俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

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二十一話 デッキを故意に崩す行為は注意対象になる

 

 

 

 大型クリーチャー三発分の衝撃に、包帯マンは派手に吹き飛んでいった。

 

「グッドナイト。お休みのときだ、ボウヤ」

 

 それを見届けながら、軽く言葉を送る。

 

 送りながら俺はこう思った。

 

 あっ、

 ぶねえええええええええええ!

 

 負けるかと思った。マジで負けるかと思った……!

 手札殆ど事故ってたわ!

 なんで開始からずっとトークンしか出せない手札が続いたんですかねぇ。

 ゴブプラの構築が大半とはいえ、コントロールに必須な妨害にハンデスが引けず、除去がちょろっとだけとかさぁ!

 それも執行者に弾きされるし、マジできつかった。

 序盤に絶対くんだろって握ってた放火範ゴブリンで夜が焼けてなかったら負けてたわ。

 なんでメタカードになるからと思って追撃者の代わりに三枚差した弓手さんも、墓地に落とすサーチカードもこねえんだよ!

 普通に回れば大体勝てると思ったのに、下振れし過ぎて順当に負けましたとか寸前だったわ!

 

 お前ごときゴブリントークンだけで十分だと思ったか? 馬鹿め、それ以外出せなかっただけだ。

 

 純正の夜疾猟団まんまでなかったら勝てなかったな。

 ややこしい破壊と死亡の違いを覚えてなかった奴だったし。

 

≪な、なぜだ……≫

 

「あ゛?」

 

 勝敗が決まったのだろう。

 プロフェッサーの時と同じように闇の領域が剥がれ落ちていく中で、マグラが現れた。

 擦り切れたビデオのようにノイズが走っているのは敗北のダメージからか、あるいは破壊されたダメージか。

 

 あるいはそれ以外の理由か。

 

≪何故だ! 何故、ディールが、我が敗れる……!?≫

 

「ライフがゼロになったからだが」

 

≪そうではない! 我の、この写し身のパワーは決して負けていなかった! それが何故こうも圧倒されて≫

 

「俺は、お前のデッキの動きを知っている。元は持ち主だったからな、当然だろ?」

 

≪ありえない! お前が、我から逃れたのは二年も昔、そしてお前には我に屈服するまであらゆる共鳴を……夜疾猟団(ナイトレイダー)のカードとの縁を縛った!≫

 

 なんか呪い受けてるなってのは知ってたが、想定よりもえげつなかったな。

 道理でパックを剥いて夜疾関係のカードがでねえわけだわ。

 

≪だからこそありえん! 我の、このデッキの動きを憶えているなどありえん! どうやってこのデッキの動きを、力を知ったのだ! まさか聖座の王共にでも――≫

 

プロキシ(代用)

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

≪なっ……≫

 

「いずれテメエとは戦うんだから、当たり前だろ」

 

 大体のカードの能力とテキストは覚えてたからな。

 最低限の中核、精霊とか変な力が宿っていない空っぽの器らしいカードは残っていた。

 だからそれと覚えている能力を書き出して、あとネットやカードショップのシングル売りとかを見つけたり、きちんと許可を得てから写メったりして、能力を調べて関係カードを調べた。

 世にある夜疾猟団の全部じゃないし、俺が前世で戦ったことがある夜疾猟団使いたちの”ブンブン釣り竿姫”、”貢がれ魔女バーン”、”過労追撃死コンボ”、”二人はヴァンキュア”、”棒回転奴隷レディ”、”公平ライフ詐欺”とかで使われていたパーツも幾つか見当たらなかった。

 多分まだこの世界だと作られてないんだろう。

 幾ら何でも前世でのカード全部覚えているわけじゃないから断言は出来んが。

 

 それで仮想敵として組んでいたパターンだと――

 

「お前のデッキが1番馬鹿正直だったぜ。ゴール前で昼寝でもしてたのか?」

 

≪きさまぁ!!≫

 

「おっと」

 

 怒りのままに手を伸ばす悪霊に、予想していたので距離を取った。

 それでボロボロと手先から崩れ、慌てて手を引っ込める

 

≪ぐっ……ダメージが≫

 

 闇のファイトとやらの反動か、あるいは負けたペナルティか。

 負けていたら同じような目にあっていたのだろうか。

 

 おっかないと思いつつも、聞いておきたかったことを俺は告げた。

 

 

 

 

「――で。()()()()()()

 

 

 

≪なにっ≫

 

 怪訝そうな顔を浮かべる悪霊。

 随分と真に迫っているが、確信している俺からみれば白々しいを通り越して滑稽だ。

 

「お前はマグラじゃない」

 

≪なにを愚かなことを! 私は夜疾の女王マグ「永遠の女王ドグラはもう死んでる」ら≫

 

 俺は、見た目はカードのデザインのままのマグラもどきの悪霊に告げる。

 

 

「永遠の女王。神託を受けし巫女王。黄金のドグラは死んだ。もうどこにもいない。故に夜疾猟団の、彼らの前に現れるのは楔石から招き寄せた女王(ドグラ)の化身、その幻影に過ぎない」

 

 

 <永遠の女王ドグラ>というカードがかつてあった。

 昔、Lifeの古く最初期辺りのエキスパンションに登場したクリーチャーだ。

 彼女は――死んでいる。

 その背景となるカードストーリーにおいて死亡しているのだ。

 <夜疾の女王マグラ>は、<永遠の女王ドグラ>の聖遺物から呼び出された残留思念であり、正しき名前が失われたが故にドグラではなくマグラとねじ曲がった。

 カードの能力としてはドグラのリファイン版だ。

 楔カウンターで出しやすくなった代わりに能力は抑えめだし、なによりもただのクリーチャー。

 盤面に出す制限がある唯一無二(ユニーク)ではない。

 

 だから、種族は死霊ではなく【化身】なのだ

 

 そもそも夜疾猟団のテーマ自体がリテイク。

 過去のエキスパンション、違う世界から人気があったり、特徴的だった英雄クリーチャーたちが原型をそのままに、楔カウンターに依存する形で統一されたもの。

 世界を融け犯す夜に侵されながらも、それに引きずり込まれながらも抗い、夜の中を疾走(はし)る戦士たち。

 その彼らの正気、自分を維持するための、故郷たる世界を失った英雄たちの拠り所になる楔。

 もはや忘れられたものたちの神殿にて祀られていた存在がドグラならぬマグラの化身である。

 

 Lifeのカードストーリー、そのバックストーリーでそう語られている。

 前世で購読していたLifeの公式WEBコラムでそんな風に記述がされていた。

 

「てめえとは全然性格が違うんだよ、俺が知っているドグラとはな」

 

 まあ、推定アニメ世界だから全然違う性格だという可能性は十分にありえる。

 この世界の精霊が、カードに描かれたストーリーとは全然違うことだって全然ありえる。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

≪……ほ≫

 

 だから素っ頓狂な指摘かもしれない。

 そう思っていた、が。

 

≪ホハハハハハハハハハ!!≫

 

 

 ――大当たりだったようだ。

 

 

 

≪面白い! 面白い! 奇妙な生命の共鳴、相応に巧みなファイターだからと最初に選んでやったが、まさか知識まであるとはなぁ……!≫

 

「その態度、図星ってことでいいんだな」

 

≪ホハハハ! 面白い、面白い! よくぞ見破った! よくぞわかったな! まさかかつての時から見破られていたのか?≫

 

「いんや、確証が取れたのは今回のファイトでだ」

 

≪ほう? どうしてわかった、教えてくれ!≫

 

 簡単な話だ。

 

 

「お前がマグラなら、自分の軽減条件(プレイング)を間違えるなんてミスをするわけがねえだろ」

 

 

 それも自分のテーマである夜疾猟団の理解も色々と拙すぎた。

 ただのファイターのミスというならばともかく、復讐姫の効果破壊の不発。

 

 カウンターが一個残っていればタフネスが【2】の復讐姫は落ちる。

 回避にもなっていないのを無理やり使わせて、ボロ負けするなんてありえない。

 どう考えても使い慣れていない。

 

 ――まるで借り物の力(レンタルデッキ)を使っているように。

 

 

≪ホハハハハハハハハハ!!≫

 

 事実を告げられたマグラは、いや、その姿を真似ていた悪霊はゲタゲタと笑いながら黒くなっていく。

 

≪ホハハハハハハハハハ!!≫

 

 姿が歪む。

 

≪ホハハハハハハハハハ!!≫

 

 まるでピカソの絵のような歪み。

 

≪返す言葉もない! まったく、まったく、貴様のようなファイターを倒すのにはこのカードは弱すぎたようだ≫

 

「マグラは弱くねえよ」

 

 マグラも専用デッキなら十分強いんだぞ。他の同じ化身シリーズは1つ除いて産廃だったし。

 大体どいつも2~3体ぐらい並べてきて――女王ストリームアタック(女王様とお呼び)!! とかって殴りにきやがったけど。

 なんでこいつ楔カウンターに依存してるくせに自分に乗らねえから、はいはい、弓手で処理とか出来ないんですかねえ。

 

 専用じゃないデッキ? ……ちょっとコストが重すぎるかなって。

 

「カードのパワーに強弱は確かにあるさ」

 

 どんなカードでも役割があるなんていうのは残酷なようだが、俺の口からは断言出来ない。

 クソカード診療所みたいな解説をしたり生かし方を考える奴や、惚れ込んで時代遅れのカードをフェイバリットに組み上げる人もいたが、そんなのは少数派だ。

 細い細い勝ち筋。

 負ける確率ばかり高いデッキ、積み重なる敗北、トップメタでもない非環境デッキ。

 

 それでも。

 

「だが、それを活かすも殺すも使い手次第」

 

 それが勝つとするならば。

 それは。

 

「カードの力、デッキの力、全てを引き出して()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけだ」

 

 正しく、的確に、カードを理解して、デッキを使いこなせた奴。

 負けるために組まれたデッキはないのだから。

 

 

「弱かったのはテメエだけだ」

 

 

≪――生意気な……≫

 

 不愉快そうに悪霊の顔が歪む。

 ボロボロに崩れ去りながら、残っていた闇の領域が吸い込まれていく。

 

≪我を打ち倒した褒美だ。力を、次なる我の寄生対象(乗り手)に愛してやろうと思っていたが≫

 

「千切って可燃物に出してやるよ、カスカード」

 

≪辞めだ。貴様はもっと相応しき、我に相応しき依代にて葬ってやる≫

 

 相応しき依代?

 

 

≪震えるがいい。我が指先、【シャフル】がこの燃える命界を闇に染め上げる日は近い≫

 

 シャフル?

 ……シャッフルか? え、やっぱりあるのか闇の秘密結社なあれ。

 

 そう言えばさっきの包帯ボウヤの名前は確かディールだったな。

 だとすると他にも――

 

≪その時には必ず貴様もまた生命と共に贖わせてやる!!≫

 

 瞬間、描き集まっていたもはや黒い人型の悪霊がギュッと一点に集まって。

 

 

「通しませんが」

 

 

≪ガっ!?≫

 

 振り抜いた回し蹴りで、明後日の方角――天井の角へと激突する。

 ボンッと、黒い炎のようなものが上がるがこちらには届かない。

 

「安全靴だ。鉄芯で補強してある」

 

 蹴り抜いた靴はやや煤けたが、こんなこともあろうかとバイトでは頑丈な安全靴を使っている。

 世の中、触っただけで人の手を焦がしてくるやばいカードもあるんだ。

 気持ちは良くないが、押さえつけるなら靴で踏むに限る。

 あとカード詰めた段ボールとかうっかり足に落とすとマジで怪我するし。

 

「ふぅ」

 

 とはいえ決着はついた。

 あとはどうするか、急いでユウキちゃんたちを追いかけるか?

 二連戦でもやってるなら高速コンボで瞬殺されてない限りはまだファイトに間に合うかも知れない。

 それで相手のデッキが見れれば……

 

「うあああああああああ!」

 

「っ」

 

 突然の声。

 その方角にボードを構えながら、身体を向ける。

 

 そこにはそこらへんにあった部品や機材の残骸を押し寄せて起き上がる外套姿のって。

 

「カードに封印されてない!?」

 

 いや、違うのか。

 闇のファイトで負けたら必ずカードに封印されると思っていたがそうじゃないのか?

 

 

 

 ――プロフェッサーの時と同じように闇の領域が剥がれ落ちていく中で、マグラが現れた。

 ――擦り切れたビデオのようにノイズが走っているのは敗北のダメージからか、あるいは破壊されたダメージか。

 

 

 

「相手の心身をズタボロにするペナルティか」

 

 あるいは相手のカードとデッキを傷つけるような。

 そういう条件を施していたなら。

 

「ふざけるな! ふざけルなァ! オレは、オレが! 最強なんだ!」

 

 わめきちらしながら立ち上がる。

 さっきまでのファイト、最後の一撃の衝撃でボロボロになった外套に、千切れた包帯で。

 

 俺は、困惑した。

 

「お前、女だったのか……」

 

 そこにいたのは包帯の残骸で身体を覆った。

 明らかに俺よりも年下のガキ。

 いいところ中学生ぐらい、下手したら小学生ぐらいの子供。

 白と黒のマーブルのような髪に、吊り上がった目つき。

 その癖、子供とは思えない膨らんだ胸を揺らしながら息を吸い込んで、吠えた。

 

オレは男だ!!

 

 さっきまでの濁ってた声とは違う。

 きゃんきゃんした甲高い子どもの声。

 

「はぁ?」

 

 いやどうみても女だろ!? 子が付くが。

 

「次は、殺してやる!」

 

 わけのわからない言葉を叫びながら、手から取り出したのは真っ黒なカード。

 

 ――まだ闇のカードを持ってたのか!?

 

「くそが!」

 

 さすがに二戦目は身体も痛いから勘弁して欲しいんだが!

 飛び蹴りで中断させる!

 そう駆け出そうとした瞬間、視界が揺れた。

 

 建物が大きく揺れた。

 

 

「なっ?!」

 

「ひゃッ、なんだァ?!」

 

 地震のような揺れ。

 ギシギシとビル自体が音を立ててるって……やばくね? これ高層ビルだぞ。

 耐震基準クリアしてるよな?!

 

 ……信用出来ねえ! 悪のメガコーポだし!

 

「おいガキんちょ! マジで死ぬから外にでたほうがいいぞ!」

 

「うぇ?」

 

「出口はあっちだから!」

 

 慌てて近寄り、確保しようと手を伸ばして。

 

「……さわんな!」

 

 ベシっと叩かれた。

 

「オレにさわるなぁ! ばーか!!!」

 

 そう叫んで、手にしてた黒いカードを床に叩きつける。

 吹き出す黒いモヤに、慌てて飛び退く。

 

「あぶなっ!?」

 

 そして白髪のガキは飲まれて、消えた。

 

「っ、逃がしたか」

 

 逃げたってことなのか?

 

 便利だな、おい。オカルトていうかファンタジー全開だけどよ。

 

「……何が起きてるんだ?」

 

 

 未だに途切れない唸り声のような地響きに、小さな微震。

 それに俺は――なんかポットに閉じ込められている人たちの巨大装置を見上げて。

 気付いた。

 

 これ……なんとか解除しないとみんな死ぬのでは?

 

 どこかにあるだろうマニュアルを求めて走り出した。

 やばいって。

 大量見殺しになるってこれ!!

 

 

 

 

 

 

  ◆

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ」

 

 息を吐き出す。

 唾だけじゃない、なにか生臭いものも口から吐き出す。

 

 血だ。

 

 何度目かわからない吹き飛ばされた衝撃で、口の中を切ったのか。それとももっと奥からか。

 ズキズキと痛む下腹部、冷えていく手足、絞り出した生命力の消耗を、身体の重さと痛みで実感する。

 

 痛い。

 怖い。

 泣きそうになりながらも、横を見る。

 

「……ユウキ、まだやれる?」

 

 横には、私と同じぐらい。

 ううん、私よりもボロボロになりながらも、まだ二本の足で立っているサレンさんがいた。

 

 前だけを見ていた。

 

「……やれるよ」

 

 だから、私も立ち上がる。

 頑張って、出てきそうな涙を、歯を食いしばって我慢する。

 

「まだ私は、戦闘(ファイト)する!」

 

 負けられない。

 まだ私は一人じゃない、だから。

 

 

 

 

「まだ終わりませんか」

 

 

 

 私とサレンさんの前。

 

 幾度の闘争に荒れ果てた室内、それでも自分だけは一切の埃も汚れ一つもつかずに。

 

「私の時間はビジネス。一秒ごとに膨大なマネーを生み出す、無駄な時間はすなわち経済の損失、世界の損失」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「いい加減、打ち切りましょう」

 

 小さな体躯。

 細長く、仮面を着けたような平坦な顔つきの子供――冥牙・バベルの日本支部社長。

 

 

 

「私の【バベルデッキ】を越えることは誰にも出来ないのですから」

 

 

 

 温度を感じさせない淡々とした声で、そう告げた。

 

 

 

 





 その偉業は決して朽ちず輝ける
 我らが女王よ! 永遠であれ!

                   ――永遠の女王ドグラ
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