日米開戦直前に若手エリートを集めて、敗戦までの展開をほとんど完璧に予測した総力戦研究所*1を、猪瀬直樹氏のノンフィクションにもとづいてドラマ化。
「シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~」メインビジュアル・題字&音楽、豪華キャストを発表! - NHK
終戦記念日の翌日と翌々日にわけて、1時間枠の前後編で放送された。
シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~前編・ドラマ×ドキュメンタリー - NHKスペシャル - NHK
シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~後編・ドラマ×ドキュメンタリー - NHKスペシャル - NHK
ドキュメンタリー×ドラマと銘打っているが、ドキュメンタリーパートは冒頭と結末の現在の人々にインタビューする部分と、番組最後にドラマと史実の違いを説明する10分間の解説のみ。
都知事として公民権停止にいたり、現在は維新の参院議員になっている猪瀬氏だが、総力研の専門家として登場するのは立教大学の中村陵氏。猪瀬氏は総力研関係者のインタビュー録音を提供している。
解説で説明されるように、史実では知的で先進的だった所長を、若者たちの正確な分析よりも上ににらまれないよう抑圧する人物として設定。人名も変えている。
そして完璧な予測をしてみせたが国策を左右する権力をもたない若者たちと、完璧な敗戦の予測を知らされて日米開戦をさけようとしても失敗する最高権力者の、それぞれの挫折のドラマとして再構成していた。
もちろん国策に影響をあたえられないのは史実のとおりだが、チームで協力して障害をのりこえ目標に達成するドラマとして前半はよくできている。特に米国の態度を硬化させる決定打と考えたが止められなかった南部仏印進駐について、輸送する船舶が建造よりも喪失する数が多く、そもそも数年で輸送が不可能になるとつきつけたところはグラフなどをもちいて視覚的にわかりやすい。
陸軍や海軍の代表のようにふるまう軍人も、総力研に参加するエリートだけあって正確な数字を無視することはできず、合理的ゆえに仲間のようになって上層部の意向にたてついていく展開も心地よい。架空のキャラクター化された所長は無理解の権化のように描写されているが、他の上司は総力研の若者に理解をしめす動きが少しはある。それが閣僚にほとんど通じなかった痛みをきわだたせる。
もう2代前で禁忌感がうすれたのか、開戦反対とはいえ昭和天皇を権力者なりに等身大で迷う人間のように登場させたことも興味深かった。それでも東条英機ともども、軍の大多数やメディアに鼓舞された世論には抵抗できず、最終的に開戦を認める腰砕けぶりも味わい深い。合理的な妥協だけでは、非合理な好戦の動きを止められない。
総力研のセットは広くないが、吹き抜けで上下の動きをつけて構図が変化して見飽きない。その2階でタイピストの女性を登場させて議論の注目すべきところを印字の音と文字で強調する演出もわかりやすい。敗戦後の情景などもしっかりしたVFXで描写されている。
手ばなせない中国の権益がそもそも現地軍が勝手に暴走して戦線を広げた結果だったことや、反戦的なメディアは弾圧されて好戦的なメディアばかり残されたといった説明はほしかったが、コンセプトが明確で映像面も悪くないドラマだったとは思う。
*1:以下、総力研。