十分に久しぶりの風呂を堪能した”土佐”は風呂から上がり、脱衣所へと頭の上に妖精を乗せて戻る。脱衣所の入った直ぐの所には予め置いてあったタオルが乗っている。それを手に取り、一旦タオルを体に巻いてから脱衣所、服を入れていた籠のある棚まで移動する。確認する籠の中には服が入っているが―――元々”土佐”が来ていた服はない。その代わりにもっと綺麗で清潔な、ボロボロになってない服が入っている。そういえば、と”土佐”は軽く言葉を漏らしながら思い出す。神通が服を持ってきてくれる、なんて話になっていたはずだ。籠から服をだし、それを”土佐”は持ち上げる。
「うーむ、やっぱり女物か」
「もりあがってまいりました」
妖精を一旦頭から降ろし、服も籠の中へと戻す。そして”土佐”は巻いていたタオルをそれを使って髪を軽く乾かし始める。髪の交わし方に関しても軽く明石の方から説明やらが入っていたため、それを”土佐”は思い出しつつ、これは最終的に女子力という物へと結びつくのだろうか、と思い、心の中で誰にでもなく呟く。
女子力ってめんどうだな。
『……』
その考えに、土佐が少しだけ笑ったような気がした。
そうやって”土佐”が軽く髪の毛を乾かすと、タオルを一旦横へ置き、そして籠の中から下着を取り出す。それは見間違えるはずもなく、女物の下着だった。上は普通の白のブラジャーで、下は同じようにシンプルな白の下着だった。それの履き方を、付け方を”土佐”は知っている。それは知識として妖精が教えてくれたからだ。そして同時に、感覚的にも”土佐”が感じる事だ。ただ、余裕が出来た今”土佐”がそれを持ち上げてみると、何か凄い事をやっている様に感じられる。
「……さっさと着替えちまお」
足を持ち上げ、下着に足を通す。それから覚えたとおりにブラジャーを装着し、そして籠の中に入っている残りの服を確認する。この後にも髪を完全に乾かしたり整えたりと、やる事は何気に多く存在する。やっぱり女というのは存外厄介な生き物であると、”土佐”はそう再確認しつつ、妖精に髪の毛を梳いて貰いつつさっさと着替えを終わらす事へとすすめた。
◆
「ま、こんなもんだろ」
脱衣所の大鏡の前にはまるで別人のような姿になった”土佐”が映っている。ぼさぼさでほったらかしだった髪は梳いて整えられ、カチューシャとリボンを使って長いサイドポニーとなって整えられている。服装も上半身は黒のタンクトップの上から白のオープンショルダーシャツ、下は丈が膝下まである白に近い水色のスカートとなっている。風呂に入る前は汚れもあって完全に戦場帰りの兵隊の様な恰好だったが、今では街にいそうな普通の女の姿になっている。少しだけ気を使えばいいものだ、なんて思っていると、足元から声がしてくる。
「いやあ、ぐっどなかんじですわ」
スカートをしたから覗く妖精を容赦なく”土佐”は踏んでから新しい靴下と靴に足を通す。暖簾をくぐって出て行く妖精が跳び上がってサイドポニーへと捕まり、それをロープの様に登って”土佐”の頭の上へと上がって行く。それを無視しながら”土佐”は脱衣所の外へと出る。少しだけそこへ明石がやって来る事を期待していたが、流石にいなかった。少しだけ残念に思いつつ、見回せばすぐ近くに案内板が存在するのを発見できる。それで現在位置を確認した”土佐”は木曾の居場所を思い出す。
特に迷う事も、誰とも遭遇することなく入渠施設内を”土佐”は歩く。施設はそれなりに豊富だが、歩いている感じ、そして案内を見た限りではそこまで広くは無い様だと、”土佐”はそんな風に感じていると、妖精がぽんぽん、と”土佐”の頭を叩く。
「うんとね、”とさ”さん。にゅうきょしせつは、ていとくのじつりょくや、せんかによっておおきくなるそーですよ? とーごーていとくはたぶんえりーとですけど、きっとじっせきがないんですなー」
「あぁ、そっか。そういやぁ中佐って本来は駆逐艦ぐらいしか指揮する事ができないぐらいの階級だったよな? んじゃあ提督が活躍すれば拡張されるか、もっと広い所を利用できるようになるのか」
「そんなかんじですな。つまり”とさ”さんががんばれば、それだけかんきょうもよくなるのです」
「意外と良い職場だなここ……」
「ぶらちんじゃなければですなー」
ぶらちん、という妖精の言葉に”土佐”は首をかしげつつも、そのまま通路を進み、目的の部屋を見つける。遊戯室、と書かれた扉のノブを握り、その向こう側へと抜ける様に入る。その名の通り、遊戯室とは遊ぶための部屋だ。場所によって変わったりするが、遊ぶために様々な者が設置されているが―――入渠施設の遊戯室は大浴場を見て想像できるように、ホテルや旅館をベースとしたつくりをしていた。中に入ってまず目に入るのが部屋の中央にある二つのビリヤードテーブル、部屋の隅にはテレビやゲーム機、その部屋の反対側には本棚やソファが存在している。他にも目を引くようなものがあるが、ビリヤードテーブルで一人、キューを握っている木曾の姿を見つけ、”土佐”は動きを止める。
「よう、少し前までは幽霊か鬼の様な恰好でもしてたのに、そうやってちゃんと風呂にはいりゃあどこに出しても心配のいらない美人だな」
「褒め過ぎだろお前」
「かもな」
木曾のそんな軽口に苦笑しつついると、部屋の中、ビリヤード台の上に木曾以外の存在がいるのを確認する。木曾がビリヤード台に寄り掛かり、そしてキューの先を磨いている間にボールを元の位置へと戻しているのは―――妖精の姿だった。ただその姿は”土佐”の頭の上に乗っている妖精とは違う。”土佐”の頭を占領する様に何時も一緒にいる妖精は基本的に服装は気分次第で変えられるのか統一性はなく、今は”土佐”と同じ服装をしている。ただその髪色はお揃いの錆びた赤色だ。ビリヤード台の上にいる妖精達にそのような髪色をしている妖精は存在しないし、その服装は統一されている。
ツナギ姿だ。
「ま、顔を見ている感じスッキリしたのは解ったし、今度は修理の方に入るか。まあ、それに関してはやっぱりこいつらの管轄なんだけどな……大事な同胞なんだ、頼んだぜお前ら」
木曾の声に反応する様に、ビリヤード台の上にいた十人程の妖精たちが一斉に敬礼する。小さな妖精たちが一斉に敬礼を取るのだが中々可愛いポーズになるが、妖精達の表情は真剣になっている。ビリヤード台から飛び降りた彼らは一斉に走り出すと、そのまま”土佐”の足やスカート、サイドポニーに掴まって体を登り始め、まるで蟻の様に体中にくっつく。それこそ、中々シュールな恰好だった。少しおかしな恰好をしていると思った”土佐”の考えを察したのか、木曾が苦笑する。
「まあ、艦娘なら誰もが経験している事だよ。今回は比較的に数が多いけど。練度が高くなったり、大型艦になればなるほど数と時間が増えるらしいが―――」
「はいすこあは、やまとさんのよっかにゅうきょでしたなー……」
「あのときはようせいさんにじゅうにんをあつめました」
「ごうちんちょんよけー」
「なかんじー? でしたなー。いいおもいででした」
「あかぎさんだったらぼーきふぇすてぃばるでしたな」
「ふぇすてぃばる? ふぇすてぃばるる?」
「ぼーきどんおおもり!」
「ぱわーをぼーきに!」
「いいですともー!」
「そのままそいつらの話に耳を傾けていると日が暮れるぞ」
木曾のその言葉を正しいと、”土佐”は即座に理解した。この妖精たちは基本的に意味不明の生物だ。どうやって生まれたか、どこから来たのか、どういう生態をしているのかさえ解っていない。ただ理解しているのはある程度賄賂は受け取るし、艦娘が好きで、そして人類の為に協力してくれているという事実だ。そんな妖精だが”土佐”は限定された状況でずっと付き合ってきた。だから相手をしているだけで日が暮れるというのは身を持って理解している―――というより割と世話になっていた。
とりあえず”土佐”は一旦しゃがみ、妖精達が体を登りやすいようにする。その間に妖精たちは肩の上に乗ったり、頭の上へと移動する。それを確認してから”土佐”は木曾の前まで移動する。
「とりあえずこの後のスケジュールの予定を提督から聞きだしておいてから言っておくぞ? とりあえず最優先は修理だ……今やっている事だな。艤装系と艦装系の修復が終了したら明石と性能検査だ。基本的なスペックを調べるだけだから人間にやる様な検査とはちょっと違うけどな。まあ、俺達に病気とかはないし。で、性能検査が終わったら一旦俺と一緒に艦隊へと編成される。んで実戦運用データを取って、性能検査と合わせてレポート作ったら上層部の方へと報告、そっから別命あるまではウチの所で待機、って形になっている。何か質問あるか?」
”土佐”が腕を組んで、首を傾げる。
「―――俺、艤装持ってないんだけど」
「……は?」
”土佐”の言葉に木曾が軽く絶句するが、”土佐”は嘘はついておらず、それが真実であると伝える。”土佐”は生まれた時から艦装を装備していなかった。だからこそ同胞の死体から艦装の類を回収して運用する様な末期戦で見る光景を幾度となく繰り返してきたのだ。幸いだったのが土佐という艦が防御力に、装甲に優れていたという点だろう。おそらく土佐が誇る装甲の厚さが無ければ確実に沈んでいた。装甲とタービン周り、それだけは艦装に影響されない内的部分の能力だ。
「いや、まあ、ほら……俺って未成艦だろ? 最終的には武装解体されて実験台として爆破されたり沈めたりで。だからそういう意味で艦装ってのをたぶん最初から所持してないんだわ。だからアイアンボトムだっけ、あそこからここらの近海来るまで死体から装備奪ってきたし。艦砲とか、魚雷ぶん投げたり」
「どこの末期戦だよそりゃあ……」
木曾も大体は”土佐”と同じ感想を抱き、それに対して”土佐”は苦笑する。本当に酷いものだ、と”土佐”は思った。一人目の艦娘が強く生まれてくるのはいいが、せめて艦装のサービスぐらいは欲しいと、純粋に思っていた。いや、だからこそ、
艦装が無いからこそ”土佐”が求められたのだろうか。
一瞬、何か非常にむなしく、悲しい考えが”土佐”の頭に思い浮かぶ。それを振り払う様に”土佐”は頭を振ると、”土佐”の体にしがみついていた妖精の一人が”土佐”から飛び降り、ビリヤード台の上へと戻る。再び可愛らしい敬礼をビシ、っと決め、
「ほーこくですきゃぷてんきそー」
「キャプテンはやめろよ……んで、どんな感じだ?」
「たいはちょくぜんですわー。ぎそうけいがないですけど、たーびんまわりとかいろいろあぶないとこですなー。ぶっちゃけようせいさんたち、いまからてつやでごーなかんじです。すくなくともあしたのあさまではかくじつにつづきますわこれー」
「そうか……」
「大破チョン避けかぁ……やっぱそこまでヤバかったか」
色々と無理して動いていた自覚があった”土佐”としては割と実感のある言葉だった。ただ木曾の方はそうか、と告げるとビリヤードのセットをしまい始める。そしてしまったところで”土佐”へと近づき、
「朝まで続くなら待っていてもしょうがないな。まだ部屋の準備は整ってないからここの宿直室で今夜は過ごしてくれ。まあ、妖精まみれで眠る必要になるけど修理に必要な事だから許してやってくれ」
「むしろねているあいだにまっさーじします」
「つかれをとります」
「われわれはぷろです」
「もみもみするぷろです」
「ごうほうてきさわれる」
「ゆるせる」
意外と妖精という生き物は欲望が詰まって、出来ているのかもしれないという感想を”土佐”は抱きつつ、明日からまたハードシュケジュールが詰まっている事を予想して木曾の後について宿直室へと向かう。
そこで待っているのは此方へとやって来てみる初めての柔らかいベッドと、敵の存在しない空間での睡眠となる。
宿直室の入り口からこれから得られるであろう安らかな睡眠を思いながら、
漸く、警戒せずにぐっすり眠れそうだと”土佐”は思った。
妖精さんはホント使いやすい。ただひらがなオンリーだと読みにくいわけでして。そろそろ漢字縛りなだけでカタカナを使おうかと悩みどころ。ひらがなオンリーが一番雰囲気伝わるんですけどねー。
服装に関しては大体ググレば解る様に描写していますので、オープンショルダーシャツとかググレば解りますわよ。