俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

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二十二話 著しい進行を引き延ばす行為は、注意対象になる

 

 

 電子レンジのタイマー音みたいな音が鳴った。

 

「着いた。いくよ」

 

「うん」

 

 準備の出来たデッキホルダーが閉まっていることを確認して、サレンさんに付いて出る。

 

 エレベーターから出た先はまっすぐに伸びる長い通路だった。

 

「最上階は社長専用のフロアみたい」

 

「贅沢だぁ」

 

 並んで進んでいく。

 通路の左右は透明な硝子になっていて、そこから街の様子が見えた。

 夜の都市明かりが見えて、綺羅綺羅とこんな状況じゃなかったらとても綺麗だった。

 けど今はそんな状況じゃない。

 むしろ都市の明かりが、少し見下ろせば人の住んでいる建物が見えるのにあんな酷いことが出来ることのほうが恐ろしいと思う。

 

 そんなことを思いながら歩いて、やがて大きなドアの前に着いた。

 

「開けるよ」

 

 サレンさんが手首からワイヤーを取り出して、ドア横のパネルに手を伸ばす。

 

『開いてますよ、どうぞ』

 

 聞き覚えのない声。

 空気が抜けるような音と共にドアが開いた。

 

 思わず無言でサレンさんと顔を見合わせる。

 

「罠、だよね」

 

「なら。踏み潰すまで」

 

「サレンさんの強さが証明されている……!」

 

 ベテランの傭兵さんなのに、これまで元気だという凄さが証明されてしまった。

 むしろ頼もしく感じる。

 

 二人揃ってドアの先に足を踏み入れる。

 

 室内は真っ暗で……奥にはなにか投影型のモニタがたくさん音を鳴らしている。

 その前に佇んでいるのはなにか高そうなスーツを着けた今にも出来るって感じの女性。

 

 間違いない、あれがメガバベルの!

 

「メガバベル日本支部社長。痛い目を見たくなければ今すぐ指示に従ったほうがいい」

 

「精霊狩り……まさかここまで愚かとは」

 

 ワイヤーを引き出して、見せつけるサレンさん。

 堂に入った脅しっぷりだ、かっこいい。

 さっきまでの直進っぷりを聞いてなかったらプロだと思う。

 

 

「――やはり傭兵というのは当てになりませんね」

 

 

 聞き覚えのない声が聞こえたと同時に視界が明るくなる。

 部屋の照明が付いた。

 

 それは広い、ただ広いだけの部屋だった。

 

 高そうな外国の彫像品、絵画、そんなのがあちこちに置かれていて。

 そんな真ん中にポツンと小さな机が目の前にある。

 スーツの女性の横、投影モニタがたくさん浮かんでいる机が。

 

「シャフルも対して役に立ちませんでしたし、名高き異端の教授(プロフェッサー)までも戻らぬとは……所詮、負け犬共の闇のファイターですか」

 

「シャフル? プロフェッサー?」

 

「プロフェッサー……有名な傭兵ファイター。戦った相手は誰一人生きて戻れず、失踪すると言われている。私でも出来れば戦うのは避けたい相手、けどシャフル?」

 

 サレンさんも知らないらしい。

 けどそれとプロフェッサーというのが戻ってないということは、なにかあったんだろうか。

 

「いずれにせよ、貴女を守るものはいない。早く装置を止めろ、さもないと」

 

 ワイヤーがキリリと音を立てる。

 それに社長さんが一歩後ろに下がって。

 

()()()

 

 と、叫んだ。

 え?

 

「下がっていなさい」

 

 先程まで聞こえていた声と共に机がぐるりと回転する。

 後ろ向きになった高そうな机に、背の高い椅子。

 

 そして、椅子に座ってるのが振り返って。

 

「ぇえ?!

 

「こど、も?」

 

 

 前に現れたのは少女だった。

 私たちよりも背が低い、どう考えても小学生ぐらいの子供。

 腰まで、いや、床にまで付くような長い黒髪を後ろに流しているお人形のように整った少女。

 

 

「私が、冥牙・バベルコーポレーション。日本支部の責任者です」

 

 

 そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「子供が社長さん!?」

 

「経営に必要な知識の継承、能力育成は完了しています。であれば稼働年月が長いものを設置するのが合理的です。なにか問題でも?」

 

 私たちの戸惑いに、淡々と。

 本当に淡々と機械のような返答を返す責任者と名乗る少女。

 

 その顔色も声音も何も揺らがない。そういう意味では子供らしくない。

 

「っ、ふぅ……子供でも関係ない、今すぐ地下の人たちを、非人道的な実験を停止して開放しなさい!」

 

「私に指示出来るのはメガバベル本社、総合CEOのみです。従う強制力は貴女がたにはありません」

 

「悪いことをしてるじゃない!」

 

「悪いこと? 一視点側からの善悪の主張は身勝手な糾弾です、考慮するに値しませんね」

 

 口元一つ歪めずに、フルフルと機械的に首を横に振る少女。

 なんだろう、この違和感。

 生意気というのも違う。

 人間性を感じないというか……

 

「地下で行われていることは明らかな非人道、違法行為だと思うけど」

 

「ふむ。それは道理ですね」

 

 えっ。

 それは認めるんだ?!

 

 

「貴女たちの不法侵入、破壊行為もまたこちらとしては違法。であれば相殺し、公平性を踏まえて――貴方たちの口封じをするのが合理的な判断と言えますね

 

 

 ドンドンと、分厚い。

 明らかにサイズがあっていない革靴の踵を鳴らす少女社長。

 

「ファイトを」

 

「すると思う?」

 

 そういってサレンさんが問答無用でワイヤーを――えっ。

 

「ええっ!?」

 

 が、そのワイヤーが、少女社長の目の前で弾き飛ばされる。

 なにかの壁に当たったような反応。

 

「当然、対策済みか」

 

「当たり前です。以前、侵入しファイトでの対戦を求めると見せかけて拳銃での暗殺を行うとした暗殺者がいました」

 

「そいつは?」

 

「当然。ペナルティとして下半身を粉砕、ファイトにて処分しました――拳銃如きで勝とうなどという非効率的に能わず矮小なファイターでした」

 

「えっ」

 

 なにそれ怖い。

 

「メガコーポ。三大企業である上位幹部に関しては最先端のテクノロジーが。方舟教会(アーク)導師(グル)なら実体カードの護衛がついている。真っ当な暴力手段じゃあ暗殺は困難――だからファイトが必要になる

 

「えっ」

 

 なにそれ怖い。

 

「さすが円卓に並ぶ最強の独立傭兵と名高い精霊狩り。そこまでわかっていて何故?」

 

「楽に終われるといいなって横着した」

 

「なるほど。非ハグルマ的な思考です、機械(きかい)があれば調整してあげたいところですが」

 

 コンコンと少女社長の踵が鳴り、床が明滅する。

 

 そして、さっきまで座っていた机が二つに割れ――割れて!? ええ!?

 そこから現れたのはぎっしりと詰め込まれたカードの束だった。

 

 

「”握るもの”、そして”輝けるスピリット”保持者。貴方たちはハグルマではなく”柱”へ設置です」

 

 

 そう告げながら少女社長の手が上がった。

 

 長い袖の右手の指を三本、前に伸ばして右に流れる。

 同じ三本の指を次は上に上げて、手を下へと下ろす。

 

 ”える”

 

 と、小さな口が動いたように見えた。

 

 そして、風が吹いた。

 

「風が吹いて……」

 

「来る!」

 

 密室の空間内にありえない強い風。

 渦巻いた風に煽られて、無数の……数十、数百、いやそれ以上の数え切れないカードが、まるで分厚い本のページのように舞う。

 気づく。

 飛び交うカードに触れた調度品がするりとすり抜ける。

 同時に部屋にあったはずの高価そうな美術品が、絵画が、溶けるように消えていく。

 残るのは部屋の隅でしゃがんでいる秘書らしい人だけ。

 

「立体映像?!」

 

「無駄は無駄。美などハグルマで無き者へのマナーですので魅せていただけ」

 

 割れた机と椅子以外なにもない。

 ただ広いだけの部屋とかした真ん中で、彼女は謳った。

 

「天は主のもの、地は這いつくばり、全ての人民は天高き主を支える手にして(あし)である」

 

 舞い上がるカードが一つ一つ見えてくる。

 それは裏面が普通のものと違っていた。

 大きく、分厚く、そして真っ白な石のような模様。

 

 ハードスリーブと呼ばれる普通は使われないカードを保護するための装飾が纏われている。

 

「積み上がれ」

 

 風が、その中心にて少女の周囲を渦巻いて。

 

「誇り建て」

 

 カードが積み重なる。

 無数に、螺旋を描くように。

 

「我が礎となれ」

 

 少女の手が、下から上へと舞い上がる。

 その手を被うように光が集まり、金属の篭手が。付け加えられるように巨大な、身の丈ほどのあるボードが。

 どれもがバチバチと紫電を発しながら形になっていく。

 

 そして、それが拳から伸びた杭をもって――ドゴンと音を立てて、床に打ち込まれた。

 

いと高き君(ベール)

 

 そして、風の終わりとともに積み上がったカードの束。

 

 それは少女の身の丈を明らかに越えていた。

 

「なに、これ」

 

 明らかにおかしい。

 こんなデッキ見たことがない。

 一枚一枚が分厚いカードだとしても明らかに40枚を超えている。

 二倍、三倍、いや……もっと!?

 

「タワーデッキだと!? 馬鹿な、そんなもの制御出来るわけが」

 

「訂正します。これはタワーではない」

 

 

天地貫く人柱(バベル)

 

 

「バベル……」

 

 その言葉に、何故か胸の奥が熱くなった。

 全身から汗が吹き出してくる。

 足が震えてくる。

 

 恐怖? いや、なんだろう、もっと違うような……

 

「ユウキ!」

 

「ッ、うん!」

 

 サレンさんが、ボードを構える。

 私も慌てて構えて、デッキを引き抜く。

 

 

「まずは私が「時間は有意義に、同時にかかってきなさい」なっ」

 

 光の線が、足元の床を走っていく。

 ジグザグの、きかがく? とかいうような光の模様が、私とサレンさんと少女の足元に広がって。

 

バニシングレギュレーション・強制起動(イグニッション)

 

 

「がっ!?」

 

「んぁ!?」

 

 身体が熱い。

 足元から光が吹き出す。

 まるで火を付けられたみたいに熱く、燃えたぎってくる。

 

 

「バニシングレギュレーションは――()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 少女が掲げた右手を、胸に当てる。

 ズルリとそこからなにか引き出される――まさかライフデッキ?!

 

「ぐ、ぎぃいいいい!」

 

 明らかに小さな手では収まらない40枚のライフデッキが、まるで一つの塊のように引き出されて。

 

1対2(ワン トゥ ツー)のため、古の盟約に従い私のライフデッキは40からスタート、します」

 

 金属音を奏でて左手のボードに装填される。

 まるで映画とかに出てくるマシンガンとかに装填する銃弾みたいに。

 あるいは大砲に装填する砲弾みたいに。

 

 パイル。杭で固定した意味がわかった。

 それはあまりにも大きすぎるから。

 倒れないために建てたのだと。

 

「ファイトを開始します」

 

 少女社長が宣言する。

 

「ファイトを始める!」

 

 サレンさんが宣言する。

 

「ファイトをするよ!」

 

 そして、私も宣言する。

 

 

 

 

「「「生命を燃やせ(イグニッション・ファイト)!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 私たちは闘争を始めた。

 

 文字通り、自分の生命を燃やす戦い。

 

 初めてのそれに――何故か、私は高揚感を隠しきれなかった。

 

 その高揚感は、悪夢のような強さの前にすぐに凍りつかされるのだとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 それでも私は――

 

 

 






 戦う意味を問うことなかれ

 嘆く意味を問うことなかれ

 意味を捨てることなかれ


                    ――生存競争
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