最強と最凶に育てられた白兎は英雄の道を行く


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作:れもねぃど
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第七話 ロキ・ファミリア



ちょっとベートさんがいろんな意味で酷いです。
また、「このキャラはこんなこと言わねぇ」とか思うところがあるかもしれませんが、そこはご愛嬌。



 

その団体は、ベル達と同じようにあらかじめ予約をしていたのか、ベル達から少し離れた席の空いた一角に案内された。

一団は種族がバラバラな冒険者達で、見るに全員が全員、生半可ではない実力を漂わせていた。

それもそのはず、入ってきたのは迷宮都市(オラリオ)最強ファミリアの一角である【ロキ・ファミリア】である。

 

「・・・・・おい。」

「おお、えれえ上玉ッ。」

「馬鹿、ちげえよ。エンブレムを見ろ。」

「・・・・・げっ。」

 

周囲の客も入ってきたのが【ロキ・ファミリア】だと気付くと、先程までとは違ったざわめきが広がっていく。

【アストレア・ファミリア】の団員達も「【ロキ・ファミリア】も来るだなんて、すごい偶然ね!」「ライラ、愛しの【勇者】様にご挨拶でもしてきたらどうですか?」「やめとくぜ、輝夜。今は【ファミリア】だけの時間だ。それを邪魔するほど私は野暮な女じゃねぇよ。」と会話を交わしていた。

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん!今日は宴や!飲めぇ!!」

 

一人の人物が立って音頭を取ると、それを皮切りに【ロキ・ファミリア】の団員達は騒ぎ始めた。ジョッキを『ガチン!』とぶつけ合い、料理と酒を豪快に口の中へと運んでいく。

そんな様子を見てアリーゼが「私達も食べましょ!」と食事の続きを促した。

食事を再開した団員達は思い思いの料理に手をつけ、舌鼓みを打っていた。―ベル以外は

 

(な、なんでさっきから【剣姫】さんがこっちを見てるんだろう・・・。)

 

第一級冒険者の視線に晒されているベルは、緊張からあまり食事が喉を通らなかった。

 

 

(あの子だ・・・。)

 

アイズは、先日ダンジョンで会った少年が、少し離れた席に座っていることに気付いていた。

【ファミリア】の団員達がいる手前、さすがのアイズでもすぐにベルの元へ行くことはなかったが、ベルの事が気になって仕方がないアイズは、周りから掛けられる声そっちのけでベルのことを見つめていた。

 

「アイズ?さっきから黙っちゃってどうしたの?」

「そやで、アイズたん。さっきから何を見て・・・って、なんやアストレアんとこも来とったんか、凄い偶然やな。」

「ほんとだーって、あれ?1人みたことない子がいるよ?」

「ほんとね、新入りかしら?」

 

アイズの視線の先に【アストレア・ファミリア】が居ることに気付いた【ロキ・ファミリア】の団員達は、見覚えのない新入り(ベル)に興味を持ち始めた。

一方でベルは「急に視線の数が増えた!ナンデ!?」と困惑していた。

 

「そうだ、アイズ!お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 

そんな中、アイズの斜向かい、どこか陶然としているベートが何かの話の催促をしてきた。

機嫌を良くしている彼に、アイズは首を傾げる。

 

「何の話、ですか?」

「あれだって、帰る途中で逃したミノタウロス!残り3匹はお前が始末したんだろ!?そんときにいたひょろくせぇ白髪の冒険者(ガキ)のことだよ!」

「!!!」

 

アイズは彼が何を言おうとしているかを理解した。

自分が興味を持っている少年のことだ。

 

「ミノタウロスって、17階層で襲いかかってきて返り討ちにしたら、すぐに逃げ出していった?」

「それそれ!俺達が泡食って追いかけていったやつ!」

 

ティオネの確認に、ベートはジョッキを卓に叩きつけながら頷く。

普段より声の調子が上がっている彼は、本人がいるにも関わらず、状況を詳しく説明し始めた。

 

「そしたら、ミノがそのガキのこと襲ってやがったらしくてな、そこをアイズが助けてたんだ!助けられた奴の情けねぇ後ろ姿ときたら、抱腹もんだったぜ!」

 

―止めて

―あの子は情けなくなんかない

 

アイズは心の中で反射的に呟いていた。

確かにアイズがミノタウロスを倒したことは事実だ。

しかし、その時ミノタウロスに相対していた少年に『怯え』という感情はなく、むしろ『戦意』に満ちていた。

倒してしまった後でアイズが『余計なこと、しちゃったかな?』と思うほどに。

しかも、少年の話が本当ならば3匹中2匹は少年の手で倒されているのである。

しかし、そんなことを知らない団員達は『情けない後ろ姿』を想像してしまったのか笑い声を上げ、聞き耳を立てている他の客達は忍び笑いをしていた。

 

「違います!あの子は、情けなくなんか・・・!」

「やめろよ、アイズ。あんな情けねぇ奴を庇うなんて真似、らしくねぇぞ。しかしまぁ―」

 

遂に我慢できなくなり、反論の声を上げるがそれすらもベートが遮り、言葉を続けた。

 

「久々にあんなに情けねぇヤツを目にしちまって、胸糞悪くなったぜ。ああいうヤツがいるから俺達の品位まで下がるんだよ。」

「いい加減にしろ、ベート。そもそもミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少年に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利などない。恥を知れ。」

 

唯一、黙りこくった表情で不快感を募らせていた【ロキ・ファミリア】の副団長であるリヴェリア・リヨス・アールヴが柳眉を逆立て、非難の声を上げた。

彼女の言葉に、笑っていた団員達は肩を揺らし、気まずそうに視線を逸らしたが、ベートだけは止まらなかった。

 

「おーおー、流石は誇り高いエルフ様だな。だが、そんな弱者を擁護して何になるんだ?ゴミをゴミと言って何が悪い。」

「やめぇベート、リヴェリアも。酒が不味ぅなってしまうわ。」

 

そんな様子を見兼ねた【ファミリア】の主神であるロキが仲裁に入るものの、彼が唾棄の言葉を緩めることはなく、アイズへと視線を飛ばした。

 

「アイズはどう思うよ?あんな情けない野郎が、俺達と同じ冒険者を名乗ってるんだぜ?」

「ベートさん、話を聞いてください、あの子は―」

「何だよ、さっきからずいぶんといい子ちゃんぶるじゃねぇか・・・・。んじゃ、質問を変えるか?あの白髪のガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」

「ベート、君少し酔いすぎじゃないか?」

「そうじゃぞ、ベート。もうやめんかこの話は。」

「うるせぇ。ほら、アイズ、選べよ。雌のお前はどっちの雄に滅茶苦茶にされてぇんだ?」

 

その強引な問いに、今まで黙っていた団長のフィンと、幹部であるガレスが軽く驚きつつ、ベートに自重するよう促した。

だがベートは聞く耳を持たず、とんでもない質問を続けた。

それに対して、同じく幹部勢であるティオネやティオナを含めた女性陣が嫌悪の眼差しをベートに向けた。

「あの糞狼、黙らせるか。」とティオナとティオネが目線での会話(アイコンタクト)を行い、行動に移そうとしたが、アイズが次に放った言葉で主神を含めた【ロキ・ファミリア】は時を止めた―

 

「―あの子が、いいです。」

「「「「は?」」」」

「ベートさんとあの子なら、あの子がいいです。」

 

その言葉に【ロキ・ファミリア】全員が驚愕の表情を浮かべ、固まった。

特に長年親代わりをしてきたリヴェリアや、彼女に情景抱くレフィーヤなどは、驚愕を通り越してもはや顔面蒼白になり、ロキは「うちの、うちのかわいいアイズたんが寝取られた・・・!」という言葉を残し、ぶっ倒れた。

そんな周りの様子に『?私、変なこと言ったかな?』と自らが放った言葉の重大さがわかっていない天然少女(アイズ)は一人首を傾げつつ、言葉を続ける

 

「少なくとも、そんなことを言うベートさんとだけは、ごめんです。」

「―はっ!ぶ、無様だな、ベート。」

「黙れババアッ!おい、アイズ!お前はあんな雑魚に好きだの愛してるだの抜かされたら、受け入れるってのか!?そんな筈ねぇだろ!『弱者』に、お前の隣に立つ資格なんてねぇだろ!?」

 

アイズによって我に返ったリヴェリアが、動揺を隠せていないまま口を開き、ベートがアイズに対してかなり矢継ぎ早に問いを投げ掛けた。

確かに、今のアイズに弱者を顧みる余裕はない。

叶えなければならない願望があるため、彼女の目は常に高みへ向けられている。

そのため、アイズは弱い過去の自分には戻れない。

―だが

 

「大丈夫だと、思います。」

「・・・・あん?」

「確証なんてありませんけど、あの子は強者(わたしたち)に追い付いてくる。そんな気がします。」

「!」

 

そう、確証なんてものはない。

だが彼と初めて会い、その瞳を見た時に、アイズはその奥に宿る『決意』が自分と同じものだと感じたのだ。

 

―今よりもっと強くなる、という決意が

 

少女(アイズ)少年(ベル)の目的など知るよしもない。

だが、彼と同じく『強さへの渇望』を胸に秘める彼女は、彼がすぐに自分達と同じ場所へ来ることを予期していた。

そんなアイズの言葉をすぐに否定しようとベートが口を開こうとするが―

 

「自分達の不始末を棚に上げて、人様のところ新人を好き勝手侮辱するとは―いつから都市最大派閥様は恥知らずの集団になったのですか?」

 

第三者から明らかに怒りのこもった声が【ロキ・ファミリア】に投げ掛けられた。

 

 

―時間はほんの少し遡る。

 

【ロキ・ファミリア】の座るテーブルから聞こえてくる『自分への唾棄の言葉』をベルは顔から表情を消して、聞いていた。

表情を消しているからといって、ベルがその言葉になにも感じていないわけではなかった。むしろその表情とは裏腹に、彼の中では赤く煮えたぎった溶岩のような『感情』が渦巻いていた。

しかし、その『感情』の矛先は、自分へ唾棄の言葉を投げ掛けてくるベートでも、その言葉に笑い声を上げる【ロキ・ファミリア】の団員達でもなかった。

彼が『感情』向けるのは自分自身。目指すべき『目的』にまるで近づけていない自分へ対してである。

 

―彼が初めて自らにその『感情』を向けたのは叔父(ザルド)と初めて手合わせをしたときだった。

 

1年間の基礎鍛錬を終え、初めてザルドと手合わせした彼は、数秒と持たず『瞬殺』された。

木剣で打ち合うどころか、ザルドの放った一撃を視認することすらできずにベルは吹き飛ばされ、地面に転がった。

その一撃で立ち上がることができなくなったベルの胸中は、その『感情』―自分への殺意と憎悪に満ちていた。

 

―『最後の英雄』になると言っておいてこのザマはなんだ。

 

―こんな無力な自分では『英雄』になるどころか、その足元にすら及ばない。

 

―畜生、畜生、畜生っ!

 

ベルは両目から溢れでそうになる涙をこらえつつ、自嘲し続けた。

そんなベルの胸中を察したのか、ザルドが問いかけてくる。

 

「ベル、恨んでいるか?こんなことをした俺を・・・。お前に『英雄になる』と言わせたアルフィアを。」

 

ベルはその問いに首を横に振ると、感情を圧し殺した声で言葉を紡いだ。

 

―僕は、無力な自分が恨めしい。

 

―『英雄(あなた達)』の足元にも及ばない自分が情けない。

 

そんなベルの自嘲の言葉を聞いたザルドは、目を見張った後、懐かしいものを思い出したかのように目を細め、「あの糞ガキのようだな」と呟いた。

そして、立ち上がれなくなったベルに「今日はここまでにするぞ」と言って彼をおぶった。

ザルドはベルをおぶったまま、黙って家路を歩いていたが、しばらくしてベルへ諭すように語り始めた。

 

―ベル、進み続けろ。

 

―その『感情』を『糧』に変えて、さらに先へ。

 

―『諦観』など捨てて、『試練』に挑め。

 

―『絶望』を叩きつけられても、立ち上がり『高み』を目指せ。

 

―それが『英雄』なんてものになる道だ。

 

―そして忘れるな、『勝者は敗者の中にいる』ということを。

 

ベルは頷く代わりに、ザルドの肩を力強く握ることで自らの意思を示す。

ザルドは『フッ』と満足そうに笑うと足早に家路を進んで行った。

 

―その後、土にまみれたベルを見て激昂したアルフィアによって、ザルドはそれ以上の襤褸くずにされ、畑に埋められることになる。

 

その日からベルは変わった。

ザルドとアルフィアから幾度も叩き伏せられても、ベルは不屈の闘志と自らに向けた『感情』を糧に強さを求め続けた。

その感情は、強大な意思と強さへの渇望に昇華し、彼を『英雄への道』に駆り立てた。

図らずともそれは、『現』オラリオ最強の冒険者と同じであった。

 

 

久しぶり胸中に湧いた感情を圧し殺すと、ベルは改めて自分に固く誓った。

 

―もっと強くなろう、と

 

その誓いを胸に、食事を再開しようとしてベルは気付いた。

 

―自分の周りから一切の音が消失していることに。

 

不思議に思ったベルが顔を上げ、その光景に絶句した。

【アストレア・ファミリア】の面々―ライラとアストレアを除く―がベートを睨んでいたからだ。

 

(なっ、なんで皆さんこんなに怒ってるの!?)

 

そんな【ファミリア(仲間達)】の変貌にベルは驚いていたが、その理由は至極単純だった。

いわば、それだけベルが気に入られているということだった。

ベルが【ファミリア】に入って半月、他の団員からのベルに対する印象はかなり良いものだった。

仕事をお願いすれば嫌な顔ひとつせず引き受け、本拠(ホーム)では自ら進んで家事を行い、料理の腕は―本人は「叔父さんより美味しくない」と言っていたが―非常に高く、派閥一の料理上手である輝夜すら認めるほどであった。

はっきりいって、ベルは非の打ち所がないほどに『いい男』であったのだ。

あまりのいい男っぷりにアリーゼが「この子を派閥で囲って、将来的には旦那様に!」等と言い、彼の地位が『派閥の癒し枠』から『派閥の旦那様』になっていたりするのだが、本人はそのことを全く知らない。

このことを神々が知ろうものなら「まじかw、【アストレア・ファミリア】www」とか「犯罪(ショタコン)の匂いがぷんぷんするぜぇ!!!」とか「【ガネーシャ・ファミリア(お巡りさん)】、この人です!!」等と言われそうであるが、彼女たちは知ったこっちゃなかった。

冒険者という職業柄、周りの男共は荒くれものだらけで出会いなどなく、更には全ての少女達にとって貴重な『黄金時代(アオハル)』を『闇派閥への対処(汚物の消毒)』に当てていた彼女達はそういった色恋に人一倍飢えていたりするのだ。

そのため、彼女達からすればベルを侮辱するような言葉は非常に面白くない。

ましてや相手は『女心』の『お』の字すらわからなそうなベート・ローガ(クソ野郎)である。

ますます面白くなかった。

 

「・・・・私、少し文句言ってきますね。」

「輝夜さん!?」

「任せたわ輝夜!なんなら一発かましてランクアップよ!」

「焚き付けないでくださいアリーゼさん!」

「み、みんな、気持ちはわかるけど少し落ち着いて・・・。」

「「「「アストレア様、【凶狼(あの馬鹿)】にははっきり言ってやった方がいいと思います!」」」」

「そっ、そうなのかしら・・・・?」

「頼むから抗争なんてことにはならないでくれよ・・・・。」

 

青筋を立てた顔に笑みを張り付けて席を立つ輝夜、そんな輝夜に声援を送るアリーゼ、止めようとするベル、自らの眷属に落ち着くよう促すアストレア、それを封殺する団員達、額に手を当てて天を仰ぐライラと状況は混沌を極めた。

 

 

そして、現在。

誰がどうみても怒っている輝夜を見て、【アストレア・ファミリア】を除く殆どの客は青ざめていた。

周りの客は、酒の肴になっていた『件』の冒険者が【アストレア・ファミリア】の新人だと知り、「やっちまった」という表情を浮かべていた。

そして【ロキ・ファミリア】の面々の表情はもっと酷いことになっていた。

周りの客と同じように新人を酒の肴にしてしまったのは勿論のことだが、輝夜から指摘されたように今回の騒動の原因は【ロキ・ファミリア】である。

そのため、ほとんど団員は顔を更に青くしてうつむき、フィンはどのように謝罪しようかを考えていた。

しかし、ベートだけは輝夜へ向き直ると鼻を鳴らした。

 

「おい、クソ女。てめぇ、さっきの話聞いてなかったのか?ならもう一度言ってやるよ。『ゴミをゴミと言って何が悪い。』」

「おやまぁ、ではかの高名な【凶狼】様はLv.1でミノタウロス3匹を難なく倒すことができるのですか?しかもうちの新人は、まだ冒険者になって半月ですよ。」

「少なくても、あんな無様は晒さねぇよ。」

「私は倒せるのかどうかを聞いているのです。勝手に話をすり替えないで下さい、この『駄犬』。」

「・・・てめぇ、喧嘩売ってんのか?」

「当たり前のこと聞かないで下さいます?それともあなたにはこれが仲良くしようとしている風に見えるのですか?もしそうなのであれば、いい治療院を紹介するので、眼球の治療でもしてもらったらどうですか?」

「ベート、それ以上はやめろ。【大和竜胆】も一旦落ち着いてくれ。謝罪ならするし、お詫びとしてそちらの望むものを―。」

「私は【勇者(あなた)】の謝罪ではなく、この『駄犬』からの謝罪を求めているのです。わかったら、この『駄犬』に謝罪させて下さいませ。」

「てめぇ・・・・。」

 

ヒートアップする二人の口論にフィンが待ったをかけるが輝夜はそれを一蹴した。

そんな様子に【ロキ・ファミリア】の団員達は狼狽えており、周りの客達も「な、なんかやばくねぇか?」「抗争とかにならねぇよな!?」「い、今のうちにずらかるぞ!」と言って勘定を払って足早に店から出ていく。

【アストレア・ファミリア】の面々は「輝夜の奴、かなり熱くなってねぇか?」「輝夜、ベルのこと気に入ってるもんね。」「これが愛の力なの!?良かったわねベル!」「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!?僕、止めてきます!」とベルが輝夜を止めようと席を立った。

その間にもベートと輝夜の口論はヒートアップする一方だった。

 

「冒険者なら自分の身は自分で守りやがれ。それもできねぇような雑魚は、巣にでも籠もってろ。」

「相変わらず、強い言葉をお使いになりますこと。今日は一段と酔いが酷いのですか?それともー」

 

そう言って輝夜はアイズを一瞥すると、袖で口元を隠して「クスリ」と笑うと

 

「意中の娘に拒絶された挙げ句、他の男の方がいいなどと言われて『嫉妬』しているのですか?なんと『情けない』」

「!黙りやがれぇ!!」

 

そんな輝夜の物言いに遂にベートの感情が爆発した。

いつものベートであれば、もっと前に「くだらねぇ」と言って口論を打ち切ったであろう。

だが、いつもより酔いが回っていたことに加えて、核心を突かれた―本人は絶対に認めないだろうが―ことにより、ベートは感情のままに拳を繰り出した。

だが、その拳が輝夜を打ち据えることはなかった。

 

「・・・なっ!?」

「!べ、ベル!?」

「・・・いくら腹が立ったとしても女の人に手を上げるのは良くないと思います・・・。輝夜さんも言い過ぎです。」

 

ベートと輝夜の間に入ったベルがベートの拳を受け流していたからだ。

だが、Lv.1とLv.5のステイタスの差は大きく、受け流したベルの表情は痛みによって歪んでいた。

しかし、それを差し引いてもベル(Lv.1)ベート(Lv.5)の一撃を受け流したことは、まさに異例といえることだった。

 

「てめぇ、何を―」

 

ベートが口を開こうとしたが、突如として彼の後頭部に衝撃が走り、彼は意識を失った。

 

 

「全く、此奴の言葉は必要以上に鋭いが、今日のは特に酷いわい。」

「【重傑(エルガルム)】・・・・・。」

「ガレスのおじ様・・・。」

「うちのベートがすまんのぉ、娘っ子ども。じゃが、周りも騒がしくなっておるし、今日はこの辺でやめにせんか?謝罪については後日、此方から出向かせてもらうとしよう。」

「ガレスの言う通りや。輝夜たん、アリーゼたんにアストレア、うちのベートがすまん!後で、きっっっつく言い聞かせておくから、今日のところは勘弁してーな。」

 

同じLv.5であるベートを黙らせた後、【アストレア・ファミリア】の面々に頭を下げるガレスに続く形で、先程のショックから我に返ったロキも頭を下げる。

確かに近くにいた凸凹コンビ(ヘスティアとリリ)は抱き合いながら「あわわわわわ・・・。」などと言っているし、店の外にいる通行人達も、何事かといった具合に此方を見ていた。

何より厨房にいた筈の店長のミアがこちらを怒りの形相で睨みつけながら仁王立ちしていた。

これ以上の騒ぎは迷惑になると判断したアリーゼは「わかったわ。」とガレス達の提案を承諾した。

 

「なんかとんでもない歓迎会になっちゃったけど、まぁこれも良い思い出よね!」

「私は色々と言い足りないのですが・・・。」

「僕は大丈夫ですから、輝夜さんもそのくらいに。」

「・・・お前がそう言うなら。」

「そうだぜ輝夜。それに【ロキ・ファミリア】からの『お詫び』だってあるんだ。そんときに目一杯吹っかけてやろうぜ!」

「ライラがあくどい顔をしている・・・。一体どんな無理難題を吹っ掛ける気なのですか。」

「私は簀巻きにされてリンチされてる【凶狼】を見て、大分溜飲下がったけどな。」

「確かに!」

「【大切断(アマゾン)】と【怒蛇(ヨルムガンド)】に特にボコボコにされてたねー。」

「「リヴェリア様を『ババア』呼ばわりしたのですから当然です。」」

「エルフはそこほんとブレないなぁ・・・。」

「それよりベル君、【凶狼】から輝夜を庇ってたとこ、すごくかっこよかったよ!」

「ほんとほんと!かわいい顔してるけど、ベルもやっぱり『雄』なんだねぇ。」

「マ、マリューさん、イスカさん、からかわないで下さい・・・。」

「いや、二人の言う通りだベル!あの『駄犬』から私を庇った時のお前はまさに『漢』と呼ぶに相応しかった!後は今夜、寝所で私を抱けば完璧だ!」

「「「「輝夜はちょっと黙ってよっか!!」」」」

「・・・あんなことがあったのに、貴方達は楽しそうね。」

 

危うく抗争というところまでいったにも関わらず、全く緊張感のない会話をする逞しい眷属達に、アストレアは溜息を付いた。

そしてそんな楽しそうな【アストレア・ファミリア】の後ろ姿を―

 

「また、あの子の名前、聞けなかった・・・。」

 

まさに『がーん』といった表情でアイズが見ていた。

 





アストレア・ファミリア、ベル君を旦那にするのはいいが、黒龍討伐の後に『真のラスボス』が待っているぞ!

そして理不尽な暴力がザルドを襲う!―合掌。

次回はエイナさんとのデート!
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