盤外の英雄


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作:現魅 永純
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朝焼けの夜


 

 

 

 

 ───駆け抜ける。未知だろうが関係ない。ただ走り続ける。自分の役割は戦車として敵陣を回る事。モンスターが現れようが轢き殺す。闇派閥の一員、信者がいるならば最速で気絶させる。

 ああ、ムカつく。自分をこんな脇役みたいな場所に当て嵌める勇者に憤慨を募らせる。自分は女神の戦車だ。女神の為に全力で動く事はあれど、こんな児戯みたいな、子供の駄々を叶える為に全力を尽くすのは馬鹿らしい。

 だが、一つの言葉がそれらの怒りを塗り替える、更なる怒りを表した。

 

『ベル・クラネルの真似事は、君には荷が重かったかな?』

 

 自分の内情を全て見通すかの様な眼で、揶揄うように放たれる言葉。それは戦車の───アレンのエンジンを暴発させる様な言葉で、事実アレンは槍に手を掛けた。

 しかしフィンの動じない真っ直ぐな視線を受けたアレンは深く思う。フィンから放たれた作戦の内容。『モンスターは倒せ。だが人間は一人として殺すな』という、子供の願望とも言えそうなソレは、つまるところ神フレイヤが夢中になっている少年……ベル・クラネルが事実成し遂げた偉業であり、誰よりも英雄たらしめた行動だ。

 

 つまるところ、この程度を成し遂げられない限りは永遠にベルに勝てないままこの生を終える事となる。巫山戯るな。人の身でありながら神の試練でも与えているつもりか?

 だがその試練、受けて立とう。神フレイヤの寵愛を受けるが為、今ばかりは女神の戦車である事を捨て、英雄(ベル)を超える英雄となってやる。

 

 その為には───ベルの成した偉業を超える偉業を成し遂げるしかあるまい。かの少年は何も一人だけで全てを救ったわけではない。確かに大部分は一人で担ったが、サポートを努める人物、少なからずの協力者が居たからこそ遂げた偉業なのだ。

 ならばその偉業、自分一人で成し遂げた偉業として塗り替えてやろう。

 

 

「見てやがれ……糞兎、糞勇者。テメェらの内で収まる男じゃねぇぞ、俺は!」

 

 

 ───そして、吠える。獣の様に、男の“意地”を吐き出して。

 

 

「……フィン、発破が強過ぎだ」

 

 

 そんな獣の如き戦車の動きを見るリヴェリアは、今は地上で指揮を執るフィンに向けて愚痴を零す。確かに良い選択、良い挑発だ。気にしてる部分を刺激すれば驚く程に人は動く。

 だがこれは、効果が出過ぎである。

 

 

()()()()()()()()()()。流石のお前も感情と意地までは計算しきれないか?」

 

 

 

♢♦︎♢

 

 

 

「ヴァレッタ様! 人造迷宮(クノッソス)女神の戦車(ヴァナ・フレイア)が単身で、かなりの損害が!」

「……ああ、そっちは別に良い。割れてる出入り口の近場には大したモンスターも団員も置いてねぇよ」

 

 

 ヴァレッタはそう言うが、実際アレンの脚は驚異だ。ベルの前例がある以上、時間さえ掛ければ本当に人造迷宮内の殆どが殲滅されてもおかしく無い。となれば、手段は一つ。

 

 

「ただ、予定より少し早めるぞ。【九魔姫(ナインヘル)】が人造迷宮に来るなら地上の殲滅力は落ちてる筈だ。配置してるモンスター共を放て」

「はっ!」

 

 

 リヴェリア・リヨス・アールヴというハイエルフが持つ魔法の強さは知っている。攻撃・防御・回復の三種を持ちながら、その全てが三段階で分けられて9つの魔法を使うことが出来る異端の魔導士。そしてその不在は、殲滅力はもちろんサポートが手薄となる。

 幾ら都市中に冒険者が配置されてるとは言え、純粋な数だけでは対応できない“質”というのがある。ましてや全勢力を置いているのであれば、その多くはレベル1。経験も駆け引きも何もかもが不足しているだろう。

 

 数を減らせば恩恵を受けていない信者も動き易くなる。住民は今殺さなくても良い。冒険者の存在さえ消せば後で幾らでも殺せる。

 

 

「相手に動揺は見えない。つまり対応出来る何かがあるか」

「団長、捕獲している闇派閥以外の全てが退いています! まるで巻き込まれない為に逃げてる様子で!」

「……ああ、読み通りだ。やはりモンスターを使用してきたな。そのまま陣形を持続させろ。作戦通りにやるぞ」

 

 

 現れたモンスターに対し、フィンは動揺の色を見せない。当然だ。人造迷宮という存在が顕になった以上、モンスターの出現は最も危惧すべき可能性。本音を言えば地上に出さず人造迷宮内で倒せるのが最善ではあったが、判明してる出入り口が一つだけではあまりに危険な判断となる。

 だから次善の策として、都市中に冒険者を張り巡らし、発見を逸早くさせる作戦。勝てないと判断したモンスターならば無理に倒す必要もない。報告さえすれば、必ず近場にいる第一級冒険者が反応して倒す様に出来る。その為の時間稼ぎアイテムは、対アルフィア用アイテムの依頼をキャンセルして時間が空いた【万能者(ペルセウス)】に再度依頼してある。

 

 位置把握の為の煙弾。レベル2のポテンシャルまでならば倒せ、それ以上でも充分なダメージを与えられる爆薬。視界を遮る為の煙幕。

 数多く作られたそのアイテムのお陰で、例え強化種が来ようとも第一級冒険者が倒すまでの時間を確保出来る術を、配置された全ての冒険者が有している。

 

 

「ヘルハウンドが近づいて来てる! 炎の威力も体躯も段違いだ! レベル3以上の冒険者を!」

「こっちはダークファンガス! 強化種じゃないが、対異常持ちの冒険者を!」

「マンモス・フール、しかも通常よりデカい強化種だ! レベル2を複数人頼む!」

 

 

 ───確かにレベル1。確かに未熟。未だ冒険を乗り越えられない臆病と捉えられるかもしれないだろう。だがこの暗黒期で生き延びて来たレベル1が、ただのレベル1と同格な筈がない。臆病故に、生き延びる為の対応力という経験だけは、上級冒険者にも決して遅れを取らない。

 存分に頼れ。足りないモノは補おう。各々、生き延びる為の術を取れ。……フィンからの言葉だ。冒険を乗り越えた上級冒険者に比べて格下であるレベル1の彼らは、そんな言葉に勇気を抱く。生き延びる為に立ち向かえる勇気を。

 

 

「……こちらの対応は任せろ。だから君は、その意地を貫いて勝って見せろ。オッタル」

 

「───ああ、任せる」

 

 

 フィンの指揮でもない呟きは、決して届くはずの無い言葉だ。しかし周りの冒険者の働きを見てか、オッタルはフィンの言いたい事を……いや。全冒険者の気持ちを理解して、呟いた。

 

 

「……お前一人か?」

「不満か、ザルド」

「ああ、不満だ。あの夜一撃で叩き潰した、女神の尻を追い掛ける糞ガキを再度相手しろだと? 装備を整えた程度では俺は止まらんぞ、糞ガキ」

「……敗北を刻んだ」

 

 

 オッタルは剣を構えながら、ザルドの不満げな表情を見つつ言い放つ。まるであの夜楽しませてくれた【英雄】を期待していたかの様な顔を見て、静かに己を滾らせる。

 

 

「先の事だけでは無い。今まで紡いだ敗北を、この胸に刻んだ。振り返り、考え、煮え滾らせて来たこの激情。全ては貴様という糧を得る為だ。ザルド」

「……糧だと?」

「貴様を超える事はただの過程で、目的では無い。暴喰(きさま)を喰らい、俺は最強へと至ろう」

 

 

 ここで初めて、ザルドの顔に喜悦が走る。

 

 

「ほう、暴喰(おれ)を喰らうか!? 獲物の分際で、この俺を! 良いだろう、見せてみろ! 今までの全てを糧として俺を超え、この戦いを糧にして見せろ! 糞ガキ!」

「……一つ、伝えておこう」

「なんだ?」

「【英雄】は、己が役割を果たしに行った」

「───ははは! なるほど、良い事を聴いた! アルフィアめ、この事を想定してモンスターに対応したな?」

 

 

 負けられない理由が()()()と獰猛な笑みを見せるザルドに、オッタルは鼻を鳴らす。まるでその前に俺を倒して見せろと言わんばかりの態度に、ザルドは更に笑みを深めた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! そうでなくては期待外れだった!」

「……英雄再誕、その願望は未だ尽きないか?」

「気付いていたか、糞ガキ。ああ、どうせアレを乗り越えなければ、この地上は終わる。オラリオどころか世界そのものが。だったら今この場で終わらせる。それを乗り越えたのであれば期待できる。単純な話だ」

「……英雄自身が言っていた」

「……?」

「英雄とは、孤独な存在ではないと」

 

 

 何を当たり前の事をと疑問の表情を示すザルドに、オッタルは二つの剣を構える。これ以上の問答は不要だと示すその態度に、ザルドは疑問を覚えながらも頭から消して、同じく剣を構えた。

 

 

 

「「───ォォォオオオオオッッ!!」」

 

 

 

♢♦︎♢

 

 

 

「くっ、ルー・ガルーの強化種!? 深層モンスターまでテイムしてたのかよ、コイツら!」

 

 

 地上に進出して惨事を齎したモンスター代表格とも言えるモンスターの知識程度は蓄えているレベル2の冒険者は、目の前に現れたモンスターに悲鳴を上げる。レベル1では判断が間に合わずに死んでいたかもしれない。だが幾らレベル2でも、単身で深層モンスターの相手は不可能だ。爆薬も限りがあるし、倒せるダメージを与えられるかは不明。強化種ともなれば当然のように耐えてくるかもしれない。

 死ぬのか?

 

 

「リオン左方向から速攻、輝夜は相手を誘導!」

「「了解!」」

 

 

 そんな思考は、背後から現れた三人の気配によって霧散する。

 リューはその速さで移動してたが故のスキル効果、力の向上による特攻でルー・ガルーを弾き飛ばす。体勢を崩した隙を見て、輝夜は白兵戦。至近距離による連続攻撃でルー・ガルーの意識を完全にリューと輝夜だけに移し、そしてアリーゼが【魔法】を発動して上空から舞い降りた。

 

 

「ハァッ!」

 

 

 炎を纏う刃はその首を跳ね、ルー・ガルーは黒い塵と化して消滅した。

 

 

「うん! 深層モンスターとはいえ、兎君に比べたらやり易くて助かるわ!」

「す、すまん。ありが───」

 

 

 エンチャントを解いてドヤ顔に胸を張るアリーゼへと感謝の言葉を送ろうとする。が……。

 

 

「リオン、体勢の崩しが甘い! そんな攻撃ではベルに通じんぞ!」

「それを言うなら貴方は白兵戦を挑む事が間違いだ、輝夜! 一撃離脱で追い込む事も出来た筈です!」

「はいはーい、お二人さんの兎君対応策は聴き飽きたからさっさと───」

「「そもそも貴方がトドメを刺すパターンも通じないだろう、団長(アリーゼ)!」」

「清く正しい私がトドメを刺すのがそんなに羨ましい!? ごめんなさいね貴方達よりも兎君に高い評価を受けちゃってて! 単身能力だとこの中じゃ私が一番だもんね! ふふーん!」

「ええ……?」

 

 

 助けた事など気付いてもいない様子で、この状況にも関わらず言い合う『正義』の眷属達にドン引いた。戦が終わった後ならば兎も角、まさか戦の真っ只中で仲間同士言い争うとは思うまい。

 レベル2の冒険者を置いて言い争う三人の冒険者は、そのままモンスターの撃破を続けていた。

 

 

「……悪いな、なんかウチらのみっともない所見せちまって。これ追加の爆薬な」

「あ、ああ……」

 

 

 その後を追従する様に現れた小人族(パルゥム)、ライラから追加のアイテムを受け取ったレベル2の冒険者は、呆然と返事を返す。

 死を間近に感じた身だから、こういった“いつも通り”の様な雰囲気を見せられて肩の力が抜けたのは幸いだと言うべきだろうか。

 

 ───そんな安心も一瞬だけ。絶望は地上に牙を向く。

 現時刻は朝。作戦開始から暫く経っている為、既に陽は昇っている。朝焼けの太陽が照らされている。

 

 

「……何だ、この疼きは」

 

 

 フィンの親指は疼いた。しかも、かつて無いほどの警鐘を鳴らすが如く。何かを読み違えた? それとも自分の知らない“未知”が、この場に災厄を齎す?

 何が来る、何が来る───直ぐにでも対応してやると注意を向けるフィン。

 

 モンスターを狩り、闇派閥の一員を捕獲し、最強同士の攻撃で都市が揺れる。そんな光景が数分も続いていると───()()()()()

 

 

「……は?」

 

 

 

♢♦︎♢

 

 

 

「くっ、はぁあッ!」

 

 

 口から垂れ流れるのは溶解液の類だと判断出来る。アレには決して触れない様にするのは前提。攻撃を当てる際は必ず口に当たらない様避ける事。水色の短剣、この不壊属性(デュランダル)武器に限れば例外。

 前脚の振り下ろしは、レベル7のポテンシャルとしては鈍足だ。常に動く事を意識すれば当たる事はない。あの破壊力抜群な脚は決して受けない様に注意する。ただ───。

 

 

「っづ、ぅ……!」

 

 

 4本の羽から発生する強大な風圧。僕の重量では吹き飛ばされるそれに耐えるには、しっかりと地面を踏み締めるしかない。ただそうすると、僕の動きは止まってしまい……あの前脚の振り下ろしを避けれるかが危うくなる。

 幸い今は一度も攻撃に当たらず攻め入れているけど、このモンスター……やっぱり再生能力持ちだ。傷付けた側から傷が癒えて、碌なダメージにならない。

 

 一度無数にある口へ幾つもの火炎石を放り込んで、それを起爆するために魔法を発動してみたけど、身体の一部が消し飛んだだけで直ぐに再生していた。火炎石の数を増やしたところで、この巨大を吹き飛ばす火力は望めないだろう。となると、やっぱり……一撃必殺。それもただの斬撃ではなく、魔法と斬撃の二重蓄力(デュアル・チャージ)による【聖火の英斬(アルゴ・ウェスタ)】で斬り裂くしか方法はない。

 フルチャージ5分、チャージを維持する事は出来るか……? いや、悩んでる暇はない。やるしかないだろう。

 

 魔法を放つタイミングと英雄願望を放つタイミングを合わせる為に意識すると、後方から神威を感じた。エレボス様の神威。最初はこのモンスターを此処まで呼ぶ為のものだった。じゃあ今回の意図は? 分からない。

 いや意識するな、ただ目の前の相手に集中しろ。……待て、神威が途切れない。違う、()()()()()()()()

 

 バッと振り向く。エレボス様が神威を機能させながら近付いているのが見えた。……ヤバい注意を逸らされた! 早めに防御の体勢を取れ、これは避けれな───

 

 

「ぅ、ぐ……〜〜〜ッ!?」

「……全く、別にこっちに視線を向ける必要はなかったってのに。善意が過ぎるぜ、英雄。悪神(おれ)まで助けるつもりだったか?」

 

 

 ……レベル7のポテンシャルを持つモンスターの一撃をまともに食らった。幸い防げて、力を少し流せて受けたから折れてはいないけど……身体が痙攣してる。立て直すまでに時間が必要だ。近付くエレボス様を止める事が出来ない。

 

 

「一つ教えてやろう。アルフィア、いいな?」

「……構わない」

「アルフィアが手を出さないのは、確かに持病の影響もある。お前だからというのもある。だが一番の理由は、強力な“個”、()()()()()()()()()だ」

「……ぜつ、ぼう?」

「こいつはレベル7のポテンシャルで再生能力持ち、そのままでも充分強いだろう。だがな、黒竜はこの程度じゃ無い。でも俺達で絶望を顕すにはこの程度が限界だった。……一つの手段を除けばな」

 

 

 ───! まさか、この男神(ヒト)!?

 

 

「待てっ、待ってください、エレボス様! ()()は……!」

「何だ、知ってるのか? なら話が早い。そう……(おれ)()()()()()()()()()()()。これを乗り越えるかどうかを見届けたい……それがアルフィアの望みだ。まあ曲がりなりにも悪だしな、この身一つ捧げるくらいはしてやる」

 

 

 ……ッ!

 

 

「まだ、間に合───」

「一歩遅かったな」

 

 

 目の前で、神がモンスターに取り込まれる。同時に【正体不明(アンノウン)】は、正真正銘【神の力】を扱う災厄へと至った。

 そしてその神の力は、地上へと伝播して……ッ!

 

 

「アルフィアさんッ!」

「……すまない。失望が解けたところで、私の絶望を拭える希望に変わる事はないんだ。だから、未来を見るのであれば、(わたし)すらを助けようと言うのなら───あの災厄を倒してくれ、英雄(ベル)

 

 

 

 

 

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