俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

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設定上存在はしていますが、放送という形では出なかった話です



二十一.五話(未放送パート)

 

 

 

 最上階へと登っていくエレベーターの中。

 そんな時だった、サレンさんがゴソゴソとフードの中で手を動かしたのは。

 

「ユウキ、これを渡しておく」

 

 そうして出されたのは十数枚のカードだった。

 

「なに、これ?」

 

 渡されたカードを見る。

 それはどれも妨害とか打ち消しとか、あと追加でカードを引いたりするドローカード。

 

「サイドボード。何枚か入れ替えておいて、その数枚ぐらいなら共鳴に支障はないはず」

 

「え、いいの? これ高いんじゃ」

 

 マークを見る。

 カードにはレアリティを示すマークが入っているんだけど、渡されたカードのマークはどれも銀とか金色。

 つまりアンコモン以上のレアカード。

 

「カードは使ってこそだから問題なし」

 

「でもこんなに渡したらサレンさんが困るんじゃ」

 

「ん? 大丈夫」

 

 そういって、えっ!?

 サレンさんが、いきなりフードの前のファスナーを降ろした。

 そして、開いたフードの内側には……引き締まったインナースーツの姿に、沢山のベルトで吊られたデッキケース。

 

「必要なら他のデッキや、サイドボードの予備もあるから問題ない」

 

「な、なんでこんなにデッキを?」

 

「傭兵ファイターの敵には色々いる。企業間の代理ファイター、教会の異端狩り、賞金首の討伐、相手のデッキに合わせてデッキを使い分ける必要がある」

 

 す、すごい。

 プロの……傭兵のプロって凄いんだ。

 

「その上で細かい調整(チューニング)に使うのがサイドボード。バベル社の社長ともなれば膨大な資産力がある、間違いなくレアカードで揃えたデッキを使う」

 

「お金でデッキを揃えるんですか」

 

「資金力もファイターの強さの一つ。一般的なファイターなら共鳴……ファイターの性質や縁、ファイターなら使いこなしてくれるという信頼に引き寄せられてカードは集まってくる。けどそれは絶対じゃない」

 

 そういって腰に着けていたデッキケースから一枚――ヴァイスファングを引き抜いて、サレンさんは別のデッキケースから取り出したデッキにヴァイスファングを入れた。

 

「強く、誰もが羨むカードを人は値段を付ける。生命に値段をつけるように」

 

「生命に値段……」

 

「そう。価値をつける」

 

 慣れた仕草でデッキにシャッフルを始める。

 私も慌てて、自分のデッキを広げて、何を取り替えるか考える。

 

 考えながらふと思った。

 

「サレンさん」

 

「なに?」

 

「サレンさんってなんでそんなに強いの?」

 

「引き分けにしか出来なかった私への嫌味?」

 

 コテンと首を傾げるサレンさんに、慌てて首を横に降る。

 

「ち、ちがう! 違う! ただサレンさんのファイトって他の人とは全然違うっていうか」

 

 今までファイトしてきた人たちはみんな引いたカード、手に握った手札を見て、それに合わせて戦っているように感じた。

 そうするのがファイトとしての普通だと思ってた。

 けど、サレンさんに、あとモブさんはなんか違う気がする。

 

 ハイランダーという誰にも真似できないようなデッキを使っているから?

 だからなんだろうか。

 それだけじゃない、少し色が違う……ううん、()()()()()()()()

 

「……私は負けず嫌いだから」

 

「えっ」

 

「だから近い内にユウキにもリベンジする」

 

「ええ!?」

 

 なんか恨まれてる?! そんな!?

 

 なんて思ってたら、サレンさんの口元がゆっくりと横一文字から綻んだ。

 

「冗談じゃないけど、まあそれだけじゃないかも」

 

「冗談じゃないんだ」

 

「私が可憐な一般美少女だった時のせいだと思う」

 

「かれんないっぱんびしょうじょ」

 

 サレンさん……

 もしかしてかなり面白い人なの? いやまさか、クールなプロフェッショナルの。

 

「その時、私は公園でぶいぶい言わせていた一般美少女ファイターだった」

 

「ぶいぶい」

 

「カードを握れば負け無し。鉄棒の逆上がりも出来たし、ブランコでも一番高い高さまで漕いでちょっと泣いた」

 

「泣いちゃったんだ」

 

「そんなある日、いつものように公園で新人らしい年上の坊やとファイトしてボコした」

 

「歳上なのに坊やなんだ」

 

「今から見れば坊や。ちょっと苦労したけど、まあ私はかなりつよつよだったから勝ったんだけど、そいつが二戦目だといってリベンジしてきた」

 

「リベンジされたんだ」

 

「そしたら負けた」

 

「負けちゃったんだ」

 

「私はちょっとだけ、そうちょっとだけ怒った。だってそいつは二戦目の時、デッキを弄ったんだ」

 

「弄った?」

 

「うん。自分のデッキからカードを入れ替えて、全然違う動きをするやつにしてた。それで私は二回目にギリギリ負けてしまった」

 

 惨敗したんだろうなあ。

 

「まだ裏の汚さも知らない無垢な私は怒った。卑怯だぞ、なんだそれは! とそれはもう正義の心で怒った」

 

「正義って言えば何でも通るわけじゃないよね」

 

「そいつはサイドボードだと教えてくれた。15枚だけ、デッキを修正するための備えだって。当時の私はびっくりした、デッキは一度完成したらそれまでだって。あとは日々強化していくだけだろうって、その場凌ぎで交換とかありえないって思ってた」

 

「確かに」

 

 デッキは基本的に今考えられるベスト。

 自分が考えて、手に入れて最強のデッキだ。

 それをその場で入れ替えたり、変更するなんていうのは、その……なんていうか、不純だと思う。

 デッキに真摯じゃないというか……

 

 

「――君に勝ちたい」

 

 

「え」

 

「君のデッキに勝ちたい、戦うために最適化する。そのための努力だ、なんてしらっと言われたんだ」

 

 それは。

 なんていうか。その……

 

「しらっと?」

 

「しらっといわれた」

 

 なんていうか、うわわわって思った。

 いやそんな気は、子供だからないと思うけど、うん。

 

「だから、私は自分のデッキで何が入れ替えても大丈夫か、何を入れ替えればどう動けるか、考えながら構築してる」

 

「そうなんだ……」

 

 サレンさん。

 いろんなデッキを使ってるから愛着とか、こだわりがないと思った。

 けど違う。

 どんなデッキにもたくさんこだわりを、一つ一つに神経を注いで造ったんだ。

 だからきっとどれも強い。

 

「……ところで、そのサイドボードの人ってどんな人なんです?」

 

「知らない」

 

「えっ」

 

「特に特徴のない顔だったから覚えてない……いつかボコボコにする」

 

 むんっ、とかわいく力こぶのポーズするサレンさん。

 

 この人、なんていうか可愛いなぁと思った。

 

「あ、そろそろつくよ。準備は?」

 

「出来てます!」

 

 デッキの枚数を数え直し、自動じゃないシャッフルをなんとかこなしてからケースにしまう。

 

 さあ、次が多分最終決戦だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パスワードをメモで張っておくな、ばか!! ありがたいけど!!」

 

 

 くそ。

 この企業、情報管理意識が一昔前だわ!!!

 

 この間店長に怒ったところだよ、これ!






 この扉には鍵がない。
 押しても開かず、引いても開かず、呪文の施されている様子もない。
 しかし壁ではない
 なんという完成された封印なのだ! これを破るには膨大な時間が必要だ

 がらら・・・


                     ――横滑り
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