突然、カウンターにいた紳士が…
「生意気ですから、ブレンデッドの『ザ・ロイヤルハウスホールド』をボトルキープしていました。当時、1本、数万円です。英国王室御用達で王族を魅了した、気品高きウイスキーです。20代の若造には身分不相応でした。すると、ある時、カウンターにいた紳士から『あなた、いいウイスキーを飲んでいるね』と話しかけられたのです。その後、スコッチもいいけれど、国産もおいしいよと言われて、その紳士から一杯のウイスキーをおごってもらいました。
世の中のことをわかっていませんでしたから、社交辞令で『おいしいです』とだけ言って、話を切り上げたんです。また自分の自慢のザ・ロイヤルハウスホールドを飲みました。それでも気になることがあって、おごってもらった国産ウイスキーもボトルキープしたんです。それまで聞いたことがなかった銘柄でした。
それから1カ月くらいして、カウンターでぐうぜん、隣になったんです。私の前にはザ・ロイヤルハウスホールドと国産ウイスキーが2本、並んでいました。
紳士が横に座るなり、国産ウイスキーを見つけて、『あなた、ありがとう』と言って、ここは名刺交換してはいけないけれど、あいさつさせてくださいと1枚、名刺を渡されました」
初対面の相手こそ丁寧に接するべき理由
「名刺を見たら、『竹鶴』と書いてあって、国産シングルモルトと同じ名前なんです。ああ、この人の作ったウイスキーなんだなと思って、もう一度、名刺を見たら、ニッカウヰスキー会長兼社長の竹鶴威さんでした。NHKのドラマになったマッサン(竹鶴政孝)の息子さんです(政孝氏の甥、後に養子=編集部注)。私は、今は竹鶴はジャパニーズウイスキーの傑作と思ってますが、当時はよく知りませんでした。それに、竹鶴さんに対して、すごく丁寧に接したわけでもないんです。それでも、感激されたようで、ずいぶんとよくしていただきました。
私自身、尊敬申し上げていますし、本当に勉強させていただきました。人間、どこで何があるかわからないんです。接待の席でも、そうでなくとも、人には丁寧に、誠実につきあうことがもっとも大切だと気づきました。私は今でも初めてのバーや飲食店に行くたびに緊張します。従業員の方、いらっしゃっているお客さまに偉そうな態度だけはとるまいと思っています。偉そうにせず、素直に、誠実にを心がけています」