アメンヘテプ・フイ墓( TT40) Amenhotep-Huy

 ツタンカーメンの時代の「クシュの王子」(ヌビアの総督),アメンヘテプ・フイの墓。
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 5,6年前から一般公開されています。1828年以前に発見され,シャンポリオンも訪れたことがあるそうです。墓室は長い間厩舎としてされていました。ヌビア人の朝貢の様子やツタンカーメン王の姿が描かれている興味深い墓です。
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 前室と後室の二室から成り,壁画のあるのは前室です。 当時,ヌビア属州はナパタ周辺(現在のスーダン)にまで及び,テーベ南方のヒエラコンポリスから第二急端に至るワワトの国(下ヌビア)とそこから南のクシュの国(上ヌビア)の二つの地域に分かれていました。またこの時期,ヌビアはエジプトの連合国であり,アフリカの産物を輸送する道筋であったため,太守は非常に重要な役割をおびていました。「あらゆる異国における君主の使者」の称号を与えられてヌビアに派遣されたフィは,積極的に租稅の徴収,鉱山開発,南方視察などの職務を遂行したのでしょう。 
 有名な「ヌビア朝貢使節の図」は,彼の偉業を示しており,ツタンカーメンに挨拶を送るヌビアの首長たちや山と積まれた供物,奉納される動物の中には,キリンの姿も描かれています。また,ここに描かれているヌビア人の容貌は巧みにとらえられており,アマルナ様式の自然主義の影響を受けていることがわかります。

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 ポストアマルナの古典復帰を反映して,逆T字型をしています。横方向の部屋と交差する縦方向の部屋がありますが,装飾はありません。現在は上部の破壊された像が置かれています。図像にも,アマルナ様式の名残を感じさせるものがあります。
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 入口の装飾は,残念ながら残っていません。横方向の部屋,入って左側には天井崩落防止の支柱があり,何とも言えず痛々しい感じがします。
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 ヌビア総督に任命されるフイ。東壁の北端には,蓮の形の柱で支えられた天蓋の下の台座に置かれた玉座に座り,青い王冠を着けたツタンカーメンが見えます。残念ながらカルトゥーシュは削り取られています。
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 上段には王の名において,財務長官によって正式に彼の地位に任命されたフイ。その傍らには扇が見えます。下段は大宰相が何かを与えた後,フイに話しかけ,金の印章を渡します。
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 式典の後,フイは腕を花束でいっぱいにして宮殿を去ります。フイの後には,式典に出席した2人の息子が続きます。
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 上段ではヌビア総督の部下が新しいリーダーを歓迎,中段ではカルナクのアメン神殿に向かう行列が書かれ,下段の神殿への供物の図像はほぼ完全に破壊されています。入り口近くの右端にはカルナク神殿の神々に感謝を捧げる表現があるそうです。
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 入って左手前の壁にはヌビアに赴くフイの様子が描かれています。壁画は3つの場面に分かれています。テーベを出発するフイ,朝貢の品の検査を監督するフイ,そして船の検査をするフイ。
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 フイは,片手に杖,もう片方の手には花束を持って,アメン神殿を出発します。フイの後には,家族が続きます。一番上の図像では息子である4人がかろうじて見えます。中段には母や妻など5人の女性がいます。下段の壁画は失われています。
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 上段の船の天蓋のある船室にフイが乗っています。乗組員たちは長い棒で川底を調べ,漕いでいます。下段の船は上段と同じですが,乗組員はおらず,フイの馬だけが乗っています。 船の下にはヌビアの役人と船員,歓迎する人々が描かれています。
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 船の右側には,食料と砂金の袋を持って,新しい上司に挨拶する地元の高官たちが描かれています。
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 貢ぎ物の検査をするフイ。杖とセケム笏を持ち,シンプルな椅子に座っています。最も重要な貢ぎ物である金,その象形文字ネブウは何度も繰り返されます。
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 豹や牛の毛皮は,ヌビアが金以外の富も持っていることを表しています。積み上げられた金,そして赤いカーネリアンと緑の鉱石が描かれています。
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 起立したフイは,テーベに向けて出航する船へのヌビア人の品物の積み込みを監督していると想定されています。
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 左奥側の壁には,フイがヌビアの朝貢の到着をツタンカーメンに報告する場面です。アジアの朝貢は同じ奥側の壁の北側にあります。 2つの朝貢の場面は,より自然光が差し込む西壁に配置されているため,墓に入ると最初に見られ,故人にとっての重要性が強調されています。
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 左端にヌビアからの6艘の船団が描かれていますが,下の方は破壊されています。上から2艘目はダチョウの羽を付けたヌビア人の捕虜がキャビンの屋根に座っています。3艘目,5艘目には牛が載せられ,4艘目の船には赤い首輪をつけた犬がいます。
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 次の図像はヌビア3地域の首長と家来たちです。彼らは大きな扇を抱えているフイに迎えられます。これらの要人は,アフリカ人の特徴を持ち,耳のリングや頭にダチョウの羽を付け,赤い帯と背中に豹の皮が付いた服を着ています。
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 上段はワワトの首長が率いる代表団です。首長の後ろには,エジプト風の優雅な服を着たヌビアの王女がいますが,破損しています。 その後には,4人の男と2人の子どもが続き,金を捧げ,動物の皮とキリンの尻尾を腕に乗せた2人の男が戦車の横に立っています。
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 戦車は角のない2頭の牛に引かれます。傘のついた戦車にはヌビアの王女が乗っています。次にカラフルな腰巻を身につけ,手を縛られ,首をロープに繋がれた5人のヌビア人捕虜。最後に右手に子どもを抱き,背中のかごに子どもを入れた2人の女が描かれています。
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 2段目はクシュの首長です。首長の前に金,カーネリアン,ヘマタイト,またはレッドジャスパーといった貢ぎ物が積み上げられています。家来たちは金以外にも,動物の皮や生きたキリンを連れています。最後に装飾された角を持つ太った牛が続きます。
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 3段目はクシュの南の首長。2段目と同じく,供物の前に跪いて,挨拶しています。
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 貢ぎ物。金以外には,椅子や枕などの家具,弓,矢,盾,戦車と言った武器。象牙と黒檀など。
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 フイが片膝をついて王に贈っているのは「金細工の庭」と呼ばれる飾りです。ドームヤシの木,キリン,縛られたヌビア人,豹の皮の飾り,牛革のかごなど,ヌビアの特徴をとらえたものです。痛みが激しいので,復元図を見ないといたずら書きのように見えてしまいます。
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 ファラオによる貢ぎ物の受け入れ。非常に損傷したこの場面では,北東の壁と同じくツタンカーメンが天蓋の下に座っています。フイは王の前に立っており,左手にヘカを持ち,「王の右の扇持ち」であるため,右手には扇を持っています。
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 最下段。場面の大部分が失われていますが,フイの親戚や友人たちがお祝いのためにフイの家を訪れている様子のようです。
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 ツタンカーメンのカルトゥーシュが消されずに残っている箇所があります。
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 右奥側の壁には,ツタンカーメンへのアジアの朝貢の場面とオシリスを崇拝するフイが描かれています。損傷が激しいのが残念です。
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 天蓋の下のツタンカーメン。
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 貢ぎ物を捧げ持つフイ。ラピスラズリ? フイの後ろのヤギまたはアイベックスの頭を模したアンフォラがアジアチックです。
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 フイがオシリスを礼拝している場面ですが,アテフ冠をかぶったオシリスの顔と,フイの頭頂部だけが残っています。祈願文は完全に残っており,フイのオシリスへの崇拝が書かれているようです。
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 左右の奥壁には墓らしく,宗教的な図像が描かれています。左奥の壁。中央に描かれたステラを中心にほぼ左右対称。上段には右にオシリス,左にアヌビスに対し,供物を捧げるフイ。中段には様々な供物の前に座るフイ,下段にはパンの前に座るフイが描かれています。
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 右奥の壁。左より大きなステラを中心に,8つの場面が描かれています。また下部には壁龕またはトンネルが掘られていますが,すぐ放棄されたようです。それぞれの場面は,豹の皮を身に着けた神官がフイの前で行った儀式を示しています。
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 1カーを与えられるフイ。
 2化粧品と保護を与えられるフイ。
  3神の軟膏を与えられるフイ。
 4器に入った水で浄化されるフイ。
 5白い服を着るフイ。
 6供物(果物?),
 7パンとビール,
 8衣類を与えられるフイ。


 4本柱の奥室への入り口左には,オシリスとプタハにフイが祈りを捧げている場面があるようですが,損傷が激しくよく見えません。奥室には装飾はなく,中央に黒い花崗岩の彫像が置かれています。
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 天井は美しく,非常によく保存されています。それらはヒエログリフの祈願文が書かれた,木を模した黄色い帯で仕切られています。この帯は,天井をさまざまなパターンで描かれた部分に分割しています。
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 中央の天井には,フイの名前や職名が飾りの一部のように書かれています。
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 山登りを禁じられたルクソールにあって,正々堂々と丘の中腹に登ることができるので,眺望も楽しむことができます。なにより,ツタンカーメンに会える墓,です。
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