時刻は日が暮れて間もない頃。
大通りは家への帰路を進む人々―中には「お楽しみはこれからだ」と言わんばかりに夜の街に繰り出す人々もいたが―で賑わっていた。その中をベルは縫うように駆けていく。大通りを抜けて街路をいくつか曲がり、閑静な住宅街へと入って行った。
辿り着くのはオラリオ北の区画、その片隅。
そこに立つのは決して大きくはないが、
少し嫌な予感を抱きつつも歩みを進めていると、廊下の
曲がり角から人影が躍り出た。
人影の正体は煌めく赤髪と美しい緑眼を持つヒューマンの女性であった。
十人聞けば十人全員が「美女」と回答するであろう整った顔立ちに天真爛漫な笑みを浮かべた女性はベルの姿を認めると、走りをさらに加速させた。そして―
「ベぇぇぇぇぇルぅぅぅぅぅ、お帰りぃぃぃぃぃ!!!」
「ただいまアリーゼさっ、どふぁぁぁぁぁ!!?」
ジャンプして抱きついて来た。
『美女からの抱きつき』聞くぶんには役得な展開だと言えるだろうがここに『
『抱きつき』などという可愛らしいものではなく
最早『
そんな『美女からの
悲鳴を上げながら吹き飛ばされ、床を滑って行く。
その衝撃は凄まじく、ベルの体が止まる頃には
「ベルぅ、こんな時間までどこに行ってたの!?
お姉ちゃん、心配で探しに行こうと思ってたのよ!こんな可憐な美女を心配させるなんてベルったら罪な子ね!」
こんなことを言いながら女性はベルの上に跨がり、顔に
頬擦りしている。
彼女の名前はアリーゼ・ローヴェル。
【
「はっ! まさかこれが神様達が言う『残業して帰りが遅くなった夫を待つ若妻』の気持ちなのかしら!」
「うぅぅ・・・」
「ということは、この後にくるセリフは『お風呂にする? ご飯にする? それともわ・た・し』なのね!!」
「んぁぁぁ・・・」
「やん♡ ベルったらまだ14歳なのにお姉ちゃんにそんな事させようとするなんて、おませさんね!」
「うぼぁ・・・」
突如として展開される
ベルは対応することができない。
今日戦ったどのモンスターよりも重い一撃をまともに受けたベルは立ち上がることはおろか、受け答えすらままならない状態になっていた。
「あっ! その前に皆にも『ただいま』って言わないと!!さぁ 行くわよベル!」
結局、ベルは受け答えなどできぬまま、【ファミリア】の仲間がいる団欒室に連行された。
アリーゼの脇に抱えられ「うきゅぅぅぅ」と呻き声を上げて連行されるベル様子はまさに『これからの
団欒室を出るときと同じようにアリーゼによって扉が勢いよく開け放たれ「皆、
アリーゼの脇に抱えられたベルを見て何があったかを大体察した面々は「お・・・お帰りベル。」「今日もお疲れ・・・。」「加減してやれよ・・・。ベルもう
一部の例外として「お疲れー兎。『重役出勤』とは恐れ入るぜ。」と桃色髪の
因みに団員の一人である
「お帰り、ベル。」
そんな中で美しい一柱の女神が微笑みながらベルに声を掛ける。
一目見た者がいれば彼女のことを「善神」と表すだろう。
それほどまでに彼女は優しく、正しく、清らかな空気を纏っていた。
胡桃色をした長髪は背中に流れており、その瞳はまるで星海のように深い藍色を帯びていた。
まさに『慈悲深い女神様』の理想像と言っても
過言はない。
そう断言していいほどに彼女は清廉潔白で
何より美しかった。
女神アストレア
ベル達の主神であり、『正義』を司る
そんな女神から微笑み掛けられた―ベルの状態を見て若干、微笑みがひくついたーベルは「ただいまぁ・・です。アストレア・・様、皆・・さん・・・。」と息も絶え絶えな回答をする。
「さぁ、ベルも帰ってきたしご飯にしましょうアストレア様!」
この館の名前は『星屑の庭』
ベルが半月前に入団した【アストレア・ファミリア】の
「・・・・。」
食事を終え、眷属達が各々の時間を過ごしているのを尻目に、アストレアは無言で頭を抱えていた。
何か問題が起きたわけではない。むしろ、喜ぶべきことなのだろうが起こっていることがあまりにも、常軌を逸しているため頭を抱えるしかないのである。
「お風呂空いたよー」と呑気に言っているアリーゼがそんな状態のアストレアを見て怪訝な表情で近寄ってくる。
「どうしたんですか、アストレア様?」
「ええ・・・。これを見ていたらちょっとね。」
「?・・・。あっ! これってベルの【ステイタス】ですか!?」
【ステイタス】―『
それは【
「ええ、そうよ。」と言ってアストレアは羊皮紙をヒラヒラと振る。これこそ、アストレアが頭を抱える原因となっているものだった。
「見せてください!!」と元気よく手を伸ばすアリーゼにアストレアは羊皮紙を手渡す。
「ベルの【ステイタス】!?」と興味津々な団員達も集まってくる中、アストレアから羊皮紙を受け取ったアリーゼがそれに目を通すと―一瞬で真顔になった。
「どうしたんですか、団長さん?」
「・・・・・。」
この後もベルを除く団員達に羊皮紙が回されて行ったが、反応は二種類ほどしかなかった。
アリーゼと輝夜のように真顔になるか、顔が驚愕に彩られるかである。
全員で回し読みを終え、羊皮紙がアストレアの元に戻って来ると、少しの間を置いて眷属達は同じ言葉を言い放った。
「「「「ナニコレ・・・」」」」
その言葉を聞いたアストレアは「やっぱりそうなるわよね・・・」と眷属達と同じ感性であることに安堵しつつ、ベルの【ステイタス】が記載された羊皮紙に再び目を落とした。
ベル・クラネル
Lv.1
力 :F330→E420
耐久 :I95→H150
器用 :C620→B735
敏捷 :D501→D593
魔力 :F412→D502
魔導 :I
狩人 :I
耐異常 :I
魔防 :I
破砕 :I
精癒 :I
剛身 :I
覇光 :I
覇撃 :I
《魔法》
【】
《スキル》
【
・スキル、魔法及び発展アビリティの任意継承。
・継承条件は自分の血族が持つ
【
・早熟する。
・誓いが続く限り効果持続。
・誓いに対する想いの丈により効果向上。
【
・
【
・常時、耐異常及び耐久に超高補正。
・危機的状況における、全能力の極高補正。
この【ステイタス】を見て、ベルを駆け出し冒険者だと思える者はどれくらいいるだろうか。いや、いない。絶対にいない。
「なんだよこの訳わかんねぇ『スキル』のオンパレード・・・」
「特にこの『
「条件を満たせば、他人の魔法、スキル、発展アビリティすらも使用できるということでしょう・・・。」
「ロキファミリアの【
「しかし、ベルが使える魔法というのは・・・」
「十中八九、【
「「「「!!!!」」」」
途切れた言葉を繋ぐようにアストレアが言葉を発する。
それを聞いた団員達は驚愕した表情を浮かべた。
【ゼウス・ファミリア】
【ヘラ・ファミリア】
この都市に長く住んでいるものでこの名前を知らない者はいない。
15年前まで存在していた偉大な【ファミリア】。
ギルドと同様に
『神時代の象徴』、『神の眷属の到達点』とまで言われ、千年もの間オラリオに君臨し続け、安全神話を崩さなかった。
そして下界の悲願たる『三大
その内の二体、『
それにより両派閥は壊滅、【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】の抗争にも敗れ、
「まさかそんなとんでもない派閥の子が【
「こら、ネーゼ!!ベルの生まれは関係ないでしょ!!」
ベルの
「【ゼウス・ファミリア】も【ヘラ・ファミリア】も関係ない!あの子は【アストレア・ファミリア】のベル・クラネルで私達の大切な家族なんだから!!」
「ふふっ、確かにアリーゼの言うとおりね。」
アリーゼが高らかにそう宣言すると、アストレアが同意した。
「それに全然強そうに見えなかったしねー。」
「私も初めてみたときは可愛らしい兎さんにしか見えませんでしたからねぇ。」
アマゾネスのイスカとヒューマンの輝夜がそういうと団員全員が「たしかに!」と同意し笑みを浮かべた。
そして中庭で一人黙々と大剣を持って素振りをするベルを見つつ半月前のことを思い出していた。