Wikipediaで335言語版にまたがり作成されていた記事はWikipedia史上最大の自己宣伝だった可能性が大
オンライン百科事典・Wikipediaには2025年8月時点で英語、日本語をはじめとして343のアクティブな言語版があります。多くの言語にわたって作成されている記事は国家についてのものが中心で、たとえば「日本」は324言語、「アメリカ合衆国」は327言語、「トルコ」は332言語で記事になっています。それらを上回る、335言語で作成された記事がかつて存在したのですが、なんと記事の大半を1人のユーザーが行っていたという、「Wikipedia史上最大規模の自己宣伝活動だった」可能性が指摘されています。
https://signpost.news/2025-08-09/Disinformation_report
Dedicated volunteer exposes “single largest self-promotion operation in Wikipedia’s history” - Ars Technica
https://arstechnica.com/culture/2025/08/why-was-the-most-translated-wikipedia-article-in-the-world-about-a-lover-of-aryan-culture/
問題の記事は、有名とはいえないアーティスト「デビッド・ウッダード(David Woodard)」という人物に関するものです。記事作成時点では英語版、日本語版、中国語版など19言語の記事が存在します。
デビッド・ウッダード - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%93%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%83%83%E3%83%80%E3%83%BC%E3%83%89
しかし、2025年6月26日時点ではさまざまな国や「Wikipedia」よりも多い335言語で記事が存在し、「最も多くの言語版があるWikipediaの記事」となっていました。
Wikipedia:Wikipedia articles written in the greatest number of languages - Wikipedia
https://en.wikipedia.org/w/index.php?title=Wikipedia:Wikipedia_articles_written_in_the_greatest_number_of_languages&direction=next&oldid=1297456451
WikipediaユーザーのGrnrchst氏はこの不思議な記事に興味を持って調査を行い、その結果をWikipediaのオンライン新聞・The Signpostで報告しました。
ウッダード氏に関する記事が最初に登場したのはドイツ語版だったようで、その後、2014年3月6日に英語版の記事が誕生しました。3月14日にはBarunHというユーザーにより、写真も追加されました。BarunHによれば、写真は2013年10月にシアトルで撮影したものだとのこと。なお、他人が撮影したものにしては不自然だという指摘があり、BarunHはのちにアカウントがブロックされています。
File:David Woodard (Seattle, 2013).jpg - Wikimedia Commons
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:David_Woodard_(Seattle,_2013).jpg
2015年にはSwmmngというアカウントが、ウッダード氏の記事や、ウッダード氏の義理の両親を含むチェコの芸術家に関する記事を更新しています。チェコの美術に関する記事については「いい仕事をしていた」とGrnrchst氏は評しています。
こうして、ウッダード氏に関連する記事が増加するとともに、多言語展開がスタート。2017年から2019年のあいだに、Swmmngはウッダード氏に関する記事を少なくとも92言語で作成しました。当初はヨーロッパの言語から記事が作られていましたが、人工言語の記事も作られていたとのこと。
記事は基本的に、もとになった長編記事をほぼそのまま翻訳したもので、Grnrchst氏は「(記事執筆者が)人類史上最も先進的な多言語話者であることを暗示しているか、機械翻訳にスパムを送りつけていたかのどちらか」で「後者の可能性が高い」と述べています。
Swmmngは2019年3月で活動を停止し、ウッダード氏に関する記事作成活動全体もおとなしくなっていましたが、2021年になると世界中のIPアドレスからウッダード氏の記事を作る動きが再発生。Grnrchst氏によると、2021年12月から2025年6月までに、183件の記事が別々のアカウントから作成されたとのこと。それぞれのアカウントはかなり一般的な名前を用い、ウッダード氏とは無関係な記事に対して数十回の小規模編集を行ったのち、ウッダード氏の記事を作ったあと、再び小規模編集を行って消えていったとのこと。
Grnrchst氏はこれらの動きを「ウッダード氏に関する記事をできるだけ多く作成し、活動履歴を隠しながら、ウッダード氏の記事と写真を拡散しようとしたもの」と述べて、「10年以上にわたり、200ものアカウントと世界中のプロキシIPアドレスを用いて行われた、Wikipedia史上最大の自己宣伝活動だったと思われる」と結論付けました。
なお、Grnrchst氏による報告を受けて、Wikipediaのスチュワードはユーザーや管理者のほとんどいない言語版からウッダード氏に関する235件の記事を削除。また、ユーザーが一定数いる言語版ではコミュニティの決定により80件の記事が削除されたほか、多数のアカウントがブロックされました。
ちなみに、ウッダード氏は公式サイトを持っていますが、パスワードで保護された招待制サイトのため、ニュースサイト・Ars Technicaは本人と連絡を取ることができなかったと報告しています。