提督の、清十郎の暇という言葉は正しかった。実際に執務室から出る事無く、時折耳元へ手を当てると清十郎は二、三個指示を出す程度にしか働くことは無かった。だがそれで良いのが真実だ。鎮守府近海の海域はそもそも深海棲艦が”間引かれて”いるのだ。提督という存在は必須であり、艦娘と深海棲艦も必須である。適度に深海棲艦を残さなくては実戦訓練する相手が存在しない。故に鎮守府近海の海域では一部わざと深海棲艦を招き入れ、”強すぎるもの”だけを殺し、残った弱い深海棲艦を新任の提督様に確保しているのが現状となっている。
よほど慢心した提督でなければこの近海で轟沈するようなことは無い。逆にここで轟沈させるようであれば提督としての適性は欠片もない、という事になる。ただ新任の提督でも清十郎の様に慣れてきた提督であればこの程度の海域であれば短い指示で済んでしまうし、艦娘も決して馬鹿ではないので最適の動きを取ってくれる。故にこの程度の海域であれば清十郎は暇となる。本来なら”土佐”も一緒に出ているべきだが、それができない”土佐”もまた暇で、厨房で間宮からお茶などを借りた”土佐”は日が暮れて行く鎮守府で清十郎と小さなティーパーティーを開いていた。
清十郎は言っている、早く次の地域への出撃許可が欲しいと。が、しかし、
「任務は任務だから逆らえんし、軍人である以上命令は絶対だ。どんな実力があったとしても絶対に命令には逆らう事が出来ないのが軍人の悲しい所だ。だが、まあ、こういう生活も悪くはない。忙しいときは忙しいが、暇な時は暇な時もある。何より上が飢えさせない様に気を使ってくれている為に餓える事も生活で不自由をすることもない。正直提督というのは責任と死を背負う覚悟さえできていれば中々気軽な職業だと俺は言っておく」
清十郎は責任と死を背負うのは何処でもある、という風に言う。ただ”土佐”に疑問を投げかけさせるのはその部分ではなかった。厨房を借りて作ってきたスコーンに軽くクリームを塗り、それを口へと運びながら”土佐”は言葉を整理すると、それを清十郎へと向ける。
「主要な海路は海屑どもに抑えられているんだよな?」
「然り」
「輸入関係はどうなってんだ? 確か日本は国としちゃあ自給率が低いから食糧に関して他国から輸入しないと辛い筈だよな」
「そうだな……だが忘れてはならないのが艦娘が出現するのは”日本のみ”という状況に対してだ。艦娘という深海棲艦のカウンター的存在は現在二本しか保有していない。他国でも拉致やら賄賂で数体確保しているらしいが、それでも生まれてくるのは日本のみ故に数で圧倒しているのは日本だ。故に日本は海洋に関しては他国と比べ、圧倒的にアドバンテージを得ている。それこそ別の島国やら海を利用して生きていた国が頭を下げて助けを求める程に」
「大体解った」
つまり艦娘の活動に他国の海域の確保なども存在するのだろう。その引き換えに日本は国内で生産する事の出来ないもの等を融通してもらっている、という所だろう。ただ恐ろしいのは、
「深海棲艦がなくなった後か」
「うむ。深海棲艦が無くなったら日本は世界最強の海軍保有国家となる。おそらくどの国もそれを認めんだろうし、認めさせることもできないだろう。少なくともアメリカ、ロシア、中国が否定する時点で核戦争始まる可能性があるだろうな。故に日本としても”頑張り過ぎない”事が重要になってくる訳だ。他国と交渉して日本の味方を増やしつつ大規模な作戦をやり過ぎず、深海棲艦を一気に駆逐しない事―――まあ、その心配をしなくてもあの者共は全く消えはしないのだが」
つまり先の事を心配するだけ無駄、という話になる。”土佐”も清十郎もお茶を飲みながらそこに同意する。結局の所深海棲艦という生き物がどうやって生まれ、どこから来たか等解ったものではない。発生源が解らないのであれば対処方法は倒す事以外存在しないが、根本的な解決になりはしない。故に深海棲艦をどうこうするというのは基本的に不可能になる。倒す事でしか数は減らせないが、その増える事はどうしようもない人間は”何時か”絶対に押し込まれる。限りある資源を消費している人類だからこそ、絶対に限界が来る。
「……」
「提督?」
「いや、利根達が帰投中というだけだ。今回の海域はそう遠くもないし、帰ってくるのも予想よりも早くなりそうだ。貴様の受け入れる準備も出来ているし、帰ってきたら部屋の方を紹介して貰えばいい……まあ、まだ相部屋なのが現状なのだがな」
「一人暮らしも悪くはなさそうが、一緒に住むってのも十分楽しそうだし俺は気にしないさ。それにどうせ提督なんだから底辺で満足する気もくすぶっているつもりもないんだろ? 未来の元帥の活躍に今から期待しているさ」
その言葉にくつくつと清十郎が笑い、そして続く様に”土佐”も小さく笑い声を零す。今もどこかで深海棲艦を相手に艦娘達が命を懸けて戦っているという状況を理解していても、間違いなく横須賀鎮守府の現在は平和だった。それに甘える様に清十郎も”土佐”も窓の外の光景と、偶に聞こえてくる艦娘達の声をBGM代わりに御茶会を楽しんだ。
◆
お茶や菓子が無くなって段々と空に闇の色が浮かび始めた頃に、執務室へと続く扉が開かれる。その向こう側から姿を現すのは利根を筆頭に、清十郎の率いる艦隊に所属する艦娘達の姿だ。彼女たちは少しだけ汚れた姿をしたり、海の匂いを纏いながら執務室へとやって来ると、部屋の一角に置いてあるソファに座っている”土佐”に気づく。
「やっほ」
「あ、土佐だ」
「やっほー!」
「来たか、歓迎するぜ」
「歓迎するのは良いがまずは報告を澄ませてからだ。利根、神通。何時も通り報告を」
「はっ!」
清十郎の言葉に敬礼し、声を合わせて名を呼ばれた二人が返答し、そのまま清十郎の前へと移動する。その間に残された夕立、時雨、そして木曾が”土佐”の前までやって来る。木曾とはそれなりに話し合った”土佐”ではあったが、夕立と時雨に関してはまだ帰り道に少し話した程度にしか交流が無かった。それ故に夕立と時雨に関してどう話そうかと一瞬迷う。が、話を切り出したのは木曾からだった。
「もう提督が何度か言ったと思うけど、これで同じ艦隊の姉妹、ってやつだ。改めてようこそ。戦艦が入るとなると戦術の幅も広がるし、何より俺や利根への砲撃戦での負担が減るから助かる」
木曾のその言葉に”土佐”は苦笑で答えると、”土佐”は気づく。夕立の視線が”土佐”へとではなく、土佐の頭の上―――妖精の方へと向けられているのを。そして妖精の視線もまた真直ぐ夕立の方へと向けられていた。”土佐”が妖精を頭から降ろして膝の上へと乗せると、妖精を追いかける様に夕立の視線も動く。時雨も木曾も”土佐”も黙り、夕立と妖精の姿を眺めていると、妖精が夕立を見ながら一回頷く。
「ぽいぽいです?」
「っぽい?」
「実にっぽいですな」
「なるほど、それっぽいの」
「うーむ、ぽいですな」
「なんと、っぽいね!」
「誰かこいつらを異世界から引きずり戻せ」
”土佐”が妖精を自分の谷間の中へと捨てる事によって不毛な会話は終わりを告げた。ただ夕立は妖精がいなくなった後も何故か首を傾げ、
「何故だろう……あの妖精を見ているとどうしてもあんな風に会話しきゃいけない……そんな、そんな気がしてくるの」
「土佐、君の妖精には精神汚染の力でもあるのかな」
夕立の言葉に溜息を吐いた頃には報告が終わったのか、神通と利根が”土佐”の方へとやって来る。やって来る彼女たちの横を確認すれば、”土佐”の視界に清十郎の姿が映る。それを認識した清十郎は軍帽を被り直し、小さく笑みを浮かべてから視線を引き出しの方へと向け、書類を取り出し始める。それを確認してから”土佐”は視線を神通へと向ける。
「この服ありがとう。戦闘衣装が支給されたり普段着が購入できるようになったりしたら直ぐに洗って返すから」
「あ、いえ、気にしなくても平気です。これぐらいでしたら全く問題ないのでそのまま取っておいてください。少し変な形かもしれませんが艦隊への着任祝い、という形で」
「そう言うならありがたく貰っておくよ」
実際、現在”土佐”は今来ている神通の服を抜けば、自分の持ち物なんて何もない。文字通り身一つで鎮守府へとまでやってきたのだ。その為替えの服は存在しないし、他にも荷物は持っていない。それとなく清十郎に給料に関して話を聞いて”土佐”はちゃんと艦娘にもある程度の給料が出る事も確認している。初任給が出るまでは、”土佐”は基本的に他の誰かに寄生するようでしか生きていけないかと思うと軽く鬱が入りそうになる。が、それでもまだ仕事があり、貢献できるためマシだ。
「ま、吾輩らは何時だって同胞の為になら協力を惜しまんからな。何か困った事があれば直ぐに言うが良い。先任の艦娘として、なるべく助けたり便宜を図ろう。といっても限界はあるがな!」
「最後の部分が無ければ少しかっこよかったんだけどなぁ……」
その言葉に軽く笑い声が零れ、”土佐”は改めて艦隊のメンバーを確認する。予め清十郎に彼女たちの話は聞いていたため、誰がどの艦娘であり、どういう役割かは知っている。まずは秘書艦として活動している重巡洋艦の利根。次に軽巡洋艦でこの艦隊のお姉さん的立場の神通。軽巡洋艦の木曾はリーダーに対して高い適性を持っている為、第二艦隊の旗艦としても訓練中。同時期に工廠から生み出された夕立と時雨は同じ白露型の駆逐艦で、生まれたタイミングがほぼ同じだった為に姉妹の様に仲が良い。人格、そして戦力的なバランスを取ってもかなり上手く出来上がっていると”土佐”は判断する。
「土佐の仕様上最初の頃は迷惑かけるかもしれないけど、戦艦土佐だ。これから一緒の釜の飯を食べる仲になるし、なるべく仲良くしたいと思っている。だからよろしく頼む」
改めて仲間入りを挨拶したところで、両側から夕立と時雨が腕を挟む様に掴み、”土佐”の体を引っ張り始める。いきなりの事に”土佐”は驚くが、神通や木曾は仕方がない者を見る様な視線を二人へと向ける。そして利根は両腕を組みながら視線を清十郎へと向ける。
「というわけで吾輩らで土佐の歓迎会をやりたいわけだが許可をいただいてもいい―――」
「いいぞ。遠慮する必要はない。俺は既に十分独占したしな、今夜は少しぐらいハメを外しても問題なかろう。ただ明日にはまた出撃がある事を忘れるなよ」
「うむ、それは理解している。―――それでは許可が出たし好きに連れて行って良いぞ」
「さ、下の食堂へ行こう。間宮さんだったら交渉次第で何とかなるから」
「あ、いや、別に歓迎会は嬉しいし異論はないんだけど俺このまま引きずられて―――」
ずるずる引きずられながら”土佐”が執務室の外へと拉致される形で出て行く。その光景を眺めていた神通と木曾はそのまま数秒間なにも語らずに扉の向こう側を眺めていると、数秒後廊下の奥からがこん、と何か重たいものが落ちる様な音が響いてくるのを聞こえる。その音の主がなんであるかを即座に理解した執務室の者達は一斉に顔を覆い、
「貴様らぁ―――!!」
「わあ―――! にげろ―――!」
「なんだなんだ!? 戦闘!? 襲撃か!?」
「襲撃!? 襲撃だと!?」
「敵襲―――!」
「対深海棲艦戦用意―――!」
真実を理解する面々は静かに頭を抱えた状態から、顔を持ち上げる。扉の向こう側から聞こえる派手な音や騒ぎを無視し、どうするかを迷ったところで、清十郎は頷く。椅子から立ち上がり、近くの壁に立てかけてあった刀を手に取る。それを抜き、
「我等も白兵による対深海棲艦戦用意―――!」
「こいつ、勢いに任せてうやむやにする気だな……!」
木曾が軽く提督の取った行動に戦慄し、驚愕していると神通が呆れた様な
「たぶん発端は間違いなく夕立と時雨ですからうやむやにしたい気持ちも解ります」
神通はそう言ってため息を吐くと、窓際へと移動し、窓を開ける。そこへよいしょ、と声を漏らしながら窓枠に乗っかってくる姿がある―――妖精達の存在だ。
何故か、彼らは深海棲艦と書いてあるプラカードを首からブラ下げている。その出現にちょっとだけ、神通は驚く。なぜならこの事態の収拾に妖精の力を借りようとしたのに、その存在が呼ぶ前から現れたのだから。ただ妖精はうんうん、と頷き。
「”とさ”さんのおもしろそうなけはいをかんじてきました」
「きますた」
「われらようせいばんのじゅうにん」
「いべんとはにがさない」
「かんむすかいにとうじょうしたあらたなあいどる……」
「”とさ”さんをすとーきんぐしろとうみがささやいている」
「ひゃっはー!」
次々と窓の外から飛び込んできた妖精達が部屋を横切り、提督と共に部屋の外へと突撃してゆく。そしてそれと共に建造物内の喧騒はどんどん騒がしくなってくる。最初は怒声だけだったが、そこに悲鳴や嬉しそうな声が混じり始め、段々と混沌が加速していっていた。その状況に、利根は現実逃避する様に窓の外を眺め、
「うむ、妖精に愛されておるな、土佐は。ああいう妙に妖精に好かれるタイプの艦娘は妙に幸運に恵まれるのよな―――あと日常的な苦難に」
「いや、今はそういう問題じゃないだろ」
と言うが、
「……何か出来る訳でもないんですけど……」
溜息と共に会話は打ち切られ、そして静かに執務室で頭を抱える姿が戻ってきた。
結局、歓迎の馬鹿騒ぎは憲兵が妖精の参入に気づくまで行われた―――が、不思議と負傷者は一人も出なかった。
大型建造は常に7000しか回さない癖に1回目でたいほーとかだした系提督は未だに2-5攻略できない。重巡育てなきゃそうなるよね。3-2も進んでいない。駆逐艦放置してりゃあそうなるよね。なお遠征は漸くMO出したところらしい。
とりあえず艦装と艤装に関して色々と複雑化してきているので簡単に整理しますね。
艦装:開発とかで生み出せる装備。武器とか、スロにはめるアレ。艦娘が背負ってるアレ
艤装:主機や推進器。船として機能するための装置。なきゃ動かない
人から艦娘になったタイプは艤装が「外付け」で純粋な艦娘が「内蔵型」って感じですわ。
小説版や資料集はないのでここら辺独自解釈や捏造で自分で書きやすく弄ってるから別所とは違ってたり。もっと早めに書き始めてればそう言うの気にせずに良かったのかなぁ。