最強と最凶に育てられた白兎は英雄の道を行く


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作:れもねぃど
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第八話 兎の正義


投稿少し遅れました。
あと前回、エイナさんデート回だと言っていましたが
前半だけで終わってしまいました。申し訳ない。



 

波乱の歓迎会から一夜開け、ベルはオラリオの北部にある大通りに面するように設けられた半円形の広場に立っていた。

昨日、エイナとの話にあったように二人で防具を買いに行くためにエイナを待っているのだ。

 

(これって、他の人からはデートしてるみたいに見えるんじゃ・・・。)

 

エイナに他意はない。彼女の親切心からくるお節介だ。

しかし、朝十時に銅像前に集合などというのは形式的に見れば『デート前の待ち合わせ』に見られてしまうだろう。

 

「おーい、ベルくーん!」

「!」

 

ベルが悶々としていると、待ち合わせ相手であるエイナが小走りをして、此方に近づいてきた。

 

「おはよう、来るの早いね。そんなに新しい防具を買うのが楽しみだった?」

「あ、はい!そうなんです!」

「そうだったんだ。実は私も楽しみだったんだよね。ベル君の買い物なんだけど、ちょっぴりわくわくしちゃってるんだ。」

 

『エイナさんのことを変に意識していました。』などとは言えないベルはエイナの言葉に同意する。

 

「ところで、ベル君?」

「な、なんでしょう?」

「私の私服姿を見て、何か言うことはないのかな?」

「!」

 

エイナはそう言うと、悪戯好きの子供のような瞳で、ベルを見つめてくる。

本人が言うように今日のエイナの服装はいつものようなギルドの制服ではなく、レースをあしらった可愛らしい白のブラウスに、丈の短いスカートという少しお洒落な出で立ちであり、普段付けている眼鏡は外していた。

 

(これはお祖父(じい)ちゃんから教わった『女の人が服の感想を求めてきたら、誉めるべし!』を実践する時!)

 

ベルは心の中で顔を引き締め、祖父(ゼウス)から教えられた『英雄にふさわしい男がとるべき行動』を実行するべく、エイナをじっくり観察しながら口を開いた。

 

「とっても似合ってます!」

「えっ?」

「制服姿のエイナさんも大人びていて綺麗ですけど、私服姿のエイナさんは何ていうか、可愛いです!」

「!!!」

 

ベルが真っ直ぐな瞳でエイナの私服姿を褒めると、エイナは頬を朱色に染めて「あ・・・ありがとう。」と言った。

 

(うまくいった!?これでいいんだよね、お祖父ちゃん!?)

 

ベルは叔父(ザルド)義母(アルフィア)と共に暮らしているであろう祖父(ゼウス)に心の中で問いかける。

因みに、その『教え』の中には『女子(おなご)が風呂に入っていたらのぞけぇい!』だの『寝込みを襲えぇぇぇい!』だのがあるが、ベルにはそれを実行する勇気はなかった。

 

「そ、それじゃあ行こっか!」

「はい!エイナさん!」

 

ベルの不意打ちから何とか立ち直ったエイナは、ベルに声を掛けると本日の目的地であるバベルに足を向けた。

 

 

「ここがあの有名な【ヘファイストス・ファミリア】のお店ですか・・・。」

「と言っても、ここで販売されているものはブランド名が刻まれていない末端の職人が作った作品なんだけどね。」

 

場所はバベルの八階。

此処では、迷宮都市(オラリオ)内でも有名な【ヘファイストス・ファミリア】の様々な武具の専門店が広く展開されていた。

本来、【ヘファイストス・ファミリア】製の武具は非常に高く、ベルにはとてもじゃないが手が出せない。

しかし、エイナからの説明があった通り、ここで売られているものは【ヘファイストス・ファミリア】の中でも末端の職人が作った作品であり、価格もベルの手が届くものだった。

 

「未熟な鍛冶師(スミス)達は自分の作品を冒険者から評価してもらうことで、その評価を起爆剤にしてより良い作品を作ろうって奮起するんだ。店側もこういう場を設けることで新しい客を確保できるから悪い話じゃないしね。」

「なるほど。」

「それじゃあ、二手に別れて探してみよっか。」

「はい!」

 

エイナの提案に元気良く返事をすると、ベルとエイナは一度別れて、防具を選び始めた。

 

 

「ベル君って本当に軽装が好きなんだね。折角、私の方でも選りすぐってきたのになぁ・・・。」

「す、すいません。」

「いいの、いいの、気にしないで。」

 

結局、ベルが選んだのはヴェルフ・クロッゾという名前の鍛冶師が作った純白のライトアーマーだった。

 

「あとベル君、これ。」

「・・・へっ?」

 

おもむろにベルへ手渡されたのは細長いプロテクターだった。

付属の小手に取り付ける形で手首から肘くらいまでの長さで、盾としての役割もあるのか素材となっている緑玉石(エメラルド)色の金属は鍛えあげられていた。

 

「こ、これって。」

「私からのプレゼント。ちゃんと使ってあげてね?」

「ええ!?い、いいですっ、いらないです!か、返しますっ!」

「なぁに?女の人からのプレゼントはもらえないっていうの?」

「い、いえっ、でもっ・・・情けなくて。」

「私はもらってほしいな。キミ自身のために。」

「!」

「冒険者ってさ、いつ死んじゃうかわからないんだ。だから、ベル君にはいなくならないで欲しいんだ・・・。あはは、これじゃ私のためみたいだね。」

「・・・・・。」

「・・・だめかな?」

 

ベルは床を見て、少し赤くなった顔を前髪で隠す。

 

(そんな言い方は反則ですよ・・・。)

 

ベルはそんなことを思いつつ、赤い顔のまま頷いた。

 

「ありがとう、ございます・・・・・。」

「どういたしまして。」

 

胸の中に渡されたエイナの瞳と同じ色をした防具は、温もりに満ちていたような気がした。

 

 

「リオンちゃん。」

 

ベルがエイナと買い物をしている頃。

リューはとある男神に声を掛けられていた。

 

「貴方は・・・神エレン?」

 

覆面のエルフを見つけた男神はうっすらと笑っていた。

 

「奇遇だね。また街の巡回(パトロール)かい?流石、正義の眷属だ。」

「あら、どちら様ですかこちらの男神様は?というか、何故か声を聞くと不思議と『イラッ』としてしまうので、極力喋らないで頂けますか?」

「ひでぇな、輝夜。というかこの神、アリーゼが言ってた例の胡散臭い貧乏神ってやつだろ?」

「ひゅー!初対面なのに辛辣ゥ!こんなでも神なんだから、もうちょっと敬意を持ってくれると嬉しいんだけどナー!」

「・・・・・わかりました。この(かた)、うちの(ベル)に声が似てるからですね。うちのかわいい兎さんの声でふざけたことを言わないで頂けますか?」

 

派閥内で『所持金444ヴァリスの神』の話題は拡散済みであり、ライラと輝夜の容赦のない口振りも加わって、エレンは謎のテンションで泣き叫び、そんなの叫びに輝夜は再び『イラッ』とした。

―そんな会話の中でエレンが一瞬、『ベル』という名前に反応したことには誰も気づけなかった。

 

「神々の中でも純潔神(アルテミス)に並ぶ善良派+彼女より遥かに穏やかなアストレアの眷属でしょ、君達!?もっと淑女しようよ!」

「神エレン、アストレア様のことをご存知なのですか?」

「勿論!アストレアといえば優しいお姉さん代表!癖のある女神の中でも一点の汚れ無き清廉の象徴さッ!」

 

不思議そうに首を傾げるリューにエレンは段々と早口になりながら、熱弁し始める。

 

「柔和かつ慈愛の塊、女神の中の女神!膝枕されながらヨシヨシされたいランキング堂々の一位!!そうっ、アストレアは男神共(オレたち)の母になってくれるかもしれない女神なんだ!!」

「「きもっ」」

「やっぱり辛辣ゥゥーーーーーッ!!」

 

男神(おとこ)の理想を説く主張に、輝夜とライラが割と本気(マジ)でドン引きした様子で一言返した。

神であろうと胸を抉ってくる鋭利な一撃に加えて、汚物を見るような視線も添えられてエレンは今度こそ滂沱の涙を流した。

そんな三人のやり取りをどう対処すればいいのかわからない、リューはそんな微妙な表情を浮かべた。

 

「神エレン、貴方が言った通り我々は巡回中ですので、ご用がないのであれば失礼させていただきます。」

 

リューがそう断りを入れて、巡回を再開しようとすると

 

「その巡回ってさぁ、いつまで続けるの?」

 

先程とはうって変わった様子で、エレンは疑問を投げ掛けてきた。

 

「・・・・・?どういう意味ですか?」

 

背中を向け掛けていたリューは立ち止まり、振り返った。

そこには変わらない、うだつの上がらない男神(おとこ)の笑みがあった。

 

「言葉通りさ。毎日、君達はこの都市のために無償の奉仕をしてる。しかも、最近は闇派閥(イヴィルス)の活動も殆ど無いのに。そんな君達が奉仕をしなくなる日ってさ、いつくるの?」

「・・・・・お言葉ですが、主要な闇派閥の幹部達は依然として捕まっておりません。よって、いつまた彼らの襲撃があるかわからない以上、この都市は『平和』とは言えません。」

「ふぅん、つまり君達の無償の奉仕は『平和』になるまで続けるの?」

「その通りです。都市に真の平和が訪れた時、私達の警邏も必要無くなるでしょう。」

「君達の『正義感』が枯れるまでじゃなくて?」

 

そんなエレン()の問いに。

依然消えることのない、その笑みに。

リューはこの時、はっきりと、『不快感』を覚えた。

 

「・・・・何が、言いたいのですか?」

「見返りを求めない奉仕ってさぁ、きついんだよ。すごく。俺から言わせればすごく不健全で、歪。だから心配になっちゃって。」

 

目付きを鋭くするリューにまるで気付いていないように、エレンは軽薄な笑みを張り付けたまま、子供を案じるような声色で語り出す。

 

「君達が元気な今のうちは、いいかもしれない。でも、もし疲れ果ててしまった時、本当に同じことが言える?」

「・・・・・男神様?わたくし達にいちゃもんとやらをつけたいので?」

「まさか。俺は君達のことをすごいなぁと思ってるよ。いや本当に。・・・・そうだ丁度いい、正義を司る女神の眷属たる君達に聞いてみたいことがあるんだ。いいかな?」

 

抜き身の刀のごとく冷たい視線を向ける輝夜に対しても、エレンの言葉に嘘はなかった。

 

「・・・・・その質問とは?」

「『正義』ってなに?」

 

その質問はいたって簡潔だった。

 

「なんですって?」

「俺はさ、今とても考えさせられてるんだ。下界が是とする絶対の『正義』って何なんだろうって。少し前(・・・)に下界に問おうとも思ったけれど、結局『アテ(・・)』が外れたから保留にしてるんだけどね。まぁ、そんな事だから全知零能の神の癖に、未だに絶対の『正義』ってのに確信が持てていないんだよね。」

 

それと同時に、神ですら答えることが難しい問いでもあった。

 

「だから、聞いてみたいんだ。君達、正義の眷属達に。」

「相手にすんな、リオン。神の気紛れだ。」

 

ライラが取り合うなと呼び掛けるが

 

「言えないの?やっぱりわからないのかな?自分達が掲げているモノでさえ」

「!いいでしょう!その戯言に付き合いましょう。答えなど、決まりきっているのだから。」

 

わかりやすいエレンの挑発に、リューは真正面から受けて立った。

輝夜が「馬鹿め・・・。」と嘆息を挟み、男神は唇をつり上げた。

 

「ならば、『正義』とは?」

「無償に基づく善行。いついかなる時も、揺るがない唯一無二の価値。」

 

それに対し、エルフの少女は自らが信じる『正義』について述べた。

 

「そして悪を斬り、悪を討つ。―それが私の『正義』だ。」

 

言いきって見せたリューの言葉を、エレンは何度も軽く頷き、噛むように受け止めた。

 

「ふぅむ・・・・・なるほど。つまり善意こそが下界の根源であり、『巨悪』ならぬ『巨正』をもって世を正そうというわけだ。」

 

そして、唇でもって三日月を描く。

 

「善意を押し売り、暴力をもって制す―力づくの『正義』だ。」

 

かっっ、と。

リューは頭に血を昇らせ、激昂した。

 

「そんなことは言っていない!巨悪に立ち向かうには相応の力を求められる!でなければ何も守れないし、救えない!」

「おっと、ごめんよ。馬鹿にしているわけじゃないんだ。君の言っていることはきっと間違っていないと思うよ。ただ―」

 

謝意を覗かせながら、しかし消えることのない笑みが、エルフ(リュー)を嗤っている。

 

「ただ・・・・『悪』が同じようなことをした場合、どうするんだい?」

「ッ!それは・・・」

 

そんな神の問いに、リューは言葉を詰まらせる。

 

「あの・・・どうしたんですか、皆さん?」

 

そんな中、明らかに戸惑ったような声がリュー達に投げ掛けられた。

 

「!ベル、どうしてここに!?」

「今日は買い物だったので、早めに帰ってきたんですけど・・・。皆さんこそどうしたんですか?言い争っているみたいでしたけど。」

「・・・貴方が気にすることではありません。大丈夫です。」

 

心配そうなベルの声を聞いて、冷静になったリューが声を掛ける。

そんな様子をエレンが後ろから「こんなところで会うとは・・・。これも運命か・・・。」とどこか満足そうに呟いていたが、その声を誰も聞くことはなかった。

 

「やあ、少年。見た感じ君もアストレアの眷属かな?」

「はい!僕も同じ・・・ってあれ?」

 

エレンの方を向いたベルは彼の姿を見て、首をかしげた。

 

「そうだ!彼にも聞いてみることにしよう!」

「神エレン、いい加減にしていただけませんか?わたくしは先程から、不快の感情が湧いて仕方ないのですが?」

「リオンだけじゃ飽きたらず、アタシらの弟分まで玩具にしょうってか?」

 

輝夜とライラが嫌悪感を現にした様子でエレンを睨む。

 

「まあまあ、いいじゃないか。彼もまた正義の眷属なんだろう?興味あるなぁ。」

「えっと、エレン様・・・でしたっけ?僕に何かご用でもあるんですか?」

「そんなに身構える必要はないよ少年。ただ君に質問したいだけさ。」

「質問・・・ですか?」

「ズバリ・・・『正義』ってなに?」

 

そんな周りの空気などお構いなしに、エレンはベルにリューと同じ質問を投げ掛けた。

そんなエレンの質問にベルは「『正義』・・・ですか。」と暫く無言で考え込んだ後、口を開いた。

 

「・・・あくまで、僕の『正義』になっちゃいますけど、いいですか?」

「ああ、もちろんだよ!聞かせて、聞かせて!」

「それじゃあ・・・。僕の『正義』は『理想』です。」

「「「「!!!!」」」」

 

そのベルの言葉に、リュー達はおろかエレンですら言葉を失った。

 

「困ってる人や泣いている人がいたら、全員助けて笑顔にする。あり得ないをあり得るに変える。『正義』を『選択』するのではなく『掴み取る』。それがぼくの考える『正義』です。」

「・・・ベル。その考えは、荒唐無稽すぎるぞ。全てを救うことができるとは思えない。その考えは・・・。」

「『偽善』・・・ですか?」

「!」

「わかってます、輝夜さん。でも、その『理想』を叶えるのが『英雄』なんだと僕は思います。」

 

そう言うとベルはエレンに向き直った。

 

「どうでしょうか?エレン様。質問の答えになっていますか?」

「『理想』・・・即ち誰もが傷つくことなく、全員が救われる。・・・反論の余地も無いほどの素晴らしい回答だね。しかし―」

 

エレンはベルの言葉を肯定しつつ、真剣な表情でベルを見る。

 

「それは決して安易なことじゃないよ?」

「覚悟の上です。」

 

ベルは固い決意のこもった瞳でエレンを見返す。

そんなベルを見てエレンは「そっか。」と満足そうに呟くと先程のようなうだつの上がらない笑みを浮かべた。

 

「時間を使わせてしまって悪かったね、正義の眷属達。とても参考になったよ、ありがとう。」

「少しでも感謝の気持ちがあるんだったら、もう二度とアタシ達の前に顔を出さないでくれ。もうあんたの玩具にされんのは御免だ。」

「随分と嫌われたなぁ。じゃ、意地悪なお兄さんはここで消えるとしよう。」

 

ライラが拒絶の意を叩きつけると、エレンは肩を竦めて彼女達に背を向けて歩き始めた。

 

「あっ、あのエレン様!少しよろしいでしょうか!?」

「何かな、少年?」

 

遠ざかって行く背中に、ベルが声を掛ける。

歩みを止めて振り返ったエレンへ、ベルは少し迷いを見せた後、意を決したように口を開いた。

 

「僕とどこかでお会いしたことありませんか?」

「いや、知らないな。俺みたいな男前(イケメン)声音(ヴォイス)を持つ神は滅多にいないから、気のせいじゃないかな?」

 

そう言うと、再び前を向いて去っていった。

 

「・・・やっぱり僕の勘違いなのかな?」

「わからんぞ?そんな風にお前を困らせる為にしらばっくれているだけかもしれん。何せ相手は神だからな。それよりも・・・。」

 

そう言うと輝夜はベルに小馬鹿にしたような笑みを浮かべた顔を近づけた。

 

「兎様の正義がまさか『理想』だったとは・・・。Lv.1の未熟者の分際で随分と大きく出ましたねぇ~。」

「うっ・・・。」

 

痛いところをつかれたベルは声を詰まらせた。

 

「ベルを馬鹿にするのは止めろ輝夜!彼の掲げる『正義』は素晴らしかったではないか!」

「ぶぁ~かぁ~めぇ~。貴様らは少し現実を見ろというのだ、このヘッポコ兎にポンコツエルフ~。」

「へ、ヘッポコ・・・・。」

「だ、誰がポンコツエルフだ!訂正しろ、輝夜!」

「なぁ、もう帰ろうぜ。周りからめっちゃ見られてるのに気付けよおまえら・・・。」

 

輝夜の物言いに項垂れるベルと激昂するリューにライラは「今日は厄日だ・・・。」といわんばかりにげんなりとした顔になった。

 

 

場所は変わって、オラリオの地下水路。

いつもは人気のないその場所をエレンは先程までのような顔に張り付けただけの笑みではなく、心の底からの笑みを浮かべながら歩いていた。

 

「いやぁ、まさかあの子の『正義』が絶対悪(おれ)の考えている『正義』と同じだとは・・・。何だか運命を感じてしまうなぁ。」

 

神エレン―真の名前は原初の幽冥にして、地下世界の神であるエレボスは興奮気味に呟いていた。

 

「そうだ!その通りだよ、ベル!『正義』とは『理想』!選択するものではなく、掴み取るものだ!よくわかってるじゃないか!」

 

遂に感極まってしまったのか、エレボスは地下水路に響きわたる程に大きな声で、(ベル)を褒め称えていた。

 

―下界の誰もが無意識に求めていて、下界の誰もが手に入らないと諦めている。

 

―その名は『理想』。それこそ少年(ベル)絶対悪(エレボス)が出した答え(せいぎ)

 

―『理想(それ)』を実現させた者を人々は―神々は、『英雄』と讃える。

 

「此方にいらっしゃいましたか、我が主。」

「・・・・人が折角、いい気分になってたのに水を差すなよヴィトー。」

 

そんな興奮冷めやらぬといったエレボスの背中に突如として声が掛けられる。

声の正体はエレボスのたった一人の眷属であるヴィトーだった。

 

「それは大変失礼しました。ですが、ご自分の立場をご理解下さい。これ以上、身勝手に行動されると闇派閥内での貴方の立場が―」

「そんなことよりヴィトー。折角来たなら伝言を頼まれてくれないか?」

「―何ですか?」

 

人の話をまるで聞かない自らの主神に「またか」と思いつつ、なに用かを問う。

しかし、エレボスの口から発せられた言葉はヴィトーの想像を越えるものだった。

 

「オリヴァスへ『騒ぎ』を起こすよう伝えろ。」

「!?」

「実行日は・・・『怪物祭(モンスターフィリア)』の日なんかいいかもな。そうだ、『エニュオ』の奴にも言って食人花(ヴィオラス)も使わせてもらうとしよう。奴もそろそろ自分の『成果』をお披露目したいだろうしな。」

「ついに、ついに動くのですか!!長く沈黙し続けてきた闇派閥(我々)が!」

「そんなに興奮するなよヴィトー、まるで旅行前日の子供のような顔しちゃてさぁ。」

「失礼しました、我が主。ですが、私達はそう言って頂ける日を待ち望んでいたのです!これが興奮せずにいられますでしょうか!?」

「わかった、わかった。じゃあ、すぐにでもオリヴァスに伝えてこい。詳しい内容はあとから伝えるからさ。」

 

ヴィトーはエレボスに一礼すると足早にその場を去って行った。

こうしてまた一人きりになったエレボスはその静寂の中で思考を巡らせる。

 

「そうだ、どうせなら最近兎に目をつけているあの『女神(おんな)』にもこの催しに参加してもらうとするか・・・。」

 

エレボスはそう呟くと、心底楽しそうに嗤った。

 





次回は怪物祭の話を描くつもりです。
やっとイヴィルスの人を出せる。
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