盤外の英雄


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作:現魅 永純
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バーニング


 

 

 

「決行日は明日の夜明けだ」

 

 

 多くの冒険者が集い、多くの冒険者が耳を傾けるギルド本部。彼らの視線の先にいる小さな勇者、フィン・ディムナは堂々と言い放つ。

 

 

「此度の戦いでは、此処に存在する全ての冒険者の力が必要となるだろう。勇者(ブレイバー)の命令ではなく、一人のオラリオに所属する冒険者として懇願する。どうかオラリオを守る為に、君達の力を貸して欲しい」

 

 

 フィンは頭を下げる。一族の英雄となる為に常に上を見上げてきた勇者の見せる初めての行動に、全冒険者に動揺が走った。……フィン自身不思議だった。絶対的な自信と自負。それを掲げる自分が頭を下げて懇願するなど。

 でもこれから放つ言葉を思えば、必ず全員が漲る確信がある。ペテン師としての言葉ではなく、実感を以て知ったものだから。

 

 

「そして約束しよう。君達が僕の言葉に答えるのであれば、僕も君達の言葉に答えて見せると!」

 

 

 フィンは、下げていた頭を上げ、またも堂々とした姿で宣言する。

 

 

「僕の指揮下にある内は、君達の一人も死者を出さない! その胸に刻め! 此度の戦、その結末は『完全無欠の勝利』であると! 過去最高の英雄譚の一人に君達が至るのだ!」

 

 

 とびっきりの笑顔で、無邪気な子供の様に、『使命』ではなく『夢』を語った。

 ───ただ一人の死者も出さない。それは、今までのフィンが一度も口に出したことのない言葉。当然だ。だってそれは理想で、とても現実的ではないのだから。冒険者達はそれに突っ込む事はなかったが、それは当然だ。冒険者は時としてあっさりと死ぬ。この暗黒期で『冒険』し、偉業を達した上級冒険者は、その事実を当然の様に胸へ刻んでいる。

 事実、これまでの『暗黒期』では、何人もの死者が居ただろう。

 

 だがその事実があり、理解しているからこそ───かの勇者の『一人も死者を出さない』という発言に信頼が寄せられる。

 その宣言を受ければ、どんな冒険者も奮い立つだろう。立ち向かう事が出来るだろう。この場の士気は、かつてないほど盛り上がった。

 

 

「では、作戦内容を伝える」

 

 

 そんな中、とても大きくない声が耳を駆け抜ける。盛り上がりが落ち着きを見せたわけではないが、その声は当人のスキル【指揮戦声(コマンド・ハウル)】による効果で全員の耳へと入っていった。

 

 

「まず住民だが、こちらは数カ所に一纏めにする。伝えた通り人造迷宮(クノッソス)の出入り口は未知数だ。その存在に気付いていると相手が想定している以上、使わない選択肢はないだろう。故に一般人は守りやすい位置へと置く。それを主に担ってもらうのが……」

「我々だな」

「ああ、ガネーシャ・ファミリアだ」

 

 

 シャクティが同調する様に答えると、フィンは頷く。

 

 

人造迷宮(クノッソス)の存在は未知数。よって内部に侵入するのは殲滅力の高い少人数だ。今は不在だがフレイヤ・ファミリアの【女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】、僕のファミリアからリヴェリア───」

 

 

 恐らく指揮を執るだろうハイエルフと駆け巡る戦車の名を代表格とし、並行詠唱を可能とする魔導士達(万が一に備えてリヴェリアのスキルを活用する為にエルフのみ)が何人か呼ばれ、同時に脚の速い冒険者も呼ばれた。前回の作戦時では少数の精鋭……つまりレベル5を超える冒険者達が集っていたけど、今回は単純に『範囲が広い魔法を動きながら使えるエルフ』と『脚が速い人物』だけが呼ばれている。

 

 

「今回の作戦で第一級冒険者の登用を最小限にしたのは、人造迷宮(クノッソス)にモンスターがいる可能性を考慮してだ。闇派閥という組織内での実力は既知であるものの、モンスターがいる場合はどの程度の強さかは把握できない。だから人造迷宮(クノッソス)に突入させる第一級冒険者は二人のみ。他の第一級は地上の各域に配置する。それぞれの配置先は───」

 

 

 人造迷宮の出入り口の数が分からない以上、最善策に違いあるまい。フィンは第一級冒険者の配置場所、それ以外のファミリア単位での指定場所を話すと、白髪の少年へと目を向ける。

 

 

「召喚されたモンスターへの対処は、ベルに任せる」

 

 

 ベルは肯いた。

 

 

「そして───」

 

 

 最後まで作戦を言い終えると、手を挙げるエルフが一人。リューが質問があると視線で訴えれば、フィンは「だろうね」と思いながら苦笑して質問を許可する。

 

 

勇者(ブレイバー)、貴方の作戦を疑っている訳ではありませんが……クラネルさん一人に【静寂】も【正体不明(アンノウン)】も任せるのは些か酷ではありませんか?」

 

 

 【正体不明(アンノウン)】。召喚された姿も能力も未知のモンスターに神が名付けた名前だ。強化種ならば原型となるモンスターがいる筈だが、今回は神の力によって召喚された、正真正銘の未知。

 ただでさえ27階層の迷宮の孤王(モンスターレックス)を単体で倒すレベル6級のポテンシャルに加え、その階層主の魔石を喰らう事による強化種状態。推定レベル7のポテンシャル。それを制御する為に近くに配置されているだろうレベル7の【静寂】。レベル7を同時に迎え撃つのは、幾ら【暴喰(ぼうしょく)】を退けた実力があると言っても無茶だ。

 

 そう思ったリューが問えば、フィンは少し悩む素振りを見せると、目を細めて真剣な声音となり、ハッキリとした声で話し始める。

 

 

「いや、寧ろ逆だ。僕の憶測が正しければ、ベル以外に一人でも連れて行けば更に酷となる。ベル一人で行く方が確率が高いんだよ」

「……?」

「さて、これで作戦内容は伝え終わった。各々準備を済ませ、明日の夜明けまでに配置に着け」

 

 

 

♢♦︎♢

 

 

 

「───リューさん一歩遅い! 周りの判断が一歩遅れる事に注意! 視野は常に広く、やるべき行動を染みつけて!」

「ぐっ……」

「アリーゼさん、味方の邪魔になってる!」

「うぐっ」

「輝夜さん、今は納刀するタイミングじゃない! どのモンスターも地面にある石で投擲してくる可能性はある! 周りのフォローを期待できるタイミングがベスト!」

「チッ……」

 

 

 ───アストレア・ファミリアの庭。鍛錬できるだけのスペースが確保されているその場所で、僕はアリーゼさんとリューさんと輝夜さんの3人を同時に相手していた。

 前まではそれぞれの能力向上を期待しての鍛錬……だったんだけど、今回は完全に『連携』を重視した鍛錬になっている。というのも、以前オッタルさんにフレイヤ・ファミリアへ連れて行かれた時、オッタルさんとアレンさん。そしてガリバー兄弟と訓練したからだ。

 

 オッタルさんやアレンさんは兎も角、ガリバー兄弟からは『連携』について多く学んだ。もちろんほぼアイコンタクト無しに合わせる様な流れる連携なんて、兄弟で育ってきた故のものだろうから無理だとは思うけど……それでも、アレだけの連携を組める相手と戦った後ならば、こうして連携を組む戦闘での穴を発見しやすい。

 多数対一を学べる良い機会だった。……オッタルさんにもアレンさんにもガリバー兄弟にも負けたのは凄く悔しいけど。

 

 幾ら能動的スキル及び魔法の使用が無いと言っても、技と駆け引きに差があるのは明確だった。ザルドさんとの戦闘では本当にハマった結果なのだと思わせられる。

 やっぱり僕には引き出しが必要だ。技を磨き上げるのは短時間だと難しいが、駆け引きは別。その為にフィンさんが用意してくれた複数の短剣を使い熟す鍛錬が今回の目的……だったんだけど。ガリバー兄弟の連携を見た事によってアストレア・ファミリアの連携の穴を見つけてしまい、こうして熱が入ってしまった。いや、結果的には僕の駆け引きの鍛錬にもなってるんだけど……。

 

 

「───うん、強い。強すぎ。っていうかステイタス更新出来ない筈なのに抗争前より成長してない? し過ぎじゃないっ!?」

「アリーゼ、口を回す暇があれば頭を回して下さい!」

「貴様ら少しはフォローに回る気を見せろ! 白兵戦ならば私が上だ、次はそれを軸に回す!」

 

 

 僕以上に、三人に熱が入ってる。

 

 

「……おいお前ら、作戦決行日は明日だからな? 武器の整備の事を考えて鍛錬を終わらせろよ?」

 

 

 ライラさんが声を掛けてくる。……三人は反応しない。多分声が届いてないんじゃないかな。高速戦闘中だし、金属音響き渡ってるし、頭フル回転させてるしで、遠くからの声が聞こえてないんだと思う。どうしよう、僕の責任かなこれ。今回ばかりは逃れようもなく僕の責任だな、うん。

 取り敢えず、全員を止めよう。

 

 

「あっ……!?」

 

 

 アリーゼさんの剣は簡単に抜けない様地面に押し込み、リューさんが持つ木刀は弾き飛ばし、輝夜さんの刀を挟み込む形で受け止めて手首を掴み拘束。全員が碌に仕掛けられない状態になって、漸く戦闘は終わった。

 

 

「調整、付き合ってくれてありがとうございます」

 

 

 長く息を吐く。うん、大分複数の短剣を扱うのにも慣れてきた。実戦形式でも問題なく使えるだろう。こういう場所では扱えなかったが、魔法やスキルを交えればもっと幅が広がる。体調も万全だ。大丈夫、きっと勝てる。

 後は体力を温存して───

 

 

「まだだ」

 

 

 ……額に筋を浮かべて苛立っている様な笑顔を向けながら、輝夜さんが言う。え、まだ?

 

 

「いやでも、武器の整備とか……」

「模擬刀でもいい、まだやるぞ。負けっぱなしは性に合わん。おい糞雑魚妖精、貴様は黙って見ているだけでいいのか?」

「……糞雑魚などと呼ぶな、輝夜。負け続けの貴方も同類でしょう。私もちょうど身体が温まってきたところだ。次こそ攻撃を当てます」

「えぇ……あ、アリーゼさん……?」

 

 

 止めてくれません? と期待して視線を向けてみれば、無言でとびっきりの笑顔を見せながら剣を構えていた。この人もやる気満々だと止める人居なくない?

 

 

「はいはい、そこまでよ」

 

 

 あ、良かった居た。ここ最近は出掛ける事が多くて会うタイミングがなかったけど、良いタイミングで戻ってきてくれたな……アストレア様。

 

 

「ベル君だけじゃなくて貴方達も明日は働くのだから、体力は万全にしましょう? その欲求不満は作戦が終わった後に解放するべきだわ」

「……そうね。ちょっと熱くなり過ぎたかもしれないわ。火属性(バーニング)だけに!」

 

 

 …………。

 

 

「戻りましょう」

「ええ、意識したら疲れが出てきました。ベル、以前マッサージしたのですから今度はしてくれませんか?」

「か、構いませんけど」

「……輝夜、マッサージならば私がしますが」

「素肌の接触を嫌う貴方には頼めません。素手でされる方が好きなものでして」

「くっ……」

「あれー……? どうしよう、絶望的に滑ってるみたいだわ。旅人っぽい帽子を被った神様には大受けしたのに……」

 

 

 アリーゼさん、それ多分わざと笑って他の人に披露させて滑らせる目的だと思います……。いや、全員冷静になったから、僕としては寧ろ有難い結果だけど。

 アストレア様でさえ取り繕っているのが丸わかりな苦笑を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 今話から感想への返信、再開させて頂きます。
 前々話の後書きに載せた活動報告を見てない人の為に説明しますが……元々感想への返信を控えたのは、『返信ない方が感想書きやすい人も居るのではないか。だとしたら返信考えず、その分を執筆に回せるからWin-Winだよな。先の展開予想されても誤魔化すような返信にならずにスルーできるし』という目的あっての事です。
 しかし前話に関しては質問には返信しますと言ったからか質問が複数来ており、その一つの返答の為に800文字弱……合わせると1000文字は超えるだろう文字数で答えて、元も子もない状態なんですよね。感想数も以前に比べれば減ってましたし……いやこれはその時の話の問題や読者様の気分もあるからなんとも言えませんが。

 まあつまり、質問多く来て返信するなら、返信控える必要もないかと。なので今話からまた返信させて頂きます。
 長くなってすみません。
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