「ガーシー欠席裁判」で1000万円命令も高裁が差し戻し。元裁判官が警鐘“知らない間に敗訴”の恐怖とは
欠席裁判をするなという警告の意味合いも
ところが、今回本欄で取り上げる被告が有名人の場合は話が違う。 ’22年当時、元参議院議員の「ガーシー」こと東谷義和被告より、「反社会勢力」「ヤクザと賭けマージャンしてクビになった」などと動画内で中傷されたとして、元兵庫県警警察官が訴えていた裁判で、神戸地裁は今年1月、名誉毀損を認定し被告に1000万円の支払いを命じた。この事案では、SNSを通じてDMを送れば連絡できる可能性があるのに、大阪地裁はそうした努力をせず、安易に公示送達による欠席裁判を行っている。そのため二審の大阪高裁は「裁判所の怠慢」として、審理をやり直すよう命じたのである。 一見、当然の判断に思えるが、よく考えるとそう単純な話でもない。たとえばXでは、DMを送るには相手にフォローされている必要がある。また、そのSNSアカウントが本当に本人のものかどうかを確認する術もない。 大阪高裁の判断には、安易に欠席裁判をするなという下級審への「警告」の意味合いもあっただろう。だが、法律に明記されていないSNSを通じ連絡を要求したことで、かえって裁判実務を混乱させてしまった面は否めない。 来年からはインターネット上で裁判を起こせる「e裁判」も始まるが、そこでも原告が本当に本人なのかをどう確認するかという問題が待ち構えている。これは裁判だけの話ではない。確実な本人確認と通知手段の欠如は、日本のIT化を阻む大きな障壁となっているのだ。 <文/岡口基一> ―[その判決に異議あり!]― 【岡口基一】 おかぐち・きいち◎元裁判官 1966年生まれ、東大法学部卒。1991年に司法試験合格。大阪・東京・仙台高裁などで判事を務める。旧Twitterを通じて実名で情報発信を続けていたが、「これからも、エ ロ エ ロ ツイートがんばるね」といった発言や上半身裸に白ブリーフ一丁の自身の画像を投稿し物議を醸す。その後、あるツイートを巡って弾劾裁判にかけられ、制度開始以来8人目の罷免となった。著書『要件事実マニュアル』は法曹界のロングセラー
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