最強と最凶に育てられた白兎は英雄の道を行く


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作:れもねぃど
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第五話 神エレン


ベル君がダンジョンにいる間に起こったことです。
アーディのキャラが崩壊気味かもしれません。
ベル君はとある神からロックオンされています。


 

ベル達がダンジョンへ潜っている頃、地上では本日の巡回(パトロール)を終えたリューとアリーゼが本拠(ホーム)への帰路についていた。

 

「今日も今日とて街に異常は無し!!フフーン!これも私達の日頃の行い(パトロール)の成果ね!!」

「アリーゼ、そこまで堂々と言うことではないかと。」

 

何事もなく巡回を終えられたことに、腰に両手を当てて勝ち誇っているアリーゼに、リューは突っ込みを入れる。

都市の巡回は【アストレア・ファミリア】が日常的に行っている事柄の一つである。通常、監視や見回りは『都市の憲兵』で知られる【ガネーシャ・ファミリア】の役目だが、『正義』の名を掲げる彼女達も積極的に参加していた。

 

「それに、いつまた闇派閥(イヴィルス)の襲撃があるかわからない。油断は禁物です。」

「それはそうだけれど闇派閥の連中、最近凄く大人しいのよのね。それこそ不気味なくらいに。」

 

―『闇派閥(イヴィルス)

15年前の男神(ゼウス)女神(ヘラ)の『黒竜』討伐の失敗。

それは闇の勢力が台頭する引き金となった。

様々な『悪』を内包した無数の勢力の集合体。

それが『闇派閥(イヴィルス)

彼らは迷宮都市(オラリオ)に最悪の時代―『暗黒期』をもたらした。

秩序は混沌に塗り替えられ、血が血で洗われる。

多くの子が泣き、多くの者が傷付き、多くの悪が嗤った最悪の時世。

しかし、そんな時代は突如として終わりを迎えた。

闇派閥の活動は年々減少し、最近では「闇派閥はもう都市外へ逃げたのではないか」という噂が立つほどである。

 

「あの【殺帝(アラクニア)】や【白髪鬼(ヴェンデッタ)】を含めた闇派閥の幹部達がただ大人しくしているとは思えないのですが・・・。」

「かといって、逃げ出すような人達でもないしね。特に【殺帝】は【ロキ・ファミリア】の【勇者(ブレイバー)】に凄く執着してたし。」

 

【殺帝】ヴァレッタ・グレーデ

【白髪鬼】オリヴァス・アクト

 

両名とも冒険者ギルドの要注意人物一覧(ブラックリスト)に名を連ねる闇派閥の主要幹部である。

どちらも生粋の外道であり、オラリオの転覆に並々ならぬ執着を抱いている。特にヴァレッタは15年前の『暗黒期』の幕開けから【ロキ・ファミリア】の団長である【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナと幾度となく軍勢を率いて鎬を削ってきた。

そのためヴァレッタはフィンの事を『憎き宿敵』と思っている節があった。

そんな人物達が、目的を果たすこと無くこのオラリオから逃げ出すというのは、少し考えにくい。

 

「だからこそ、今もこうやって巡回してるんでしょ。確かに楽観的になりすぎるのは危険だけれど、悲観的になりすぎるのもどうかと思うわよリオン。」

「で、ですがアリーゼ・・・。」

「はい、はい。そんな渋い顔しないの。折角の綺麗な顔が台無しよ!それに今日も街は平和―」

「あ~~~~~れ~~~~~っ!!」

 

―だったじゃない。とアリーゼが言おうとしたその時、アリーゼ達の視界の奥から突如として、情けない男の声が聞こえてきた。

 

「ははっ!いただきだぁ!」

「俺の全財産444ヴァリスがぁぁぁぁぁ!誰か取り返してくれぇぇぇぇぇっ!!」

 

荒々しい声は、財布を奪った暴漢のもの。

そして情けない男の悲鳴は財布を奪われた『神』のものだった。

 

「人が折角、『平和でいいなぁ~。』とか思っていた矢先に犯罪が起きるってどういうこと!?これが神様達が言っている『ふらぐ』ってやつなの!?っていうか神様なのに所持金がショボいわ!」

「そんなことを言っている場合ではないでしょう!追いますよ!」

 

前半は犯罪が起きてしまったことに対する文句、後半は素直な感想を述べるアリーゼに対して、リューは突っ込みを入れつつ、暴漢の後を追った。

距離があるといっても一般人と第二級冒険者(Lv.4)では身体能力に天と地ほどの差がある。そのため、暴漢とアリーゼ達の間にあった距離は瞬く間に縮まっていった。

 

「コラー!観念してお縄につきなさぁーい!!」

「!あれは【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】に【疾風】!?くっそう、ついてねぇ!!」

 

アリーゼの声に反応し、振り向いた暴漢は自分を追ってきているのが正義の派閥として有名な【アストレア・ファミリア】の少女達だと気付き、思わずといった様子で悪態をついた。

そんな中、走る暴漢の前に突如として人影が現れた。その人影は暴漢など気にも止めた様子は無く、此方へ向かってきていた。

 

「!じゃまだ!!どけぇ!!」

 

人影に気付いた暴漢は、暴言を飛ばしながら人影を突き飛ばそうとするが―

 

「ごっはぁぁぁぁ!?」

 

次の瞬間、突き飛ばそうと伸ばした腕を掴まれ、投げ飛ばされていた。地面に叩きつけられた暴漢は野太い悲鳴を上げ、悶絶していた。

 

「はい、確保っと。駄目だよー、悪いことしちゃ。」

 

暴漢を投げ飛ばした人影―女性はそう言うと、慣れた手付きで暴漢を拘束した。

 

「アーディ!」

「助かったわ、アーディ!でも、なんかいいところだけもっていかれたような気がするのはなんでかしら!?」

 

暴漢を拘束した知己の女性にリューとアリーゼはそれぞれ声を掛ける。

女性―アーディは二人の声に反応したのか、顔を上げた。

その顔は美しい、というより、可憐という言葉のほうが相応しいといえる整った顔立ちだった。薄蒼色の髪を短くまとめているため中性的(ボーイッシュ)な印象を感じさせるが、それは顔だけであり、体に目を向ければ大きく膨らんだ胸や、くびれた腰が服の上からでもはっきりとわかった。

 

「や、リオン、アリーゼ、お疲れ様。品性方向で人懐こくて【ガネーシャ・ファミリア】団長のシャクティお姉ちゃんの妹で、リオン達と同じLv.4のアーディ・ヴァルマだよー!じゃじゃーん!!」

「誰向けの自己紹介をしているのですか、貴方は・・・」

 

アーディ・ヴァルマ

 

【ガネーシャ・ファミリア】の団員で【象神の詩(ヴィヤーサ)】の二つ名で知られる彼女は都市の憲兵とは思えない朗らかな態度でリュー達に近づいた。

 

「リオンは今日も綺麗で可愛いね。・・・抱きついてもいい?」

「話を聞いてください。」

「フフーン!私は昨日しっかりリオンとベルをセットで抱き枕にして寝たわ!二人とも照れちゃって可愛かったんだから!」

「えぇ!?ずるいよ、アリーゼ!!リオンだけじゃなくベル君も一緒だなんて!私も寝たい!!」

「二人とも話を聞けぇ!!」

 

『招き猫』のように片手を揺らすアーディに、リューは話を聞くように言うが、アリーゼが昨夜行った妖精(リュー)(ベル)との添い寝―ベルは最後まで渋っていたが、『団長命令』まで使われてしまい、断れなかった。―について話すと、最早手がつけられなくなり、リューは思わず叫んでしまった。

 

「そういえば、ベル君はいないの?」

「残念ながら、今日もダンジョンよ。」

「そっかぁ・・・。」

「そんなに落ち込まなくても・・・。」

「だって久しぶりだし、会いたかったんだよ!」

「アーディ、シャクティから「ベルに接触禁止!」って言われていたものね。」

「そうなんだよ!お姉ちゃんてば酷い!」

「自業自得でしょう・・・」

 

ベルがいないことに露骨に肩を落し、愛しの(ベル)に会わせてくれなかったシャクティ()へ文句を言うアーディを見て、リューは呆れたように呟いた。

そんな事態になった理由はベルが【アストレア・ファミリア】に正式入団した翌日まで遡る。

「巡回がてらベルに迷宮都市(オラリオ)の案内をしてくるわ!」と言って元気よく巡回に向かったアリーゼとネーゼだったが、その途中で同じく巡回中であったアーディと遭遇した。

アリーゼはアーディに「【アストレア・ファミリア(うち)】に新しく入団したベルよ!」と胸を張って紹介し、ベルも「はじめましてアーディさん、ベル・クラネルといいます。」と自己紹介をしたが、アーディはその声に答えること無くベルをじっと見つめた後、唐突に感情を爆発させた。

 

「なにこの子!!?すっっっっごく可愛いぃぃぃ!!」

 

そう言うとアーディはベルへ抱きつき、ベルはアーディの胸に勢いよく顔を突っ込むことになった。

突然の事に加えて、胸に顔を突っ込んだままのベルは「ムグゥ!?」と呻き声を上げることしかできなかった。

しかし、アーディはそのことに気付いていないのか、ベルの髪に顔を埋めて言葉を続けた。

 

「すごーくいい匂いがする!リオンと同じくらい!!」

「ムグッ、ムームー!!」

「髪の毛もフワフワで兎みたーい!!」

「ムゴッ!?ムムッ!ムー!」

「君ぃ、今からでも【ガネーシャ・ファミリア(うち)】に改宗(コンバージョン)しない!?なんなら、今すぐ本拠(ホーム)へ連れてってあげるよ!!」

「ムフゥ・・・・。」

 

自分が顔を突っ込んだところが、年上お姉さんの双丘(男の楽園)だと気付いたベルは恥ずかしさから、必死に抜け出そうとするが、Lv.1(ベル)Lv.4(アーディ)に勝てるわけもなく、やがて顔を真っ赤にして力尽きてしまった。

一方、アーディの方はいうと、そんなベルの状態に気付く様子はなく、引き続き頭を撫でたり、抱きしめたりするなどして、(ベル)を愛でていた。

―そう、簡潔に言ってしまうならば、アーディ・ヴァルマはベル・クラネルに一目惚れしてしまったのだ。

 

「そうと決まれば、善は急げだね!早速、ガネーシャ様のところへ行こう!!」

 

一頻りベルを堪能し終えたアーディは、ベルを脇に抱えると、呆然としているアリーゼとネーゼを置いて、凄まじい速さで【ガネーシャ・ファミリア】の本拠へと戻っていった。

残された二人は数秒後、やっと我に返り「「ゆ、誘拐だぁぁぁぁ!!」」と言ってアーディを追って、本拠へと向かった。

途中、「大変です、シャクティ団長!アーディさんが白髪のヒューマンを脇に抱えて通りを爆走していたとの通報が!!」という報告を聞き、本拠へと帰還しようとしていたシャクティと合流し、共に【ガネーシャ・ファミリア】の本拠である『アイアム・ガネーシャ』にたどり着いた。

 

―そこから先は、まさに混沌(カオス)だった。

 

―ベルを人質に自室に立て籠る犯人(アーディ)とそれを説得する家族(シャクティ)

 

シャクティは必死に(アーディ)を説得しようとするが、アーディは相当ベルの事が気に入ったのか、ドア越しに返ってくる言葉は「いくらお姉ちゃんの言うことでも、今回ばかりは譲れないよー!」といった『要求には応じない!』という確固たる意思を感じさせるものばかりだった。

その言葉を聞いたシャクティは「馬鹿者!!都市の憲兵たる【ガネーシャ・ファミリア(我々)】が誘拐などというれっきとした犯罪行為に手を染めてどうする!」と怒声を浴びせていた。

そんな中、姉妹喧嘩が白熱するばかりで一向に事態が進展しないことに痺れを切らした【アストレア・ファミリア(作戦班)】は、『強制解錠(ピッキング)からの強行突入による兎の救出作戦』の実行を決意。

すぐさま、本拠で休息をとっていたライラ(ピッキング班)と作戦を必ず成功させるべく、既に現場にいるアリーゼとネーゼ(戦力)に加え、緊急事態のため巡回を切り上げて戻ってきたリューと輝夜(戦力)まで投入した。

こうして『アイアム・ガネーシャ』に集結した【アストレア・ファミリア】の女傑達はすぐに行動を開始した。

まず、アーディの自室の扉をライラが数十秒で解錠するとすぐさまアリーゼ達が「「「開けろ!【アストレア・ファミリア】だ!」」」とノリノリの様子で突入した。―アーディの人柄をよく知る彼女達は最初こそ、ベルが誘拐されたことに驚愕していたが、ベルを傷付けることはないだろうと踏んでおり、この状況を少し楽しんでいた。この状況を楽しめていなかったのは頭の固い妖精(リュー)誘拐犯の姉(シャクティ)だけであった。

予想通り、アーディがベルを傷付けているということはなく―意識を失っているベルを抱き枕にしてベッドに横たわりながら、「抱き心地も最高ぉ、こんなの安眠間違いなしじゃん・・・。」とアーディがにやけた表情を浮かべているというヤバい絵面になっていたが―ベルは無事に保護された。

その後、アーディはシャクティにより徹夜でお説教を受け、『暫くの間、業務量を倍にする。』、『ベル・クラネルとの接触もとうぶん禁止。』という二つの刑を言い渡された。

この事が、派閥間の問題になることはなかったが、アストレアは報告を聞いた後、苦笑いを浮かべていた。

 

「あのぉ~・・・」

「「「?」」」

 

そして現在、突如として掛けられた声にアリーゼ達は会話を止めて振り向いた。

そこには、暴漢から財布を奪われた(被害者)がたっており、それに気付いた彼女達は顔を見合せると、声を揃えて呟いた。

 

「「「あっ!この(ひと)のこと忘れてた。」」」

「ひどくないかぁ、君達ぃ!?」

 

その彼女達の呟きに、自分が忘れ去られていたことを悟った神は目尻に涙を浮かべながら叫んだ。

 

 

「いやぁ、お見事お見事!すごいねぇ、正義の冒険者は。・・・忘れられていたことには傷付いたけど。」

 

そう言うのは、財布を奪われた一柱(ひとり)男神(おとこ)だった。

言ってはなんだが、軟弱そうな神だ。

目は細く、口に浮かんでいるのは気弱そうな笑み。男にしては量が多い黒髪は全くまとまりがなく、あちこちに飛び跳ねている。

そして前髪の一部が脱色したかのように、灰の色を帯びていた。

見るからに、覇気のない男神(おとこ)だった。

 

「ごめんなさい、神様。ところで、お怪我はありませんか?」

「擦り傷一つないよ、可愛い女の子。サイフを取り戻してくれて、ありがとね。」

 

アーディから財布を受けとると、その神物は名乗った。

 

「俺の名前はエレン。君達は?そっちの子は、さっき【ガネーシャ・ファミリア】って聞こえたけど・・・。」

「私はアリーゼ・ローヴェル!【アストレア・ファミリア】の団長よ!」

「リュー・リオンと申します。アリーゼと同じく、【アストレア・ファミリア】です。」

 

自らをエレンと呼ぶ神に、アーディの隣に並ぶアリーゼとリューは名乗り返す。

すると、エレンはアリーゼとリューの紹介を聞いて動きを止めた。

 

「【アストレア・ファミリア】・・・正義の女神の眷属か・・・」

「そう!私達は清く正しいアストレア様の眷属なの!」

 

エレンの呟きにアリーゼが誇らしげに胸を張った。

一方、エレンは何かを考えるように二人の顔を見つめ、やがてゆっくりと唇の端を上げた。

 

「なるほど、なるほど。君達はまさに『正義の使者』だったわけだ。・・・いいね、実にいい。俺達のこの出会いは。」

「?何を言っているのですか、神エレン?」

「なに、君達に助けてもらって良かったっていう話さ。重ね重ね言わせてもらうが、今日は本当に助かったよ。それじゃ、またね。」

 

そう言うと、エレンは鼻歌を歌いながら機嫌良さそうに去っていった。

 

「何か、捉えどころのない神様だったね。」

「そうですね・・・しかし神々など、えてしてそのような存在なのでしょう。」

「ちょっと、ヘルメス様に似てたかも。」

 

エレンが去った後、アリーゼ、リュー、アーディは思い思いの印象を呟く。暫くして、アーディが「あっ!」と何かを思い出したような声を上げた。

 

「こんなことしてる場合じゃない!拘束した人を連行しなきゃ!アリーゼ、リオン、またね!ベル君にもよろしく!」

 

そう言うとアーディは拘束した暴漢を連れて、早足気味で去っていった。その後ろ姿を二人で見送った後、アリーゼは「さて」と言ってリューに向き直った。

 

「私達も帰りましょう!今日はベルの歓迎会もあるし!」

「ええ、アリーゼ。遅れてしまっては、ベルに申し訳ない。」

 

アリーゼの言葉にリューは大きく首肯し、二人は再び帰路についた。

 

―場所は変わって、大通りから外れた路地裏。

そこでは先程アリーゼ達と別れたエレンが機嫌よさそうにあるいていた。

 

「目的こそ果たせなかったが、正義の眷属達と会えただけでも十分な収穫だな。」

 

そんな言葉を口にするエレンには、先程のような気弱な気配は微塵もなく、むしろ力強い覇気に満ちていた。

そんな彼の目的はある少年を見つけることである。

 

―彼がその少年を初めて見たのは7年ほど前(・・・・・)

 

少年と共に暮らす、かつての『覇者』達を訪ねた際に初めて見た。

 

―次に見たのは、2週間ほど前。

 

適当に街を散策(ブラブラ)している際に、偶然目にとまった。

 

―初めて見た時と変わらない、処女雪のような汚れを知らない白い髪が。

 

―初めて見た時とは大きく変わった、強い決意を宿した深紅(ルベライト)の瞳が。

 

以来、彼は暇さえあれば街を歩き回り、少年を探している。

 

「さぁーて、どこにいるんだ、ベル(・・)。」

 

そんな彼の呟きは路地裏の闇へと消えていった。

 




次回、やっとエイナさんのことが書けます。
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