いずれ至る未成   作:てんぞー

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第拾話

 東郷清十郎は自身が勤務する執務室が存在する建物の前で腕を組んで”土佐”の到着を待っていた。提督としてのランクが、階級が低いうちは他の似たような階級の提督と一つの建物を共有し、そこに入っている執務室を使うのが通常となっている。艦娘の宿舎も似たような事となっており、最初の内は同じ艦隊で部屋を共有したり、となっている。提督の階級が上がれば、また艦娘の生活周りも少しずつ豪華となって行く―――つまりは徹底的な実力主義的世界が横須賀の鎮守府では出来上がっている。強く、そして貢献できている者には良い待遇を、だがまだの者には試練を。といっても決して劣悪な環境ではない。中には態々階級が上がっても環境をそのままにしておく、という提督がいる程にだ。

 

 清十郎もまだ中佐。いや、中佐といえばそれなりの地位の人間だが、全体的に”階級の価値、意味は下がっている”のが現代である。深海棲艦と戦えるのは艦娘だけであり、彼女たちを率いる事が出来るのは提督の身の特権―――陸軍に戦力を確保されない為にも提督の数を増やした結果、階級をバラ撒くハメになり、そして階級の価値が暴落した。需要に対して過剰に供給を行えばそういう事も起きる。

 

 ただ、横須賀が状況としてはまだマシな方であると、清十郎は理解している。少なくとも訓練を受けた、軍人のみが提督として活躍しているからだ。呉や佐世保等の大規模な鎮守府も質の高い軍人のみで構成されているが―――それ以外の所はそうでもない。そこまで思考し、”土佐”にどこまでを説明すべきか清十郎は悩んだところで、清十郎は自分へと向かって歩いてくる姿を見つける。未だに建造で戦艦の建造を成功していない清十郎にとって未成という多少のディスアドバンテージを保有していても、戦艦という種類の艦娘が艦隊に加わってくれるのが嬉しい話であった。

 

 それ故どう歓迎しようか一瞬迷い、そして動きを完全に停止させた。

 

 清十郎の停止を無視し、”土佐”は清十郎の前に到着し、敬礼する。

 

 ”土佐”の服装は昨夜清十郎が確認した神通の私服のものだ。鎮守府であるのに可愛らしい女の服装であり、地面に届きそうなほど長いポニーテイルを垂らしている頭の上では敬礼を取っている赤毛の妖精が存在する。昨夜までの”土佐”はまるで幽霊か鬼か、そんな印象しか受ける事が出来なかったが、こうやって一晩たった今でははっきりと美女の類だと解るのは良い事だと清十郎は思考する。

 

 ただし、

 

「加賀型戦艦弐番館、未成戦艦土佐、着任します」

 

「うむ、それは解った。だが貴君の背後にある……その……”ソレ”はなんだ」

 

 ”土佐”の背後にはくっつくのように巨大な姿があった。それは艦装と呼ぶにはあまりに巨大で、無骨で、太すぎて―――それは鉄塊の様な砲だった。デザインに艦らしき姿を取っている為、それが何とか艦装だと清十郎は認識した。その視線を理解してか、”土佐”は真面目な表情で頷く。その動きに合わせて背中にマウントしてある巨大な艦装が揺れ、何時の間か乗っかっていた十人程の妖精が悲鳴を上げながら楽しそうに落ちて行く。

 

「”土佐”は未成故に艦装を保有していない」

 

「うむ、報告通りではあるな」

 

「だから明石が代わりにこれ使えって産廃寄越してきた」

 

「なるほど、解らん」

 

「一回だけ試射したけど、実はそれで俺も気に入った」

 

「……うむ、そうか」

 

 清十郎は胸を張る”土佐”の姿を確認し、そして昨日の夜に得た評価を少しだけ修正する。”土佐”には少々おちゃめな部分がある、と。木曾等から情報と合わせてどういう存在であるかを”土佐”の事を判断し、そして歩き出そうとして動きを止める。

 

「それ、扉を通らんぞ」

 

「あ、やっぱりか」

 

 そう言うと”土佐”は背中の艦装を外し、それを妖精へと渡す。既に受けとり待機中だった妖精はそれを受け取ると短い間踏ん張る様な姿勢で堪え―――そして次の瞬間には潰れて全滅していた。その光景を”土佐”は頷きながら確認すると、視線を清十郎へと戻す。そこにはまるで仕事をやりきったかのような”土佐”の表情があった。

 

「大分鎮守府に慣れてきた感じがする」

 

「少なくとも妖精には慣れたようだな」

 

 清十郎は大分余裕の見えてきた”土佐”の姿に顔に出す事なく笑みをうかぶ、軍帽を少しだけ深くかぶりながら背中を見せ、歩き始める。その動きに”土佐”がすぐさま追いついてくる。

 

「こっちだ。まずは司令部を―――俺の執務室を紹介しよう」

 

 

                           ◆

 

 

 ―――視線を感じるなぁ。

 

 清十郎の執務室がある建造物内を歩きながら”土佐”はそう思考する。まだ誰かとすれ違う事も、話す事もない。だが建物に入る前から、扉を横切る時、廊下を歩いている時、ずっと視線を感じている。好奇心の入り混じったかのような視線だと”土佐”は分析する。実際、興味を持つ存在は多いのだろうと思う。今までになかった艦娘が突如として現れた、しかも階級の低い提督の所へ。だとすれば興味を抱かない訳もない。だからこれは有名税と、そして昨夜の贅沢の対価だと”土佐”は納得すると、清十郎と共に二階へと上がり、廊下を進む。

 

 そして扉の前で動きを止めると、扉のノブに手をかける。

 

「ここが俺の執務室だ」

 

 そう言って清十郎が扉を開け、中に入る。その動きに合わせて”土佐”も中に入る。そこに広がっているのは一般的、といっても良い執務室だった。床は木で、壁は白く、提督の作業用に大きなデスクが一つ、そして窓辺にもう一つデスクが。部屋にある窓は海側に面しており、出撃する艦娘の姿や帰投する艦娘の姿が見える。その方向へと”土佐”が視線を向けている間に、清十郎は自分の執務机に座り、そして肘をつく様に休む。

 

「さて」

 

 と、清十郎は声を発す。それに釣られるように”土佐”が清十郎の方へと視線を向ける。

 

「昨夜はゆっくりする時間もなかったからな……改めて名乗ろう。日本海軍所属東郷清十郎提督、階級は中佐故にそこまで凄いわけでもないが、別命あるまでは俺の艦隊で活躍して貰うことになる。俺の予想が正しければ異動の様な事はないであろうし、死ぬまで俺と国の為に働いてもらうことになる貴重な砲撃戦力として期待している、頼むぞ土佐」

 

「ま、今の所どこまで何ができるかは実際戦場に出るまで解らないけど、拳を握る事が出来る限りは常に最前線で戦い続けるつもりさ」

 

「頼もしいな。我が艦隊には現在バランス良く揃ってはいるが、戦艦が存在しない為か決定力に欠ける。現状は昼での交戦を避け、夜戦から魚雷を使った戦い方が一番効果的だからな……漸く近代的な戦い方が出来るという所だ」

 

 ふぅ、とそこで清十郎は息を吐く。

 

「現状海軍における中佐や少佐という地位は本来のそれよりも一段、二段低く見られている。それも提督というものは本来最低でも中佐からでなくては任せられないものだから。故に提督を増やすという事はそれだけの階級の人間を増やす必要であり……相対的に階級としての意味、価値が減る。ままならんものだ。何年か前の話であれば中佐といえば雲の上の存在であった。そんな俺も今では少佐か、大尉と同列だ。故、そこまで便利に便宜を図る事はできん」

 

 ”土佐”はそれを聞き終えてから自分に向けられた説明であると理解し、清十郎のデスクの前で背筋を伸ばす。礼節に関しては”土佐”は知らない。土佐は知っているであろうが、教える事なんて一度もない。その代わり、そういう知識を教えてくれるのは妖精だ。頭の上に寝転ぶようにだれている妖精は、清十郎には聞こえないような小さな声で教える。

 

 ポーズだけでも海軍式に対応した”土佐”は、いや、と答える。

 

「土佐が……”土佐”が求めるのは戦場さ、提督。深海棲艦と戦える戦場、奴らを皆殺しに出来る戦場。殺しても殺しても殺し尽くす事が出来ない程にあふれ出てくる深海棲艦を相手に出来る地獄の様な戦場。そこで戦う事が”土佐”の目的だ。だから提督は心配することなく俺を最前線へと叩き込めばいいさ。色々足りない部分はあるが、こう見えても生存力だけに関しては自信があるからな」

 

「なるほど」

 

 そう言って清十郎は満足げに頷き、そして座っている椅子に寄り掛かる様に座る位置を変える。

 

「提督の為、人類の為、と言う艦娘は実際多いが貴様のは少々エゴイスティック……いや、自分の望みをかなえようとしている所があるな。が、俺はそれを悪いとは言わん。それが”一人目”特有のそれか、もしくは土佐という艦娘全体がそうなのかは解らん。だが大義名分を掲げるよりは自分勝手な奴の方が解りやすくて俺の好みだ。改めて我が艦隊へ歓迎しよう土佐よ。足りないのは貴様だけではなく俺も、そして俺の艦隊もだ。故に焦る必要も心配する必要もない。我々はまだ鎮守府の海域での活動しか許されてはいないが、近いうちに近海の南西諸島への出撃を計画している。其処を攻略すれば海軍側も実力を認め、我々を南西海域への進出を許可するであろう」

 

「という事は提督はまだ駆け出し提督か、一緒に強くなって行けるのは幸いだな。これでどっか偉い人の所に転がりこんだら強い連中に囲まれて心労で倒れそうだったわ」

 

「まるで俺の前だとそういう気遣いはいらないような言い方だな」

 

 ”土佐”は小さく笑い声を零し、清十郎への答えを誤魔化した。だが実際に元々男としての精神を持っている”土佐”からすれば、同じ男である提督の清十郎の方が相手としては遥かに話しやすいし、とっつきやすい。別段木曾や明石と話すのが難しいというわけではないが、それでも一番気を抜いていられるのは間違いなく清十郎相手だった。

 

 まあ、と清十郎は言う。

 

「まだ土佐用の戦闘衣装は完成していない。何やら工廠の方でヒートアップした妖精が殴り合いに発展しているようだ。ミニスカート、ロングスカート、そして袴派の3:3:1の割合で現在乱闘中であるとか。少なくともそれが落ち着くまでは海に出る事は俺の方で許可はできん。利根達にも現在は製油所地帯へ出撃で送り出している。第二艦隊の保有を許可も、まだ必要以上の艦娘を保有していない。故に二つの艦隊を同時に出撃をさせる事も出来ない」

 

 つまり

 

「俺も、貴様も暇だ。正確に言えば俺は通信機を通して指示を出すわけだが……それでも製油所地辺りは他の艦娘が多くて交戦回数が少ないから俺も暇だ」

 

「いや、暇なのは平和って事で納得しておくけど提督、妖精さん達年中あのノリ続けてるのか」

 

「あぁ、妖精に何かを発注する場合ほぼ九割の確率で殴り合いが発生する。ぶっちゃけると建造や開発する時間よりも殴り合っている時間の方が長い。故に一部の提督はバーナーを取り出して自分で建造をし始めるぞ」

 

「すげぇ末期」

 

 そう答える”土佐”に対し清十郎は短くふ、と笑い声を零す。そのまま椅子を小さく引き、そして執務机の引き出すを開ける様な動作を取る。そこから、清十郎は何かを取り出す。

 

 それは、アーク溶接機だった。

 

「ちなみに俺も持っている」

 

「おい」

 

「あるなしでは効率が桁違いなのだ。偶に妖精を炙ってやると存外良く働く」

 

「妖精さん達ってホント良く死なないよな……」

 

 その言葉に清十郎が笑う。

 

「軍の方では完全に調べる事を諦めているからな。妖精の存在は一種のご都合主義だと諦めて利用した方が遥かに賢い―――誰だって藪を突いて蛇を出したくないものだ。故に基本的には妖精と楽しく助け合う事が提督には義務付けられている」

 

「バーナーで焼く事が楽しく助け合うか」

 

「そういう貴様も俺の記憶が正しければ艦装で押しつぶすような事をしてはいなかったか」

 

 清十郎の言葉に”土佐”は一瞬で視線を逸らす。が、すぐさま視線を戻す”土佐”は清十郎と視線を合わせ、軽い笑い声を零す。”土佐”としてはこの空気が嫌いではなかった。まだ迷う事も、そして悩む事はたくさんある。勿論ちゃんとできるのか、なんていう不安も常に存在している。だがそれでもまずは一歩ずつ前進しない限りは何も見えてこない。それは地獄の様な逃亡劇を繰り広げた”土佐”だからこそ理解している。たとえどんな状況であっても選択から全ては始まるのであると。

 

 故にこの提督の下へと来たのも選択の結果であり、認めて進まなくては。

 

「しかしただ待っているのは暇だなぁ」

 

「ふむ、書類関係は予め終わらせてあるし、他の事も秘書官である利根に任せてしまったからな。これと言ってやることは残ってはないぞ」

 

「厨房でも借りれればお茶か何かをいれてそれを飲みつつ雑談でもするんだけど」

 

「ほう? ならば一階に厨房がある。間宮に話を通せば色々と融通してくれるだろう」

 

「ふむ、だったらちょっと時間かけてなんか作ってみるか」

 

「ほほう、それは楽しみだな」

 

 軽い談笑の声を狭い執務室に響かせながら、海軍所属の艦娘としての”土佐”の一日は、漸くを始まりを告げた。




 設定集とかは持ってない上にそこまで軍隊とか造船には詳しくないので細かい部分は捏造やらWIKI調べだったり細かい所で適当だったりする。
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