっとした部分が変わってたりするので気になる人は戻って読んだりするとちょっと変わっているかも。