盤外の英雄


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作:現魅 永純
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大鐘楼Ⅰ


 

 

 

 

「ぐ、ぅ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!?」

 

 

 痛い、痛い痛い。腕を切られた時みたいな、一瞬全身の重さが軽くなる感覚とは全くの別物。血肉が空気に触れた時の激痛とはまた別の、脳に直接響き渡る気持ち悪さ。

 何をされた? 眼球を斬られたのか? ヤバい、眼が開かない。視覚がザルドさんを捉えられない。

 

 

「……眼球を斬られて、呻き声は上げても泣き喚きはしないか」

 

 

 冗談じゃない。こちらは泣きたいくらいの痛みが襲っているのだ。でも涙が傷口に触れれば更なる痛みが襲うから、無理やり我慢しているだけ。

 ……クソ、想定外だ。相手は大剣、振りは遅い。だからこそ2秒の畜力(チャージ)も可能な範囲だと思っていた。でもザルドさんは僕の投げた白幻を避ける際に、()()()()()()()()()。それを2秒チャージの瞬間まで待って、大剣ならば間に合わない速さを短剣で間に合わせたのか。

 

 ふざけるな、冷静にも程がある。いま僕らが唯一対等なのは『情報の有無』だけだ。それをひっくり返す様な駆け引き……もはや僕に有利性の一つすら残してくれない。

 ……大剣での眼球破壊ではなく、短剣での浅い斬り込みならば、万能薬(エリクサー)で治せる範囲だ。高等回復薬(ハイ・ポーション)でも流れる血を止める事は出来て目を開くくらいならば可能になるだろう。でも今の僕は回復薬(ポーション)の一つすら所持していない。全てを体力の回復に使ってしまったからだ。

 

 つまり僕は、まともな視覚すらないままレベル7と対峙しなければならない。体力が尽きかけていて、武器の一つを奪われた現状で。

 

 

「糞兎一人居なくても俺がいるんだよッ!」

「……ああ、()()()()()()()()()()()

 

 

 大きく響く、金切り音。そして今の声から推測するに、アレンさんが仕掛けたのだろう。ザルドさんが受け止めて、その辺の転がってる石ころに気付いたかの様な声音で言葉を溢すと、衝撃波。恐らくアレンさんが武器ごと弾かれる音。

 そして、一閃。風を斬る音すらなく放たれる一撃。それはアレンさんに当たり、鈍く響く。

 

 

「先程はもう一人を警戒していたから貴様の攻撃を許したが、今は警戒も何もない。全力で叩き潰す」

「……ふざ、け……っな……」

 

 

 アレンさんの意識が途切れる気配。

 

 

「オラリオに害を成すならばフレイヤ様にも被害が及ぶ」

「ならどうする?」「決まってる」「当然だ」

「「「「ぶっ殺す」」」」

「待っ……!」

 

 

 ガリバー兄弟、【炎金の四戦士(ブリンガル)】の声が耳に届いた。ダメだ。これは連携の問題でどうにかなるものではない。それが分かっていたから彼らも今まで手を出さなかった筈。

 ……僕がやられたからだ。僕だけで足止めできていたからそれで充分だと思い、余計な手出しが足枷になると思っていたから手を出さなかったんだ。彼らはフレイヤ様を守る為なら必ず無茶をする。自分たちの女神のためなら、見知らぬ僕ですら利用する。でも僕がやられたから、彼らは自分で立ち向かった。

 

 

「四方向から攻撃しようと、それが届かねば意味もあるまい」

 

 

 強く、地面を踏みしめる音。強大な風圧が僕にも届く。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。直後に振り回される大剣で、全員が吹っ飛ばされたのを理解した。

 彼らが、都市最強派閥の一つが、まるで相手にならない。僕も視覚を失いまともに戦闘できる状態ではなくなった。

 

 

「……充分だな。折れろ、英雄の器。何もここで死に絶える事はないだろう?」

 

 

 ───酷く魅力的な、誘惑的な言葉。ザルドさんは僕達に“慈悲”を与えている。死に絶える事はないだろう。それは僕達を見逃すという言葉だ。

 ああ、その言葉に従った方がいい。死ぬというのはそれほどまでに怖いのだ。ザルドさんの言葉は僕らにとってそれほどまでに救済的だ。

 

 ふざけるな

 

 ここで僕らを見逃した後、ザルドさんはこの都市を破壊する作業に入るだろう。そうする確信がある。如何な理由であれ、彼らはオラリオに絶望をもたらす。例えどれだけの死者を出そうとも。

 死者を出してたまるか。この人を行かせてたまるか。この程度の絶望で折れると思うな。

 

 

「なぜ立ち上がる?」

「……『他人に意思を委ねるな』」

「……!」

「『精霊だろうが神々であろうが同じだ。ましてや儂は何も言わん』」

 

 

 祖父の言葉を思い出す。あの偉大な背中。多くの英雄達に抱いた気持ちを等しく抱いた、あの祖父の言葉を、思い出す。

 

 

「『誰の指図でもない。自分で決めろ。これは、お前の物語(みち)だ』」

「……貴様は」

 

 

 ザルドさんが驚愕する気配を感じた。立ち上がるのがそれ程までに意外だったのだろうか?

 

 

「貴方は優しい人だ」

「ッ……」

「僕達を絶望にこそ叩き落としても、何処か立ち上がるのを期待してる様に感じる。僕達に“成長”を促している様に思える」

 

 

 ……ザルドさん達のやろうとしていた事を思えば、優しい人……なんて的外れかもしれない。でも僕はそう感じた。感じてしまった。この人は完全な悪ではない。

 そう信じて、だからこそ立ち向かう意思を見せる。この人がどれだけ優しくても、僕の思った通りの人物だとしても、見逃す事なんて出来ないのだから。

 

 

「でも、僕の目的と貴方の目的は合致しない。貴方は目的の為なら死者を出すのを躊躇わないし、僕は全ての人を助けたいから」

 

 

 だったら、もう。

 

 

「立ち向かう以外ないだろ……!」

「……英雄への道を絶っても、か?」

 

 

 ザルドさんの言葉に、僕はニッと笑みを浮かべて答える。

 

 

「『もし英雄と呼ばれる資格があるとするならば。剣を執った者ではなく、盾をかざした者でもなく、癒しをもたらした者でもない』」

「……『己を賭した者こそが、英雄と呼ばれるのだ』」

「───もし僕がここで誘惑を受け入れれば、それこそ英雄への道を絶つ裏切りになる。折れても、挫けても、泣いたとしても、願いや想いを叫ぶ事は止めない。それが一番格好いい英雄(おのこ)だと教わったから」

 

 

 ……ああ、やっぱり懐かしい雰囲気がする。この絶望的な状況なのに、どこか親愛的な笑みが浮かんでしまう。でも懐かしむのはもう終わりだ。過去を思い出し、未来へと繋げよう。

 想い浮かべるは、傭兵王ヴァルトシュテイン。大英雄として数多の英雄譚に登場する偉大な人物。僕が愛読していた『迷宮神聖譚(ダンジョン・オラトリア)』に於いて、『冒険者の王』として名付けられた最強の英雄。様々な呼び方はあるけれど、かつてオラリオの冒険者として名を馳せたゼウス・ファミリアの一員に立ち向かうならば、冒険者の王で在ったこの名を強く想おう。

 

 ゴォン……ゴオォォン───と。鐘は鳴り響く。

 

 小さな鐘楼を鳴らして町中を駆け回る訳ではない。ただ大鐘楼が、町中へと鳴り響いた。

 

 

「この音は……限界突破(リミット・オフ)か。神の脚本(シナリオ)すら壊した貴様だ、今更驚きはしない」

 

 

 一秒、二秒、三秒。数えるたびに大鐘楼が響き渡る。暗闇の視界でも微かに入る、白き光。

 ザルドさんは二言零すと、地を揺らした。いや、移動したのかな。そうなれば当然攻撃をしているだろう。

 ああ、斬られるだろうなぁ。たった五秒の溜めでは、例え限界突破(リミット・オフ)の英雄願望でも弾き返すことはできない。

 

 

「───ァ」

 

 

 じゃあ、()()()()()()()

 

 

「ッッ───‼」

「……ッ!?」

 

 

 全身に伝わる衝撃。揺れる地面。でもその衝撃で僕の身体が壊れることはない。

 僕は、その攻撃を受け流した。

 

 相手からしたら止めの一撃だ。だから、アイズさんの言葉を思い出した。『止めの一撃は、油断に最も近い』と。それはレベル7の経験でも違わない。もしも僕がモンスターであれば、この人は一切の油断なく止めを刺しただろう。実際モンスターでなくとも僕への攻撃は決して油断しているものではなかった。ただ単調だっただけ。

 でも単調だったからこそ自分の真正面から叩き切る動作を読めたし、調()()の成果も出せた。

 先ほどの二分間の攻防が、素のステイタスでも受けるための調整などとはザルドさんも読めなかっただろう。確かに最初こそ英雄願望(スキル)の補助がなければ流せなかったが、剣を交える度にザルドさんの力を感覚的に理解し、逆算してどんなやり方が流せるのかを考えていた。……眼を失うのは予想外だったし、焦ったのは完全な僕のミスだけど。

 でもお蔭で、今の僕のステイタスでも十分にやり合える。

 

 

「ふっ!」

 

 

 僕はカウンターでナイフを振りかぶる。同レベルなら武器の差もあって絶対に防げない一撃だったけど、やはりレベル7。即座に引き戻して防がれた。

 ザルドさんは動揺の気配を見せる。当然だ。今まで()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。大鐘楼は未だになり続ける。

 

 今まではあくまでも高速移動中での並列蓄力までが可能な範囲だった。しかしさっきまでの猛攻、そして都市中を駆け回った際に使用した一秒蓄力(チャージ)の繰り返し。何度も速攻で発動していたからこそ、発動する際の感覚が磨かれ、同時に発動しない感覚を手に入れた。

 今の僕は、高速戦闘中での並列蓄力を行うことが出来る。

 

 

「はぁぁあああ───ッ‼」

 

 

 動揺の色を見せたザルドさん。武器位置、視線、気配を感じ取って、その隙を逃さずに攻め入った。

 

 

 

♢♦♢

 

 

 

「……所詮はこんなものか」

 

 

 時は僅かに一分前。銀髪の女性──アルフィアはつまらなそうに呟く。同時に遠くで響き渡る剣戟に、ほぅと息が漏れた。

 

 

「あちらは流石と言うべきか。私の眼もまだ衰えていない。やはり英雄の器だったか……」

「……英雄の器だと?」

「ああ、その通りだ。()()()()()。ベル・クラネルは至っていた。が、お前たちは足りない。お前が一番自覚しているだろう、騙りの勇者(ブレイバー)

「はは……また痛いところを突いてくるな。【静寂】のアルフィア」

 

 

 フィンは苦笑する。最早笑うしかないと言いたくなる惨状。倒れ伏せる幾十もの冒険者を見て、自分に似合わず「化け物め」と毒吐きたくなった。

 倒れ伏す冒険者の中には、フィンの盟友、リヴェリアとガレスもいる。アストレア・ファミリアも含め、全てレベル3以上の冒険者全てが倒れ伏している現状。フィン自身も見逃すことのできない怪我を負っている。流石のフィンでも勝機を見出せない。

 

 そして、静寂の一瞬。

 

 

「……ああ、終わったか」

 

 

 アルフィアの一言で、ベルすら倒されたことを知る。轟音が鳴り響かないという事は、四肢の何れかを失ったか、眼を失ったか。或いは心臓そのものを刺されたか。

 何れにせよ、最早絶望の言葉しか流れまい。都市最強(オッタル)はやられ、切り札(ベル)もやられ、最強派閥もやられた。残された戦力は神フレイヤの護衛にいるだろう何人かのレベル5と、ガネーシャ・ファミリアとレベル2以下の冒険者。対して相手は、精神力(マインド)以外消費していないアルフィア(レベル7)に、多少体力が削られたであろう無傷のザルド(レベル7)。こんな状況でどう守ろうと言うのか。

 

 

「一つ聞かせてくれないかい、アルフィア」

「……言ってみろ」

「君は、いや。君達は何故、ただの一人として殺さなかったんだい?」

「─────」

「ザルドも君も、その気になれば民の何人も殺せたはずだ。いや、民どころか僕たちも」

「……話は終わりか?」

「出来れば答えてほしいな」

「答えるとは言っていない」

「そうか、残念だ。───【魔槍よ、血を捧げし我が額を穿て】!」

 

 

 これ以上の問いは無意味である。フィンはそれを理解し、倒れ伏す仲間達を見て指揮の必要は無いと判断。即座に魔法を発動させ、狂化状態へ至る。ステイタス強化と引き換えの理性削減。

 フィンは突進を始める。

 

 

「……【(ゴスペ)───」

「ァアアアッ!」

「ッ!」

 

 

 アイズ並みの超短文の魔法詠唱。それを防ぐ術はほぼ無い。だが“ほぼ”に入る術が一つ。フィンは己の槍をぶん投げた。

 自らの獲物を無くす愚行。だが弓やナイフなどの遠距離攻撃や投擲物とは違い、レベル5の全力投擲の槍は当たれば即死だ。あり得ないからこそ勝る一瞬の駆け引き。

 アルフィアが避けた一瞬でフィンは詰め寄り、拳を振りかぶる。だがそれは呆気なく避けられ、アルフィアは再び口を開く。瞬間フィンは飛びつき、蹴り一閃。確かにアルフィアの魔法は厄介だ。しかし詠唱させる暇を与えなければ、最大の脅威である魔法の発動を阻止する事ができる。

 

 やがて体術を続けて繰り出していると、アルフィアは壁まで追い込まれる。最早魔法を必ず使わねばならない理由もない。フィンのステイタスを考えれば、潜在値を合わせても力は余裕を持って勝てている。アルフィアは素手を構え───内心で舌打ち一つ、飛び退いた。

 知らず知らずのうちに槍が突き刺さっている場所まで誘導されていたのだ。理性がなくなっているはずなのに、戦術は完全に勇者そのもの。指揮が出せないだけで、単身ならばただただ能力を上げているだけだ。フィンも大概ふざけた戦闘能力。

 

 息つく暇もなく果敢に攻め入るフィン。だが種族特性やレベル差を思えば、先に息が尽きるのは間違いなくフィンだ。ならば避け続け、止めを刺せばいいだけ。

 アルフィアが方針を定めると───大きな大きな、鐘の音が耳に届いた。アルフィアは目を見開く。雑音と聞き流す事の出来ない、激励の大鐘楼。その音がこちらまで届くと同時に、フィンの動きは更に加速した。

 

 

「───ッ!」

 

 

 完全に近接戦闘に引き込まれた。話に応じず魔法を放つべきだった。アルフィアは己の甘さと傲慢さを恥じる。レベル4までならば体術でも圧倒できる自信はあったが、流石に強化されたレベル5の、駆け引きがオラリオ最強クラスであるフィンを圧倒するのは不可能だ。

 大鐘楼が鳴り響く。耳障りな筈の鐘の音は、何故かアルフィアは煩わしく思う事が出来ない。

 

 

「───【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々】」

 

 

 そして届く、魔法の詠唱(うた)

 

 

「【愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を】」

 

 

 どうするべきか。フィンが息切した時にはエルフ(リュー)の魔法が完成しているかもしれない。無理やりにでもリューを止めにいくか、それともフィンの息切れと同時に魔法の無効化を行うか。

 後者だ。アルフィアは即決。フィンの息継ぎなしの攻撃は、かなり大振りかつ高速だ。見れば既にフィンは動きが遅くなっている。リューの詠唱の長さを聞くに後数秒の余地はある。

 

 そして、その予感は当たる。

 

 

「【来れ、さすらう風、流浪の旅人。空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ】」

 

 

 リューの詠唱が終盤に差し掛かる。直後、フィンは膝が折れた様にガクッと転ぶ。呼吸を繰り返し、咳き込み、肺活の限界を表していた。

 最早魔法の無効化をする必要もない。このままリューを仕留めればいい。アルフィアはそう判断して地面を踏みしめる───が。

 

 

「レベル3を甘く見るなよ、糞淫乱(アマ)がッ!」

「ッ……!」

 

 

 倒れていた筈のレベル3達が立ち上がり、輝夜とアリーゼを筆頭に攻撃を仕掛ける。リヴェリアやガレスは最前線で喰らったが故にレベル3達ほど直ぐには立ち上がれないが、それでも手を着いて意地でも立ち上がろうとしていた。

 既に折れている筈なのに、絶望していい筈なのに、この大鐘楼が鳴り響いてから背中を押される様に冒険者は駆け出している。

 

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

 

 ───が、現実は非情だ。立ち上がろうとも、力の差は絶対。フィンの時は息継ぐ間も無く攻撃を仕掛けられたから押されていたが、逆に言えば()()()()()()()()()()()()()()。たった一節、たった一言。その詠唱(うた)とも言えない詠唱(うた)で発動するは、音の嵐。

 

 

「〜〜〜〜!!?」

 

 

 全ての冒険者は一瞬で崩壊する。ギリギリの所でリューは範囲外へと免れていたが、他の冒険者は再び訪れた音の暴力に倒れ込む。

 

 

「───【星屑の光を宿し、敵を討て】!」

 

 

 だが、稼いだ時間は無駄にはならない。リューは武器を片手に、詠唱を完成させた。

 

 

「【ルミノス・ウィンド】!」

「【魂の平静(アタラクシア)】」

 

 

 長文の詠唱によって漸く発動された魔法。それを一瞬で掻き消すアルフィアの魔法が発動。

 だがアルフィアは、リューの次の行動に驚く。アルフィアは魔法を発動した。が、それがリューの魔法を掻き消す事にはならなかった。何故ならリューの魔法が攻撃へと使われる事はなく、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「はぁあああッ!」

 

 

 激痛。当然だ、自分の足に魔法を発動するなど自殺行為に等しい。下手すれば回復するまで自分の足が使えなくなる程の誤った使い方なのだから。だがお陰で、リューのレベルや体重を思えばあまりにも速すぎる移動速度で飛ぶように駆ける。

 それは───虚を突かれたアルフィアでは対応出来ない程の速さ。

 

 

「───ッ!?」

 

 

 アルフィアは息を飲む。回避行動は取ったが、それでも避けきる事の出来ない速さの攻撃。レベル3がそれを成した事実に、驚愕を隠せない。リューは一撃を食らわせた後、直ぐにベルの下へと走る。元よりリューは止めを刺す為に攻撃した訳ではないし、少しでも時間を稼げれば最強派閥の幹部達が立ち上がると確信していたのだから。

 アストレア・ファミリア……8年前には存在していなかったファミリア。その眷属の実力を目の当たりにして、アルフィアは感嘆する。

 

 

「……英雄の器が目覚めたのか。それとも英雄の器が目覚めさせたのか。……なるほど、やはり()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 遠ざかっていくリューの背中を見つめ、言葉を溢す。そして起き上がる気配を感じ、アルフィアは視線を向けた。

 

 

「……どうした【静寂】、儂等はまだ死んではおらぬぞ……!」

「かつての最強派閥で天才と称された女……ふ、超え甲斐がある……ッ」

「ああ、全くだ……。行けるな? ガレス、リヴェリア」

「「誰にモノを言っている、クソ生意気な小人族(パルゥム)め」」

 

 

 軽口を叩いているが、アルフィアが詠唱を始めようとすれば即座に喉を掻っ切る程の集中を見せている三人。だが、アルフィアは分が悪いとは思わない。どれだけ早かろうが、先程の不意打ちは既に把握済み。動揺する術を彼らが持っているとは思えない。最早詠唱一つで全ては終わる。

 

 

「……飽きた」

「は……?」

 

 

 それはフィン達も覚悟していた事だ。だからこそ如何すべきかに全力で頭を回している中、届いた言葉に愕然とした。油断が狙いか。しかしアルフィアは本当に戦闘する気が失せた様に脱力し、背中を向けた。

 ガラ空きだ。フィンが槍を放てばあっさり刺さる程に油断している。あまりの自分勝手さに、さしもの第二級冒険者も、第一級冒険者も、余す事なく呆けた。

 

 

「なるほど、失望するにはまだ早かったと認めてやる。だから見逃すと言っているんだ」

「……僕達に負けるのが怖い訳ではないのかい? レベル7が随分弱気になったと見える」

「そうだな、()()()()()()()()()()()()()()()()。今のお前達を無傷で倒せる保証が何処にもない。例えレベル差があっても、それを覆せる術がある事を私は誰よりも知っているつもりだ」

 

 

 アルフィアは、そのレベル7の身で同じヘラ・ファミリアのレベル9を倒せる可能性を持つ人物だ。だからこそ絶対と言われるレベル差が絶対でない事を理解している。負ける可能性を考えたのは嘘ではない。順当に行けば必ず勝つ事は目に見えているが、神の脚本(シナリオ)すら覆されたのが現状だ。

 アルフィアにとっては『逃げる』や『見逃す』のどちらでもいい。最早栄誉など必要ない身。それで戦闘にならないのであれば自分(アルフィア)が逃げたことにしてもいいのだ。

 

 

「それ以上に、この鐘の音を私の雑音で消すのは不本意だからな」

 

 

 アルフィアはその言葉を最後に、屋根へと飛び乗って移動を始めた。

 

 

「……英雄の器、か」

 

 

 アルフィアに足りないと言われた事実。薄々感じていたが、認めるのは自分が子供の様で嫌だから、敢えて認めていなかった事実。

 ベルに、憧れと同時に嫉妬を抱いた。フィンはそれを受け入れて、大きく溜め息一つ。

 

 

「リヴェリア、僕の今までは間違っていたと思うか?」

「……お前がそう思うのであれば、間違いだったのだろう」

「ガレス、可能性が高い9:1よりも、可能性の低い10:0が正しいか?」

「お主がそう思うなら、正しいのだろうよ」

「……はは、酷いな君達は。少しくらい自分の意見を言ってもいいんじゃないか?」

「そっくりそのまま返してやる」

「ああ。どうせ儂等の意見など聞かんだろうが」

 

 

 よく分かっている。腐れ縁なだけはあるかと、フィンは苦笑一つ零した。

 

 

「そうだね。今までが間違いだったとは思わないし、可能性が高い方を選ぶのは当然だ。人は確実性を求める生き物だから」

 

 

 けど、まあ。

 

 

「確率なんて所詮は机上の空論か。低い確率が外れる訳じゃない。全てを助けるか全てを失うか(オール・オア・ナッシング)を選んで、全てを助ける方に賭けてみるのも悪くない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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