いずれ至る未成   作:てんぞー

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第陸話

「―――ここが大浴場か」

 

 手ぬぐいの入った桶を片手に”土佐”が浴場へ入る。そこには何十人も同時に収容可能な大浴場が広がっている。一般的な銭湯のスタイルをしており、奥に浴場が存在し、前には体を洗ったりするためのスペースが存在する。それは”土佐”の記憶にも存在する、知っている光景だった。ここばかりは”土佐”でもよく知る光景だった。利用することは無かったとはいえ、日本人として銭湯を知らぬ者はおそらくいないだろう。故に知っている空間に”土佐”は軽く心を弾ませながら近くの蛇口前に移動する。

 

 鏡と、シャンプーと、そして椅子等の一通りの道具が揃っている辺り、本当にちゃんとした浴場施設だと関心を抱ける。艦娘用、と聞くと普通の人間の使うそれと何かが違うかもしれないと少しだけ警戒していた”土佐”だが、見る限り普通の施設出会ったことに安心の息を吐いてから桶を降ろし、そして低い椅子に座る。湯気で曇る鏡には裸の己自身が移されており、それを前に動きを止める。

 

「……どっから洗えばいいんだこれ」

 

 鏡に映っているのは女の姿だ。”土佐”の知識にあるのは男の体であった、自分の体を洗う方法だ。だが今、目の前に映っているのは女の姿で、裸を見るのはそれなりに生きていればある事だ。だが触れるのはどうだろうか―――少なくとも”土佐”にそういう経験は一切ない。故にどうやって触れればいいのか、どうやって洗えばいいのか等、そういう知識に不足していた。故に座ったのは良いとして、動きが止まっていた。

 

「どうしたです?」

 

 ぴょん、と妖精が頭から飛び降り、桶の上へと着地する。その姿は何時の間にか水着姿に変わっている。その早着替えをあえてスルーした”土佐”は首をひねり、視線を妖精へと向けたまま長く、ぼさぼさの髪の毛を束になる様に掴んで妖精へと見せる。

 

「ど、どこから洗えばいいんだこれ……?」

 

「あー。”とさ”さんにはそういうもんだいがありましたなー。じみにこまったことですなー。ようせいさん、じっせんかんけいきんむなので、そこらへんてきとーなのです」

 

 ごろん、と桶の上に倒れた妖精はそのまま腕を組み、考える様に唸り始まる。妖精がそうやって思考に没頭し始める間に、とりあえず”土佐”は首をかしげながら考え始める。基本的に体を洗う時は上の方から洗わないと、上を洗った時の汚れが下の方についてしまう為、セオリー的には頭から順に洗うのがベスト。

 

 ……だよね?

 

 ならシャンプーから始めるべきなのだろうか、と考えた所で大浴場への扉が開く。”土佐”と妖精がそちらの方へと視線を向けると、バスタオル一枚を巻いた姿の明石が大浴場へとやってきた。即座に”土佐”を見つけると、近くの椅子を引っ張って、”土佐”の背後へと回り込む。

 

「あぁ、これから体を洗う所でしたら、背中流したりと髪のお手入れは任せてください」

 

「あ、いや、どうやって洗うべきか悩んでいたところだから正直に助かったと言えば助かったんだけど……何か準備していなかったっけ?」

 

 それに対して明石は軽く苦笑を零し、大丈夫ですよ、と答えながらシャンプーやらリンスを周りへと集め始める。その姿は実に手慣れた様子で、他の艦娘を相手に同じことをやって来ている、というのがその手並みから解る手際の良さだった。

 

「いえ、それがさっき話していた時に髪が物凄く痛んでいたりしていたのを思い出して、土佐さんも性格的にあまりそういうのを気にしないタイプかなぁ、と思っちゃいまして。基本的な部分をパパっと終わらせて後は妖精さん達に任せて来ちゃいました。あの子達って基本的にどこにでもいて、頼めば大体の事はやってくれますから」

 

「便利だなぁー……」

 

「では軽く上から順にやっていきましょうか」

 

「あ、はい」

 

 そう言うと明石は長い髪を手に取り、シャンプーやらリンスを使い、髪のケアを始める。そこらへんの知識を”土佐”は保有していない為、合間合間に解説を入れながらどうやって手入れをするか、髪の質を維持するかを説明し始める。何時までも明石に頼る事は出来ないと思った”土佐”も明石が髪やら背中を流すその合間の解説を真剣に聞き、真面目にその内容を覚えて行く。

 

 その光景を、妖精は桶の上からどこか微笑ましそうに寝転がりながら、聞いていた。

 

 

                           ◆

 

 

 女の体に必要なケアな時間は艦娘といえど、それでもかなりの時間が必要とするんだな、というのが”土佐”の率直な感想だった。男の頃とは気にする事や覚えなきゃいけない事が全く違い、軽く困惑するも、それを乗り越え、髪を軽く纏めてから入る湯船は数週間ぶりの経験でもあり、沈み込む様な気持ちよさだった。湯船の一番奥、壁際まで移動すると背後の壁に寄り掛かる様にし、足を伸ばすようにして肩まで一気に湯船の中に浸かる。頭の上に手ぬぐいを乗せ、そして妖精は直ぐ横を浮かぶように泳ぐ。その光景を明石は湯船の外側から、片手だけを湯船の中に入れる様にして見る。

 

「お湯加減はどうですか? 大丈夫ですか?」

 

「あー……極楽極楽……もう、最高だよー……」

 

「いのちのせんたくですなー。ろんだりー」

 

「ふふふ」

 

 蕩ける様な声を出す”土佐”と妖精の姿に軽く明石が笑い声を零すと、”土佐”が少し気を抜きすぎた事を自覚したのか少しだけ身を引き上げ、体を胸元が沈む程度まで引き上げる。”土佐”は風呂の中で胸が浮かぶのは本当の事だったんだな、と確認しつつ自分の体を確認する。明石の手によって洗い方を教わったり、洗ったからで体は綺麗になっている。髪も少しだが本来の艶を取り戻しつつあるような気もする。だがそれとは別に、体中に傷跡が存在する。

 

 顔にある傷は海に出ている間に確認済みであった。だが服を脱いで確認することは無かったため、”土佐”がじっくりと自分の体を確認するのは今回が初めてとなる。そうやってじっくりと観察すると、やはり顔だけじゃなく腕や胸、身体や足にも傷がついている。どれもが比較的に新しいものだ。大部分が切りつけられたような裂傷だが、中には弾痕の様なタイプの痕も存在している。傷の内、酷いものの大半は”土佐”が目覚めたばかりの頃に出来たものだ。

 

 だが、元からついている傷もある様にも、”土佐”は思える。たとえば首回りについている傷、それは元々”土佐”が作った傷ではない。流石に首への一撃は致命傷になり得るから全力で守っていたからだ。だからこれは生まれた時から持っている傷、という事になる。そういう傷痕へと視線を向けているのを、明石は気づいたらしく、

 

「すみません、そういう傷を消す技術は流石に……」

 

「あ、いや、確かになくなったら嬉しいけど、別段嫌って訳じゃないんだ。これは生き残った証明というか……まあ、個人的には勲章の様なものだと思っているし」

 

 ”土佐”はそこで口に出す事なく、土佐に若干申し訳ないが、と呟く。それを拾う事なかった明石はそうですか、と返答したところで、”土佐”が思い出す。カウンターの所で明石が”一人目”なる事を言っていた事を。それはおそらく己の立場や現状にも直結する事だと短く考えて判断し、軽く顔に湯をかけてから顔を持ち上げる。

 

「ところで”一人目”、ってどういう事なんだ?」

 

「一人目というのはそのままの意味ですよ。人類に観測され、そしてその艦娘として生み出された一人目の艦娘の事です」

 

 明石の言葉に軽く”土佐”が首をかしげると、明石はそのまま解説に入る。

 

「えーと、私達の様な純型の艦娘が生まれてくる方法はぜんぶで弐種類あります。一つは工廠で生み出される事ですね。これはこの中でも更に細かい分類があるんですが、一旦置いておきますね。もう一つが海域で野ざらしにされている艤装が艦娘へと転じる事ですね。この転身現象の例は”土佐”の様な艦娘になります。……ちなみに私は工廠生まれの明石だったりします」

 

 明石の言葉に”土佐”は頷く。

 

「で、艦娘が生まれてくるという事は”最初の一人”という艦娘が絶対ある訳です。たとえば一番最初に生まれてきた天龍さんや、一番最初に生まれた大和さん。こういう一番最初にこの世界へと艦娘として生まれてくる艦娘を簡単に”一人目”と呼んでいるわけですが、この存在はある特性を抱えているわけです」

 

 それが、

 

「―――絶対に工廠から生まれることは無い、という一点に尽きます」

 

 そこで”土佐”は何故自分がアイアンボトム、なんて極悪な海域で目覚めたのかを理解した。大量の深海棲艦、そして大量の艦娘の死体。あそこには大量の艤装が存在し、艦娘が生まれて来るには最適な環境となっているのだ。だからこそ、あんな物騒な場所ではあるが”土佐”は生まれてきたのだ。

 

「この”一人目”というのは私達が戦うための力をくれている大本の艦よりこの世界へと遣わされた”アンカー”的な存在だと思ってください。艦娘を生み出しやすくするために最初の艦娘を生み出し、暫く存在させる事で世界へと定着させます。ある程度存在が浸透したら工廠でも生まれてくるようになるんです。だから”一人目”には生き残って貰わないといけない為、能力的な部分がそれ以降生み出されてくる同型艦娘達よりも少々ハイスペックに出来ているんです」

 

 大和さんや武蔵さんの一人目の時が懐かしいですね、と昔を思い出す様に明石は呟く。それを聞いて”土佐”は自分は恵まれていて、此処まで来れたのは本当に運が良かったからであると気づく。そしてそこまで聞いたところで、

 

「じゃあ俺は……」

 

「これから加賀型戦艦が生まれますよ、という意味ですね。検査等をしなくちゃ基本的なスペックが判明しないので何も言えませんけど、おそらく司令部としてはまた人類側の戦力が増えるとして喜んでいる筈ですね。東郷提督はまだ提督としては新米ですし、危険な海域にも行く事はできません。土佐さんには沈まれても困るでしょうが戦力を無駄に遊ばせておく余裕もありません。データを取り終わったらおそらくそのまま見つけた東郷提督の所へと編成されると思いますよ」

 

「……そっか、戦場に出るのか」

 

 軽く浮かぶ双丘をじぃっと”土佐”は見つめてから、足を持ち上げる様に伸ばしそれを眺める。やはり欲情等の性欲に繋がる様な感じを美女と評する事の出来る体を見ても感じなかった。それは明石の姿を見てそうだった。ただその代わりに、戦場に出られる機会があると聞き、静かな闘志が胸に湧き上がるのを”土佐”は感じていた。少しずつだが、自分の意識が染まり、交わって行く。そんな気が”土佐”にはしていた。

 

「だいじょーぶですよ?」

 

 泳いでいた妖精が”土佐”の前へとやって来る。それを”土佐”は掬い上げる様に持ち上げると、目線まで妖精を持ち上げる。

 

「少し不安なだけだよ、妖精さん。……明石、さん話を色々とありがとう。手入れの仕方含めて色々と参考になったよ」

 

 妖精を湯船の中へと上へと放り投げる様に入れると、妖精は楽しそうな悲鳴を上げながら湯船の中へとロールからのダイブを決める。地味に芸術点の高い技を決める辺り、妖精も中々にこの環境を気に入っているらしい。それを見ていた明石は”土佐”と共に軽い笑い声を零し、

 

「いえいえ、とんでもないです。他の皆さんが海に出て戦うのが役割であるように、この入渠施設や工廠で戦う皆を支える事が私の役割で、そしてやりたい事なんです。ですからそう畏まる必要もないんです。では私は改めて戻りますので、また何かあったら呼んでくださいよ? 遠慮はいりませんからね?」

 

「はは、解ったよ」

 

 明石が去って行くのを見ながら、つくづくお人よしな人物……艦娘だな、と”土佐”は感想を抱いていた。だがきっとそういう性格である以上に、そういう場所であって、そういう状況なのだと思考する。深海棲艦の脅威を”土佐”は知っている。深海棲艦と戦い、そして傷つけられ、倒した。だから”土佐”は理解している、敵は一筋縄ではいかない。味方を疑ったりバラバラになっては絶対に勝てない相手であると。明石ぐらい味方に対して心を開いて行かないとストレスで自滅できる時代に来ているのだ、と。

 

「辛い筈なのに充実感を感じちゃうのは君のせいなのかな……」

 

 ”土佐”の声に土佐は答えない。ただ、明石の話を聞いて”土佐”は自分がここに生まれた意味を、そして役割を見出した。

 

 それは、

 

「―――これから生まれてくる”姉妹”達に道を作る」

 

 ”土佐”が一人目、これから生まれてくる土佐達のプロトタイプというのであれば、彼女達に道を”土佐”は作らなくてはならない。加賀型戦艦が不要等とは、未成故に無意味だとは絶対に言わせない。”土佐”が土佐の有能性を証明し、彼女たちが認められる環境を作る。それがおそらく、自分に課された役割なんだと”土佐”は思った。

 

 ならばやはり、戦場を、武器を、敵を、戦友を。

 

「土佐さんもそんな感じでいいの……かな? うん、まあ、そう思う事にするよ」

 

 そう言って”土佐”は再び肩まで湯船の中へと沈み込み、

 

「男だったころだったらまず飛びつくのに、こんな体していて何も感じないのは勿体ねぇなぁー」

 

「じぶんのからだにこーふんしたらへんたいですからなー」

 

「だよなー」

 

 そんあやり取りを妖精を交わしつつ、”土佐”はゆっくりと広い浴場を堪能した。




 なんでお前ら美女よりも妖精のヌード求めてるんだよ(半ギレ

 衣装とか容姿周りはわりかしサクサク決まった所があるからそれを絵にしてみたいけど、そこらへんの技術力が無いので断念。動画作成やら執筆だけなら無駄にできるんだけどなぁ。教室通ったりして絵の描き方ならったけど結局駄目だったし。

 ともあれ、まだまだ茶番やら説明は続きますが、艦娘はどんどん増える一方です。
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