盤外の英雄


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作:現魅 永純
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ウェスタ


 

 

 

 ───最強は最強故に最強である。

 頂点を示せ。決して揺るがない強き意志を。己が至るは過去最強。例え今が最強であれ、今までの最強では在らず。やがては己に追いつくモノが現れるだろう。そんな漠然とした思想は、追い越した者が現れる事で破壊される。

 やがて? そんな思想をするから負けたのだろう。一体何を驕っている。まだ過去最強にすらなっていない身で、(おまえ)は最強のつもりなのか。

 

 動揺? 言い訳にもならん。己より強いから? 冒険者としての意思が揺らいでる何よりの証拠だ。冒険者は冒険する事でしか強くなる事はできない。己より強いからなど、それを乗り越えてきた自分への、そして多くの者達への侮辱。

 そんな事では見限られるぞ。いや、もう見限られているのかもしれない。かの美神(めがみ)は、この抗争を不殺で終わらせた“英雄”に魅入られている。かの女神は己の欲する者の為ならば止まらない。それこそ、己を見限ってでも手に入れたい何かであれば、己は見限られるだろう。

 

 ……主神の為であれば、それも良いか。

 

 

 

♢♦︎♢

 

 

 

「何たる惰弱……何たる脆弱……」

 

 

 ……どうしよう。いま凄くこの場から逃げ出したい。今日はアストレア・ファミリア組の皆がちょっとした遠征……と言っても、明日には帰ってくるものではあるが、取り敢えず今日はホームにいない。アストレア様は何処かに出掛けているし、夕飯は外で済ませようと思って、『豊穰の女主人』に来たんだけど……この声って多分……。

 

 

「───あ、英雄様! この店にいらしてくれたんですか?」

 

 

 ……ちょっと小さいけど、シルさん……かな? 店の前で立ち止まってたらそりゃ気付かれるよね……って“英雄様”?

 

 

「あの、その英雄様っていうのはやめて頂けると……」

「あはは、あの場に居たらつい見惚れてしまったので。それに皆さんも褒め称えていますよ? あの姿はまさしく───」

「べ、ベル・クラネルです! 嬉しいんですけど、そう大っぴらに言われるのは恥ずかしいので……!」

 

 

 ああ、シルさんもアーディさんの誘導であの場に居たのか……。嬉しい、嬉しいんだけど……未来でかなり近しい関係だった自覚があるので、“英雄様”って呼び名は少し距離感があって……。

 

 

「では……ベルさん?」

「は、はい」

 

 

 ほっと一息。凄く聴き慣れた言葉だ。やっぱりこっちの呼び名の方が安心感がある。

 

 

「シル! 客なら直ぐに案内しな!」

「はーい! ではついでに自己紹介を。私はシル・フローヴァです。ベルさん、お好きな席にどうぞ」

 

 

 ……ん、店員さんが少ない? リューさんはまあ、今はアストレア・ファミリアにいるから分かるけど……黒の猫人(クロエさん)とか茶髪の人族(ルノアさん)とか、見知った顔が少ない様な……。茶の猫人(アーニャさん)はいるけど、雰囲気が違うというか。……まあ七年前ってなると、雰囲気が違う人も居ない人も多いか。

 開店してるとは言え、今は夕飯にはまだ早い時間帯だ。人数は少ない。けど一人客で席を取るわけにもいかないし、初めて豊穰の女主人に訪れた時と同じカウンター席に座ろう。

 

 ……どうしよう、すっごい見られてる。店員さんからじゃなくて、店に入る前に危惧してた声の主……オッタルさん。離れてるとはいえカウンター席だし……。なんでミアさんあの人と真正面から向き合えるの。

 僕が冷や汗垂らしながらシルさんに注文を頼むと、急に肩を叩かれる。

 

 

「よぉ、少年! お前さんもここで食事か?」

「え? えっと、はい」

「ははは、そう固くならんでいい。……ん? 酒頼んでないのか? ミアさーん、酒一つ追加!」

「ええっ!? いや、悪いですよそんな!」

「気にすんな気にすんな! あん時「酒奢るから生き延びろ」つったろ? 俺はただ約束したもん払うだけだ!」

 

 

 あ……あの時の声の人。

 

 

「こうして闇派閥退けて、五体満足で生き延びてくれたんだ! そりゃ祝うしかないだろっ! おいお前ら! 【オラリオの英雄に酒奢った男】って称号は俺が貰っちまうがいいかぁ!?」

「おい抜け駆けは許さんぞ! だったらオレは【オラリオの英雄に肴を奢った男】の称号を頂く!」

「わ、私は【オラリオの英雄に接待した女】の称号を貰います!」

 

 

 ……なんか大変な事になってる。というか取り敢えず【僕に〇〇した男女】と付けて盛り上がる展開というか……。どうしよう、乗りについていけない。おい誰だ【僕の胸板に触った男】とか言った人。待って最初の人、「だったら俺は【不意打ちで肩を叩いた男】」で張り合わないで。

 

 

「では私は、【オラリオの英雄の伴侶になった女】という称号を頂きましょうか?」

「シルさんッ!?」

「おっ、嬢ちゃん大胆だな! こりゃ男の俺達は手を出せねぇっ!」

「……いや、オレはワンチャンいける」

 

 

 ゾッとした。

 

 

「……しっかし、本当にアンタのお陰だ。今の時代、闇派閥がこぞって襲い掛かるような事はザラにあった。こんなに呑気に酒を飲める余裕は無かったからな。だから、まあ……ありがとよ」

「……? あの、もしかして」

「よぉし盛り上がれ! ガンガン酒飲むぞぉ!」

 

 

 ……この人って、多分この七年前に訪れた最初の頃の……。髪型も雰囲気も変わってるから分からなかったけど、間違いない。そっか、うん。良かった。改心出来たのだ。

 話を逸らしたって事は、触れて欲しくはないのだろう。ならそうしよう。

 

 お酒は酔わない程度に抑えないとな。

 

 

 

♢♦︎♢

 

 

 

「ベル・クラネル」

 

 

 豊穰の女主人での食事を済ませてアストレア・ファミリアホームへと帰る道で、オッタルさんに話しかけられる。……まあ無視出来る筈もないか……。僕としてもオッタルさんの主神であるフレイヤ様からの視線は気になってたし、聴きたい。

 酔わない様に抑えて正解だった。

 

 

「えっと……何か用ですか?」

「フレイヤ様がお前に会いたいと言っている。……無理に連れてこいとは言われていない。貴様の是非は訊こう」

 

 

 あの女神様に会うのはちょっと怖いかな……。

 

 

「まあ貴様の主神が直接フレイヤ様に釘を刺しにくる程だ。会う気はないだろう」

「え……アストレア様が?」

「……なるほど、どうも大切にされているらしいな。先までの店での状況を見ても、貴様は周りに好かれる才もある」

「いや、そんな……」

「元よりそれは目的ではない。一つだけ貴様に要望がある」

 

 

 要望? 僕に対するお願い……。せ、戦闘でも挑まれるのかな?

 

 

「ザルドとの戦闘を俺に譲れ」

「……へ?」

「奴が生きているのは知っている。貴様が奴と衝突した瞬間、目が覚めたからな。……俺が奴を倒す。だから譲れ」

「それは構いませんけど」

「……随分とあっさりしてるな。貴様とて不完全燃焼だろう」

 

 

 まあ確かに、あの時に逃げられて「この壁は越えるべきだ」と思っていたけど……。最終的な目標は定めている。あの一勝一敗の決着の約束を果たす為。それだけは決して譲らないが……ザルドさんとの戦闘は、この我が儘を通すつもりはない。

 

 

「確かに決着をとは思いますが……。僕の目指す先は其処じゃない。オッタルさんが目指すべき場所が其処であるなら、譲ります」

「……!」

「あ、ゆ、譲るっていうか、元々約束してた訳ではありませんし……あくまで誰がぶつかるのかの決定事項がオッタルさんになるだけで、何も僕が必然的にザルドさんとぶつかるって訳じゃなかったですから……!」

 

 

 どうしよう、都市最強に凄い偉そうな言葉を吐いた気がする。全身に冷や汗が流れてきた。怖い。オッタルさんが今無言だからこそ凄く怖い。放つ言葉が変になってる自覚もある。

 

 

「……目的外に執着してどうする、阿呆め

「へ?」

「いや、何でもない。久しく忘れていた言葉を思い出しただけだ。……そうだな。すまないがもう一つ、懇願していいか?」

 

 

 要望じゃなくて、懇願?

 

 

「俺と戦ってくれ、最初の英雄」

 

 

 

♢♦︎♢

 

 

 

 ああ、全くだ。目的外の事に執着してどうする。俺の目的は『最強としてフレイヤ様の側に寄り添う』こと。ザルドとの戦闘はただの糧だ。

 認めてやる、俺は未だ乳離れ出来ないガキだと。だからこれをキッカケに己を変えるとしよう。女神至上主義の俺を、俺の為の俺に。仮にフレイヤ様が見限ろうとも関係ない。俺は女神に寄り添いたい自分の意思を貫く。

 

 そしてフレイヤ様が「愛を注いで良かったわ」と思ってくれる様な存在となる。その為ならば、利用出来るものは全て利用しよう。

 勝ちも負けも過程の全てだ。貴様から学べる全てを学んでみせよう、ベル・クラネル。

 

 

「うわぁ……」

 

 

 少年のドン引く姿が視界に入る。……無理もない。ファミリア内での殺し合いなど、他ファミリアでは想像できないだろう。最近までは疑問にも思わなかったが、道化の神の所を見ていると、俺達の強さの秘訣とはいえどうかと思い始めた。

 フレイヤ様が止めないのが理由の一つなのだが……まあこれで強くなっているのだから、止める理由もあるまい。

 

 

「あっ、テメ兎野郎! ここに来たって事はそういう事だなッ!? ぶっ殺す!」

「えぇっ!?」

「───落ち着け、アレン」

 

 

 気が早過ぎる。しかし警戒していて正解か。重症とまではいかないが怪我で休んでいた癖に、起きたら戦闘漬けだ。ベル・クラネルを連れてくればこうなるのは予想していた。

 

 

「あくまで俺の事情に付き合っているだけだ。フレイヤ様への謁見ではない」

「ァア? ……よし、じゃあ個人的に殺し合う」

「俺が先だ」

「うるせぇ俺がやる」

「……先に飯を食え。今日は何も食べてないだろう? それではすぐに倒れる」

「オカンかテメェは!?」

 

 

 ……叫んだ割には従うのか。まあベル・クラネルが強い事は、あの戦闘でアレンも知っている。挑むなら万全に、という事か。

 これからはベル・クラネルの名を出せば従う場面が多くなりそうだな。

 

 

「すまないな、勝手に決めてしまった。貴様がアレンとまでやるつもりがないなら、俺が抑える」

「あ、いえ……。武器種が違うとはいえ、僕と同じ『速さ』を主にした戦闘スタイルの人と戦えるのは有り難いです。……フィンさんが忙しいから槍を主にした人と戦った事はないので、この際だからじっくりと確認したいですし」

 

 

 ……上昇志向が常に現れている。聴けばこの者も俺と同じ万能型のステイタスだったか。俺は体格が故に力をフルに活用するスタイルだが、ベル・クラネルはそれに拘るつもりはない様だな。倣うべきか。……短剣は合うまい。使うにしても単純な防御用、或いは投擲用。戦闘スタイルはせめて直剣二刀といったところだ。後で製作を依頼しよう。

 とりあえず今は、ザルドのスタイルで戦う。そしてベル・クラネルの対応から、このスタイルの攻略法を暴いていくぞ。

 

 

「……さて、やるとしよう」

「はい!」

 

 

 

♢♦︎♢

 

 

 

 自動使用されるスキル以外……つまり能動的(アクティブ)スキルの使用は禁止。武器は自由。純粋な身体能力だけの戦闘。

 この条件で、戦闘は始まった。

 

 オッタルさんは開始と同時に詰め寄り、大剣を振り下ろしてくる。……ザルドさんと被る攻撃。これは既に受けた事がある、ただ逸らせばいい。

 ステイタス上でのスキルの使用は禁止されたけど、技術的な部類に入るモノは禁止されていない。僕は五感の神経を視覚のみに集中させ、視界に入るモノへの認識速度を上昇。視界の中での動きが遅く感じる。オッタルさんの力の入れ方・振り方を見るに、大剣の先に当てて逸らすべき。

 

 ヘスティア・ナイフを大剣先に当てて逸らした。……やっぱりレベル7とレベル6では力の差がある。僕の能力値でも、オッタルさんが不完全な力且つ僕が万全なら受け止められると思う。

 いや、でも……次の攻撃、その次の攻撃といい、ザルドさんの攻撃と被る部分が多い。つまりこれは、僕の対応からザルドさんの弱点を探る為?

 

 だとしたら受け止める事はしない。攻撃への対応は“逸らし”だけだ。後は攻撃する時にどうするべきか……。

 

『貴様の動きは無駄が多い』

 

 輝夜さんの言葉を思い出した。確かに、純粋な技だけで考えると僕は輝夜さんに劣るだろう。

 無駄を減らす。この実践の中で磨き上げろ。ファミリア内では行う事が出来ない『格上』との戦闘だ。ここで習得出来る全てを習得しろ。

 

 ……視界から外れる時は、反動で姿勢を低くするのではなく……膝から力を抜いて、沈める。余計な筋肉を使わない。この動作を自然に。

 

 

「くっ」

 

 

 ダメだ。力を抜いて沈めると次の動作が遅くなる。慣れてない影響か。……上等! 最初から出来るなら苦労しない。磨け、磨け。何十回、何千回でも繰り返せ!

 今の僕に出来る全てを試す。オッタルさんは僕から学ぼうとしている。なら僕はそれに沿った上で、僕が学べる事を。

 

 ───【燃え続ける聖火(ウェスタ)】を途絶えさせない為に、技術(そざい)をこの身に与え続けろ!

 

 

 

 

 





 新PVのオッタルさんの武装状態見てこれは上手いこと繋げられると思いましたね。ええ。
 【ベル君を初めて暗黒期に放り込んだ男】の称号は私が頂きます。
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