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AIエディタでの小説執筆(Geminiお試し)

はじめに

プログラミングの世界では、いまやAIは欠かせないものになっています。
世はまさにAIコーディングの時代です。AIコーディングのためのAIエディタも続々登場し、群雄割拠の体を示しています。

しかし、どうもプログラミング以外の分野からはまだまだ活用があまり聞こえてきません。AIエディタを使っているという話も、プログラマ以外からはあまり聞きません。

AIエディタといってもただのテキストエディタであり、そのうえで動いているコーディング用のAIも汎用のAIモデルを使っているだけです。
なので、AIエディタ、AIコーディング環境は、コーディング専用というわけではなく、プログラミング以外のテキスト作成用途にも普通に使えます。

現に私は(たぶんほかのITエンジニアも)普通に文書作成に使用していますが、どうもやはりITエンジニア以外の人にはなかなかイメージが伝わらないようです。

今回は、AIエディタを使って小説をAIに書かせみた作業を紹介したいと思います。

AIに「小説を書いて」のような雑極まりない指示でやらせている例をたまに見ますが、そんな雑な指示では当然まともなものは出てきません。
しかし、実際に小説を書くつもりで「ちゃんと」執筆をやれば、大部分AIの力で作り出すことができます。

AIを使った文章作成は、労力の削減もさることながら速度の加速が桁違いです。
実際に小説を書かせる例を示します。実際に自分でも試していただくと、その速度を感じてもらえるのではないかと思います。

今回使うAIエディタ

どのAIエディタも何を使ってもいいのですが、今回はGemini Code Assistを使います。VS Code上から拡張機能をインストールして、Googleアカウント認証をするだけで使えます。

今回Gemini Code Assistを使う理由は、ほぼ無料で利用できるからです。AIエディタ体験のお試しにはちょうど良いと思います。なんと1日6000回も使えます。これだけあればほとんどの人は使いきれないでしょう。
Geminiの長文日本語作成能力がどれくらい使い物になるかを試してみたかったこともあります。

VS Code(Visual Source Code)

VS Codeとは?という方もいるかと思いますが、マイクロソフトが作ったプログラミング用のエディタで、ITエンジニアは全員使っているレベルで普及しているエディタです。
この10年くらいでプログラミング界隈のテキストエディタはほぼ全部VS Codeになってしまったくらいには標準的なエディタです。無料で利用できます。

Visual Studio Code - Code Editing. Redefined

その他の選択肢・とりまく状況など

他の選択肢としては、VS Codeの標準機能となったマイクロソフトのCopilotがあります。無料で使える枠は非常に限られているのであっという間に上限になってしまいますが、月10ドル払うとGPT 4oが無制限に使用できます。(とはいえ上限はあるようです)

また、ClineやRooなどのVS Code 拡張機能を使うと、自分で契約した各種AIのAPIキーが使用できます。Cursorのような派生エディタもあります。
(全部VS Code上の拡張機能か、VS Codeを改造した派生エディタです。そうです。何もかもVS Codeです)

結局のところ、本格的にやるには各種AIを切り替えながら使わざるをえないため、好きなAIが使えるClineやCursorを使うことになるでしょうが、APIをつかうとあっという間にお金が溶けていきます。一つのやり取りで数ドルくらいになってしまうこともあり、なかなかつらみがあります。

CursorやClineなど、先行するAIエディタがデファクトスタンダードになりつつあるため、後追いのGoogleやマイクロソフト(今回のGemini Code AssistやCopilot)は自社AIに誘導するためディスカウントをしている状況です。

色々あって煩雑ですが、まずはVS Codeをインストールしましょう。
そして、その時々で料金を考えながら賢くAIを使っていきましょう。

アウトライン作成

まずは、物語のアウトラインを書いてもらいました。

VSCode上で空のファイル outline.md を作成して、GEMINI CODE ASSISTのチャット欄から、アウトラインを書いてもらいます。

ミスってプロンプトが消失してしまいましたが、確かこんな感じでお願いしたと思います。

プロンプト「小説を書きたい思います。まずは全体の構成を考えたいので、導入、展開…エピローグのような構造とそれぞれの内容についてアウトラインをoutline.mdにmarkdownで作ってください。」

何度かやり取りして、最終的に出てきたアウトラインが以下です。

 # 小説アウトライン

 ## 1. 導入 (Introduction)

 *   **主人公の日常:**
     *   [主人公の名前、年齢、職業/学年など]
     *   [普段の生活、性格、特徴的な行動]
     *   [抱えている悩み、不満、満たされない願望]
 *   **世界観・舞台設定:**
     *   [時代、場所、社会状況など]
     *   [この世界特有のルールや特徴があれば]
 *   **きっかけとなる出来事 (インサイティング・インシデント):**
     *   [物語が動き出す最初の事件や出会い]
     *   [主人公が非日常に足を踏み入れるきっかけ]

 ## 2. 展開 (Rising Action)

 *   **目標の設定と行動開始:**
     *   [導入の出来事を受け、主人公が目指す具体的な目標]
     *   [目標達成のために最初にとる行動]
 *   **新たな登場人物:**
     *   [仲間、協力者との出会い]
     *   [敵対者、妨害者との遭遇]
     *   [キーパーソンとなる人物の登場]
 *   **障害と葛藤:**
     *   [目標達成を阻む具体的な出来事、試練]
     *   [主人公の内面的な葛藤、迷い]
     *   [人間関係の変化、対立]
 *   **状況の変化と伏線:**
     *   [事態が好転/悪化する出来事]
     *   [主人公の成長や能力の開花]
     *   [後のクライマックスに繋がる伏線、謎の提示]
 *   **転換点 (ターニングポイント):**
     *   [物語の方向性が大きく変わる出来事]
     *   [もう後戻りできない状況になる]

 ## 3. クライマックス (Climax)

 *   **最大の危機:**
     *   [主人公が最も困難な状況に直面する]
     *   [敵対者との最終対決、あるいは最大の問題との対峙]
 *   **最高潮の瞬間:**
     *   [これまでの努力や伏線が結実する/試される場面]
     *   [主人公の最も重要な決断や行動]
 *   **謎や伏線の回収:**
     *   [提示されていた謎の真相が明らかになる]
     *   [伏線が回収され、物語の全体像が見える]

 ## 4. 結末 (Falling Action / Resolution)

 *   **クライマックスの結果:**
     *   [対決や問題の直接的な結果、勝敗]
     *   [状況の収束]
 *   **主人公の変化:**
     *   [事件を経て主人公がどう変わったか]
     *   [得たもの、失ったもの]
 *   **周囲の変化:**
     *   [他の登場人物たちのその後]
     *   [世界や状況の変化]
 *   **テーマの提示:**
     *   [物語を通して伝えたかったメッセージが明確になる]

 ## 5. エピローグ (Epilogue)

 *   **物語のその後:**
     *   [結末から少し時間が経った後の主人公たちの様子]
     *   [平穏な日常、あるいは新たな始まり]
 *   **余韻・読後感:**
     *   [読者に考えさせたいこと、感じてほしいこと]
     *   [印象的なシーンや言葉]
 *   **(任意) 続編への含み:**
     *   [解決されていない謎、新たな問題の予兆など]

普段からVSCodeを使っている人には今更ですが、markdown形式はVS Code上で綺麗な体裁でプレビューすることができます。
(Noteできれいにみせるにはどうすれば…)

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シナリオ作成の教科書などでよく見るやつですね。主人公が日常から離れて、困難に直面して、最大の危機を乗り越え、日常に戻る。というアレです。元ネタを知らないのですが、ハリウッドシナリオ術とかそのあたりのテンプレートでしょうか。

ストーリー案をいくつか作る

さて、物語構造はなかなかよくできているので、これに従って各項目を具体化してもらいます。

このままお願いすると、outline.mdを変更してしまうので、例によって別のファイルを作ってそちらにブレークダウンした内容を追記してもらいます。

VS Code上のAIアシスタントはワークスペース(開いているフォルダ)内のファイルの中身を参照できます。ファイル操作は基本的にはできませんのでファイル作成はやってあげる必要があります。(Rooなど、何もかも委任すれば作業を代行してくれるAIアシスタントもありますが、AIにすべてを許可すると何もかも破壊されそうで怖いというのがまだまだ主流です)

なので、案1.MDというファイルを新しく作って、からのファイルをエディタで開いておいて、そこに追記するように指示します。

案1

プロンプト「outline.mdのアウトラインをブレークダウンして具体化します。各項目の内容を考えて案1.mdに記述して」

内容は一切指示しません。完全にAI丸投げでどれくらいのものが出るかのテストです。
結果はこうなりました。

 # 小説アウトライン

 ## 1. 導入 (Introduction)

 *   **主人公の日常:**
     *   [名前: 佐藤 健太 (サトウ ケンタ), 年齢: 28歳, 職業: 中堅ソフトウェア会社のプログラマー]
     *   [毎日同じルーティンの繰り返し。真面目だが少し内向的。趣味は古いゲーム。特に変化のない日々にやや退屈している。]
     *   [自分の仕事や人生に大きな意味を見いだせない。何か「特別なこと」が起こらないかと漠然と思っている。]
 *   **世界観・舞台設定:**
     *   [現代 (2024年), 場所: 東京。一見、我々の知る日常と変わらない。]
     *   [水面下では、未知のエネルギー源や技術を巡る企業や組織間の競争が激化している(一般には知られていない)。]
 *   **きっかけとなる出来事 (インサイティング・インシデント):**
     *   [残業帰りの深夜、路地裏で奇妙な光を放つ小さなデバイスを拾う。触れた瞬間、謎のビジョンが見える。]
     *   [デバイスを狙う謎の組織に追われ始め、平凡な日常が崩壊する。]

 ## 2. 展開 (Rising Action)

 *   **目標の設定と行動開始:**
     *   [デバイスの正体と、なぜ自分が追われるのかを知ること。そして、追手から逃げ切ること。]
     *   [デバイスについて何か知っていそうな、大学時代の恩師(物理学の変わり者教授)に連絡を取ろうとする。]
 *   **新たな登場人物:**
     *   [協力者: 大学時代の恩師・高橋教授。デバイスの解析を手伝う。/ 謎の女性ハッカー・ミキ。健太を助けるが目的は不明。]
     *   [敵対者: 巨大テクノロジー企業「ネクサス社」の秘密部隊。リーダーは冷酷なエージェント・黒田。]
     *   [キーパーソン: デバイス開発に関わっていたとされる失踪した研究者(故人と思われていたが…?)]
 *   **障害と葛藤:**
     *   [ネクサス社の執拗な追跡。デバイスの予期せぬ起動と暴走。警察からもあらぬ疑いをかけられる。高橋教授との意見の対立。]
     *   [危険を冒して真実を追うべきか、デバイスを捨てて元の日常に戻るべきか悩む。人を巻き込むことへの罪悪感。]
     *   [最初は健太を疑っていたミキが、次第に協力的に。高橋教授は健太の身を案じ、デバイスを手放すよう説得する。]
 *   **状況の変化と伏線:**
     *   [デバイスの力の一部(例: 短時間の未来予知、情報アクセス)を健太が少しずつ制御できるようになる。/ ネクサス社に隠れ家がバレる。]
     *   [危険な状況を切り抜ける中で、臆病だった健太が機転を利かせ、行動的になっていく。]
     *   [デバイスに残された断片的なメッセージ。ネクサス社がデバイスを狙う本当の理由に関する噂。ミキがネクサス社と過去に関わりがあったことを示唆する描写。]
 *   **転換点 (ターニングポイント):**
     *   [高橋教授が健太を庇ってネクサス社に捕らわれる。デバイスの隠された機能(より大きな力)が判明する。]
     *   [健太は逃げることをやめ、教授を救出し、ネクサス社の計画を阻止するためにデバイスの力を使うことを決意する。]

 ## 3. クライマックス (Climax)

 *   **最大の危機:**
     *   [ネクサス社の本拠地(最新鋭の研究所)に潜入するが、罠にはまり絶体絶命。デバイスのエネルギーが尽きかける。]
     *   [エージェント黒田との直接対決。デバイスの力を利用したネクサス社の恐るべき計画(例: 全人類の思考コントロール)が実行されようとしている。]
 *   **最高潮の瞬間:**
     *   [ミキのハッキング支援、高橋教授の機転、そして健太が覚醒させたデバイスの真の力が組み合わさり、反撃の糸口を掴む。]
     *   [デバイスを破壊するか、その力を使って計画を阻止するかの究極の選択。健太は自身の危険を顧みず、デバイスの力を逆用してネクサス社のシステムを破壊する。]
 *   **謎や伏線の回収:**
     *   [デバイスは異星文明の遺物、あるいは未来からのタイムカプセルだったことが判明。ネクサス社の真の目的と、失踪した研究者の関与が明らかになる。]
     *   [ミキがネクサス社に協力していた理由(家族を人質に取られていたなど)が明かされ、健太への協力は贖罪のためだったことがわかる。]

 ## 4. 結末 (Falling Action / Resolution)

 *   **クライマックスの結果:**
     *   [黒田は倒され(あるいは逮捕され)、ネクサス社の計画は阻止される。デバイスは力を失うか、健太の手によって安全な形で封印される。]
     *   [研究所の崩壊(あるいは機能停止)。事件は公にはならず、一部の関係者の間でのみ処理される。]
 *   **主人公の変化:**
     *   [平凡な日常を望んでいた健太が、非日常を経験したことで、自分の力で未来を切り開くことの意義を見出す。以前より自信を持ち、行動的になった。]
     *   [得たもの: 自信、信頼できる仲間(高橋教授、ミキ)、世界の真実の一端。失ったもの: 完全な平凡な日常、匿名性。]
 *   **周囲の変化:**
     *   [高橋教授は研究を続ける。ミキは過去と決別し、新たな道を歩み始める(健太と連絡を取り合う仲に)。]
     *   [世界は表面的には何も変わらない。しかし、水面下ではネクサス社の残党や、デバイスの存在を知った他の組織が動き出す可能性も。]
 *   **テーマの提示:**
     *   [「平凡な人間でも、特別な状況下で勇気を出せば大きなことを成し遂げられる」「未知との遭遇は危険だが、成長の機会でもある」といったメッセージが、健太の最後のモノローグや行動で示される。]

 ## 5. エピローグ (Epilogue)

 *   **物語のその後:**
     *   [数ヶ月後。健太はプログラマーの仕事を続けているが、以前とは違う目的意識を持っている。時折、高橋教授やミキと連絡を取り合っている。]
     *   [一見、平穏な日常に戻ったように見えるが、健太は世界の裏側で起こっているかもしれない出来事に注意を払っている。]
 *   **余韻・読後感:**
     *   [日常の中に潜む非日常の可能性を感じさせる。健太の今後の活躍や、世界の更なる変化を予感させる。]
     *   [健太が夜空を見上げ、「世界は、まだ知らないことで満ちている」と呟くシーン。]
 *   **(任意) 続編への含み:**
     *   [封印したはずのデバイスが微かな光を発する。あるいは、ニュースで原因不明の異常現象が報道される。ミキから新たな脅威に関する暗号めいたメッセージが届く。]

思ったよりしっかりとした現代ものが出てきました。ネクサス社のエージェント黒田とか、未来予知ができる謎のデバイスとか、なかなか面白そうです。

ストーリーの全体構造と、各段でやることがはっきりしているので、ストーリー破綻もしていません。ちゃんと最後まで完結してエピローグで次への余韻まで残してあります。

まだ、アイデア出しの段階なので、いくつか別の案も作ってもらいます。

案2

「異世界ファンタジーにして」とお願いして出てきたのがこれです。


# 小説アウトライン (案2: 異世界ファンタジー)

## 1. 導入 (Introduction)

*   **主人公の日常:**
    *   名前: アレン, 年齢: 17歳, 身分: 辺境の村「リーフウッド」の農民
    *   畑仕事に明け暮れる毎日。少し夢見がちで、村の外の世界や伝説の勇者の冒険譚に憧れている。剣術の真似事が好き。
    *   単調な日常からの脱却願望。何か大きなことを成し遂げたいと思っているが、自分には無理だと諦めも感じている。
*   **世界観・舞台設定:**
    *   時代/場所: 中世ヨーロッパ風ファンタジー世界。王国「エルドリア」。剣と魔法が存在するが、魔法は一部の特権階級や才能ある者だけのもの。
    *   特徴: かつて世界を脅かした「魔王」が勇者によって封印されたという伝説が残る。リーフウッド村の近くには、不気味な古代遺跡がある。
*   **きっかけとなる出来事 (インサイティング・インシデント):**
    *   村近くの森で、不思議な光を放つ古びた石(古代のアーティファクトの一部)を偶然拾う。
    *   その夜、村が突如として魔物(ゴブリン、オーク等)の群れに襲撃される。絶体絶命の瞬間、拾った石が反応し、アレンに一時的な身体能力向上と炎を生み出す力を与え、辛くもリーダー格の魔物を撃退。しかし村は大きな被害を受け、長老はこれが「厄災の始まり」ではないかと危惧する。

## 2. 展開 (Rising Action)

*   **目標の設定と行動開始:**
    *   村を襲撃から守るため、そして魔物襲来の原因と石の謎を探るため、王都へ助けを求め、情報を集める旅に出ることを決意する。
    *   長老から託された古い地図と、父の形見の古い剣、なけなしの旅支度で村を出発する。
*   **新たな登場人物:**
    *   仲間/協力者: 旅の途中で出会う、口は悪いが腕は立つ傭兵・バルガス(実は過去を持つ元王国騎士)。/ 魔法学院をドロップアウトした、好奇心旺盛な魔法使い見習いの少女・リリア。
    *   敵対者/妨害者: 魔物を操り、石を狙う謎のローブの集団「闇の教団」。/ アレンたちを単なる獲物と狙う盗賊団。
    *   キーパーソン: 王都に住む、古代語とアーティファクト研究の権威である賢者。/ 伝説を知る森のエルフの生き残り。
*   **障害と葛藤:**
    *   旅の道中での魔物との遭遇、盗賊団との戦闘。石の力が不安定で、意図せず発動したり、必要な時に使えなかったりする。バルガスやリリアとの旅の方針を巡る衝突。
    *   「ただの農民である自分に、本当に世界を救うようなことができるのか?」という無力感。石の力に頼り、溺れてしまうことへの恐怖。仲間を危険に巻き込んでいる罪悪感。
    *   バルガスが騎士団を抜けた理由に関する秘密。リリアが魔法学院にいられなくなった事情。
*   **状況の変化と伏線:**
    *   石の力(古代魔法の断片?)を少しずつ理解し、制御できるようになっていく。/ 「闇の教団」が各地で奇妙な儀式を行い、他のアーティファクトを集めているという噂を聞く。
    *   数々の困難を乗り越える中で、アレンは臆病さを克服し、仲間を守ろうとする意志の強さを見せ始める。リーダーとしての片鱗を見せる。
    *   石に刻まれた古代文字の意味。教団のシンボルマークが、魔王に関する古い文献の挿絵と一致する。バルガスの因縁の相手が教団に関わっている可能性。
*   **転換点 (ターニングポイント):**
    *   王都に到着するも、貴族たちは辺境の村の危機に関心を示さず、助けを得られない。賢者から、石が魔王を封印する「鍵」の一つであり、教団が他の鍵を集めて封印を解こうとしていることを知らされる。
    *   教団が次の「鍵」を狙い、リリアの故郷である魔法使いの隠れ里を襲撃する計画を知る。アレンたちは公的な支援を諦め、自分たちの力でリリアの故郷を守り、教団の野望を阻止することを決意する。

## 3. クライマックス (Climax)

*   **最大の危機:**
    *   リリアの故郷に到着するが、既に教団による大規模な襲撃が開始されていた。教団の首領(強力な闇の魔導師)と対峙。仲間たちは散り散りになり、アレンは首領と一対一で戦う状況に追い込まれる。
    *   石の力が暴走し、アレン自身の体を蝕み始める。教団は集めた鍵を使い、地下祭壇で魔王復活の儀式を開始する。世界の終わりが迫る。
*   **最高潮の瞬間:**
    *   バルガスが過去のトラウマを乗り越え、元騎士としての誇りを取り戻して奮戦。リリアが仲間を守るために秘めていた潜在能力を開花させる。アレンは石の暴走を意志の力で抑え込み、真の力を覚醒させる。
    *   アレンは石の「封印の力」を逆用し、魔王復活の儀式を妨害。仲間たちとの連携で教団首領に立ち向かい、最後の決戦に挑む。物理的な強さだけでなく、諦めない心、仲間を信じる力が試される。
*   **謎や伏線の回収:**
    *   石(封印の鍵)が古代文明の遺産であり、魔王との戦いの真実(勇者だけではなく多くの人々の犠牲があったことなど)が明らかになる。教団首領の歪んだ動機(例:魔王の力による世界の強制的な浄化)。
    *   バルガスが騎士団を追われた事件の真相と、その贖罪。リリアが強大な魔力を恐れて力を封印していた過去と、それを乗り越えて力を受け入れる決意。

## 4. 結末 (Falling Action / Resolution)

*   **クライマックスの結果:**
    *   教団首領は倒され、魔王復活の儀式は完全に阻止される。集められた鍵は力を失うか、エルフなどの手によって再び安全な場所に封印される。
    *   リリアの故郷は救われるが、戦いの爪痕は深く残る。教団の残党は各地へ逃走する。
*   **主人公の変化:**
    *   冒険に憧れるだけの夢見がちな少年だったアレンが、多くの犠牲と仲間との絆を経て、世界を守る責任感と覚悟を持った真の「勇者」へと精神的に成長する。
    *   得たもの: かけがえのない仲間との絆、自信、人々を守る力と意志。失ったもの: 平穏だった日常、かつての無邪気さ。
*   **周囲の変化:**
    *   バルガスは過去と決着をつけ、王国騎士団に復帰するか、自由な傭兵として人々を守る道を選ぶ。リリアは故郷に残り、魔法の力を正しく使うための研究と指導にあたる。
    *   王国は辺境の重要性と教団の脅威を再認識し、対策を講じ始める。アレンたちの活躍は、吟遊詩人によって語り継がれる伝説となる。
*   **テーマの提示:**
    *   「英雄は生まれるものではなく、なるものだ」「どんなに無力に思えても、勇気と仲間がいれば運命は切り開ける」といったメッセージが、アレンたちの行動や最後の選択によって示される。

## 5. エピローグ (Epilogue)

*   **物語のその後:**
    *   数年後。アレンは故郷リーフウッド村に戻り、復興した村で畑を耕しながら、村の若者たちに剣術(護身術)を教えている。バルガスやリリアとは手紙で連絡を取り合っている。
    *   平穏な日々が戻ったが、アレンは鍛錬を怠らず、いつか来るかもしれない新たな脅威に備えている。
*   **余韻・読後感:**
    *   世界の平和は一時的に守られたが、まだ脅威が完全に消え去ったわけではないことを示唆。アレンの成長した姿と、未来への静かな希望を感じさせる。
    *   アレンが夕暮れの畑で、かつて自分が使った石と同じような輝きを持つ(ように見える)普通の石を拾い上げ、空を見上げるシーン。
*   **(任意) 続編への含み:**
    *   逃走した教団残党の不穏な動きの噂。別の古代遺跡や、魔王以外の古代の脅威の存在を示唆する古い文献の発見。隣国との緊張の高まり。封印された魔王の意識が、微かに残っている可能性。

舞台設定が変わっただけで、謎のアイテムを拾って戦いに巻き込まれるというストーリーは全く同じですね。

アウトラインが同じだから似たような話になるのかもしれませんし、同じ会話の中で行ったので、前の案を引きずっている部分があるかもしれません。

しかし、物語構造が同じでも全体としてはかなり印象が違った仕上がりになったと思います。

ここではAIにたくさんの素案を作ってもらい、その中から気に入ったものを取捨選択したり修正、追加したりして、自分の望むようなものを作っていきます。

相手が人間であれば、せっかく考えた案を相談もなしに勝手に書き換えられたら気分を害したり凹んだりします。後々の関係を考えると、修正やダメ出しにも配慮が必要ですが、AIに対しては配慮や尊重の必要はありません。大幅に書き換えて大丈夫です。怒りませんし凹みません。(もしかしたら怒っているかもしれませんが、次の会話の際には全て忘れています)

今回は丸投げでどれだけできるかのテストですので、特に修正せずにこのまま使います。

詳細シーンの記述

2つ目の異世界ファンタジーを実際に書いてもらいます。

「アウトラインを元に実際に小説を書いていきましょう!」などと促すと、AIがノリノリで小説を書いてくれます。

まずは導入シーンを生成してもらいます。

数段落出力するたびにいったん停止して意見を求めてきますので、「いいですね」「面白くなってきましたね!」などと褒めつつ「続きをお願いします」と促すと、どんどん追記されていきます。

逆にツッコミどころがあれば都度修正してもらいます。
今回は、AIが出してきたものをほぼそのまま採用していますが、主人公の父親が持ち出した武器が「古い猟銃」だったため、そこだけ剣に直してもらいました。(そのままに書かせたら主人公の父親はゴブリンを猟銃で撃ち殺せたのか。今になって気になってきました)

気分は担当編集者です。

成果物

導入シーンを書いてもらったものをこの記事の最後に載せました。(長いので)

約1万2000字あります。かなり長いですが、ちゃんとAIが自力で導入シーンを全部破綻なく書けたことを示すために全文載せてあります。参照ください。

話としては無難すぎて特に面白みはないですが(無難じゃない要素を特に入れなかったため)、無料枠のGemini君でもなかなかわるくない日本語を書いてくれるのは隔世の感があります。

展望など

特筆すべきは、ゼロから始めてこの文字数の導入シーンができるまでに、30分もかかっていないことです。決定した案から、小説(下に載せてある成果物)を記述するのには5分もかかっていません。

AI時代の制作は、もはや手作業で太刀打ちできる速度ではありません。
重要な部分は自分で決めたり修正したりする必要がありますが、AIの助けなしではすべての作業が間に合わなくなくなるでしょう。

今回はAI丸投げがテーマでしたのであまり修正しませんでしたが、アウトラインの段階でもう少し詰めればもっと良くなるでしょう。

AIが出力してきたものを、あなたは好き勝手に修正・追記をしてよいのです。全部却下して自分で書いてもかまいません。
どこまで自分で書くか、どこまでをAIにやらせるかは使う人間次第です。AIは人間に従ってテキストを生成する道具というだけです。

テーマの設定

例えば、今回のアウトラインには全体のテーマや人物の詳細像がないので。別途設定する必要があります。個性的なテーマを定めるとそれだけで面白いものになるでしょう。

テーマは作品を通じた一貫した主題で、キャラクターやストーリー展開はすべてがテーマに従う必要があります。

例えば「おっぱいが大好きな主人公が最高のおっぱいを求めて旅立つ」のようなアクの強い要素を入れればどうでしょうか。その場合テーマは「おっぱい」になるので、ラスボスを倒し世界を救うキーとなるのは「おっぱい」になるはずです。

馬鹿馬鹿しいですが、これくらい馬鹿な要素を入れたほうが、おそらく面白くなります。そして、このような突拍子もない要素はAIからは出てきません。

脈絡のない、突拍子もない、馬鹿馬鹿しい要素を、我々人間が意図して入れないと、無難で、何の驚きもなく、想像通りのストーリーが出来上がります。かき混ぜて面白くするのはあなたです。

AIが無難な出力しかしないのは、AIモデルにそのような能力がないからではなく、違和感のない会話が成り立つように学習や調整がなされているからです。
「今日はいい天気ですね」に対して、「ポッペンパらりんぷー」と意味不明の返しをしたり、あるいは「いまに世界は闇に覆われ大いなる災いが降りかかるであろう!」のような返答を返すようなAIは、通常の用途には問題があります。
そのような返答をするように指定することもできますが、それはまた別の話です。

工程の追加

詳細なシーンの記述について、追記して書き進める形をとりましたが、長くなってくると矛盾が生じたりします。

今回の小説も、所々でツッコミどころがあります。

  • 冒頭でマルコは母親がキノコスープを作ってくれると話していましたが、いつの間にかアレンの母親にすり替わっています。

  • それまでギャギャギャとしか鳴いていなかったゴブリンが、仲間がやられた単に「兄貴が……!」などと流暢に人語を喋り始めました。

アウトラインから一足飛びに詳細化したことで、作業が甘くなっています。全体構成の次に、分割された各章の中の詳細構成、さらに分割されたシーン内の構成。というように、段階的に詳細度を上げていくやり方の方がクオリティは上がるでしょう。

概要の詳細化

また、今回は小説を書かせるだけでしたが、執筆済みの小説を修正させることも容易です。もう少し文章量を増やしたい/減らしたいなどはLLMが非常に得意とするタスクです。

極論すれば、例えば、

  • <家族団らんで食事をするシーン>

  • <緊張感のある戦闘シーン>

とだけ書いておけば、後でAIが中身を適宜いい感じに記述を増やして書いてくれます。

さらには、もっと構造的に以下のように書けばAIは指示内容をもとに記述をしてくれるでしょう

  • 場面:家族団らん

  • 場所と時刻

    • 主人公の家。夜

  • 登場人物

    • アレン、父親、母親…

  • 内容

    • いつもの日常の農作業について話す家族

    • アレンは石が気になって会話はおざなり

AIが最終的に生成した小説

# 案2: 異世界ファンタジー - 導入シーン1

土の匂いが、むわりと鼻をついた。

アレンは額の汗を手の甲で拭い、腰を伸ばした。目の前には、どこまでも続くかのように見えるジャガイモ畑が広がっている。ここ、エルドリア王国の辺境にあるリーフウッド村では、これが日常の風景だ。太陽はまだ中天高く、今日の仕事は終わりそうにない。

「はぁ……」

思わずため息が漏れる。十七歳。もう子供ではないけれど、大人と胸を張れるほどの経験も力もない。毎日毎日、鍬を振るい、土と格闘する。それがアレンの世界の全てだった。もちろん、食べ物が育つのは大切なことだし、村の皆も同じように働いている。頭では分かっている。けれど、心のどこかで、もっと違う「何か」を求めてしまうのだ。

古い木の枝を拾い上げ、おぼつかない手つきで剣のように振ってみる。吟遊詩人が歌う、かつて魔王を打ち倒したという伝説の勇者。あるいは、王都の騎士たちの華々しい活躍。そんな物語を聞くたびに、胸が高鳴るのを止められない。

(俺だって、いつか……)

そんな夢想も、吹き抜ける風と共にすぐに現実へと引き戻される。自分はただの農民だ。特別な力も、立派な家柄もない。村の外の世界なんて、本で読んだり話で聞いたりするだけ。近くの森の奥にあるという、不気味がられる古代遺跡だって、近づいたことすらない。

「……さて、と」

アレンは拾った枝を放り投げ、再び鍬を握りしめた。土を掘り返す音だけが、静かな畑に響いていた。

しばらく無心で土を耕していると、遠くから声が聞こえた。

「アレーン! ちょっと休憩しないかー?」

顔を上げると、隣の畑で作業していた幼馴染のマルコが手を振っていた。マルコはアレンより少し体格が良く、いつも陽気な男だ。

「ああ、そうするよ!」

アレンは鍬を地面に突き刺し、マルコの方へ歩いていった。畑のあぜ道に腰を下ろすと、マルコが水筒を差し出してくれる。ありがたく受け取り、ぬるくなった水を喉に流し込んだ。

「まったく、いつまでこの暑さ続くんだか。王都じゃ今頃、涼しい顔して祭りでもやってるんだろうな」

マルコは空を見上げながらぼやく。王都エルドリア。この国の中心であり、アレンたちが住むリーフウッド村からは何日もかかる場所にある。華やかで、豊かで、そしてきっと、こんな泥まみれの仕事とは無縁の世界。

「王都か……。一度でいいから見てみたいもんだな」アレンは呟いた。

「馬鹿言え。俺たちみたいな辺境の村の人間が行ったって、門前払いされるのがオチだって。それより、今日の晩飯のことでも考えようぜ。母ちゃんが森で採れたキノコのシチュー作ってくれるって言ってたぞ」

マルコの言葉は現実的だ。辺境。それは、王国の中心から遠く、忘れられがちな土地であることを意味する。魔王が封印されて平和になったとはいえ、王の目が行き届きにくいこういう場所では、いつ何が起こるかわからない、と村の古老たちはよく口にした。特に、村の西に広がる鬱蒼とした森と、その奥にあるという誰も近づかない古代遺跡は、不気味な噂の種だった。

「森のキノコか、いいな」アレンは頷いた。「そういえば、うちの婆ちゃんが薬草を切らしてたって言ってたな。日が暮れる前に、少し森に入って採ってこようかな」

「おいおい、一人でか? あの森は気味が悪いってのに」マルコは少し顔をしかめた。「魔物が出るって話は最近聞かないけど、道に迷ったら大変だぞ。それに、遺跡に近づきすぎるなよ。呪われるって噂だ」
「大丈夫だって。森の入り口近くだけだよ。それに、遺跡なんて怖くて近づけるもんか」

アレンは苦笑した。魔王が封印されたのは遠い昔の話で、今ではおとぎ話のようなものだ。それでも、森の奥深くや古代遺跡には、何か得体の知れない力が残っているような気がして、村人たちは必要以上に近づこうとはしなかった。魔法なんて、王都の偉い魔法使いや、物語の中だけの存在だと誰もが思っている。
マルコの忠告を軽く受け流し、アレンは家路を急いだ。夕飯の前に、頼まれた薬草を採ってくる必要がある。家で古びた籠を受け取ると、アレンは村はずれの、西に広がるリーフウッドの森へと足を向けた。

森の入り口は、昼間でも少し薄暗い。高く茂った木々が太陽の光を遮り、ひんやりとした空気が漂っている。鳥の声と、風が木の葉を揺らす音だけが聞こえる。目的の薬草は、比較的入り口近くに生えているはずだ。
アレンは注意深く足元を探しながら、森の中を進んだ。湿った土と苔の匂い。時折、小動物が茂みを駆ける音がする。

しばらく歩くと、目当ての薬草が群生している場所を見つけた。
「おお、あったあった。これだけあれば婆ちゃんも満足するだろう」
アレンは喜び、籠を地面に置いてしゃがみ込み、夢中で薬草を摘み始めた。一つ見つけると、その近くにまた別の株が生えている。思った以上の収穫になりそうで、アレンは時間を忘れて採取に没頭した。

どれくらい時間が経っただろうか。籠が半分ほど埋まったところで、ふと顔を上げたアレンは、周囲の雰囲気が変わっていることに気づいた。さっきまでいた場所よりも木々が密生し、地面には奇妙な模様の入った石がいくつか転がっている。空気も心なしか重く感じる。

(あれ……? ここ、どこだ?)

夢中になるあまり、自分が森のどのあたりまで足を踏み入れたのか、まったく意識していなかった。マルコの「遺跡に近づきすぎるなよ」という言葉が頭をよぎる。まさかとは思うが、この奇妙な石は……。

不安になってあたりを見回した、その時だった。
視界の端で、何かが鈍く光ったような気がした。

ふと、視界の端で何かが鈍く光ったような気がした。
「ん?」

気のせいかと思ったが、もう一度、苔むした木の根元近くで、微かな光が明滅した。それは蛍の光とは違う、もっと硬質で、どこか不思議な色合いの光だった。不安よりも好奇心が勝り、アレンは吸い寄せられるように、そっと光の源に近づいていった。

草をかき分けると、そこには手のひらに収まるくらいの、古びた石が転がっていた。何の変哲もない灰色の石に見えるが、その表面に刻まれたような複雑な模様の一部が、淡い青白い光を放っては消えている。まるで、呼吸をしているかのように。
この石も、さっき見た地面の石と同じような、不思議な模様が刻まれている。やはり、ここは普段村人が足を踏み入れない、遺跡に近い場所なのかもしれない。
アレンは、知らず知らずのうちに、その奇妙な石に手を伸ばしていた。

指先が石に触れた瞬間、ひんやりとした感触と共に、微かな振動が伝わってきた。まるで、石が生きているかのように。そして、頭の中に、一瞬だけ、意味の分からないざわめきのようなものが響いた気がした。

「うわっ!」

思わず手を引っ込める。心臓がどきどきと速鐘を打っていた。なんだ、今の感覚は?
ただの石ころのはずだ。だが、この奇妙な光といい、手に取った時の感覚といい、明らかに普通ではない。マルコの忠告と、古老たちの遺跡に関する不吉な噂が、再び頭をよぎる。

(まずい、長居は無用だ……!)

急に背筋が寒くなるのを感じ、アレンはその光る石を拾い上げると、薬草の入った籠に放り込み、足早にその場を離れた。背後で、何者かに見られているような気配を感じたが、振り返る勇気はなかった。

森を抜け、村への帰り道を急ぐ頃には、西の空が茜色に染まり始めていた。幸い、帰り道で迷うことはなかったが、森の中で感じた奇妙な感覚は、まだアレンの心にまとわりついていた。

家にたどり着くと、戸口で待っていた小柄な婆ちゃんに薬草の入った籠を渡した。
「おお、アレン。こんなにたくさん。ありがとうよ」
皺くちゃの顔をほころばせる婆ちゃんに、アレンは少しだけ罪悪感を覚えた。まさか、あの不気味な遺跡の近くまで行ったとは言えない。

家の中からは、食欲をそそる良い匂いが漂ってくる。母さんが作ってくれている、マルコが話していたキノコのシチューだろう。食卓には、寡黙だが優しい父さんも既に座っていた。
「おかえり、アレン。手を洗ってきなさい」母さんの声が台所から飛んでくる。

食卓を囲む時間は、アレンにとって一日の中で数少ない安らぎの時だった。熱々のシチューをスプーンで掬いながら、父さんが口を開いた。
「アレン、今日の畑はどうだった? 土はまだ乾き気味か?」
「うん、まあまあかな。明日も水やりはした方がいいかも」アレンは当たり障りなく答える。
「そうかい。……そういえばね、アレン」今度は母さんが口を挟んだ。「隣のエルザさんのところの鶏が、今朝逃げ出しちゃったんですって。捕まえるのに、それはもう大騒ぎだったらしいわよ」
「へえ、そうなんだ」
アレンは相槌を打ちながらも、心はどこか上の空だった。森で見たあの奇妙な石の光景が、頭から離れない。家族に心配をかけたくない一心で、そのことはおくびにも出さなかったが、シチューの味もいつもよりぼんやりと感じられた。あの石はいったい何だったのだろうか。どうして光っていたのか、そしてあの時の奇妙な感覚は……。考えれば考えるほど、胸騒ぎがした。

食事が終わり、後片付けを手伝ってから、アレンは自室へと向かった。昼間の疲れと、森での奇妙な体験が、ずしりと体にのしかかるようだった。

----
その夜。

リーフウッド村は、いつものように静かな闇に包まれていた。昼間の畑仕事の疲れを癒すように、ほとんどの家では既に灯りが消えている。アレンも、婆ちゃんに薬草を渡し、母の作ってくれたキノコのシチューで腹を満たした後、早々に自室の簡素なベッドに潜り込んでいた。森で拾った石は、気味が悪かったので、部屋の隅の物入れにしまい込んである。
眠りに落ちかけた、その時だった。

遠くで、獣の咆哮とも違う、低く唸るような不気味な音が聞こえた気がした。風の音か、あるいは寝ぼけているのか。アレンは寝返りを打った。

しかし、その音は次第に大きくなり、一つだけではないことがわかってきた。複数の、荒々しい息遣いと、何かを打ち壊すような音。そして、甲高い悲鳴が夜の静寂を切り裂いた。

「……!?」

アレンは跳ね起きた。窓の外が、不自然に明るい。松明の光だ。それも、一つや二つではない。村の中心の方から、怒声と金属音が響いてくる。

何かが、起こっている。それも、尋常ではない何かが。

アレンはベッドから転がり落ちるようにして、窓に駆け寄った。木の窓枠に指をかけ、そっと外を覗き見る。

目に飛び込んできた光景に、息を呑んだ。

村の広場の方角が、揺らめく松明の明かりで赤く照らし出されている。その光の中を、人影ではない、異様な姿の者たちが動き回っているのが見えた。背が低く、醜く歪んだ顔をした緑色の肌の生き物――ゴブリンだ! それに混じって、もっと体格の大きな、豚のような顔をした棍棒を振り回す影も見える。オークだろうか。物語でしか聞いたことのない、凶暴な魔物たちが、現実に村を襲っている!

「うそだろ……」

アレンの呟きは、恐怖に震えていた。家々の扉を叩き壊す音、村人たちの悲鳴、そして魔物たちの下卑た笑い声が混ざり合い、悪夢のような喧騒を作り出している。

その時、部屋の扉が勢いよく開いた。
「アレン! 大丈夫か!?」
血相を変えた父さんが、壁にかけてあった古い剣を手に飛び込んできた。錆びついてはいるが、手入れはされているようだ。その後ろから、母さんと婆ちゃんも不安そうな顔で覗いている。
「父さん! 母さん! ばあちゃん!」
「いったい何が起こってるんだ!? まさか、魔物……?」父さんの声も硬い。

「うん……ゴブリンと、多分オークもいる。広場の方が大変なことに……!」アレンは窓の外を指さしながら叫んだ。

父さんはアレンの言葉に顔をこわばらせ、窓に近づいて外の様子を窺った。その背中が怒りと、そしてわずかな恐怖で震えているのがアレンにも分かった。
「くそっ、本当に魔物どもか……! なぜ今になってこんな……!」

「あなた、どうしましょう……!」母さんが父さんの腕にすがりつき、不安げに声を震わせる。婆ちゃんはただ黙って、固く唇を結んでいた。

「落ち着け! まずはここから離れるんだ。裏口から森へ逃げるぞ!」父さんは剣を握りしめ、決然と言った。「アレン、母さんと婆ちゃんを頼む!」

「わ、わかった!」アレンは頷いたが、足は恐怖で鉛のように重かった。

その時、家の表戸を乱暴に叩く音が響いた。ドンドン! ドンドン! それは人のノックではなく、明らかに何か硬いもので打ち付けている音だ。続いて、下卑た笑い声と、理解不能な言葉が聞こえてくる。

「まずい、もうそこまで来てる!」父さんが叫ぶ。

母さんと婆ちゃんの悲鳴が上がる。裏口へ向かおうとした瞬間、バリバリという破壊音と共に、家の表戸が蝶番から吹き飛んだ!

戸口の暗がりに、松明の赤い光に照らされた醜悪な緑色の顔がいくつも浮かび上がる。手には錆びたナイフや棍棒。ゴブリンだ!

「ギャギャギャ!」

耳障りな奇声を発しながら、ゴブリンたちがなだれ込んできた。その数、五匹、いや六匹か。狭い家の中では、それだけでも十分な脅威だ。

「来るな!」

父さんが前に立ち、剣を構える。長年使われていなかったであろう剣は、それでも鈍い光を放ち、父さんの決意を示していた。しかし、相手は数で勝る。ゴブリンの一匹が素早く横に回り込み、父さんの死角から棍棒を振り上げた。

「危ない!」

アレンが叫ぶのと、父さんが身をひねって攻撃をかわすのはほぼ同時だった。だが、体勢を崩したところに、別のゴブリンがナイフを突き出してくる。父さんは剣でそれを弾いたが、じりじりと後退させられていた。母さんと婆ちゃんは、部屋の隅で身を寄せ合い、恐怖に震えている。

(だめだ、このままじゃ……!)

アレンは部屋の隅に転がっていた農具の鍬を手に取った。だが、震える手では、まともに振るえそうもない。ゴブリンたちの目は、獲物を見つけた獣のようにギラギラと輝き、父さんだけでなく、アレンたち家族全員に向けられている。絶望的な状況だった。

その時だった。

部屋の隅、アレンが昼間しまい込んだ物入れの中から、微かな青白い光が漏れていることに気づいた。あの石だ! まるで今の状況に呼応するかのように、石が明滅を繰り返している。そして、あの森で感じたのと同じ、奇妙な振動が、床を通してアレンの足元にまで伝わってくるような気がした。

(あの石が……光ってる?)

その光は、ただの光ではなかった。アレンの恐怖を吸い取り、代わりに何か熱い衝動を注ぎ込むような、不思議な力を持っていた。父さんがゴブリンに押し込まれ、母さんと婆ちゃんの悲鳴が耳をつんざく。守らなければ。家族を、この家を。

「うおおおおっ!」

気づけば、アレンは叫びながら物入れに駆け寄り、光る石を掴み取っていた。石を握りしめた瞬間、体中に電撃のような熱い奔流が駆け巡った! 視界が白く染まり、筋肉が爆発的に膨れ上がるような感覚。恐怖は消え去り、代わりに未知の力が全身を満たしていく。

目の前では、父さんを押し倒そうとしていたリーダー格のゴブリンが、アレンの異変に気づいて振り返った。その醜い顔が、驚愕に見開かれる。

アレンは、考えるよりも先に動いていた。握りしめた石を持つ右手を、ゴブリンに向かって突き出す。

「消えろっ!!」

叫びと共に、アレンの手のひらから、眩いばかりの炎が迸った! それは松明の火など比較にならない、激しく燃え盛る炎の塊だった。炎は一直線にリーダー格のゴブリンを捉え、その体を一瞬で焼き尽くした。

断末魔の悲鳴すら上げる間もなく、ゴブリンは黒い灰となって崩れ落ちる。

突然の出来事に、残りのゴブリンたちも、そしてアレンの家族も、呆然とその場に立ち尽くしていた。家の中には、焦げ臭い匂いと、燃え残った灰が舞う異様な静寂が訪れた。アレン自身も、自分の右手に宿った信じられない力に、ただただ驚愕していた。

静寂を破ったのは、残されたゴブリンたちの甲高い悲鳴だった。

「ギィィッ!?」
「ア、アニキが……!」

彼らは目の前で同族が一瞬で灰になった光景に完全に怯えきっていた。アレンの持つ石と、その右手に宿る未知の力を恐れて、蜘蛛の子を散らすように壊れた戸口から逃げ出していく。あっという間に、家の中にはアレンと家族だけが残された。

「アレン……お前、今のは……?」

最初に口を開いたのは父さんだった。剣を握りしめたまま、信じられないものを見る目でアレンを見つめている。母さんと婆ちゃんも、声も出せずにアレンとその右手、そして床に散らばる黒い灰を交互に見ている。

「わ、わからない……俺にも……」

アレンは自分の右手を見つめた。まだ微かに熱を持っているような気がする。握りしめた石は、今はもう光を発してはいないが、確かな存在感があった。体からは力が抜け、どっと疲労感が押し寄せてくる。膝が震え、その場に座り込みそうになった。

「とにかく、今は安全だ……。でも、村はどうなってるんだ?」父さんが気を取り直して言った。「外の様子を見てくる。お前たちはここにいろ!」

「待って、父さん! 俺も行く!」アレンは立ち上がりかけた。「この石があれば……それに、俺がやらなきゃ……!」

理由はわからない。でも、この力を使って、村を守らなければならない。そんな強い衝動が、アレンの胸の奥から湧き上がってきていた。

父さんは一瞬ためらったが、アレンの強い眼差しに何かを感じ取ったのか、固く頷いた。
「……わかった。だが、無茶はするな。絶対に俺から離れるんじゃないぞ」
「うん!」

母さんと婆ちゃんに「すぐに戻るから、戸締りをして隠れていて!」と強く言い含め、アレンと父さんは壊れた戸口から、恐る恐る外へと足を踏み出した。

そこに広がっていたのは、まさに地獄絵図だった。

夜空は燃え盛る家々の炎で不気味なほど明るく照らされ、黒い煙がもうもうと立ち上っている。村のあちこちで、武器を手にした村人たちがゴブリンやオークと必死に戦っていた。金属がぶつかり合う甲高い音、怒号、悲鳴、そして魔物たちの咆哮が入り混じり、耳をつんざくような喧騒となっていた。

アレンが知っている、のどかで平和だったリーフウッド村の面影はどこにもなかった。倒れている村人の姿も見える。昨日まで笑顔で挨拶を交わしていた人たちが、血を流して動かなくなっている。

「ひどい……なんてことだ……」

アレンは目の前の光景に言葉を失い、吐き気を覚えた。石を握る手に、ぐっと力が入る。父さんもまた、唇を噛みしめ、燃え盛る家々を睨みつけていた。

「アレン、あそこを見ろ!」父さんが指さす。

広場の方で、ひときわ大きなオークが棍棒を振り回し、数人の村人を相手に暴れていた。村人たちは懸命に立ち向かっているが、オークの圧倒的なパワーの前に、次々と吹き飛ばされている。このままでは、全滅してしまうだろう。

「父さん、あのオークを止めないと!」アレンは叫んだ。さっき家の中で感じた疲労感は、目の前の危機感によって吹き飛んでいた。

「ああ、だが無茶だ! あの巨体にまともに立ち向かえる者は……」父さんの言葉が詰まる。村の屈強な男たちですら、オークの棍棒の一撃で吹き飛ばされているのだ。

アレンは右手に握った石を見つめた。まだ温かい。さっきのような力が、もう一度使えるだろうか? いや、使わなければならない。

「俺が行く!」

父さんの制止を聞く前に、アレンは駆け出していた。広場に向かって、一直線に。
「アレン! 待て!」父さんの焦った声が背後から聞こえるが、アレンは止まらなかった。

広場に躍り出ると、オークはちょうど村人の一人を棍棒で薙ぎ払ったところだった。土埃が舞い、村人はぐったりと地面に倒れる。オークは勝利の雄叫びを上げ、次の獲物を探すように、血走った目で周囲を見回した。

その視線が、広場に飛び込んできたアレンを捉えた。オークはニヤリと醜い笑みを浮かべ、アレンに向かって歩き出す。その巨体から発せられる威圧感に、一瞬足がすくみそうになる。

だが、アレンは石を強く握りしめ、オークを睨み返した。
「お前なんかに、村をめちゃくちゃにされてたまるか!」

オークはアレンの言葉を理解したのかしないのか、ただ獰猛な唸り声を上げ、巨大な棍棒を振り上げた。その動きは鈍重に見えて、恐ろしいほどの破壊力を秘めている。

(やるしかない!)

アレンは再び右手をオークに向け、意識を集中させた。さっき家の中でゴブリンを焼き払った時の感覚を思い出す。石を握る手に力を込め、心の底から叫んだ。

(燃えろっ!)

しかし、何も起こらない。手のひらは熱くならず、炎は現れなかった。石はただ冷たく、重いだけだ。
「なっ……なんで!?」
焦りがアレンの心を支配する。オークはもう目の前まで迫り、棍棒を振り下ろそうとしていた。絶体絶命だ!

「アレン!」父さんの悲鳴のような声が聞こえる。

その瞬間、アレンは無我夢中で地面を蹴った。農作業で鍛えた脚力が、奇跡的にオークの攻撃範囲からアレンの体を運び出す。棍棒が地面を叩きつけ、土埃と衝撃がアレンを襲った。

(だめだ、あの力は……もう使えないのか!?)

冷たい汗が背中を伝う。オークは体勢を立て直したアレンを再び睨みつけ、地響きを立てて迫ってくる。もう一度棍棒が振り上げられ、今度こそ逃げ場はないように思えた。

「アレンから離れろ、化け物め!」

その時、横から父さんが飛びかかってきた。手に持った古い剣で、オークの太い脚に斬りかかる。しかし、オークの硬い皮膚は剣を浅くしか受け付けず、逆にオークは煩わしそうに父さんを薙ぎ払おうとした。

「父さん!」

父さんが危ない! その瞬間、アレンの体の中で何かが弾けた。恐怖ではない、もっと原始的で、猛烈な衝動。石を握る右手に、先ほどの炎とは違う、もっと内側から湧き上がるような力が漲るのを感じた。

体が軽い。視界が、やけに鮮明になる。オークの動きが、まるでゆっくりと流れる水のように見える。

アレンは再び地面を蹴った。今度は、ただ逃げるためではない。

信じられないほどの速度でオークの懐に潜り込むと、アレンは握りしめた石を持つ右の拳を、がら空きになったオークの脇腹へと叩き込んだ。それは炎を伴わない、純粋な打撃だった。しかし、石に込められた未知の力が、アレンの非力な拳を鉄槌に変えていた。

「グォッ!?」

オークが、短い悲鳴と共に巨体をくの字に折り曲げ、数歩よろめいた。

その隙を見逃すアレンではなかった。
(いける!)

確かな手応えがあった。石の力は炎だけではない。この身体能力の向上も、間違いなく石がもたらしたものだ。アレンはよろめくオークの体勢が立て直る前に、さらに踏み込んだ。今度はがら空きになったオークの顎を狙い、渾身の力を込めて石を持つ拳を叩きつける。

ゴッ!という鈍い音と共に、オークの巨体が大きくのけぞり、そのままゆっくりと後ろへ倒れていった。地響きを立ててオークが地面に倒れ伏すと、周囲で戦っていた村人たちから、驚きと歓声が入り混じったような声が上がった。

「やった……のか?」

アレンは荒い息をつきながら、倒れたオークを見下ろした。まだ信じられない。あの巨獣を、自分が倒したなんて。右の拳がジンジンと痺れている。石は、もう先ほどのような熱や力を発してはいないようだった。

「アレン! 大丈夫か!?」

父さんが駆け寄ってきた。幸い、大きな怪我はないようだ。父さんはアレンの肩を掴み、心配そうに顔を覗き込む。
「お前、いったい何を……。さっきのゴブリンの時といい、今の動きといい……」

「わからないんだ、父さん。でも、この石が……」アレンは石を握った右手を見せる。

その時、村の入り口の方から、新たな鬨の声と、馬のいななきが聞こえてきた。

アレンと父さんは顔を見合わせた。まさか、魔物の増援か? 緊張が走る。
しかし、聞こえてくる声は魔物の咆哮ではなく、人間のものだった。それも、統率の取れた、力強い声だ。

やがて、松明の光に照らされて、村の入り口から馬に乗った数人の兵士らしき者たちが入ってきた。先頭に立つのは、立派な鎧を身に着け、剣を携えた壮年の騎士。その後ろには、槍を持った兵士たちが続く。彼らの鎧には、見慣れない紋章が刻まれていた。

「何事だ! この騒ぎは!」騎士が鋭い声で叫ぶ。

広場に残っていた村人たちが、安堵と困惑の入り混じった表情で兵士たちを見上げる。
「た、助かった……! 騎士様だ!」
「魔物が、魔物が村を……!」

騎士は素早く状況を把握したようだ。倒れているオークや、逃げ惑うゴブリンの残党(まだ少数残っていた)に気づくと、兵士たちに指示を飛ばした。
「残りの魔物を掃討しろ! 村人の保護を優先! 怪我人はいるか!」

兵士たちは手際よく散開し、まだ村の中に潜んでいたゴブリンたちを追い詰めていく。その練度は、アレンたち村人とは比べ物にならない。あっという間に、村の喧騒は収束に向かい始めた。

アレンは、呆然としながらその光景を見ていた。まるで悪夢から覚めたような気分だった。父さんも、剣を下ろし、安堵のため息をついている。

(助けが……来たんだ)

しかし、アレンの胸には、安堵と共に、新たな疑問と、そして微かな不安が芽生え始めていた。この騎士たちは何者なのだろうか? そして、なぜこのタイミングで?

兵士たちが残党狩りを続ける中、先頭に立っていた壮年の騎士が馬から降り、アレンと父さんの方へ近づいてきた。その顔には疲労の色も見えたが、鋭い眼光は少しも衰えていない。

「お前たちが、この村の者か? 大儀であった。私は王国騎士団第三部隊隊長、グレイグと申す」

父さんが慌てて頭を下げた。
「は、はい! リーフウッド村の者です。私はこの村の者で、名をダリオと……。こ、こちらは息子のアレンです。騎士様、この度は本当に……」

グレイグと名乗った騎士は、父さんの言葉を遮るように手を挙げ、広場に倒れている巨大なオークに目を向けた。
「このオークは……お前たちが?」

村人の一人が、興奮した様子で口を挟んだ。
「騎士様! このオークは、アレンが! アレンがたった一人で倒したんです!」

グレイグの視線が、驚きと共にアレンに向けられた。その鋭い眼差しに、アレンは思わず身を固くする。
「ほう……この少年が? にわかには信じがたいが……」

グレイグはアレンの姿を上から下まで値踏みするように見つめた。農作業で鍛えられてはいるものの、まだ華奢な体つきの少年が、屈強なオークを倒したとは、確かに信じがたいだろう。

「ま、まさか……。わ、私はただ、夢中で……」アレンはしどろもどろに答えるしかなかった。右手に握った石のことが頭をよぎる。この騎士に、あの力のことを話すべきだろうか?

グレイグは何かを察したように、ふむ、と短く唸ると、再び口を開いた。
「いずれにせよ、村の被害は甚大だな。我々は近隣の砦で不穏な魔物の動きを察知し、巡回を強化していたところ、この村の火の手を見て駆けつけたのだ。もう少し早ければ……」悔しそうに言葉を区切る。

「いえ、騎士様たちが来てくださらなければ、村は全滅していたでしょう。感謝いたします」父さんが深々と頭を下げた。

グレイグは頷き、周囲を見渡した。燃え落ちた家、怪我をしてうずくまる村人たち、そしてまだくすぶる魔物の死骸。
「生存者の確認と負傷者の手当てを急がせよう。それから、村の代表者はいるかな? 今回の襲撃について、詳しく話を聞きたい」

「はい、村長がおりますが……おそらく、あちらの集会所に」父さんが指さす。集会所も一部が壊れかけていたが、まだ形を保っているようだった。

その時、アレンの右手にグレイグの視線が注がれた。アレンは無意識のうちに、まだ石を強く握りしめていた。
「その右手の石……何か特別なものか?」

アレンはびくりとして、石を隠そうとしたが、もう遅い。グレイグの目は鋭く、何かを見抜こうとしているかのようだ。
「こ、これは……森で拾った、ただの石です……」
嘘だった。ただの石ではないことは、アレン自身が一番よく分かっている。しかし、この得体の知れない力を、見ず知らずの騎士に易々と話していいものか、判断がつかなかった。

グレイグはアレンの言葉を鵜呑みにはしていないようだったが、それ以上追及はせず、ふっと息をついた。
「そうか。……ともかく、まずは村の安全確保と情報収集だ。ダリオ殿、村長のもとへ案内を頼めるか?」
「は、はい! こちらへ」

父さんに促され、アレンもグレイグの後について歩き出した。広場には、まだ恐怖と混乱の余韻が色濃く残っている。アレンは、自分の右手に握られた石の、微かな温かさを感じながら、これからどうなるのだろうかと、漠然とした不安を覚えていた。この襲撃は、本当にただの偶然なのだろうか。そして、この石は一体……?

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