盤外の英雄


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作:現魅 永純
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悪神の恩恵


 

 

 

 ───夜?

 否だ、あり得ない。今の時間帯をなんだと思っている? ついさっき朝が訪れたばかりだ。急激に夜へと変化するなどあり得るはずがないだろう。そもそもこれを夜と呼んで良いのか? あまりにも暗過ぎる。夜ならば月明かりの一つでもなければ可笑しいだろう。

 夜と認めたくはないが、単純に陽が雲に覆われるだけでは判断できない暗闇。しかし夜として認識しようにも、月明かりの一つとしてない深淵の闇とも言える暗さ。

 

 神の恩恵を受けて視覚が優れていること。そして都市に配置された街灯魔道具の光が照らしているからこそ、見えない訳ではない。しかし、当たり前に存在していた光の唐突なシャットダウンは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 フィン達冒険者はもちろん、神々も目を見張り、そして闇派閥の一員でさえ、この異常事態に順応する事は出来ない。

 

 そんな中ただ一人、神すら超える勘を持つ一人の勇者は思った。

 

 

(……凡そ仁智に及ばない異常事態。モンスターであったとしても、恐らく不可能。下界では及ぶ事の出来ない、()()()()()()()()

 

 

 フィンがその考えに至ると同時に、多くの神々も悟った。これは神の力だと。少なくともオラリオ側は何柱かを除き、一般市民達と同じ場所に集められている。故にそれぞれが感じ取れる限り、地上側……言わば冒険者側の神々が使ったとは到底思えない。

 つまりこれは、“悪”側の力。

 

 

「……」

「ウラノス、この神の力はダンジョンから発生されてるものだ! 感知しているならば即刻天界へ送れるだろう!」

「……出来ない」

「なに?」

 

 

 ベル・クラネルの監視を続けていた黒ずくめのローブを被る男……フェルズは、作戦が作戦だからこそ今は離れている。ギルドの奥にいるウラノスに自分が理解している限りの情報を発せば、ウラノスは「無理だ」と断言した。

 何故? 下界での神が行えるルールを定めている以上、その規定内にある神の力の使用は送還対象となる筈。肩入れをするはずも無い神格のウラノスが悪側に寄り添うはずも無い。一体どんな理由あっての事かと問い詰めれば、ウラノスは苦い顔を見せながら言い放つ。

 

 

「紛れもなく神の力、しかしこれを発動しているのは神では無い。『神が神の力を使う規則違反』ではない故、送還しようと思おうが出来ないのだ」

「なっ……ウラノス、一体なにが見えている!? 神以外に神の力を使用する者など……、……っ」

「ああ、神が喰われた」

 

 

 ウラノスの断じる言葉に、フェルズは絶句する。

 

 

「……ヘファイストスを呼べ。神創武器の召喚を行ってもらう」

「待てウラノス、それは下界のルールに抵触する行為だ! 他の神が止まらなくなる! 理由はどうであれ、相手の神の力は下界の規則に触れてないんだ! 此方からルールに抵触したとみなされるぞ!?」

「だが、神の力に対抗出来るのは同等の神の力のみ。子供の可能性を広げるだけの恩恵では対抗出来ない」

 

 

 そう。恩恵はあくまで恩恵。可能性を広げ、才を明確にし、冒険した分の経験値を能力値として昇華させる……言わば対価が当たり前に現れるだけの力に過ぎない。

 もちろんレベルを上げれば上がるだけ、神の存在に近付くとも言われる恩恵だ。それこそ前代未聞の10にまで届けば、単身で相手出来る程の能力があるかもしれない。しかし今の世界に於ける最大レベルは7。更にそのレベル7は敵に回っており、オラリオ側の戦力ともなれば6が限界地点。

 

 ウラノスは冷静だ。冷静故にその思考を素早く回し、成すべき事を正確に判断出来る。

 このままでは世界そのものが滅びるだろう。ならばその前に、原型程度は保つ為に神の力を使用してなんとしてでも止める。それが最善。それはフェルズも理解している。しかしフェルズは、手をギュッと握り締めると、ウラノスを真剣に見つめた。

 

 

「……少し、少しだけ待って欲しい。30……いや15分でいい。どうか判断を待ってくれ、ウラノス」

「なに?」

「私は一つ賭けを行いたい。神の力を使って下界に混沌を齎すのであれば───神の力を使用せずに災厄を倒す、その可能性を信じる気にはならないか? 下界の子供の可能性に賭ける、その勇気を見せてくれないか? ウラノス」

 

 

 自分でも無謀な賭けだと分かっている。その15分を無為に振り、無駄に破壊をばら撒く最悪の可能性へと成り果てる可能性の方が高いのは承知の上だ。

 それでもフェルズは信じたい。

 

 

「……フェルズ、あの白い少年に何を見た?」

「特別なものは何も。私が見たのは、当たり前に【猛者】に負け、当たり前に笑い、当たり前に願望を語る……ただの人間だ」

「……ならば」

「だからこそだよ、ウラノス。神々(キミたち)が見たいと思った『変化する下界の民』は、時に神の力をも超える【想いの力】を見せるんだ」

 

 

 何処までも平凡。レベル5という、冒険者の中でも指折りの実力者でありながら、そのステイタスを除けば特別な力なんて何もない。その平凡さで英雄へと成り上がった“想い”は、決して蔑ろにしていいものではないのだと。

 だから賭ける。賢者(フェルズ)ですら見通せない、人の想いという力に。

 

 

「私は信じたい。下界の可能性を」

 

 

 

♢♦︎♢

 

 

 

「ァア───ッ!!」

 

 

 ヘスティア・ナイフを一閃。斬った手応えはあり、しかしすぐに再生される。皮膚の硬さ、敏捷、力……確かに多少の変化があるのは感じられる。でも基礎能力値(ポテンシャル)はあくまでレベル7の枠に当て嵌まってる状態に過ぎない。

 攻撃が通じるなら、迷ってる暇はない!

 

 

「【ファイアボルト】!」

 

 

 ヘスティア・ナイフに向けて魔法を発動。タイミングを見極めて、ヘスティア・ナイフに魔法が着弾すると同時に英雄願望を発動させる。

 リン、リン───鐘の音と雷音が重なり合い、収束する炎雷は猛りを募らせていく。チャージは何分にすべきだ? 5分以外はあり得ない。生半可な攻撃が通じるとは思うな。威力・範囲の両方が水準を満たしていない限り、再生するモンスターは決して倒せない。ゴライアスの時にそれは体験しているはずだ。

 

 ……恐れるな、成長しろ。強くなる為に、何度でも自分の概念をぶち壊せ! 英雄願望収束部位の使用しながらの維持を可能とした今なら出来る筈だ! 時間を稼ぐ為に、恐れず挑戦しろ!

 僕は、英雄願望を発動させ魔法と斬撃のチャージを行なっているヘスティア・ナイフを、迫ってきた爪に対して振るう。

 

 

『グルァアアアアアッ!』

「───! いけ、る……っ!」

 

 

 赤い炎の跡を空中に描きながら振るったナイフのチャージは、尽きていない。その上ナイフ自体の威力は段違いに飛躍している。今まで攻撃しても弾かれるだけだった爪が、さっきの炎を纏ったナイフでは焼き切るように切断出来た。

 擬似付与。通常のエンチャントの様な身体付与や通常武器への付与は難しいけれど……魔力伝導率の高いミスリルを素材にして作られている装備に限れば、通常のエンチャント同様に武器の常強化が可能になる。一撃一撃の威力を上げる短時間での英雄願望発動ではなく、英雄願望の蓄力(チャージ)時間を稼いだ上での武器強化。これなら充分にやり合える。

 

 振るう。雷速に劣らない炎刀を何度でも振るう。再生しようが関係ない。幾ら神殺しのモンスターでも、神の力を有しているモンスターだとしても、無限再生なんて出来るはずがない。その能力を扱うためのリソースは必ず存在するはず。ならばそのリソースを極限まで少なくした上で、必殺の一撃を放つ。

 ───? 気のせいか。今速さが増した……違う気のせいじゃない。速さも、力も、硬さも、明らかに能力値の向上が図られている。なんで今更っ、神が取り込まれた直後にリソースを回していたならもっと早い段階で強くなっていたはずだろ!?

 

 神の力のリソースを此方に回していなかった? 別のところに回していたから、此方に回す余裕がなかった? じゃあ一体、その神の力は何処に……、……っ! 地上への伝搬! アルテミス様の時と同じだ、地上での展開が行われている!

 でもそこにリソースを使っているなら、【正体不明(アンノウン)】に回す神の力のリソースなんて残ってる筈が……いや違う、考えろ。もしこれが神の力によって展開された権能の効果によるものだとしたら、神のリソースを直接【正体不明(アンノウン)】に回す必要なんてない!

 

 エレボス様の司るモノは───暗黒地下。あの男神自身が名乗った時に聴いたから覚えている。という事は、神の力の作用で地下世界そのものがエレボス様の支配下となって……あの地上への神の力の伝搬が、()()()()()()()()だとしたら?

 そして【正体不明(アンノウン)】の強化が続いている現状を思えば、エレボス様の権能は、支配下にある地下世界から生まれた生命の強化……! だとしたら不味い、地上にいる全てのモンスターが強化種となる程の変化があるかもしれない! 一体一体の強さが1レベル上のモノだと仮定すると、今まで間に合っていた補助が間に合わなくなる……!

 

 速く、速く溜まれ! 時間が固定概念だと分かっている、それでも速く5分の時が過ぎて欲しいと願ってしまう。アルテミス様の時は一撃で滅ぼせるだけの威力を一定時間まで溜める猶予があったけど、今回は超高域補正の乗用化だ! 一定時間なんて余裕はない!

 下手したら、もう陣形は崩壊し始めてる───

 

 

「───ッ」

 

 

 ダメだ、まだ放つ訳にはいかない。フィンさんを信じろ。自分は万全の準備を済ませた上で、必ずこのモンスターを討つ!

 残り───1分。

 

 右手に持つヘスティア・ナイフは決して離さず、左手に二つの短剣を装備する。握れはしないから指と指の間で挟み、二つの内の一つ、水色の短剣を眼に投擲。もちろんモンスターはそれを弾くけど、水色の短剣に付けられた煙幕が発動してモンスターの姿を覆う。

 同時に僕は聴覚・味覚の二つを極限まで薄れさせ、その分の神経を触覚に回して強化。左手をアイテムポーチに回して、アスフィさんが作成してくれた音響魔道具を投擲。モンスターの付近で発動されたそれは聴覚を塞ぐ。これで相手が使用できる五感は嗅覚と触覚と味覚のみ。

 

 僕は強化された感覚と、先ほどまで居た場所の記憶を頼りに飛躍。左手の純白の短剣を突き刺し、右目を潰す。同時に回転、左手を右腰に回し、左目にも勢いそのまま突き刺す。

 どうせ時間があれば再生するだろうけど、少なくとも突き刺さった状態ならば多少の引き伸ばしはできる筈。そして顔に乗ってる状態から背中へと移動。背中にも口と歯があるからそれを踏まない様に注意し、羽の下に移動し───ヘスティア・ナイフを振るった。

 

 

「かっ、たい……!」

 

 

 徐々に硬さが増している。元々柔らかい装甲ではなかったけど、このモンスターの特性か。速さは兎も角、力と硬さは最初に比べて全然違う。下手すればレベル8のポテンシャルに届きかねない。これ以上強化されるなら、もう打つ手がなくなる。

 でも───溜まった。

 

 この位置では自分まで巻き込まれる。跳躍してモンスターの真正面に移動。ナイフを構える。

 煙が晴れると同時にモンスターは僕を襲ってくる。流石にこのナイフを脅威と判断したか。でも遅い。僕は触覚の強化を視覚へと移し、動体視力を極限まで強化する。このナイフの威力を最大限ぶつける為に、ギリギリまで引き寄せて───ナイフが当たるタイミングで、振るった。

 

 

聖火の英斬(アルゴ・ウェスタ)ァァアアッッ!!

 

 

 白い炎、白い雷。収束された炎雷と斬撃は、正体不明(アンノウン)を飲み込む波として放たれる。確かな手応え。触れた側から消滅していくモンスターの身体。

 それを見て僕は目を見張り、そしてポツリと呟かれた言葉を拾った。

 

 

「ああ───」

 

 

 それは、アルフィアさんの絶望の声。

 

 

「やはりダメだったか」

 

 

 ───間違いなく倒せるだけの威力はあった。恐らく、神の権能で耐久力が強化されてなければ、魔石だけを残して外殻の全てが消滅していた。

 でも強化された硬さが、炎雷の波が数十センチ進む毎に一瞬だけ塞き止めて、消滅した部分の再生する猶予を作る。結果現れたのは、万全な状態……いや、それどころか、この短時間で更に強化された、正真正銘()()()8()()()()()()()として、この場に立っている。

 

 

「嘘だろ……ッ!?」

 

 

 唯一の勝機、一撃必殺のフルチャージでさえ、このモンスターを倒すには至らなかった。

 そして一瞬で訪れる、体力と精神力の超消費。まだ限界は来ていない。けど急激な落差に耐えきれず、片膝が地面に着く。

 

 手を着いて直ぐに立ち上がろうとするけど、そんな暇は与えないと言わんばかりに正体不明(アンノウン)は爪を振るい───吹き飛ばされた。

 

 

 

 

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