海へと沈んで行く深海棲艦の姿を確認しながらも”土佐”が艦装を振るい、その砲口から漏れる煙をかき消す。
”土佐”、そしてその周囲で艦装を広げる艦娘達の前には浮かんだり、そして海の底へと向かって沈んで行く深海棲艦の姿があった。”土佐”が戦線に参加する事で明らかに効率は変わっていた。今までは軽巡、重巡の木曾や神通、そして利根をベースとし、雷撃に入りこんだ瞬間夕立と時雨で片づけるという戦術しか取れなかった。だが”土佐”の加入はその戦術を根本から変える事が出来た。”土佐”が本来の戦艦級艦娘よりも遥かに不便なのは確かな点だが、同時に本来の砲撃よりも遠距離から撃てるというのはかなりのアドバンテージになる。何よりも確殺の砲撃ができる、というプレッシャーだけでかなりの貢献になっている。
故に”土佐”が加入した事でローテーションが加速する。
先制砲撃で牽制撃墜し、装填中に接近してくる相手に対して木曾や神通が足止め用の砲撃を放つ。動きが遅くなった艦に利根が追撃し、そして装填の終わった”土佐”がプレッシャーを与えつつ砲撃を放つ。敵が接近してきた場合は護衛として傍にいる夕立と時雨がすれ違いざまに魚雷を叩き込む。高い火力を中核に置いて基本的な編成ではあるが、それでも確実に敵を殺せる火力を保有している、というのはたとえ遅い攻撃であったとしても使い方を間違える事が無ければ凶悪な武器となる。
そして指揮官である提督・東郷清十郎はそれを理解する人間である。軍事に関する事を高いレベルで教育機関で学び、成績としても最上の結果を出している。今の世界には、提督には慢心も油断する時間も環境も欠片も存在しない。清十郎もそういう提督の一人だ。油断も慢心もせず、日夜己を磨く事を忘れない。剣を握り、銃を握る事ではなく知恵を磨き、それを持って艦娘を動かす事こそが己の本分であり領分であると理解している。故に元から想定していた通りの連携を多少アレンジし、清十郎は己の艦隊の艦娘達に命令を出した。
深海棲艦の殲滅を。
その結果は劇的なものとして現れていた。
◆
「―――ま、こんなもんだろ」
そう言って艦装を背後に折りたたむ様に収納する”土佐”は周りに浮かぶ十数の深海棲艦の姿を眺める。それらは全て一回の交戦で沈めた深海棲艦の姿に他ならない。話としては簡単だ。数が増えれば密集する。であればその中心の水面へと向かって砲弾を叩き込めばそこで爆発し、周りの存在を巻きこむ。
「ナパーム弾にロケット弾、そして九十一式徹甲弾も使用可能。ほんとスロット装備できない事が悔やまれるな」
木曾のその言葉に対して”土佐”は同意する様に頷く。
「まあ、そこは改修で俺にも艦装か枠が増えるのを祈るしかないな……割と結構血祭りに上げてきたつもりだけどそれでも改修の為には練度が足りないとか言われちまったからなあ、俺」
明石はこの砲の事を産廃と呼んでいる意味を”土佐”は正しく理解している。これが”人間用”の兵器として生まれたからそういう評価を得ているのだ。そして同時に艦娘向けの兵器として見る場合、弾薬と速射性の観点からして戦艦級艦娘の艦装に劣ると判断されているのだ。故に与えられた評価が産廃。普通に主砲を艦装に装着して使った方が遥かに効率的であり、安定する。
だからといって決して使えない訳ではない。寧ろ派手に動き回って射撃する軽巡や重巡、駆逐艦のスタイルは”土佐”にとっては辛い方だった。静かに接近して一気に叩き潰すか、もしくは動かずに大火力を相手に叩きつけるか、それが”土佐”のスタイルと性格と非常に合致していた。何よりもその為の強固な装甲とも理解している。故に木曾の言葉は”土佐”に重く響く。ナパーム弾も、徹甲弾も炸裂弾も、様々な特殊弾はどれも工廠で開発されているものであると明石は前、”土佐”に言っていた。そういう特殊弾を装備できる艦娘は少ないが、”土佐”は己がそれを装備できることを検査中に確認している。
もしそれを艦装として装備する事ができれば、戦術の幅は今以上に広がるであろうし、戦力としても大幅な強化である事に間違いはない。それ故に”土佐”は己の未熟が少し、恥ずかしいと思っている。同じ戦艦でもここまで装備に不自由しているのは己位であろうと理解している。また別の戦艦であればもっと拡張枠を保有していたに違いない。
ただ、
―――あんましぐだぐだするのは土佐さんを苛めるだけだし駄目だな。
そういう考えが”土佐”にはあった。土佐の声は鎮守府へと到着してからはめっきりと聞こえなくなった。まだ聞こえはするが、それでも大幅に減っている。だからといって忘れる”土佐”ではない。土佐は常にあると、それを”土佐”は理解している。だから己の体の機能を少し残念に思う事があっても、それで後悔する様な事は絶対にしない。それは”土佐”ではなく土佐を貶める事になるのだから。それは”土佐”のプライドが許さなかった。”土佐”は己の事を土佐の守護者的存在として認識している故に、土佐に対するそういう事は敏感だった。
だから土佐の体は大事にする。”土佐”の感性からして女装はありえないだろうが、身体は土佐のものだ。土佐が着飾るのはきっと可愛い事だろうし、それは土佐が喜ぶことでもあると”土佐”は思っているから、自分の意見は我慢してやる。主体性が無いと言われればそこまでの話ではあるが、それでも”土佐”は自分の今のふわっとした立場が結構気にいっていた。
「ま、明石さんが息を荒げながら砲弾とかを用意してくれるって言ってたししばらくは問題はないと思うんだけどな。―――俺がお給料もらえたら真っ先に明石さんに弾薬関係でお金払わなきゃいけないと思うけど」
「それだけお世話になっているなら何かしらした方がいいと思いますけど、明石さんって金銭的な事よりはデータとか協力とかアイデアとか、仕事の方に喜びを見つけるタイプなので……」
神通の言葉にそっかぁ、と”土佐”は腕を組みながら答えると。利根が偵察機を左腕のカタパルトへと回収する。その動きに合わせて口数は減り、黙って視線が利根へと向けられる。周りからの視線を理解した利根は軽く頷き、
「二時の方向に深海棲艦確認……おそらくここら一帯の”主”じゃの。偵察した限りでは戦艦ル級の姿に護衛の軽巡や駆逐級、雷巡も確認できている。護衛の方は全部で十程じゃの」
「多いな」
木曾の反射的な呟きには同意せざるを得なかったが、それでも誰も退くという選択肢を持ちはしなかった。同時に八を相手にすることはあったが、十を超える深海棲艦と同時に戦う事は少なくとも”土佐”の経験上も、ここに来てからもなかった。誰もがだまり、インカムに集中すると、インカムの向こう側から軽い苦笑が聞こえてくる。
『今の出来る事を確かめたいのだろう? 構わん、指示を必要とするなら俺が出そう、がこの程度で必要だとは俺は決して思いはしない。故に全力を尽くせ。貴様らの全力がこの海域程度で後れを取るわけがないと俺は信じている。さあ行け、今なら確実に先手を取れるだろう……その海域には偵察の出来るヲ級は存在しない。偵察が終わったばかりなのであれば間違いなく戦いの先制を取れる。悪い結果にはならんだろう。さあ、行け』
清十郎の言葉に反応する様に利根が片手をあげ、指示を出す。
「総員、単縦陣―――!」
言葉と共に艦娘が全員一列に並び、主機に力を入れる。それぞれが出せる最大速力は圧倒的に違う。故にあらかじめ決めていたラインで速力を合わせ、六人の艦娘達は艦装に弾薬を装填し、そして一気に前へと進む。既に利根が偵察機で敵集団の姿は捉えてある。故に他の艦娘達にも偵察機妖精を通して居場所等の情報は口に出さずとも伝わっている。
数分ほど海の上を滑る事で深海棲艦の姿は発見できた。海の上で様々に滑る集団の数は今まで”戦った”相手と比べれば一番大きな集団に違いない。しかし、この先、戦い続けるというのであればこの集団の倍だけではなく、状況によっては十倍すら同時に相手をする必要がある。
最新の海域とはそういうものであり、”土佐”と土佐の生まれもそういう場所である。
故に一箇所に大量の深海棲艦が集まるという光景は絶望感も驚きもなく、深海棲艦を倒す為だけに生み出された艦娘達はその姿を見る事で高揚をする―――特にその中でも、鬼神等と称される者は、
「素敵なパーティー始めましょ?」
「敵発見、神通……敵を完全殲滅します」
「さあ、”土佐”に食い殺されたい奴から前に出ろ」」
高揚を超えて興奮さえ覚えていた。
三人の言葉に深海棲艦の索敵が合わさり、艦娘達の姿をとらえる。だがその瞬間には既に装填し、巨大な艦装を構えていた”土佐”が躊躇う事無く砲撃する。一瞬で音速に乗った砲弾は空気の抵抗を引き千切り、それを破る悲鳴の音を会場に響かせながらル級と、そしてその周囲にいた護衛のチ級二体へと装填された炸裂弾が破裂する。ル級も、そしてチ級もどちらも見た目としては人間に近い。それは強力な深海棲艦であればであるほど強くなってくる特徴だ。ル級とチ級はそういう意味ではある程度協力な深海棲艦だ。ル級はパーツを抜けば人の姿をしているし、チ級もル級程ではないが人の姿に近い。
だが炸裂弾を受けたチ級の姿は一瞬で悲惨なものへと変化する。二体ともその上半身は千切れて飛び、一撃で即死する。ル級もそのその衝撃を防御するも食らい、右半身をごっそりと失う。―――しかしそれでも倒れず海の上に立つ辺り、深海棲艦が化け物と言われるゆえんだろう。右半身を失ってもル級はまだ沈まなかった。
「その艦もらったぁっ!」
すかさず一番火力の高い戦艦級であるル級を轟沈させる為に砲撃戦に入った利根が砲撃を放つ。だがその間に割って入るのは護衛として存在していた駆逐イ級の姿であり、利根とル級の間にイ級が三体程飛び出し、その全身で砲撃を受け止める。利根の一撃を受けて二体のイ級が一瞬で歪み、折れ、そして海に叩きつけられて沈む。
その時間を稼いだル級は肩に装着されている砲塔を真直ぐに”土佐”の方へと向ける。誰が一番の火力を有し、そして脅威であるかを深海棲艦は冷静に理解し、そして学習していた。故に戦艦級の砲撃がル級よりはなたれ、一直線に”土佐”へと飛翔し―――叩きつけられる。
「はっ!」
それを避ける事無く受けとめた”土佐”の体に擦り傷の様な傷が生まれ、そして艦装の装填が終わる。木曾と神通に砲撃によって牽制され動けなかったヘ級がそれを見た瞬間砲撃を受けつつも強引に二人の牽制を突破し、ル級の前へと飛び出す。元からそれを狙っていたかのようにヘ級が飛び出した瞬間、”土佐”の砲撃が放たれる。
一瞬で放たれる砲弾は吸い込まれるようにヘ級へと衝突し、そして爆発と衝撃波を生み出しながらヘ級を一瞬でミンチへと変換する。着弾の衝撃と遜色のない衝撃波にル級が体勢を崩し、
体勢の崩れたル級の体と頭を夕立と時雨が踏みつける。ル級が素早く肩の砲を撃とうとそれを旋回させるが、追いついた神通がそれを蹴り砕く。夕立と時雨の手には魚雷が握られている。砲を失い、動けない様に足で押さえつけられているル級に抵抗する事なんてできず、雷撃戦距離に入った利根や木曾、”土佐”を他の護衛達では止められる事も十分に損害を与える事も出来ない。
この深海棲艦の集団は詰んでいた。それもおそらく、先制砲撃が決まった瞬間。
「んふっ、いい悪夢は見れたかしら」
「失望したよ、君達には」
夕立と時雨が同タイミングでバックステップを取るのと同時に手に握った魚雷を叩きつけるようにル級へと投げた。一瞬で海の中へと叩き込まれたル級は次の下、海の中で爆裂して滅んだ。そしてル級が滅んだ事によって、
生きて残っている深海棲艦はたったの一体も残ることは無かった。その結果に夕立と時雨はハイタッチから手を握り合い、軽く海の上を滑りながら周り、
「完全しょーり! っぽい?」
「少し被弾したから完全勝利じゃあないな」
木曾の言葉に艦装を収納していた”土佐”は視線を木曾から夕立へと向け、そして右手小指でちょっと耳を掻くようなしぐさを取る。
「ち、はーい、完全勝利できなかった理由の艦娘ですぅー。反省してまぁーす。戦犯でぇーすぅー。文句あるやつはどいつだよオラ」
「そう言いながらお主は夕立を睨むのを止めんか。完全に上下関係できあがっとるぞ」
利根の言葉に”土佐”ポーズが止めると、夕立が安堵するかのように抱きつき、時雨が頭を撫でて労わり始める。その光景を見て神通は軽く笑みを零し、
「所詮十体ではこの程度でしか……もっと敵がいないとギリギリの所がつかめませんね。一度は実力のギリギリの所まで挑んでみたいのですが……」
「大人しい顔をしてぶっとんだ事を言うから神通って偶に信用できないよな」
木曾の呆れた様な言葉に神通は首をかしげる、インカムに音声が再び聞こえてくる。清十郎の声だ。
『総員ご苦労。状況報告が終わり次第帰投をする様に。以上』
清十郎の言葉に艦娘達はお互いの顔を見合わせ、そして体を伸ばす。
「―――今日も生き残ったぁ―――!」
オール最大値にしたら那珂ちゃんフェスティバルで空母なんてでて来なかった。
てんぞー提督怒りの解体ライブショー。
というわけで空母が出るまで空母レシピを回したら5回目で加賀さん登場
どうすんだこれ(頭抱え