「このシリーズに外れなし!五ェ衛門だけでなく、ルパンの粋さにも痺れ、憧れる」
男の憧れる、惚れるアニメの中で
必ずと言っていいほど名が挙がるのは「ルパン3世」だ。
もちろん不動的な人気を博すヒロイン 峰不二子の色気に
多くの男性が魅了されているからでもあるが、
コミカルでありながら、時にハードボイルドさを覗かせる
ルパン、次元、五ェ衛門のかっこよさがあるからに他ならないだろう。
賭博戦で突如起きた大爆発事件。
大金を奪うためそこに居合わせたルパンと次元、そして、不二子は、
その船を牛耳る鉄竜会の用心棒についていた五ェ衛門が
謎の大男に敗北を期すところを目撃するのだった ー
「LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ衛門」
モンキー・パンチによる人気漫画「ルパン三世」の登場人物の
若き時代を描く映画シリーズの第二弾。
孤高の剣士 石川五ェ衛門を主人公に伝説の兵士 ホークとの壮絶な戦いを描く。
「LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標」に続き小池健が監督を勤め、
スタイリッシュ且つハードボイルドな作風が本作でも炸裂する。
前作「LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標」に
これ以上になく惚れ込んだ自分は、
遅ればせながらやっと本作を鑑賞したわけだが...今回も...
「かっこよ過ぎるだろ!」の一言だった。
前後編合わせて約1時間という短編ながら、
一人のキャラクターに強くスポットし、
その魅力を最大限に打ち出すようなこの映画シリーズは
分かりやすい、ストレートなエンターテインメントを見せており、
前作「LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標」を見れば、
次元好きでもそうでなくとも、その格好の良さ見惚れるだろうが、
本作も見終われば石川五ェ衛門に痺れ、憧れ、悶え苦しむことになるだろう。
おそらくだが、プロレスラーハルク・ホーガンがモデルであろう
大男 ホークを中心に
五ェ衛門の「仇討ち」とホークに追われるルパンと次元の「逃走劇」、
加えてそのサイドで銭形の刑事ドラマを描く本作だが、
物語はそれ以上に掘り下げず、複雑な感情描写すら描いていかない。
宿敵となるホークに関しても
「斧で船を破壊する」「何をされようとも傷ひとつ負わない」
もはや「アベンジャーズの敵かよ!」と思えるほどの無敵描写を強調しながら、
彼が「何者で」「誰の指令でルパンを狙うのか?」などのバックボーンを全く描かず、
ただ「五ェ衛門の敵わぬ敵」としてこれ以上にない存在感を「のみ」を放つ。
その潔い物語構成は
極端に言えばだが、「無声」でも楽しめるほど、
子供が見てもヒーローものとして興奮出来るほど、
「戦う」ことにのみをフューチャーしているようで、
それゆえアクション作品として高いエンターテインメント性を携えていた。
「仇討ち」「逃走劇」、そして「戦い」が繰り返し羅列していく展開には
これと言った深みのある物語こそないわけだが、
その平坦さによって際立つのが、高く隆起するのが、ハードボイルドな描写だ。
大人はそのハードボイルドさに痺れ、
また、それを通して描かれる「ルパン一味」の信頼関係に憧れを抱くだろう。
ホークに敗北を喫する五ェ衛門は
味わったことのない恐怖心に抗えず、刀を抜くことすら出来なくなってしまう。
要するに「脱け殻」も同然の姿に成り果てるのだ。
ルパンシリーズ中、自分が知る限り、こんな五ェ衛門は見たことがなく、
その脱力した、今にも崩れ落ちそうな姿にまず衝撃を覚える。
そんな五ェ衛門を慰めるでも励ますでもなく、
「今行けば、やつを殺すも同然だ」と
近づくでもなく、かといって離れることもしない
ルパンの粋さがとにかくかっこいい。
「あいつ死んじまうぞ」というようなコミカルな次元との掛け合いもあって、
そんなルパンのハードボイルドな一面はより強調され、
特別の大きな活躍はないわけだが、彼の存在を忘れることはない。
ルパンの言動、結局そこに同調する次元の姿は
なにより五ェ衛門への信頼描写へも繋がっているため、
石川五ェ衛門が主人公ではあるが、
石川五ェ衛門のスピンオフ作品ではなく、
「ルパン三世」の正当な新作として存在しているように思える。
そして、やはり魅了されざるを得ないのが小池健のアクション描写だ。
「リアル」なキャラクターモーションの中で
「夜は短し歩けよ乙女」の湯浅正明監督のような
アバンギャルドさに溢れたデフォルメやユーモアを覗かせるアニメ演出は
アクション、特に殺陣と抜群の相性を見せる。
「歪み」の効いた作画や、
キャラクターや画の構図をアクションに合わせてデフォルメしていくアニメーションは、
殺陣に一層のスピード感と迫力を携え、
五ェ衛門の繰り出す剣術を存分に味わうことができ、
多くのカットを割るだけでなく、
ルーズな引き画の中で、事の一連を見せる演出は
彼の殺陣の流れるような「美しさ」をも描く。
スタイリッシュであり、クールの一言だ。
小池健の参加した「サムライチャンプルー」が好きな方には
本作のアクションのクオリティーの高さを想像出来るだろうが、
その迫力やスピード感をそのまま引き継ぎながら、
場面整理や状況把握がしやすくブラッシュアップされているよう思えた。
「すごいけど、何が起こっているのかわからない」
そんなアクション映画は一時代非常に多く見受けられたが、
そこに苦しむことは本作には一切なかった。
五感を閉ざす修行により、鋭い感覚を呼び戻す五ェ衛門。
ついにクライマックスで「無敵」極まりないホークとの
戦い、いや、ルパンの存在によって「一騎討ちの果たし合い」になるのだが、
もうこのクライマックスに関しては言うことがない。
「ホークによって崩壊され、仏像が露となった寺」
という映像的に「和」の匂いが強調された最高の舞台で
まさに死闘が描かれていくわけだが、
ここで個人的に過ったのが
「死で決着を着けないでほしい」という感情だった。
「強き者」同士の戦いであれば、
「戦う前に、技を交える前に」
その決闘の勝敗に感ずくのではないかと思ったからだ。
「刀を交える前に、抜く前に勝敗を決する戦い」
そんな決闘を描く作品は少なからずあると思うが、
そんなハードボイルドな展開を
五ェ衛門とホークの「気高き姿」に期待してしまったのだ。
そんな俺の期待や要求にこの作品は応えてくれた!
それだけでなく、強き者だからこその「予期」描写で
「if(もし)」描写で、華麗なアクションによる「死の決着」までも見せてくれるのだ。
「精神的に決する決着」と「技が決する生死の決着」、
その両方を見事なバランスで見せてくれる
サービス精神旺盛な「二人の男」の勝敗には拍手しかない!
これぞハードボイルドな男の惚れる「決闘」だ!
ホークのルパンに対する
「いい用心棒を持ったな」
はこれもまた最高なハードボイルドだろう。
加えて、「借りを返す」を
ルパンを追う銭形の前に立ち塞がりる五ェ衛門の
ルパンと次元に対する義理人情。
強き者にも動じず、己の職務に迷いを見せない銭形の信念。
「ルパン」を中心に
また、「ルパン三世」の戦いの火蓋が切られた瞬間に幕を下ろす本作は
最後の最後までハードボイルドな一作だった。
無駄を削ぎ落とした物語で
五ェ衛門というキャラクターの魅力追求したかのような本作は
男なら「そこにシビれる!あこがれるゥ!」ハードボイルド描写と
見惚れるアクションに満ち溢れている。
前後編合わせて60分という短編作品なので、
是非とも鑑賞してください。
★★★★★