いずれ至る未成   作:てんぞー

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第拾玖話

 ―――提督たちが己の実力を示す方法はいくつかある。その多くが”戦果によって証明”という所に通じる。その中でも”指定海域の特定の深海棲艦を撃破”というのは海軍でも提督たちを試す為に使われる、最も多い手段だ。その為に日本海軍はわざと生き残らせるような間引きを行う。必要な深海棲艦以外を殺し、提督たちを試す時遭遇しやすいように事前に調整を行うのだ。故に今回の清十郎に与えられた実力を示すテスト、というのはそういう類のものだ。

 

 ヲ級二体から成る深海棲艦の艦隊を撃破せよ。

 

 それを完遂する事によって清十郎は軍部に対して自身と艦娘達の有能さを示し、この先の海域でヲ級等の空母型深海棲艦と戦闘を行おうとも、十分戦闘を行うだけの力がある事を証明できる。そしてこの先の海域における空母手の接触は絶対に存在するもの故、此処を突破できない提督にそもそも未来は存在しない。それを艦娘達は理解していている。が、それでも彼女達の行動は変わらない。

 

 イチヨン海域と提督たちに呼ばれている海域へと到着するのと同時に、”土佐”達から遊びの言葉が消える。普通の出撃であればまだ余裕の声があるものだが、ヲ級という新しい敵との戦いの前にその余裕を慢心や油断を排除する為に艦娘達は捨て去っていた。故にその動きは迅速だった。海域に到着するのと同時に、利根が偵察機を飛ばす。一つではなく複数だ。それを一斉に違う方向へと飛ばし、網の様に感覚を広げる。

 

 やがて、それは確実に破壊される。一つの方向から、一瞬で消える様に偵察機の感覚が利根から消える。そして偵察機を撃墜できる深海棲艦はイチヨン海域では限られている為―――必然的に、最も楽で早い方法でヲ級を含めた深海棲艦の艦隊を補足する事に成功する。

 

「二時方向偵察機破壊。深海棲艦確認、補足……ヲ級二、リ級ニ、ル級一、ヘ級五」

 

『ル級がいるか……厄介だが―――』

 

 イチヨン海域には本来、ル級は存在しない―――戦艦型の深海棲艦の存在は新任提督には重すぎるからだ。まだここへとやって来たばかりの提督では空母と戦艦という組み合わせを同時に相手にするのは難しい。故に本来なら間引きされている相手だ。

 

 が、問題はないな、と獰猛な笑みを清十郎は浮かべながら指示を飛ばす。

 

『総員戦闘態勢へ移行。土佐、貴様の砲撃でヲ級を一撃で仕留めろ。二射目もヲ級を狙え。夕立に時雨、貴様らは新たな力をル級を相手に試せ。木曾、利根、神通はリ級を優先的に狙え。ヘ級の数が多いが、火力は大したことは無い。最悪の場合は土佐を遮蔽物として利用しろ。ヘ級程度はビクともしないだろう』

 

「了解ッ!」

 

 インカムを通した清十郎の言葉が響くのと同時に陣形を組み、艦娘達が補足した敵の方向へと向かって加速する。遮蔽物の存在しない海の上で素早く動けば、あまりにもあっさりと他に海の上を行く姿を確認できる―――即ち深海棲艦も、艦娘も互いを確認する。利根は偵察機を通して、深海棲艦側は偵察機の破壊を通して互いの存在を確認している。艦娘だけではなく、深海棲艦側も既に陣形を整えて戦闘の意志を見せていた。

 

 二人のヲ級をヘ級の後ろに隠し、その前にリ級とル級が立つ。空母であり、そして高い攻撃能力を持つヲ級は艦載機を使った遠距離攻撃に秀でている。故に装甲の高い艦で守りを固め、艦載機の爆撃によって確実に仕留めに来る、そういう布陣で深海棲艦側が来ている。数が増えればある程度の陣形を組んでくるのはイチヨン海域から見られるものだ、という話を”土佐”は思い出す。ただ、それも意味ない事だと言葉を吐き出し、

 

 艦装を構える。ヲ級が艦載機を発艦させる。四メートルを超える巨大な艦装―――艦砲の砲塔がヲ級へと真直ぐ向けられる。その射線上にはヘ級が邪魔する様に存在している。が、”土佐”にはそんな事は関係ない。移動中の間に既に開幕で放つ為の砲弾を”土佐”は装填し終わっている。当たれば確実に命を吹き散らすと確信している”土佐”は目の前の戦場に興奮を覚え、それを理性で抑え込みながら笑みを浮かべる。それを理解してか、インカムから漏れる声は愉快そうなものであった。

 

『好きに吠えるが良い』

 

「ハ―――」

 

 艦載機が飛翔し、素早く向かってくる中でも”土佐”は微動だにせず、ヲ級をヘ級を貫通させるようなコースで狙い、

 

「―――土佐の体で散々試した味さ! お前らも死ぬほどに存分に味わって行け……!」

 

 そして放った。

 

 閃光と爆発を生じさせながら放たれた砲弾は一瞬で亜音速を突破し、砲弾をヘ級へと叩き込む。ヘ級は己の役割を理解している為に動かず防御しようとし―――砲弾がヘ級を貫通する。その体に頭がすっぽりはまりそうなほど巨大な穴を穿ち、”土佐”より放たれた砲弾―――九一式徹甲弾はその背後で守られていたヲ級の胴体を容赦なく真っ二つに引き裂く様に吹き飛ばした。一瞬で上半身と下半身が千切れとんだヲ級は理解できないような表情を浮かべたまま即死し、そのヲ級によって操作されていた艦載機が一瞬で鉄くずとなって海の中へと落ちて行く。内部機構を稼働させ、薬莢を排出しながら”土佐”が次弾の装填を始める。

 

「ヲ級一、ヘ級一轟沈確認―――さて、次、やりますかねぇ、はは」

 

 それを見た艦載機の動きが一斉に進路を変え、

 

「さて、と」

 

 ”土佐”へと向かう。だがそれは解りきった事だった。”土佐”という主戦力は深海棲艦側からすれば凶悪すぎる程の火力だった。故に真っ先に落とさなくてはならない。防御を、盾を用意しても突破してくる火力なんて相手をしない事が正解―――だがそれを選択できない以上、深海棲艦の選択肢は全力で”土佐”を沈める事。

 

 そしてそれをさせない為の準備があり、作戦も存在する。

 

「やっぱりコミュニケーションって大事だよね」

 

「だね!」

 

 夕立と時雨が艦載機へと向けて魚雷を放り投げながら弾丸のように前方へと飛び出す。その動きは真直ぐル級へと向かっている。駆逐艦の全速力は一瞬で艦載機の向こう側へと到達する動きではあるが、艦載機への干渉は何もない。魚雷を放り投げた程度。それだけ。そしてそれだけでは決して艦載機を止めるには至らないが、

 

「そこです」

 

 投げられ、艦載機集団の中央で落ちる様に短く滞空する魚雷三本、それらを神通が一瞬で撃ち抜く。一瞬で爆裂した魚雷は艦載機を空で焼き払い、そしてその大半を無力化する。残った一部がそのまま”土佐”へと爆撃を行う。が、身体に叩きつけてくる衝撃に対して”土佐”は体を僅かに揺らす事もなく、排熱と装填の作業をあっさりと続ける。

 

 その間に、利根と木曾はリ級へと接近し、夕立と時雨がル級の射程内に入っていた。互いに砲撃圏内に入った事で砲撃戦が開始する。深海棲艦側の目標は勿論”土佐”からになる。ル級も、リ級もヘ級も一斉に砲口を”土佐”へと向けようとし、失敗する。リ級は二体ともその砲口が”土佐”へと向けられた瞬間木曾と利根が邪魔をする様に砲撃を叩き込んでくる。それ故に照準がままならず、砲撃を断念。そしてル級は、

 

 紙一重で放り投げられてきた魚雷を回避する。

 

『夕立、時雨。貴様らになら出来る。詰めろ』

 

 ”土佐”がやってる事は凄まじくとも、その動き自体はセオリー道理だ。木曾も神通も利根も、その行動は支援であり、援護のものだ。”土佐”も主砲としての役割を正しく守っているだけに過ぎない。故にこの集団の中で一番の異端は間違いなく夕立、そして時雨の二人だった。改造という強さのステージを一つ上った事もあり、二人の性能は改造前よりも格段に上昇していた。だがそれが異端なのではなく、

 

 二人の駆逐艦は、砲撃戦という選択肢を最初から捨てていた。

 

 牽制と誘導の為だけの砲撃と魚雷の投擲。ル級に”土佐”を狙うことは不可能であると理解させるためだけの攻撃。次の瞬間に二人へと向けて砲撃を始めるル級の姿へと向けて二人は一切の反撃を行わず、ただ加速し続ける事と、接近し続ける事のみを答えとして選択した。砲撃を掻い潜り、煽る様に飛び越え、そしてル級に一瞬で接近する。それこそ雷撃戦距離よりも更に近い距離、

 

 直接格闘戦闘へと持ち込めるような距離へと。

 

「さあ、素敵なパーティーを始めましょ?」

 

「ま、一瞬で終わるんだろうけどね。僕達の相手をするには少々遅すぎるし」

 

 ル級が対応する様に巨大なアーマーの様な腕を振り回す。だが言葉のとおり、改造後の夕立と時雨にとってそれは遅すぎる動きだ。加速から完全停止、跳躍からの着地。夕立は馬鹿にする様な表情を浮かべながらル級の腕の上に着地し、そして単装砲の砲口をル級の顔面に付きつける。それと全く同じタイミングで時雨が彼女の持っている単装砲を背後から心臓があるであろう位置に付きつける。

 

「ル級一撃破」

 

 姉妹がハモる様に告げるのと同時に無慈悲な砲撃が放たれる。ル級の頭と胸を吹き飛び、一瞬で轟沈が確認される。燃料と混じった血が雨のように首のあった場所から降り注ぎ、それが一瞬だけ夕立と時雨の視界を塞ぎ―――その姿を吹き飛ばす。

 

「慢心しすぎです、……あとでお説教ですねこれは」

 

 それはヘ級による砲撃だった。中破とはいかぬも、一撃で小破させられた夕立は軽く歯を食いしばり、そしてダメージから復帰する。だがその瞬間には神通が凄まじい速度で前に出る。一瞬でヘ級へと接近するのと同時に神通がヘ級の頭を掴み、その姿を片手で投擲する。その先にはまた別のヘ級の存在がある。衝突する様に吹き飛ばされた二体のヘ級はもつれながら倒れ、

 

「纏めて!」

 

「いっちょ!」

 

「あがりってなぁ!!」

 

 木曾がリ級を、そして利根がもう一体のリ級を投げ込む。ヘ級が二体、そしてリ級が二体重なる様に集まる。そしてその集団へと向けて時雨が魚雷を五本、弾薬から生成したのを振り上げながら投擲する。それを避けられるはずもなく、深海棲艦の姿が一瞬で爆炎に包まれながらその肉体が四散する。

 

「リ級ニ、へ級ニ撃破かな」

 

 そしてそれを確認した瞬間、ヘ級もヲ級も背中を向けて逃亡を始める。

 

 ただ、それを許すはずもなく、

 

「ヲ級追加で」

 

 ”土佐”が無慈悲にも背後から一撃で吹き飛ばす。その体はヲ級の艦載機による攻撃で多少傷ついてはいるが、ヲ級の艦載機のほとんどは開幕の魚雷爆破によって処理されていたため、ヲ級には攻撃の為の艦載機がほとんど残っておらず―――”土佐”にはほとんどダメージを与えられていなかった。故に妨害なんて出来る訳もなく、ヲ級は完全に逃亡を開始できる前に沈んだ。

 

 明らかに蹂躙と言えるこの状況、

 

 これが、艦娘と深海棲艦の差だ。

 

 深海棲艦と艦娘を比べる際、彼女たちの間には大きな違いが存在する。艦娘も深海棲艦も、その”起源”は同じ存在だと憶測されている。だがそれでもこの二つはこの姿となって、それぞれが完全に違う存在となっている。艦娘は全てが人の言葉を喋り、自らを鍛え、そして成長しようとする。だが深海棲艦は成長や向上心と言った言葉とは無縁の存在だ。未だ言葉を語った存在は現れず、物量で押し潰し、一部の強化型を抜けば成長という概念を保有しない。

 

 故に艦娘との差は明白だ。

 

 艦娘達はお互いの長所と短所を理解しており、深海棲艦もその点では同様だ。しかし艦娘達は深海棲艦と違い、連携できる。陣形を組んでから物量一辺倒の深海棲艦とは違い、戦術的な動きや戦略的行動をとる事が可能となっている。物量で押しつぶす事がメインとなっている深海棲艦、彼女達と艦娘の数が同等、あるいはそれに近い数であったとすれば―――結果は見えている。

 

 即ち蹂躙。

 

 深海棲艦とはある意味”思考放棄”していると言っても良い存在であり、

 

 思考放棄している存在に沈められるほど艦娘達は甘くない。彼女達は可愛らしい外見をしていても、その本質は第二次世界大戦で激戦を潜り抜けてきた軍艦である事を忘れてはいけない。その本質は風雷鉄火の戦場を駆け抜け、敵を滅ぼす事にある。

 

 敵を殺し、蹂躙し、滅ぼすという事であれば人間以上に特異なように生み出された鋼の存在なのだ。

 

 故に数が増えた程度、陣形を組まれた程度で艦娘達を追いつめる事は不可能だ。特に清十郎の艦隊の様にしっかりと訓練を施し、相手を理解し、そしてそれに対する戦い方を常に考えている様な艦娘であればなおさら。この程度の深海棲艦では絶対に、清十郎の艦隊を落とす事は出来ない。

 

 それを理解した残りのヘ級二体が逃げる。

 

 だがその姿よりも早いのは駆逐艦である夕立と、時雨だ。改造を受けて更に速力を増した彼女たちはヘ級を逃すわけもなく、魚雷を片手にヘ級へと追いつこうとし、一気に加速し、

 

「じゃあね」

 

「もう二度と会うこともないけどね」

 

 魚雷が逃げるヘ級達へと突き刺さり、爆裂する。

 

 ここにイチヨン海域における最大の脅威の排除が確定され、

 

 清十郎とその艦娘達の実力が示された。

 

 ―――任務完了であった。




 完全に別ゲーである。

 清十郎さん、艦娘が優秀なのでほとんど指示を出さなくてお仕事して内容で若干辛いらしい。ちなみに今回、被害は以下の通り
”土佐”・夕立 小破
木曾・神通・利根・時雨 無傷

 ともあれ、今回で戦闘描写の慣らしはある程度出来たので、今度からもうチョイ本格的な戦闘描写書けそうな感じもしますな。

 それにしてもお前ら殺意の波動に目覚めすぎてない。
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