僕、ベル・クラネルはオラリオに着いたその日の夜にどこかにへと連れ込まれた。
手足を縛られ、目隠しに猿轡をつけられたまま放置されていたが、どこからか悲鳴のような叫び声が聞こえて来る。
怖くて震えながら聞きたくもない悲鳴を二十回近く聞いた所で、僕の身体は誰かに抱えられて宙に浮いた。
「テメェで今日の実験が最後か・・・。まぁ、
僕を抱えている男がそんな言葉を漏らした。
実験・失敗その言葉を聞いて僕は血の気が引いた。
人体実験の材料として僕は使われる、そして確実な死を迎えるという事がハッキリと理解出来た。
「んっーーーーーーーーーーーーーーー!?」
「おいおい、今更暴れたってもう手遅れなんだよクソガキ。」
暴れる僕を男はさほど気にした様子も無く歩き続ける。
そうして、やって来た場所は血塗れの部屋だった。
その部屋の中に不気味な仮面をつけた男がいて、僕を抱えている男と話をしている。
『これで最後か。』
「あぁ、そうだ。」
その会話の後、僕は台座の様な物に乗せられて全身をさらに拘束されてしまう。
「それでこのガキには何の魔石を喰わせるんだ?」
『そうだな、この強化種ミノタウロスの魔石を使うとしよう。』
「こんなガキに強化種の魔石を使うのか?勿体無さ過ぎるだろ。」
魔石?使う?何を言っているんだ、この人達は?
そんな事を思っていると、胸に鋭い痛みが走ったかと思ったらナイフで斬られていた。
その切り口に拳大の極彩色の魔石を押し込まれた。
その瞬間、とてつもない激痛と共に頭の中や身体の中を掻き混ぜられているような感覚が押し寄せて来る。
「ぐぅあああああああああああああああああああああっ!?」
その押し寄せて来る得体の知れない気持ち悪さに僕は声を抑える事が出来ずに叫ぶ。
「うるせぇな、俺は戻ってるぞ。」
『あぁ、好きにしろ。』
そう言って男の一人はどこかにへと行き、仮面の男が僕の猿轡を外して紫紺色の魔石を口に押し込まれた。
その瞬間、さっきから僕の中を掻き回している気持ち悪さが更に倍増した気がする。
「ごぉあああああああああああああああああああっ!?」
そんな中で僕はこう思った、死ぬと。
お爺ちゃんに英雄譚を聞かせて貰って英雄に憧れていた僕は事故でお爺ちゃんを亡くした後に一念発起でこの
そして、非道な人体実験の犠牲者の一人として死ぬんだ・・・。
そう諦めかけていたその時、僕はもう一つの感情が沸き上がって来る。
それは、
僕はこんな目に遭っている自分に対して
しかし、それと同等にこんな人を人と思わない
すると、そんな時身体に変化が訪れた。
今まで僕自身の中で渦巻いていた気持ち悪さが綺麗サッパリ消えていた。
更に言ってしまえば、今までに類を見ない位に身体に力が漲っている事のを感じるほどだ。
『これは・・・成功だ!!』
一人だけ残った仮面の男が僕の変化を感じ取り、歓喜の声を上げる。
『まさか、最後の最後でこれほどの作品が出来上がるとはな・・・!!』
そう言っている仮面の男は興奮冷めやらぬといった感じだ。
僕はそんな光景を見た後、身体に力を入れて拘束具を破壊する。
『なっ、何!?』
幾重にも重ねられた拘束具をいとも簡単に破壊してみせた僕に対して驚愕の声を上げる。
「遅い」
僕は怒りのままに仮面の男の顔面に拳を叩き込んだ。
すると、男の頭はまるで熟れ過ぎた果物の様に潰れてその血が僕の顔に掛かる。
「汚いな・・・。」
そう言いながら僕は顔に掛かった血を噴くの袖で拭うと、得物になる武器を探すけれど見つからず素手のままで行動するしかなくなった。
「確か、僕をここまで連れて来た男が残っていたな・・・。そいつから武器を奪えばいいか。」
そう言って僕が部屋を出て少し先に進むと、一つの部屋を発見して中を確認すると、そこには様々な種族がこと切れた状態で放置されていた。
「っ!!!」
その光景を目にした僕は拳から血が流れだすまで力一杯握る。
こんな事が起こっていて良い訳が無い、こんな惨状は僕の番で終わりにするんだ!!
そう決意した僕がその部屋を出ると、外では男とその仲間が待ち構えていた。
「よぉ、お前死なずに
「
男の口から聞きなれない言葉が出てきた。
すると、男は馬鹿正直にこう言って来る。
「あぁ、お前はもう
指差しながらそう言って来る男に対して僕はこう言った。
「そうか、もうヒューマンじゃないんだ。」
男に突きつけられた事実を聞いてもポツリと呟きながら僕に動揺は無かった。
だって、モンスターの魔石を埋め込まれて普通でいられるわけがないからだ。
「まぁ、お前も
そう言いながら男は一本の短剣を取り出した。
「コイツはある
自慢気にそう語って来る男に対して僕は行動で応える事にした。
ぐちゃりっ。
「は?」
男の左胸、つまり心臓のある場所が僕の右腕によって貫かれていた。
「なぁ・・・っ!?」
信じられないといった表情を浮かべる男に対して僕はこう言った。
「相手が一人だからって油断が過ぎますよ。」
そう言いながら僕は腕を抜き取って付着している血を払い落とすと、周囲の空気が変わったことに気づく。
原因は僕の事を取り囲んでいる失敗作と呼ばれている
支配下に置いていた男が死んで支配から解放されたといった感じか。
そして、目の前に居る僕に牙を剥こうとしている。
その状況を理解した僕は拳を握り、こう言った。
「来い。」
『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
僕の言葉を皮切りに
僕は襲い掛かって来る
そうして、全ての
「感謝スル、名モ知ラヌヒューマンヨ。」
「(死の間際になって理性を取り戻したのか・・・。)感謝される事はしていないです、これから貴方達を殺そうとしている僕に感謝する事は無いですよ。」
素っ気なくそう答えると、言葉を続けて来る。
「ソンナ事ハ無イ、貴殿ハ我々ヲアノ男カラ解放シテクレタ恩人ダ。」
「・・・っ!!」
その言葉を聞いて僕は思わず泣きそうになってしまうが、それを押し殺してこう言った。
「最後に、言っておきたい事はありますか?」
「無イ。モウ思イ残ス事モ無イカラナ」
「・・・そうですか。それでは、さようなら。」
その言葉と共に僕の足元は血の海と化していて、その近くにはいくつもの頭の潰された人だったものが存在している。
「・・・。」
胸の中で渦巻いている虚無感を感じながら通路の奥にへと進んで行くのだった。