司法修習生だった際に、大量の手書きを指示されて精神的苦痛を受けたとして、国を訴えた弁護士の男性の裁判で、最高裁第三小法廷(石兼公博裁判長)は8月13日付で、男性の上告を棄却した。これにより、請求を退けた仙台高裁判決が確定した。
●5時間で12枚の手書き、首から腕に痛み
訴状などによると、男性は司法試験合格後、司法修習生として山形地裁で実務研修を受けていた2022年4月、刑事裁判に関する文書作成(問研起案)を指示された。このとき、5時間にわたって答案用紙12枚分を手書きしたという。
数日後、首から右腕にかけて痛みが出て、約2カ月のケガと診断された。男性は2022年5月、大量の手書き指示によって精神的苦痛を受けたなどとして、国を相手取り約140万円の損害賠償を求めて提訴した。
弁護士の業務ではほとんどの場合にパソコンで文書を作成している現状を踏まえ、男性は、手書きを強いるやり方には合理性がないと主張。
現行の司法試験で論文試験が手書きであることについても、「文字のきれい、汚いでハードルが変わることはおかしい」と疑問を感じていたという。
●1、2審の判断は?
1審・山形地裁は2024年2月、「健康上の理由で手書きが困難な者には事前の申請によりパソコンによる答案作成を認めている」などとして、請求を棄却した。
男性は控訴したが、2審・仙台高裁も同年10月、「問研起案は、1頁26行の答案用紙に、10〜20枚程度の起案を作成するというものであり、司法修習生の身体に過度の負担を課すものとまではいえない」として控訴を退けた。
男性は上告したが、最高裁は、憲法違反など民事訴訟法312条が規定する理由がないとして、男性の上告を棄却した。
この決定によって、男性の請求を棄却した仙台高裁の判決が確定した。
●原告のコメント「憲法判断がされなかったことは残念」
最高裁の決定を受けて、男性は次のようにコメントした。
「控訴審では憲法判断がなされたのに、上告審で何らの憲法判断がされなかったことは残念です。しかし、来年からの司法試験はPC受験に変更されるようで、提訴の主目的は達成できました。
PC受験自体は賛否両論あるようですが、時代の変化に伴って制度が変わることは、よいことだと思います。司法試験の会場が全都道府県に拡大され、交通費や宿泊費など受験生への無意味な負担を減らせるのはよかったです。
本件に限らず、国には、国民のためによりよい制度になるよう変化し続けてほしいです」