いずれ至る未成   作:てんぞー

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第拾漆話

 ―――数時間後、”土佐”は昼食を終えていた。清十郎に間宮アイスを奢ってもらう事までは承諾していたが、そのまま清十郎は鎮守府内の他の施設の紹介を行っていた。それをまるで書類仕事から逃げる様……だとは”土佐”も思ったところではあったが、だがしかしアイスを奢られた手前、”土佐”は黙って買収される事を選んだ。本来であれば演習場にでも顔を出して訓練でもすべきなのだろうが、そもそも”土佐”の艦装は工廠に預けている。それ故に演習場を利用したくても利用できない状況になっている。

 

 故に素直に”土佐”は休日の一日を楽しんだ。服装は戦闘衣装のままで、清十郎に導かれるままに鎮守府内を歩き回る。艦娘が利用する場所以外にも生活で利用する様な場所を清十郎は紹介して回った。たとえば人間や艦娘向けな売店。あるいはレストラン。入場者向けの案内所、司令本部。まだまだ横須賀鎮守府に対して知識が足りていない”土佐”の知識を埋めて行くように清十郎は鎮守府内を案内した。

 

 そうやって時間が経過すると時は昼ごろとなる。

 

 燃料さえ補給できれば艦娘は他の食事を必要としない。艦娘にとって食事とは”娯楽”に入る事なのだ。故に提督が艦娘の為に用意する燃料や間宮が融通するお菓子等とは別に、普通の食事を艦娘は取る事が出来る。だがそれは決して生きるためには必要ではない為、艦娘には支払いの義務が生じる―――そういう娯楽を味わう為の給料が、艦娘達には支払われている。当然、今の”土佐”にはそれはなく、また清十郎が払うような形となる。

 

 ここまで来ると、完全に神通の事など頭の中から抜けていた。

 

 清十郎の奢りに軽く甘えながら、そうやって半日を”土佐”と清十郎は過ごした。実に実りのある、楽しい数時間の午前だったと言える時間だった。出撃の合い間に存在する備えるための時間、休むための時間。それがこういうオフの日となる。十分な休息はこの時点で得られたと言えた。故に清十郎と”土佐”は昼食を満喫したところで遊び回るのを軽く切り上げ、

 

 そして工廠へと帰ってくる。

 

 工廠の存在する辺りには他の工廠も存在する為、意外と騒がしく賑わっている。それは妖精達や、それ以外の人間や艦娘が忙しく、楽しく働いているからだ。実際、工廠で働くような連中は妖精と付き合う必要が存在する為、比喩でもなんでもなく愉快な性格の者が集まりやすい。だからこそ、工廠周りは普段はにぎやかだ。

 

 その工廠が、まるで嘘のように静かだった。

 

 思わず清十郎でさえ二度見する程度には静かだった。普段は妖精の姿が確認できる工廠の入り口であっても、妖精の存在を確認する事が出来なかった。”土佐”が視線を清十郎へと向けると、清十郎が小さく頷く。嫌な気配を感じているのは”土佐”だけではなく、清十郎も同じであった。二人も嫌な予感を覚えているのであればそれはもはや確信に近いと、そう決定する。

 

 そこで、妖精がそろーり、と工廠から現れる。

 

「捕獲せよ」

 

「がおー」

 

「ぐわあー」

 

 清十郎が命令した瞬間には飛び出した”土佐”が妖精を捕獲していた。そのままサイドポニーの先で妖精を結び、縄のように吊り下げると捕獲した妖精を顔下まで持ち上げる。その姿に清十郎は意地悪な笑みを浮かべる。

 

「良いか―――三、二―――」

 

「ようせいさんでもまさかせつめいとばして、かうんとだうんからはいるとはおもわなかった。こんなみじかにここまでのぽてんしゃるのもちぬしがいたとはようせいさんもぬかったものです」

 

「零」

 

「ふー」

 

「きゃははははぁー」

 

 零になった瞬間”土佐”が息を拭いて妖精を大きく揺らす。吹かれた息に大きく揺れる妖精は楽しそうな悲鳴を上げながらゆらゆらと揺れ、揺れが収まった所で視線を”土佐”へと向ける。

 

「いぬとおよびください」

 

 妖精、完全敗北の瞬間であった。ある意味人間以上に刹那的な生き物が妖精だ。その瞬間の楽しい事の為であれば偶に物事を忘れてしまう、そういうおちゃめな側面すら持っている。それ故に今の妖精の頭の中からは後ろめたい何かに関してが完全にとんでいた。妖精の調教が完了したところで髪の縛りから解放した妖精を掌に乗せていると、今まで静かに休日を土佐の頭の上で過ごしていた妖精がぴくり、と動き始める。もそもそと動き、”土佐”の頭を軽く叩いて注意をひきつけると、

 

「これ、あれですな。けっこーやらかしたかんじですな」

 

「うぐぅ」

 

 調教された妖精がまるで矢が突き刺さったかのようなリアクションを取りながら手の中で倒れる。どういう事かと”土佐”が頭上へと視線を向けると、清十郎がそうか、と腕を組みながら答える。

 

「あまり報告を聞いた事はないが……建造失敗か?」

 

「んー、ちがいますなー。けんぞうはせいこうしてますな。これはみればわかるかんじですな」

 

 そう言うと妖精はぐだっと、再び”土佐”の頭の上で休む。妖精は妖精でどうやら十分に休日を満喫している様子らしい。実際、出撃した時についてくる”土佐”の妖精は”土佐”専用の観測手として活躍してくれている。だから妖精がつかれるってのは”土佐”も十分理解している事だ。故に休み始めた妖精をそこまで追い詰める事もなく、清十郎と並んで工廠の中へと入り、進んで行く。急激に工廠の中が騒がしくなってくるのは間違いなく妖精達が来訪を理解しているからだろう。忙しく走り回る姿を軽く想像し、それに苦笑をしているとあっさりと工廠の奥へと到着する。其処は清十郎共に建造を依頼した場所だった。

 

 妖精達はそこに、整列する様に並んでいた。部屋の奥にはカーテンが不自然に浮かんでおり、その背後に建造したばかりの艦娘が隠されているのは明白だった。建造失敗していない事は理解しているのだが、一体妖精達は何を焦っているのだろうか、と”土佐”は思ったところで、妖精を解放しつつ、

 

「きました」

 

「ぎゃあー」

 

 脅すようにがおー、とポーズをとると途端に妖精達が逃げ出す。良いリアクションをくれるので”土佐”はボケのし甲斐があると、軽く感心しつつ腕を組み、重い胸を持ち上げる様なポーズで静止し、そして視線を清十郎へ向ける。それを受けて己の出番であると理解した清十郎がさて、と軽く呟いた後で溜息を吐く。

 

「建造を頼んだ東郷清十郎だが……建造に成功しているのであれば是非とも俺の艦隊に加わるであろう艦娘達の姿を確認し、引き取りたい……どうだ?」

 

 その言葉に妖精達は一斉に動きを止め、そして互いの顔を見合わせる。とことこと走って一箇所に集まったそのままスクラムを組む様に妖精達は顔と頭を合わせ、”土佐”と清十郎には聞こえない様に会議らしき行動を始める。それを見て”土佐”と清十郎が視線を合わせ、首をかしげる。だが妖精達の意思疎通は一瞬で終わる。妖精の一人がカーテンの裏側へと走って行き、そのまま数秒が経過する。黙ってその光景を眺めていると、カーテンの向こう側から勢いよく一つの姿が現れる。

 

 それは長い赤髪の少女だった。濃紺の服に身を包み、頭に月の形を模ったアクセサリを付けている。髪も先の方で兎の形のアクセサリで止められている。その姿から即座に駆逐艦であると解る艦娘であった。飛び出すのと同時に軽いポーズの様な敬礼を決め、赤に近い琥珀色の瞳を”土佐”と清十郎へと向けてくる。

 

「やったぁ! でたっぴょん! 卯月でっす! うーちゃんって呼ばれてまっす!」

 

「あ”ぁ”?」

 

「……睦月型駆逐艦四番艦、卯月です。ご指導の程をよろしくお願いします先任殿!」

 

「うむ」

 

 ”土佐”が威圧する様に睨んだ次の瞬間には卯月が綺麗な敬礼で詰まる事もなく、見事に名乗りをあげた。清十郎はその”土佐”の威圧を見なかった事にすると処理して、卯月という新たな艦娘に対して軽い頷きを送る。卯月は珍しい艦娘だ。建造から出現する確率よりも艤装から転じるケースが多い程には、珍しい艦娘となっている。それに清十郎は思い出す。卯月という艦娘は非常に対空関係に優れている。改造前はそうではないが、清十郎の脳の中に叩き込まれている”全艦娘”のデータによれば卯月は改造後は対空関係の兵装を多く保有し、敵空母や軽空母に対して大きな戦力になり得る艦娘となる。

 

 今はまだヲ級すらほとんど出現しない海域を”土佐”達は進んでいる。だがイチヨン海域にはヲ級が出現し、それを抜けてニイイチ海域等へと進出すれば空母や軽空母の数は圧倒的に増える。それに対して対空戦力は必須となる。空母を用意するだけでは効率が悪いのだ。故にこれはピンポイントで欲しい所が来た、と言っても良い結果だった。その事実に卯月はこれからの海域でその能力を発揮してくれる事で証明してくれる筈だ。

 

 ともあれ、

 

「我が艦隊へ歓迎しよう卯月よ。貴様の活躍が我等の明日を作ると俺は心から信じている。故に遠慮なく艦隊の者達を家族と思い、過ごせ。我らは未だ未熟なれど先を見る故、貴様も未熟のまま甘んじる事は出来ぬと思え」

 

「あぁ、お前もすぐに強くなれる、悲観することは無いさ。共に深海棲艦を屠ろう。卯月」

 

「……どう考えても提督と先輩がラスボス宜しくの威圧感放ってるぴょん。本当に味方かどうか疑わしいぴょん。果たしてうーちゃんに未来はあるのだろうか」

 

 失礼な、等と言いながら清十郎と”土佐”は一度も妙な眼光を消す事無く、小さく笑いを浮かべている。それが何よりもプレッシャーとして卯月を殺しにかかっていた。その足元では”土佐”と清十郎の真似をする妖精の存在がいるが、どう見ても可愛らしい姿にしか見えず、二人から放たれるプレッシャーを和らげていた。

 

 ある程度清十郎と”土佐”が満足したところで、清十郎は妖精へと視線を向ける。

 

「で、もう一人は?」

 

「……」

 

 妖精が視線を逸らす。それに合わせる様に清十郎と”土佐”がまた妙な威圧感を放ち始める。それに軽く恐怖を感じた卯月は逃れる様にそろーりと移動を始めるが、その姿を”土佐”は見る事もなく片手で掴む。軽い悲鳴を上げる卯月の姿を無視し、清十郎と”土佐”が妖精へ視線を送っていると、妖精が降参したように溜息を吐き、そのままカーテンの向こう側へと消える。そこでカーテンの向こう側でもぞもぞ、と数秒音がし、カーテンが落ちる。

 

「あの……」

 

 そうして出現するのは頭に妖精を乗せた艦娘の姿だった。服装は基本的なセーラー服で、髪は黒。ただしその毛先は白く変色している。瞳の色は澄んだような赤色であり、艦装を装備していない彼女は少しだけ困ったような笑みを”土佐”と清十郎と、そして卯月を見ながら浮かべる。

 

「えっと……こんにちわあ。潜水母艦大鯨です。不束者ですが、よろしくお願いします」

 

 ぺこり、と頭を下げて大鯨が挨拶する。その姿を見て清十郎が完全に凍りつき、そして”土佐”も動きを止める。潜水母艦、と大鯨は己の艦種を名乗った。大鯨、そしてその艦種を聞いた清十郎は動きを止め、卯月は解らない様に首をかしげる。妖精はやっぱり、なんて言葉を吐きながら床に倒れる。

 

「……土佐よ」

 

「おう、何かな提督」

 

「……俺の記憶が正しければ潜水母艦という艦種は主に潜水艦の補給を前線で行うための艦だ。この事実に対して偽りはないよな?」

 

「うん、そうだな。基本的にそうだね」

 

「では土佐よ、次の質問だ―――我が艦隊に潜水艦はあったか?」

 

「俺の記憶が正しければスク水装備の艦娘は一人もいないね」

 

「だろうな……俺の記憶にもない」

 

「あっ」

 

 大鯨と卯月が清十郎と”土佐”の会話に意味を理解し、同時に黙る。ここで誰もが妖精達のやらかした事を理解した。潜水母艦とは前線で潜水艦に対して補給を行う艦である。そして潜水母艦である大鯨はそれを行う事が出来る。だがその運用はつまり潜水艦の保有と、そしてその運用を前提とした事だ。つまり、現在潜水艦の艦娘を一人も保有していない清十郎にとっては、

 

 大鯨は飾りか置物にしかならない。

 

「ち、ちょうれあかんむすですから」

 

 声を震わせながら言った妖精を”土佐”は回収し、そして顔の高さまで持ってくる。

 

「俳句を読め。介錯してくれよう」

 

「じこったけどたのしかった。はんせーはしねぇですわー」

 

 その妖精を”土佐”は片手で掴む、と全力で腕をまわし始める。全力で楽しそうな悲鳴が妖精から聞こえてくる辺り、反省どころかご褒美になっている様な状況になってしまったが、最終的に妖精が手からすっぽ抜け、窓の外へ飛んで行くので誰もが楽しそうな悲鳴を忘れる。

 

 そして、

 

「事故であるなら仕方がないなぁ!! であるなら運用できるようにするまでよ! 男であれば前進あるのみ! 保有数の増加を受けて我が艦隊の保有できる艦娘は全部で十五人! つまり後七回は建造ができるという事だ! オーダー! オーダー! 最大建造だ……!」

 

「やだ提督素敵」

 

「申し訳ない気持ちとどうしたらいいか解らなくてなんか複雑です……」

 

「うーちゃんは今すぐ人事部に連絡いれたいっす。ここ絶対ヤバイって」

 

 悲鳴と、楽しそうな声と、そして困惑の声を響かせながら工廠は一気に騒がしくなった。再び妖精は建造の為に動きだし、そして働き出す。

 

 そうやって横須賀の一日は進んで行く。




 うーちゃんハード。特に意味もない提督と”土佐”の眼光がうーちゃんを襲う。たぶんエリやフラ級の如く目が光ってたと思う。

 おそらく被害担当艦。うーちゃんは見てると無性に腹パンしたくなるからしょうがないね。そんなわけで大鯨と卯月、それ以外にも潜水艦狙って艦娘がトータルで9人ほど追加です。一気にキャラが増えるけど、全員同時に描写するわけでもないので特に問題はない。

 ちなみにツイッターを見てた読者さんは今頃レイプ目なんだろうか。
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