「・・・・・・・・おはようございます。」
「「「「お・・・・・・おはよう。」」」」
昨夜の騒動から一夜明け
【ファミリア】の皆が朝食を食べる為に食堂に集まる中、ベルは一番最後に現れて挨拶をした。──ドンヨリと重い空気を纏って。
これにはアリーゼ達も動揺したが、挨拶をしてくれたのだからと彼女たちも何とか声を発し、ベルへ挨拶を返す。
ベルはその後、トボトボとした足取りでアリーゼ達の前に来ると、唐突に頭を下げた。
「昨日は、見苦しいところと粗末なものを見せてしまって、大変申し訳ございませんでした・・・・。」
「き、気にすんなよ、ベル!あれは・・・ほら事故みたいなもんだからさ!」
「そうですよ!それにどちらかと言うと悪いのはアリーゼと輝夜ですから、ベルが謝ることはありません!!」
「そうよ!ベルのは粗末なものなんかじゃないわ!」
「えぇ。何処に出しても恥ずかしくない立派な逸物でしたよ。」
「おい!あの二人を黙らせろ!そういうことじゃねぇんだよ!」
ベルの謝罪にネーゼ、セルティが慰めの言葉をかけるが、アリーゼ、輝夜が見当違いな慰め方をし、ライラがキレる。
一方、ベルはというとアリーゼと輝夜の言葉が見事に
「うぅぅ・・・。もうお嫁にいけない・・・・。」
「いや、お前の場合はお婿じゃねえか?」
「だ、大丈夫よ、ベル!お婿さんの貰い手なら此処にたくさんいるよ!」
「そうだよ!だから、その、元気出して!!」
酷く落ち込むベルにライラが突っ込み、ノイン、アスタが再び慰める。
そんなベルの様子にアストレアも堪らずといった様子で口を開いた。
「ベル、そんなに落ち込まないで。貴方は悪くないわ。」
そう言うと、一旦言葉を区切り、アリーゼと輝夜を交互に見る。
「貴方達、なにか言うことは?」
「ベル・・・その、ご免なさい。冗談が過ぎたわ。」
「すまん、ベル。少し調子に乗りすぎた。」
二人も流石にやり過ぎたことを自覚したのか、いつもの二人らしからぬ声で謝罪する。
アストレアはそんな二人の行動に満足そうにうなずくと、再びベルの方へ向き直る。
「二人も反省しているみたいだし、許してあげてくれないかしら?」
「・・・・・アストレア様、許すも何も僕は怒ってませんよ。」
「えっ、そうなの?」
「はい、ボクハキニシテマセンヨ。」
((((いや、嘘やん。))))
怒ってはいないのだろう。
だが、気にしているのはバレバレである。
というか、さっきの
ベル・クラネル──彼は嘘のつけないヒューマンであった。
しかし、当の本人は嘘であることがバレていないと思っているのか、自分用の席に座ると食事を素早く済ませ、既に準備してあった装備一式を担ぐと「今日もリリと約束があるので、いってきます。」と言って
彼のいなくなった本拠は、なんとも言えない空気に包まれた。
「・・・・あれは大分引きずってんなぁ・・・。」
「ど、ど、ど、どうしよう!ベルに嫌われたりなんかしたら・・・私、私!」
「アリーゼちゃん、落ち着いて。」
「それだけベルの心の傷は深いということか・・・・。かくなる上は私の体を好きに───。」
「「「「そういうお詫びの仕方はやめろぉ!」」」」
「ぬうっ!?」
「じゃあ、私特製の料理を振る舞って──。」
「「「「やめろ、アリーゼ!!ベルを殺す気か!」」」」
「はうっ!?」
動揺し過ぎたせいか、懲りずにまた『そっち系』の奉仕をしようとする輝夜と、とてもじゃないが喰えたもんじゃない料理を出そうとするアリーゼに本拠は一時騒然となった。
「はぁ・・・・。」
ダンジョンへ向かう道を歩きながら、僕は溜め息をついた。
本拠ではああ言ったが、僕は昨日起こったこと大分気にしていた。
怒っていないのは事実である。僕はどちらかというと痴態を見られたことを気にしていた。
(好意を向けてくれるのは嬉しいけど、やっぱり恥ずかしいんだよなぁ・・・・。)
僕だって男だ。
異性や『そういう事』に興味がないと言えば嘘になる。
だが、いざ目にしてしまうと恥ずかしさから顔が熱くなり、何も考えられなくなってしまう。
(それに昨日みたいなことはもっと段階を踏んでから・・・・。そっ、それこそ、キ、キ、キスとかしてからやるべきことなんじゃ・・・・。)
そんなことを考えるだけで、顔が熱くなる。
そんな風に一人で勝手に顔を赤くしていると──。
「ベルさん。」
「は、はい!?って、シルさん?」
不意にかけられた声に、僕は少しオーバー気味なリアクションをしてしまうが、声をかけてきたのは知己の人物──シルさんだった。
「どうしたんですか?」
「それはこっちの台詞ですよ。思い悩んでいたようなので声をかけたんですけど、何かあったんですか?」
「・・・できれば聞かないでくれると有り難いです。」
「は、はぁ・・・・。」
目から光を消して答える僕に、シルさんは戸惑ったような声を上げているが、言える訳がない、「昨日混乱状態で裸のまま本拠内を走り回るという痴態を晒したので、落ち込んでいるんです。」なんて。
彼女はそんな僕を心配そうに見ていたが、突如何かを思いついたような顔をすると僕に「ちょっと待っててください!」と言って店の奥に引っ込んでしまう。
暫くして、再びシルさんは僕の所まで駆け寄ってくる。
その手に一冊の本を抱いて。
「ベルさん、読書ってなさいますか?」
「え?ま、まぁ多少は。と言っても僕の場合、読むのはもっぱら英雄譚ですけど。」
「なら気分転換に読書などしてはどうでしょうか?」
そう言うとシルさんは持っていた真っ白な本を差し出してきた。
「これは?」
「お客様が忘れていった本です。もっともこれは英雄譚じゃないみたいですけど。」
「え”、それって大丈夫なんですか?」
「ちゃんと返していただければ問題ありません。本は読んだからといって減るものではないですし。それにこれはきっと冒険者様のものですから、ベルさんのお役に立つことが載っているのかも。」
その言葉を聞き、僕の心に迷いが生じた。
一刻も早く強くなりたい僕にとってそういった『役に立つ知識』というのは是非とも欲しい。
見た目からしてかなり珍しそうな本のようだし、今しか触れられる機会はないのかもしれない。
でも、人のものをかってに読んでしまうわけには・・・・。
「大丈夫ですよ。それにミアお母さんはこの本を店に置いておくのをあまり快く思っていないみたいで・・・・。」
シルさんが目線を店の奥へと向ける。
それに倣う形でそっちを見ると、確かにミアさんが不機嫌に此方を見ている。
「なので、ベルさんが預かってくれれば、私達も助かります。・・・・それに」
シルさんは、はにかんだ。
「私もベルさんの力になりたいかな、なんて。」
「えっ?」
「ダメ・・・・ですか?」
そう言うと僕の事を上目遣いで見てくるシルさん。
そんな彼女に思わずどきり、としてしまう。
そして、そういうことなら甘えちゃおうかな?と。
シルさんの心遣いを邪険にしたくなくて、僕は本を受けとることにした。
「あ、ありがとうございます。えっと、じゃあ、僕もういきますね?」
「はい!いってらっしゃいベルさん。」
そう言って僕はシルさんと別れた。
シルさんと別れた後、僕はリリとの待ち合わせ場所である
(リリは・・・いないな。ちょっと早く来すぎたかな?)
周りを見渡して
「あっ、そうだ!どうせなら・・・・」
さっきの本を読んで待とう、と僕はバックパックの中を漁ると借りた本を取り出す。
題名の記されていない白い本の表紙をパラパラとめくる。
『自伝・鏡よ鏡、世界で一番美しい魔法少女は私ッ ~番外・めざせマジックマスター編~』
どうしよう、そこはかとない地雷臭が。
『ゴブリンにもわかる現代魔法!その一』
ゴブリンに魔法教えちゃ駄目だろ・・・・。
表紙を静かに閉じたくなったけど、シルさんの厚意を無駄にするわけにもいかず、僕は辛抱強く連なっている文字を追っていく。
しかし、出だしはちょっとアレだったものの、中身は割りと健全のようだった。
章のタイトルに記されているようにどうやら魔法に関する書物らしい。
僕は「おおっ」と目を光らせてこれ幸いと本の中にのめり込んでいく。
『魔法は先天系と後天系の二つに大別することができる。先天系とは言わずもがな対象の素質、種族の根底に関わるものを指す。古よりの
でも、一文一文の間に細かく走っているこの文字って何だろう。
文言・・・・じゃなくて、数式かなこれ?
ページをめくる。
『後天系は『
【
不思議と・・・文字の海に引きずりこまれるような気がする。
ページをめくる。
『魔法とは興味である。
【絵】が現れた。
顔がある。目がある。鼻がある。口がある。耳がある。人の顔だ。
真っ黒な筆跡で編まれ描写された、瞼の閉じた人の顔。文章の絵。
ページをめくる。
『欲するなら問え。欲するなら砕け。欲するなら刮目せよ。虚偽を許さない醜悪な鏡はここに用意した。』
違う。【僕の顔】だ。額から上が存在しない僕の顔面体。
違う。【仮面】だ。僕のもう一つの顔。僕の知らない、もう一人の
ページをめくる。
『じゃあ、始めよう。』
瞼が開き、
文字で綴られた
ページをめくる。
『僕にとって魔法って何?』
そんなものは決まっている。
それは憧憬。
モンスターを倒す必殺技。英雄達が使いこなす起死回生の神秘。
──
──
そこからくる純粋な憧れ。
『僕にとって魔法って?』
力だ。
強い力。
脆弱な自分ごとやっつける大きな武器。
惰弱な自分を奮い立たせる、偉大な武器。
自らの『理想』のために立ちはだかるあらゆるものを打ち破って道を切り開く、英雄達の力。
ページをめくる。
『僕にとって魔法はどんなもの?』
もの?
魔法ってどんなもの?
雷だ。
魔法と聞けば雷。真っ先に思い浮かぶのは雷。
『自ら目映い光を放ち、身に纏えば目で追えぬ程早く駆け、放たれればあらゆるものを貫く。』
それが雷。
僕は雷になりたい。
『魔法に何を求めるの?』
より強くなること。
それこそお義母さん達を越えるような──英雄になるために。
『・・・・茨の道を選んだなぁ。』
・・・・ごめん。
だけどなるって決めたんだ。
あの日、お義母さんの目の前で。
『知ってるよ。だって、
本の中の僕は、最後に微笑んだ。
そして直ぐに、僕の意識は暗転した。
「──様。──ル様ッ」
声が、聞こえる。
真っ暗な意識の中で響く、聞き覚えのある声。
徐々に暗闇に光が差してくる。
「ベル様!」
「んぁ・・・・リリ?」
「はい、そうです、リリです。どうしたんですか、ベンチで熟睡するなんて?いくらベル様でも風邪ひいちゃいますよ。」
すぐ近くにあるリリの顔に、僕は寝ぼけ眼をこすり、ふわぁぁと欠伸をする。
顔を上げて周りを見渡す。
場所は中央広場。時間は先程より30分ほど進んでいる。
未だにボーっとする頭で、一つ一つ状況を確認していく。
「待っている間に本を読んでいたのですか?・・・・なるほど、慣れないことをしたので睡魔に敗北してしまったのですね?」
「な、慣れないことって・・・・僕も本くらい読むよ!」
「そぉなんですかぁ?でも、大方英雄譚なのでしょう?」
「うっ!」
「フフッ、その反応は図星ですねぇ。」
リリに痛いところを突かれ、うめき声をあげるとリリが得意げに笑う。
確かにリリの言う通り、いつもは読まないような本を読んでいたため、いつの間にか寝てしまったのかもしれない。
当の本は僕の膝の上で開きっぱなしになっていた。
(読み終わったのかな?)
こめかみを押さえ、先程から脳裏を掠めているあやふやな記憶を辿ろうとするが、まるで白昼夢のように現実味がなかった。
それとも全て夢だったのだろうか?
「まぁ、私はベル様の可愛い寝顔をみれたので役得でした。」
「なっ、リリ!からかわないでよ!」
「あははっ、ムキになっちゃって。ますます可愛いですよ、ベル様~。」
「~~~っ!もう!早くダンジョンへ行こう!」
「は~い。」
恥ずかしさから逃げるように話を切り上げ、後ろをついてくるリリと一緒に僕はダンジョンに入って行った。
──その日、モンスターへ振るう攻撃が少し八つ当たり気味になってしまったのは、言うまでもない。
話をしよう。
諸君は土下座なるものをご存知だろうか。
──
──
など、神々の中でも色々な意見がある。
なぜ急にこのような話をしたのかというと──
「べ、ベルさん!頭を上げて下さい!」
「・・・・・。」
場所は豊穣の女主人。
ベルは今、現在進行で土下座していた。
そんな彼の姿にシルは狼狽え、ミアは大きな溜息をつき、少し遅れてやってきたアリーゼとアストレアは困惑していた。
何故、こんな事態になったのか。
それは遡ること数時間前──
「・・・・・ベル、貴方に魔法が発現したわ。」
「えっ!?」
ダンジョンでの探索を終え、本拠に戻ったベルはいつも通りステイタスの更新を行っていた。
そんな時、アストレアの手が急に止まり、衝撃的なことを口にしたのだ。
「ほ、本当ですか!」
「ええ、ほら。」
驚きの声をあげるベルに、アストレアは微笑みながら【ステイタス】が書かれた羊皮紙を渡す。
ベル・クラネル
Lv.1
力 :D523→D591
耐久 :G201→G221
器用 :B790→A820
敏捷 :C622→C693
魔力 :D532→D580
魔導 :I
狩人 :I
耐異常 :I
魔防 :I
破砕 :I
精癒 :I
剛身 :I
覇光 :I
覇撃 :I
《魔法》
【ユピテル・スプリム】
・
・雷属性
・
・詠唱鍵【
《スキル》
【
・スキル、魔法及び発展アビリティの任意継承。
・継承条件は自分の血族が持つ
【
・早熟する。
・誓いが続く限り効果持続。
・誓いに対する想いの丈により効果向上。
【
・
【
・常時、耐異常及び耐久に超高補正。
・危機的状況における、全能力の極高補正。
「!!!」
ベルは必死で声を抑え込む。
アストレアから渡された羊皮紙を両手で持ちながら、溢れ出しそうになる歓喜を噛み殺す。
──僕の、魔法。
──叔父さんでも、お義母さんのでもない、僕だけの魔法。
そう考えるだけで、ベルの目は輝き、口元がにやけてしまう。
「アストレア様!僕、魔法が使えるようになりました!!!」
「おめでとう、ベル。」
「アリーゼさん達にも伝えてきます!」
そう言うとベルは神室を飛び出し、団欒室へと向かった。
そんな彼の後ろ姿をアストレアは微笑ましそうに見ていた。
その後、今朝の落ち込みようが嘘であったかのように嬉しそうに魔法が発現したことを伝えてくるベルを見て、「この子結構チョロくね?」とアリーゼ達は少し心配になった。
ここで終われば「可愛い
──だが、話はここで終わらないのである。
「やっぱりシルさんから借りた本のお陰かな?返しに行く時にお礼を言わなきゃ!」
「「んん?」」
ベルが何気なしに放った言葉に、
二人は顔を見合わた後、ベルへ近づき詳しい事情を聞く。
ベルが二人にシルから借りた本の話をすると、二人の表情は見る見るうちに険しいものへと変わっていった。
「ベル、その借りた本というのを見せてくれませんか?」
「えっ?は、はい。」
話を聞き終わった後、頭を押さえているリャーナに変わってセルティが口を開く。──顔を引きつらせて。
ベルから本を受け取った彼女はペラペラとページをめくっていくが、すぐに「やっぱり・・・・」と言ってパタンと本を閉じる。
「ベル、これはグリモアです。」
「・・・・ぐりもあ?」
「はい、
「・・・それって、
「はい。よく知ってましたね、ベル。」
ベルはアルフィアから聞いたことがあった。
『発展アビリティ』である『魔道』と『神秘』を極めたものだけが作成できる『奇跡』の詰まった本がある。と──
当時のベルは「そんなすごい本があるの!?」と目を輝かせていたが、当のアルフィアは
「といっても発現せんときもあるぞ。──事実、
「あの子の苦しみを和らげる魔法の一つでも発現すれば良かったものの・・・・。肝心な時に役に立たないガラクタめ」と悲しげな声色で発せられる言葉に、ベルは先程までとはうって変わって悲しげに目を伏せた。そんなベルの様子に気付いたアルフィアは「すまん、少し湿っぽくなってしまったな。」とベルの頭を優しく撫でた。
暫くそんな和やかな時間が続いていたが──
「そういえばザルド。ベルの父親──あの
「・・・・・」
アルフィアが蛇蠍の如く嫌うベルの父親の事を、とてつもない罵倒を織り交ぜながら訪ねる。
ザルドは夕食のスープが入った鍋をかき混ぜるのを止め、お玉を鍋の取っ手部分に立て掛け、エプロンを脱ぐと微妙そうな顔をしながら口を開く。
「勿論あいつにも何冊かやったさ。・・・・だがあいつはそれを読まずに売っぱらった後、その金で歓楽街へ行ってたんだ。──
それだけ言うとザルドは物凄いスピードで家から出ていった。
その行動を見て、何かを察したベルは恐る恐るアルフィアへと向き直る。
──そのときアルフィアの顔をベルは今でも忘れない。
凍りつくその場の空気、まるで汚物を見ているときのような死んだ魚の目、なによりアルフィアから漏れだす隠しきれない殺気。
自分に向けられたものではないもしても、至近距離でそれを見て、感じてしまったベルは金縛りにあったかのように身動きがとれなかった。
やがてアルフィアは座っていた椅子から立ち上がると、家の奥へ──
それからゼウスがどうなったのか、ベルは知らない。
ただ、アルフィアがゼウスの部屋に向かったすぐ後に「ま、待たんかアルフィア!もとはといえば誘ったのはあいつじゃ!だから、ワシは無じ──「
という悲鳴と凄まじい轟音が聞こえてきたが、ベルは全力で聞かなかった事にした。
──余計な出来事まで回想してしまったが、話を戻そう。
つまり魔導書は二種類の『発展アビリティ』修得者によって作られた、かなり高価な品物であるということ。
しかも、一度読んでしまったため効能は消失し、只の
「「「「・・・・・」」」」
先程までのお祝いムードが一転し、重苦しい沈黙が本拠を支配した。
「・・・・ぼ、僕!シルさんに事情を説明してきます!!!」
「ちょ!ベル!?」
やがて、沈黙に耐えかねたのか当事者であるベルがアリーゼの静止を振り切り、本拠を飛び出す。
向かう先は豊穣の女主人。
夜も更け、人影が疎らになっている道をベルは全力で駆け抜ける。
そして目的地に着くや否や、綺麗な流れで土下座へ移行。
シル達を困惑させた。
そして現在、相も変わらず土下座をし続けるベルをみかねたのか今まで黙っていたミアが、口を開く。
「いい加減にしな坊主。読んじまったもんは仕方がないだろう。」
「で、でもぉ・・・・。」
「大体、こんな大層なもんをどうか読んでくださいとばかりに店に置いていったヤツが悪いのさ。グズグズしてないで得したくらいに思っときな。」
「えぇ・・・・?」
「・・・・・どうします?アストレア様。」
妙に説得力のある言葉にベルが口を閉口させる中、アリーゼは自らの主神にどうするか訪ねる。
流石にお咎めなしとはいかないだろうな、とアリーゼが考える中、アストレアは「そうねぇ・・・。」と頬に手を当てて、少し考えたような素振りをする。そして──
「知らんぷり、しちゃいましょうか。」
「「え!?」」
悪戯らっぽい笑みを浮かべながら、意外な言葉を言い放つ。
そんな『正義』を司る神らしからぬ発言をした主神にアリーゼとベルが豆鉄砲を食らった鳩のように硬直している中、アストレアは言葉を続ける。
「勿論、持ち主が名乗り出たら弁償しなくてはならないわ。でもミアの言う通り、魔導書はとても貴重なものだから、なくしてしまった時点で諦めてしまっていると思うの。だからといって、大々的に持ち主を探そうとすれば自分のものだって嘘の証言をする子達だって出てくるでしょうしね。」
「それは・・・・・。」
「それに、あの魔導書は本当に
そう言うとアストレアはシルに視線を向ける。
シルはその視線に対して、動揺した様子もなく笑みを返す。
疑問に思ったベルがその言葉の意味を問おうとすると、突然ミアが手を叩いた。
「あんたらんとこの主神もそう言ってんだ!そんな事とっとと忘れて帰んな!今日は店じまいだよ!」
そう言って、シッシッと手を払う。
アストレアも「ミアもああ言ってるし、私達もお暇しましょう。」と言って店から出て行く。
その後ろをベルとアリーゼは釈然としない思いを抱きながら追いかけた。