おもに近畿圏(関西)で使われている方言 鞭(むち)や細い棒などで強くたたく。細い棒やひもなどを強くうち振る。 凡例 浮世間旦那気質‐二「烟管を三度しばきけるが」
—–国語大辞典(新装版)小学館 1988
しかし、この言葉は国語辞典の定義だけでは説明できない。
「しばく」は大きく分けると二つの意味を持つ。ひとつは、上記通りで「殴る・蹴る」などの暴力をふるうこと。もうひとつは、 ある場所へ食べたり、飲んだり、遊びに行くことである。 「こらぁ、しばいたろか!」は前者であり、「茶でもしばきいくぞ!」は後者である。
関西において前者の意味通りに「しばく」を使う人は現在ほとんどいない。逆に後者は最近出来たスラングまたは若者言葉の一種と言っていいので今でもよく使われている。
「ニコニコ大百科」では後者について以下のような説が展開されている。
お笑い芸人が、ツッコミ入れる時に多用した為、近畿以外でも普通に使用されるようになった。Vシネマにおいてヤクザがよく使うワードでもあるため、変な認 識されてる可能性もあるかも。一時期、“○○しよう“というという意味での使用が流行ったらしい。ちなみに漫画ミナミの帝王では現在でも、その意での使用 がみられる。
「普通に使用されるようになった」というのは大げさだが、多くの人が「しばいたろか」「茶ぁしばきに行くで」といった言葉は耳にしたことがあろう。
この二つの意味に加えてここでは第三の意味を論じなければならない。それは横山やすしが漫才の中でよく使った「しばいたろかこらぁ~!」である。これは、第一の意味が発展したもので、「殴る、たたく」というよりは「懲らしめる」「叱る」「説教する」、強く言えば「屈服させる」などの意味として理解される。そもそ も、大阪弁で「殴る」は「どつく」であり「しばく」ではない。
Twitterでは次のように語られている。
【関西弁】しばくぞ(なに馬鹿なこといってるんですか) ころすぞ(なに馬鹿なこといってるんですか) 死んだらええのに(なに馬鹿なこといってるんですか)
第三の意味がいまでは広く認知されていると解釈してほぼ間違いはないだろう。
2013年には、この言葉をさらに意識させられることになる。 野間易通が結成した「レイシストをしばき隊」の登場である。関西出身の野間にすれば日常的な言葉だろうが、お上品な関東エリアに出現した「しばき隊」は、行動以前に、そのネーミングにおいて強烈なインパクトを持っていた。もちろん悪魔のあだ名を持つ野間のことだから、そこも計算づくのことだろう。
そして、以下のように「しばき」という言葉に過剰反応し、的外れな批判をする者も当然現れた。
昨年の「反フジテレビデモ」の嵐が吹き荒れた時期より少し後だろうか。ネットなどで 「レイシストしばき隊」なる言葉をよく見かけるようになった。名前から推測するに、「レイシスト」を「しばく」「集団」ということなのだろう。で、まず、根本的な同語内矛盾として、 ・「レイシスト」を「しばく」と、明確な「暴行犯(=刑法犯)」となる。 ゆえに、 ・「レイシスト」を「しばく」「集団」に、あらゆる意味でほんのわずかでも「正義」が付随すると思う人は、この「しばき隊」以外にはいない。 という矛盾命題から逃れられない、実に「センス」も「冷静さ」もないクズの集団なのだな、という認識しか持っていなかった。(以下略)
これ以外にも、「しばく」を「縛る」という意味だと誤解する者などが続々現れた。他人をクズ扱いしたい欲望が強すぎて、「調べる」「考える」という作業を放棄した人々と言っていいだろう。
レイシストをしばき隊 OFFICIALにはこう記されていた。
街なかで一般市民や近隣店舗に嫌がらせしたり暴言を吐いたり暴行を働いたりするネット右翼を説教します。 必要なあらゆる手段を使ってレイシズムを食い止めます。 We give shit back to those damn racist nerds who commit racial harrasment, abuse or assault people on the street. Fight back against racism BY ANY MEANS NECESSARY.
この考え方から「デモしばき」「言論しばき」「音楽しばき」「ベンツしばき」「法律しばき」といった言葉が派生していった。これらの言葉を見ても、しばき隊における「しばく」は第三の意味であることは歴然としている。
関西以外のプロテスターは、今でも対レイシスト以外に「しばく」を日常的に使用することはほとんどない。しかし、(きつく)説教する、叱る、注意する というニュアンスは確実に共有されている。(MASA)